摩周湖まで往復し、再び摩周駅へもどってきました。
次の釧路行まで30分ありますが、また雨が降り出しそうなので駅の中で過ごすしかありません。
私はさっき注文しておいた駅弁の、摩周の豚丼を案内所で受け取ります。
温かくせっかくの作りたてですが、釧路からの『おおぞら』車内で食べることにしてリュックに仕舞います。
摩周駅の改札案内。
摩周駅はというと、相変わらず今摩周湖から戻ってきた2人だけで閑散としています。
デマンド交通でもいいから周辺の観光地への交通機関があれば、昨日の知床斜里駅のようにインバウンドの姿もあったのかも知れません。
そんな摩周駅ですが、過去には阿寒、美幌、女満別空港へ、それに釧路へのバス路線があって、それなりに交通の拠点ではあったようです。
しかし利用客減少からバス路線は次々と廃止されてしまいました。
現在摩周駅発着のバス路線は、摩周湖への路線バスが1日1本。
あとは屈斜路湖の和琴半島までの路線が1日2本ありますが、こちらは全便土休日運休。通学路線なのでしょう。
川湯温泉へ行く3本は毎日運転ですが、温泉へ行く人は川湯温泉駅を利用するでしょうね。
例えば摩周湖に行きたい人が摩周駅で降りても、1日1本のバスに乗れなければタクシーを呼んでもらうしかありません。
摩周湖へ行く定期観光バスもありますが、こちらは釧路発着のため摩周駅からの利用はできません。
あとはレンタカーくらい。
一時は駅レンタカーがありましたが、こちらは早い時期に閉店しています。
本数も少なく不便な列車で摩周駅まで来てレンタカーを借りるのは現実的ではありませんね。
釧路駅や釧路空港で借りたほうがずっと便利ですから。
摩周駅という駅名は観光の拠点駅のように見えるけど、今となってはどこへ行くにも不便になってしまいました。
有名観光地に囲まれているけれど、鉄道駅だけが取り残されてしまったような、摩周駅はそんな印象を持ちました。
◆ 摩周 12:17 → 釧路 13:34【しれとこ摩周号】
12時09分、釧路行の改札が始まります。
今度はほかに誰もいないということはなく、12時近くになると列車の乗客が集まってきました。
私と東京のおじさんのほかは地元客のようでした。
釧路行の改札。
時刻表上では『しれとこ摩周号』と表示されている列車ですが、駅でそう案内しているわけもなく、列車にヘッドマークを掲げているわけでもありません。
線内唯一の快速だったころは意味があったのでしょうが、全列車普通列車となった今では影の薄い存在に。
もしかしたら、繁忙期にボックス席部分を指定席として販売することを想定しているのでしょうか。
摩周駅に到着する『しれとこ摩周号』。
見えてきた列車は、やはり1両。
ドア前に立つ人の影が見たのでこんなに混んているのかと思いましたが、これは摩周で降りる人たちでした。
摩周駅からの乗客は5人。到着した列車からは同じくらいの人が下車しました。
車内に入ると、座席に座るにはボックスシートに相席になるか、ロングシートで詰めてもらうしかありません。
摩周から乗った客の中には、立つ人も。
私は最後部のドアの前に立っていることにしました。
釧路まで1時間17分立ちっぱなしになりますが、最後部から後面展望で行けるほうが楽しい。
釧路行しれとこ摩周号の車内。
見回してみると、摩周発車時の車内の乗客数は20人に満たない程度です。
しかし、車椅子スペースや機器室などに場所を取られたH100形の座席定員はわずか36人しかありません。
少ないといえる乗客数の割には、乗車率が高くなります。
好んで立っているとはいえ、この狭い車内を占拠しているトイレがなんとも恨めしい存在。
トイレ室だけでボックス2つ、8人分の座席ができるほどです。
先代のキハ54転換クロス車両の座席数は58席だったので、H100形になってから座席数は4割近くも減ってしまいました。
最低限の座席だけ設置して、あとは立ち客を前提としたのでしょうか?
座席数を犠牲にしてまで、バリアフリー対応多目的トイレって必要なものなのでしょうか?
いろいろ文句をつけたくなりますが、日本ではバリアフリー法という法律があり、トイレを設置する以上はその法律を守らなければならないようです。
特急列車ならば1編成に1か所あればいいものですが、こんな1両編成の列車にも同じように設置しなければならないとすれば、あまりにも杓子定規すぎると思うのですが。
一直線に続く線路。磯分内〜標茶間。
それはそれとして、摩周から釧路までは後面展望は楽しいですね。
人家も見当たらず、森の中を一直線に続く線路を見ていると、北海道だなあと思います。
ボックスシートに座っていると、行けども行けども森ばかりの風景ですが、こうして列車の前後の窓から見るとダイナミックな風景を見ることができます。
黄金色の釧路湿原。茅沼〜塘路間。
釧網本線といえば釧路湿原。
その中で一番景色が良いのは茅沼と塘路の間でしょうか。
ここは湿原の中に線路が通っていて線路際に林がなく、広い釧路湿原を見ることができます。
その湿原はまだ冬から目覚めたばかりのようで、冬の枯草のままとなっています。
枯草ばかりの黄金色の草原。
その中に緑色が芽吹いた低木がちょぼちょぼと生えていて、なんとなくアフリカのサバンナを連想させます。
この時期ならではの、面白い風景ですね。
釧路湿原観光の拠点、塘路駅。
塘路駅のホームは、釧路湿原散策の戻りなのでしょうか、観光客の姿がたくさん見られました。
おそらく今日から毎週末運転が始まった『釧路湿原ノロッコ号』の折り返し乗客のでしょう。
『釧路湿原ノロッコ号』は、今日から毎週末運転が始まりました。
ノロッコ2号で塘路に着いて、1時間ほど散策してから戻るとすればこの列車となります。
ホームの乗客のうち何人かがこちらの後部ドアの前に群がってきました。
ドアが開かないことに不思議がっている人たちに、ガラス越しに指をさしてあっちという風にゼスチャーすると分かったようで、前のドアのほうに移動しました。
道内のワンマン列車は、無人駅では一番前のドアからしか乗降できないことになっています。
釧路湿原駅でもまた同じように後部ドアの前に乗客がやってきました。
私はまた指をさしてゼスチャー。
何だかセルフ車掌みたいになってしまいました。
だんだん観光客で車内も盛況、立ち客も増えてきました。
インバウンドらしき乗客も目立ちます。
東釧路で花咲線キハ54とすれ違う。
東釧路では花咲線の根室行と交換します。
あちらはキハ54形。
今でも走っているのは花咲線と宗谷本線の名寄以北それに留萌本線だけとなってしまいました。
新しそうに見えますが、こちらも国鉄型車両。
あと2年もすれば車齢40年を迎えます。
これも早晩H100形に置き換えとなるのでしょう。
釧路駅に到着。
終点の釧路に着くと、1両の列車から多くの乗客が下車します。
いつの間にか、乗客数は40〜50人程度にまで膨れ上がっていました。
釧路湿原観光客が多い塘路〜釧路間と、摩周あたりの閑散ぷり。
摩周湖観光の乗客も増えてほしいところですが、輸送力の低いH100形気動車では乗客増に対処できず、それはそれで問題となりそうですね。
頼みの綱は、乗車自体が目的にすることができる『くしろ湿原ノロッコ号』くらいでしょうか。
この列車とて国鉄型車両を改造した車両。
老朽化という問題も近い将来出てくるでしょう。
こうした問題は行政側も無関係ではないのですが、直近の廃止候補ではないからとローカル線問題を先送りにしている感もあります。
廃止予定は無くても突然の災害で不通になり、そのまま廃線にということもありうるわけで、先のことはわかりません。
◆ 釧路 13:49 → 札幌 18:03【おおぞら8号】
今度の列車は、今回旅行の最終ランナーとなりる『おおぞら8号』。
『おおぞら』も寂しくなったもので、いつの間にか基本編成が4両という姿になってしまいました。
でも実際は4両で走っている姿は見ないような気がします。
今日の編成も1両増結の5両編成でした。
『おおぞら8号』は1番ホームに停車中で、もう乗車できるようになっています。
いつ見ても思いますが、駅舎に直結した釧路駅の1番ホームは、幅広で堂々として立派の一言に尽きます。
これだけの堂々とした1番ホームは、全国でもここ釧路駅くらいしか残っていないのではないでしょうか。
堂々とした幅広の釧路駅1番ホーム。
この立派なホームに見とれたい気持ちもありますが、私は買い物があるので、一旦改札を出ます。
えきねっとの特典期間中で、今日有効のトクだ値を提示すると10%引きになるので。
駅コンコースにある四季彩館で、北の勝のカップ酒2本とお土産の行者にんにくの醤油漬けを買いました。
あまり迷っている時間はありません。
レジできっぷを見せて10%引きにしてもらいます。
店を出るときに気づきましたが、以前は入口にあった駅弁の陳列棚が、今回は見当たりません。
釧路駅の駅弁はやめちゃったのでしょうか。
あとで調べたら、釧路駅の駅弁は諸事情で現在販売休止中となっていました。
いずれ販売再開となるようですが、当面は釧路駅で釧祥館の駅弁を手に入れることはできないようです。
261系おおぞら。
幸いなことに私は摩周駅で駅弁を仕入れておきました。
帰りの車中はまた飲み鉄で行こうと思います。
ガラガラだった釧路発車時。
『おおぞら8号』はガラガラのまま釧路を発車しました。
1車両に10人くらいしか乗っていない格好です。
帯広からまた乗って来るのでしょうが、4両基本編成でも持て余すような乗車率です。
『くしろ湿原ノロッコ号』や『しれとこ摩周号』で釧路に着いた人たちはどこへ行ったのでしょう。
札幌や新千歳空港からJRの特急を利用してくれれば、釧網本線の存在意義も高まるのでしょうが。
摩周の豚丼と根室の地酒北の勝。
まあでも車内が空いていることだし、思う存分飲み鉄をさせてもらいます。
摩周駅で買ってきた『摩周の豚丼』。
炭火焼きの豚肉がこれでもかと言うほどたくさん乗っています。
タレが染み込んだご飯がまたおいしい。
ビールが欲しくなりますが、日本酒にももちろん合います。
受け取ったときは作り立てだったのに、ここまで持ってきてすっかり冷めてしまいました。
しかし味は落ちていません。
冷めても美味しくいただけるというのが駅弁の最低条件です。
そういう意味では、この摩周の豚丼も立派な駅弁と呼べるのではないでしょうか。
馬主来(パシクル)沼と湿原。
白糠を発車して短いトンネルを抜けると、馬主来(パシクル)沼とその湿原が広がります。
ここも釧路湿原同様、今の季節は黄金色の草原が広がっていました。
あまり名の知られた湿原ではありませんが、環境省による重要湿地の指定を受け、タンチョウやオジロワシの生息地にもなっている貴重な湿原です。
根室本線はこの湿原の中を通っており、特急『おおぞら』の車内からも雄大な眺めを楽しむことができます。
この馬主来沼ですが、西側の山林一帯にメガソーラー発電所建設計画があると最近知りました。
計画は330ヘクタールの敷地に12万枚の太陽光発電パネルを設置する、道内最大規模というものです。
馬主来沼西側のメガソーラー建設地。
※(仮称)HOKA7 太陽光発電事業_第2章 - ib vogtより抜粋引用
湿原に直接建設されるものではありませんが、後背地となる広大な山林は伐採されてメガソーラー発電所になってしまいます。
こんなことをすれば、後背地となる林を失った湿原は植生が大きく変わってしまう恐れがあります。
発電所管理のために除草剤が使用されるという話もあり、そうなると下流に当たる馬主来沼の生態系への影響も懸念されます。
当然地元の反発もあり、反対運動や署名運動が報道されていますが、肝心の行政には中止させる権限は無いらしく、何とも頼りない。
カーボンニュートラル推進は国が定めた政策でもありますから。
こうしたカーボンニュートラルの名を借りた乱開発と自然破壊は、誰か止めることはできないのでしょうか。
今回のお土産。
十勝地方の中心都市である帯広で、まとまった数の乗車客がありました。
これでようやく特急らしい姿となりました。
道東の中心都市といえば釧路市ということになるのでしょうが、現在は人口では帯広市のほうが上回っています。
札幌とは道東自動車道が繋がっていますが、峠越えがありしかも2車線の高速道路ですから、まだまだ特急『おおぞら』や『とかち』の実力は衰えずといったところでしょうか。
2車線の道東道ですが、現在占冠IC〜十勝清水IC間で4車線化工事が進められており、これが完成すれば強力なライバルがさらに強力になってしまいます。
そうなれば『とかち』の本数削減ということもあり得ますね。
まだ先のことにはなりそうですが、予断を許さない状況です。
十勝平野と日高山脈。
帯広を出て、新得が近づいてくると内陸らしい風景になってきます。
『おおぞら』の走る根室本線は、道東と一括りにしてしまいがちですが、特急『おおぞら』に乗ると釧路と十勝というのがこれほど対照的に違うことを感じます。
釧路地方の車窓風景といえば砂浜の海岸とか湿原、それに牧草地といった、ひと気の感じさせない冷たい風景ばかりですが、十勝地方になった途端に整然と手入れされた畑や防風林が多くなって、人里に戻ってきたような気持になってきます。
これと同じ気分になるのは、宗谷本線の稚内から乗って美深あたりまで来たときです。
ここから先は日本であるけど、日本とは別の世界だという見えない線引きがあるような気がします。
こんなことを感じるのも、列車に乗っていればこそですね。
逃げるエゾシカ。
新得を発車すれば、ここからは道東と道央を隔てる峠越えとなります。
峠に当たる新狩勝トンネルに向かう線路は、S字カーブを描いた思い切った線形。
新得の町を見下ろしながら列車は走ります。
突然先頭車両の方から警笛が鳴りブレーキがかかります。
ブレーキが効き始めるくらいの段階で、自動放送で「急ブレーキがかかります」と流れました。
このブレーキの原因はシカでしょう。
ちなみにこの自動放送は「急ブレーキがかかりました」バージョンもありました。
こんなのが2回続きます。
ここからは石勝線。山岳路線のためトンネルばかりとなります。
2本目のお酒を飲んでしまって眠くなったので、石勝線内は失礼して寝させてもらいます。
札幌貨物ターミナル駅。
南千歳からは札幌圏。
増発した『エアポート』の追い越しができずノロノロ運転となるところが情けないところですが、昨日札幌を出発して道東を一回りし、そのゴールと思えばふさわしい走りっぷりとも思えます。
特急に乗って札幌に戻ってきたら、やっぱり札幌は都会だなあと思うことがあって、それは札幌貨物ターミナル駅から始まる函館本線との複々線区間に入ったときでしょうか。
複々線区間自体は珍しいものではありませんが、特筆すべきは札幌のは方向別複々線と呼ばれるもの。
よく函館本線と千歳線の列車が隣り合って並走する光景を目にしますが、これはJRでは札幌以外では東京と関西だけでしか見られないものです。
私など自慢したくなりますが、あまり話題になることも少ないようなのは残念です。
札幌駅に到着。
途中シカによる急ブレーキや徐行がありましたが、列車は18時03分定刻に札幌に到着しました。
天気は今1つでしたが、旅行中にトラブルが発生しなかったのが何よりです。
昨日札幌を出発して、函館本線、石北本線、釧網本線、根室本線、石勝線と1周した距離は、892.1km。
やっぱり北海道は広いですね。
宿泊予約サイトの期間限定ポイント付与と、JR北海道のトクだ値60%OFFを使用して思いがけぬ格安旅行となりました。
こんなことでもなければシーズンオフで、まだ冬の延長線上のような道東旅行に出かけることはなかったでしょう。
また、シーズンオフであるがゆえに、ローカル線問題について色々考えさせられることもありました。
『百聞は一見に如かず』とはこのことですね。
最後に今回の旅行の費用を記します。
費目 | 摘要 | 金額 |
札幌→網走 | トクだ値60%OFF | 4,200円 |
網走→釧路 | 乗車券 | 4,070円 |
釧路→札幌 | トクだ値60%OFF | 3,980円 |
ホテル摩周 | 4000ポイント使用 | 4,800円 |
その他費用 | 食費・バス・土産等 | 6,850円 |
合 計 | 23,900円 |