2021年 利尻富士の夕日を見に稚内へ

去年の今頃は礼文島に1週間行っていたっけ。
礼文島良かったなあ。

今年はというと、GW明けにコロナ第4波が来て北海道も緊急事態宣言となってしまったことと、仕事が立て込んで休暇どころじゃなくなってしまった。

でも、6月末〜7月上旬って道東や道北のいちばんいい季節だしなあ。
花がいっぱい咲いて、1年で1番日が長い時期だし。

礼文島は無理でも、せめて花でいっぱいのサロベツ原野や綺麗な利尻富士を見たい・・・

7月3日土曜日、宗谷地方の天気予報は、ただW社のみが堂々と晴れマークを表示していた。
あとは曇りとか曇りのち晴れとか頼りない。

予報を見てあまり気は進まなくなったが、あとで後悔するのも嫌だし、行くだけ行ってみようと思った。

車中泊1泊だけなので、さほど支度もせずに寝袋だけ車に積んで札幌を出発した。


 ◆ 2021年7月3日 札幌→稚内

札幌の自宅は9時過ぎに出発。
空は曇り空。
雨が降るような雲ではないが、宗谷地方は本当に晴れてるんかと思ってくる。

緊急事態宣言明けの週末とあって、国道231号線は北へ向かう車が多い。
道の駅も車がびっしり。

GW以来、ずっと閉じこもっているか近場に行くかしかできなかったので、みんな考えることは同じなのだろう。
それに今行っとかないと、また緊急事態宣言に入るかもしれないしね。

アイヤーアイヤー(北島三郎風に)と厚田、浜益、雄冬と越えて着いたのは旧増毛駅。
道北方面に行くのに増毛を通るとつい寄ってしまう。

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 開業当時の姿に復元された旧増毛駅舎と線路。

増毛駅は留萌本線の終着駅だったが、2016年12月に廃止となっている。
その後、駅舎は改修工事が行われて観光施設となり、ホームと線路は当時のままに保存されている。

ホーム側は無料の駐車場となっていて、車がびっしりと停まっている。
増毛の町もすっかり観光客の歩く姿が増えた。

そのほとんどが車で来る人たちだ。
ここに駐車して、観光や食事に一回りしてくるのにちょうど良い。

鉄道が現役のころはこんなことは無かったなあ。
駅も町も裏寂れた港町という感じで、観光客が歩く姿など見なかった。

増毛にこれほど観光客が増えたきっかけはと言うと、やっぱり留萌本線の廃止フィーバーだろうな。
あれで増毛が大いに話題になったからだろう。

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 ホームには『ましけ』の駅名標も残る。

増毛駅駅舎とホームと線路は保存されたが、あまり一般の人の興味を引くものではないようだ。
あれだけ駐車場がびっしりでも、ホームまで来る人はいない。

旧増毛駅でしばらく休憩して、また国道231号線を走る。
留萌で給油して、232号線オロロンラインを北上。

アイヤーアイヤー留萌、小平、苫前・・・

付き合ってらんねえ!
エーイ!ごぼう抜き!

とばかりにベタ踏みで越えてきた羽幌。
ここからは交通量はだいぶ減る。

羽幌を過ぎたころからやたらと自転車が増えた。
ロードバイクに乗って格好も重装備に見える。

稚内に着いてから調べたら『BRM703北海道600km宗谷岬』という自転車のロードレースということだった。
今朝滝川を出発してオロロンライン経由で稚内まで行って宿泊、翌日は内陸経由で滝川へ戻るという長距離レース。

ドライバーの皆さん、邪魔くせえなどと言ってはいけませんよ。
自転車も車道を走るもの。

だけど自転車、並走はいかんぞ、並走は。

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 道の駅てしお。

道の駅てしおで一休み。
ここに来たら毎回乾燥しじみを買っている。

今回もあった。2袋ゲット。
味噌汁やラーメンの即席の具に便利なので。

遠別のあたりから風景が荒涼としてくるが、まだ人里という感じはあった。
オロロンラインを北上すると天塩から先は外国の風景となる。

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 天塩河口大橋から見た天塩川。うっすらと利尻富士も見える。

天塩町の市街地を過ぎて天塩川を渡ると景色が一変する。

札幌から天塩までの道のりは考えただけでもうんざりしてくる。
しかし、天塩川を渡ったら妙にテンションが上がるのだった。

ここから先は北海道ではなく、樺太やシベリアの空気。
人を拒絶するかのような冷たい空気。

人間嫌いな空気。

どういうわけかそれは私にとっては妙に心地よい。
それは私のどこかに混じった北方からの祖先の血が呼び起こすのだろうか。

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 巨大な風力発電がずらりと並んだオトンルイ風力発電所。

稚内に向かう途中で、サロベツ原生花園に寄ってみる。
今時期はエゾカンゾウやカキツバタなどの花が満開だからだ。

行ってみると、期待していたエゾカンゾウの花はもう終わりを迎えていた。

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 所々に残っていた黄色いエゾカンゾウ。

毎年湿原を埋め尽くす花は、木道の脇に細々と残っているだけだった。
一足遅かったようだ。

サロベツ原野の向こうに、うっすらと利尻富士のシルエットが見えているのが慰めだった。

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 サロベツ原生花園の木道と利尻富士。

また稚内天塩線に戻って北上。
うっすらとだが、利尻富士は稚内までずっと見えていた。

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 夕日が丘パーキングから見た日本海と利尻、礼文の島影。

稚内へ来たけど、別に稚内に用があるわけじゃない。
行く当てもなく車を走らせていると、何となく稚内駅に着いてしまった。

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 日本最北端の稚内駅。

何となく来てしまったので、着いたとて別に用があるわけではない。
お決まりの撮影をして、お決まりの画像を上げてみる。

考えたら、去年は稚内に2回来ているが、2回ともJRで来ていた。
車で来るのは2年ぶりということになる。

去年久しぶりにJRの特急に乗って来たのは、あれはあれで楽しかったな。
今日のように車で来るのも、これはこれで楽しい。

楽しみが2つあるのはいいことだ。

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 最北端の線路の看板。

そろそろ車中泊の場所を決めないとなあ。

最初は宗谷岬で車中泊しようと考えていた。
今日は快晴なので夕日の写真が撮れそうだったから。明日は朝日の写真も撮れるかも。

今日ならば樺太も見えるかもしれないな。
そう思って北防波堤ドームの横から宗谷海峡を覗くと、水平線には低い雲が垂れ込めていた。
しかもその雲は宗谷岬を海霧(ガス)のように覆っている。

宗谷岬は駄目だね。
2年前に来た時も稚内は晴れているのに、宗谷岬まで行ったらガスの中だった。

ノシャップ岬は車中泊できるのかな。
行ってみるか。

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 ノシャップ岬のイルカの像。

ノシャップ岬の広場には観光ツアーの数人がいた。
もう観光ツアーが再開したのか。

そういえばここまで来る途中、やたらと本州ナンバーの車を見かけた。
忌々しい緊急事態、終われば憧れの北海道へというわけか。
自分も人のことは言えないが・・・

旗を持ったバスガイドがあれこれ説明している。

ガイド「利尻富士が見られたのはとても幸運なことなんですよ

うん、今時期ならば間違いなく幸運だ。

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 ノシャップ岬の看板と利尻富士。

ノシャップ岬には駐車場と24時間使えるトイレはあるが、あまり広くはなく次々と車が出入りして落ち着かない。
ここで車中泊するんなら、稚内駅の道の駅わっかないの方がマシと思った。

稚内天塩線の途中にある、どこかトイレのある駐車帯で車中泊すれば夕日が見られるんじゃないかと思った。
セイコーマートで夕食とビールを買ってまた来た道を戻ることにする。


 ◆ 利尻富士の夕日

抜海から稚内天塩線を南下。
こうほねの家の駐車場があったが、ライダーが集結していたのでパス。

もう18時近くになるけど、自転車ロードレースの稚内に向かう人とチラホラすれ違う。
滝川からずっと自転車漕いできて大変だなあ。

右に利尻富士を見ながら稚咲内まで来てしまった。
ここの駐車場にもトイレがあるが、1台の先客があって駐車場わきにテントを張っていた。

ここにもロードレースの人たちが何人か休憩していた。
ここから稚内まであと40km近くあるんだけど、この人たち明るいうちに着けるんだろうか。

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 まだ日が高い稚咲内海岸。

結局車中泊はサロベツ湿原センターの駐車場に決めた。
そこのトイレは24時間開放していると聞いていたからだ。

この近くの浜辺で夕日を眺めて、日が沈んだらそこへ向かうことにしよう。

稚咲内の駐車場から北に3kmほど行ったところの脇道に車を停めて夕日を待つ。
といっても、まだ18時20分を過ぎたばかり。西日とはいえ日はまだ高い。

今日の稚内の日の入り時刻は19時25分。
まだ1時間以上もあるが、ここでのんびり待つことにする。
もうほかに行くところもないし。

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 赤い夕陽に照らされる稚咲内海岸。

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 浜に注ぐ名もない川。水が茶色いのは泥炭地のせい。

誰もいない海岸を1人でウロウロしていたらあっという間に日が落ちてきた。
夕日は水平線に近づくごとに赤色が強くなって光も弱くなる。

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 19:19、夕日と利尻富士のシルエット。



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 自分の影がこんなに長く。

19:20分、水平線に沈むのかと思っていたら礼文島のシルエットが現れた。
礼文島に着地するかのように見える夕日はどんどん沈みだす。

夕日は沈みだすと早い。
目に見える速さで沈んでゆく。

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 19:22、沈みゆく夕日と礼文島のシルエット。

あ〜もう半分!
あ〜消える消える!
あ〜ん、いなくなっちゃった・・・

私が女子ならこう叫んでいたでしょうな。
それほどまでに太陽が沈んでゆくのがはっきりと見える。

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 19:24、さよならバイバイ夕日さん。

声は出さないが、周りに誰もいないので誰はばかることなく手を振って太陽さんとお別れをした。

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 19:25、完全に沈んだ。

太陽のおしりが着地してから完全に消えるまで5分間の夕日ショーでした。

さて、暗くなる前に宿泊地に向かわないと。
急いで車に戻った。

ここからサロベツ湿原センターまでは車なら10分ちょっと。
利尻富士と夕日の撮影をしてから車中泊ならば手ごろな場所だ。

着いたらもう薄暗くなっていたが、まだ活動できそうなほどの明るさ。
場所を確保したら車の中に寝床を作る。

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 サロベツ湿原センター駐車場。

先客は4〜5台といったところ。
それぞれ離れて駐車している。

急いで出てきたのでランタンを忘れてきた。
駐車場の照明の下に停めたので、それを明かりにしよう。

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 夕食はセイコーマートのホットシェフ。

稚内のセイコーマートで買ってきたホットシェフのフライドポテトとザンギ、それにおしんこ。
あ〜ビールうまい。

おにぎりは要らなかったかな。
それでも札幌を出てきてから何も食べていないのでペロッと食べてしまった。

一杯やっていると当てにしていた駐車場の照明が消えた。
突然真っ暗。
どうやら夜遅くなると消灯になるらしい。

しょうがない、必要な時だけルームライトを点ける。

外は真っ暗闇。
そのせいか、空は満点の星が輝いていた。
目が慣れるとぼんやりと天の川も見えてきた。

何とかこの星空を写真に収めたいと思ったが、三脚を持ってきてなかったので上手くいかなかった。

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 本当はすごい星空だったのに、これが関の山。


 ◆ 2021年7月4日 サロベツ原生花園→札幌

車の窓ガラスの目隠しをしなかったので、外が明るいのと鳥の鳴き声で目が覚めた。
3時半少し前。もう明るい。

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 朝3時半の明るさ。

昨日は快晴で、昨夜はあんなにきれいに星が見えたのに、一晩明ければ一面曇り空だった。
やっぱりこの時期の宗谷地方だなと思う。

トイレに行って、原生花園の木道を少し歩く。
何か面白いものがあるわけでもなく、クマが怖いのですぐに引き返した。

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 どんよりと曇った寒くて薄暗い草原に鳥の声だけが響くサロベツ原生花園。

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 ひと晩世話になったサロベツ湿原センター駐車場。

周りに何もないという点を除けばここは穴場的な車中泊スポットだった。

しかし、もうここにいてもしょうがないので4時に出発する。
再び稚咲内海岸まで行ってみたが、利尻富士は雲の中だった。

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 利尻富士は雲の中。

昨日はあれだけ晴れていたので、朝日に映える利尻富士というのも期待したが残念。
8時か9時頃になればもしかしたら雲が晴れるのかもしれないが、それまで行くところもすることもない。

もう札幌に戻ることにする。

稚内天塩線を走っていると、オトンルイ風力発電所を過ぎたあたりの道路わきに、オレンジ色に咲き乱れる花を見つけた。
ここももう終わりかけていたが、エゾカンゾウの群落がまだ残っていた。

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 道道稚内天塩線の脇に咲くエゾカンゾウ。

脇道に車を停めて写真を撮った。

昨日の夕日が見られたことと、この残ったエゾカンゾウの群落に出会えたこと。
ガソリン代をかけてはるばる来た甲斐があったというものだ。

〜おわり

posted by pupupukaya at 21/07/04 | Comment(0) | 道北の旅行記

はまなす編成の特急宗谷で稚内へ2

 ◆ 吹雪の宗谷本線を北上

美深を発車したあたりから雪の降り方が激しくなり、音威子府に着くころには吹雪になってしまった。
視界も悪く、国道を車で走っていたらホワイトアウトに遭ってもおかしくないほどだ。

そんな激しい雪でも、ホームの屋根のない所はきれいに雪かきがされている。
音威子府駅のホームには2人ほどの下車客の影が見えた。

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 吹雪の音威子府駅を発車。

音威子府10:59発、18分遅れ。

遅れは1分拡大しているが、吹雪と巻き上げる雪で視界も悪く、線路も雪に埋もれて見えないような状況下で僅か1分遅れなのだから大したものだ。
運転士の技量もあるが、キハ261系の1両あたり920馬力のハイパワーならば多少の吹き溜まりでも吹き飛ばしてしまうだろう。

音威子府から雄信内までの区間は山峡を流れる天塩川に沿って走る。
その天塩川も今日は凍り付いた川面に雪が積もって白い雪原になっていた。

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 結氷して真っ白の天塩川。

11:48、木造駅舎が残る雄信内駅を通過。
この駅もホームはきれいに除雪されていた。

雄信内駅は毎日の利用者が0に近く、住民の同意もあって来春ダイヤ改正での廃止候補となっていた。
ところが自治体の幌延町は、木造駅舎が貴重だからという理由で存続を決めてしまった。

来春からは駅の維持管理は幌延町が行うことになる。

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 きれいに除雪された雄信内駅を通過。

幌延駅では2番線に名寄行き普通列車がこの宗谷の到着を待っていた。
こちらが1番線に停車するとすぐに発車していった。

ざっと見だが、車内には5〜6人の人影があった。意外と乗っている。
朝の上りサロベツ2号が6時台に繰り上がってしまったので、それじゃ早すぎるという人が利用するのかもしれない。

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 幌延で特急宗谷の到着を待っていた名寄行4326D。

幌延12:02発、17分遅れ。

天塩川とは別れ、ここからはサロベツ原野が広がる。

線路から国道から近いところは開拓されて牧草地となっているので、実際には車内からサロベツ原野は見ることはできないが、冬の白一色の雪原となってしまえばどこも同じ、開拓前の原野と同じ風景が広がる。

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 白一色のサロベツ原野を行く。

防雪林がなく吹きっさらしのような箇所は、防雪柵が延々と続く。
単調な景色の中でちょっとしたアクセントにもなる。

防雪柵といっても国道脇にあるような金属製のものではなく、鉄パイプを組んでシートを張った仮設のもの。
夏には見なかったので冬が近づくと人手でこしらえたんだろう。

広大な風景と防雪柵の組み合わせに、微笑ましい風情を感じる。
しかし、このあたりの冬の吹雪の恐ろしさは半端ではないことを思わせる。

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 にわか仕立ての防雪柵が続く。

一方、並行する国道40号線は金属製の立派な防雪柵が完備しているのが見える。
あちらは公共事業として国の予算で整備されたもの。

こっちJR北海道は私企業でしかない以上、手製で間に合わせの防御策で凌ぐしかないのが現状だ。
公共事業との差を嫌でも見せつけられる。

12:41、抜海駅を通過。

ここも利用者が0に近い駅として来春の廃止候補だった駅。
所属自治体の稚内市は廃止させたかったようだが、地元の要望が強く存続が決まった。
幌延町の雄信内駅とはいろんな意味で対照的だ。

来春からは稚内市による維持管理となるが、とりあえず存続が決まったのは目出たい。
ただ廃止は1年先延ばしにしただけで、その後の存廃は未定となっている。

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 きれいに除雪された抜海駅を通過。

抜海を過ぎるとまた吹雪いてきた。
北へ向かうごとに視界は悪くなってきた。

やがて日本海を望む高台に差し掛かる。晴れていればここから利尻島と礼文島の姿が見えるのだが、今日は激しく吹き付ける吹雪に遮られて海すらも見えなかった。

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 利尻富士スポットも雪に煙って何も見えず。

やがて丘の上に市街地が見えてくるともう間もなく南稚内。
稚内市内に入っても吹雪は止むことなくますます激しくなってきた。

「まもなく16分遅れで南稚内に着きます」
「終点の稚内には12時56分の到着です」

音威子府で18分遅れだったのが2分回復したことになる。

南稚内駅のホームには駅員ではない2人の女性の姿があった。
腰に『JR清掃員』の札を下げていたので、稚内まで添乗して車内清掃をし、また南稚内に戻って来るようだ。

ドアが開くと各車両から合わせて数人のスーツケースやボストンバッグを持った帰省客らしき人たちが、吹雪のホームに降り立って駅舎の庇に駆け込んで改札口へ向かって行った。

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 寒そうな南稚内に到着。

終点稚内12:57着、17分遅れ。

途中でいくらか回復したが、結局名寄発車時と同じ17分遅れで到着となった。

この猛吹雪の中、また鹿出没の恐れがある中、名寄から1分の遅れも増やさずに終点稚内に着いた。
ここまで頑張ってきた運転士に拍手を送りたい。

いいや、それだけじゃなく車掌も駅員も保線係員も、もう1分たりとも遅らせないぞという鉄道員魂が一体となって成し遂げたのだと思いたい。

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 宗谷線終点であり日本最北端駅の稚内に到着。

稚内駅のホームは真っ白になっていた。横殴りの雪が屋根の下を舞っている。
こりゃたまらんとばかりに改札口に駆け込む。

改札口の前には上りサロベツ4号の乗客20人ほどが並んで待ち受けていた。

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 はまなす編成の宗谷と最北端の線路。

さて無事稚内についたのだが、これからどうしたものか。

どうしたもこうしたも、そりゃもう上りサロベツ4号でとんぼ返りの一択

こんなもう吹雪じゃどこにも行きようがないし、この次の札幌行き宗谷だと4時間以上も稚内にいなければならない。
それどころか、この吹雪じゃ今日中に札幌に戻れるのかもわからない。

もう発車時刻は迫っているが、改札が始まるのは車内清掃が終わってからになるはずだ。
その数分間のあいだに座席指定をして、酒とつまみを買ってこなければならない。

とても両方は無理そうだ。

迷うことなく酒を買いにセイコーマートに走った
駅に併設のワッカナイセレクトには駅弁も置いていた。2種類だけあったうちの1つをつかんでレジへ。
お金を払っていると、駅の方からサロベツの改札を始めるとの放送が聞こえてきた。


 ◆ 稚内 13:01【サロベツ4号】16:48 旭川

稚内での滞在時間はわずか5分弱。

同じくとんぼ返りの人も数人見受けられたが、おそらくフリーきっぷ所持者と思われ、往復券でとんぼ返りなどという酔狂な人は私1人だけと思われた。

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 特急サロベツ4号の改札が始まる。

札幌駅で車両先頭の撮影ができていなかったのでホームで1枚撮影するも、
「ご乗車が終わり次第発車します」
のアナウンスに急き立てられるように車内に入る。

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 ヘッドマークは雪で隠れてしまった。

座席指定ができなかったので札幌まで自由席ということになってしまった。

とりあえず乗り込んだのは改札口に一番近い増1号車はまなすラウンジ。
ラウンジの、窓に向かってのカウンター席が空いていたので、ここでもいいかなと腰かけた。

窓向きで眺めはいいけど、あずましくないね

ここで4時間近く過ごすのはどうかと思う。
やっぱりフリースペース用にできているんだろう。

駅弁と酒を下げて4号車の自由席に移動することにした。
いつの間にか列車は稚内駅を発車していた。

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 稚内始発時はガラガラだった4号車自由席。

稚内13:07発、6分遅れ。

指定席を通り抜けて4号車へ向かったが、どの車両も数えるほどしか乗っていない。
4号車の自由席もガラガラだった。

次の南稚内でも何人か乗ってきたが、10人くらいの乗客で発車した。
始発時からの6分の遅れを引きずって稚内を後にする。

やれやれ、席も確保できたので、帰りの呑み鉄といきましょう。
お酒はサッポロクラシックを2本買ってきた。
駅弁は『こぼれいくら!ほたてちらし』。

改めて値段を見ると・・・ 
 ゲッ 1580円!?

買うときに値段を確かめている暇もなかったので、今になって驚いた。

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 『こぼれいくら!ほたてちらし』とサッポロクラシック。

この駅弁は稚内駅立売株式会社製。
酢飯の上に錦糸卵と酢締めのホタテを敷き、それに被るようにイクラを乗せた弁当。

スーパーのパック入りちらし寿司なら同様のものが半分くらいの値段で売ってそう・・・

値段の割にイクラの量が寂しい。ホタテの下に敷いてあった玉子焼きは水っぽく、なんだか残念な品だった。
すっかり冷え切った駅弁と冷たいビールを交互に口にしていたら、すっかり体が冷えてしまった。

上げ底の容器といい、これで1580円とは・・・
と言いたくなったが、駅弁が手に入っただけマシだと考えることにする。

駅弁の箱と1本目のビールの空き缶はデッキのごみ箱に捨ててきて、改めて2本目のビールの蓋を開けた。

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 真っ白なサロベツ原野を見ながら冷たいビールを飲む。

豊富で自由席に3人ほど乗ってきた。
ここから先も、無人駅から乗ってくる人は自由席の人が多い。

車掌から切符を買う人もいる。
ネットで予約・決済時に発券できれば、こうした手間もなくなるし指定席も選択できるんだけどなあ。

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 反対側の線路は埋もれてしまった豊富駅。

豊富13:47発、6分遅れ。

豊富を発車してしばらくすると吹雪はさらに激しくなり、窓の外は線路わきの草以外何も見えなくなってしまった。
完全なホワイトアウト状態。

列車はやたらと汽笛を鳴らしながら走る。
突然鹿が現れるかも知れないし、運転士も気が気ではないだろう。

そんなことはお構いなしに、窓に肘をついて呑気にビールなどを飲んでいられるのは鉄道の醍醐味でもある。

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 豊富からはホワイトアウト状態になった。

また真っ白の天塩川を見ながら天塩中川へ。
戦前を舞台にした映画やドラマのセットのような駅舎の下には4人の乗客が待っていた。

天塩中川駅のある中川町から町外に行く交通機関はJRしかないので、町民にとってこの特急は重要な存在であろう。

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 映画のセットのような天塩中川駅。

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 天塩川の水面が姿を現す。

音威子府駅のホームで待っていた乗客はには5人ほど。

急行サロベツだったころは枝幸や浜頓別方面からの乗客が多く、各乗車口の前には行列ができていたのを思い出す。
オホーツク方面へのターミナルだった音威子府もすっかり寂しくなった。

この辺りまで来ると吹雪はだいぶ収まってきた。

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 音威子府に到着。

音威子府15:08発、7分遅れ。

あんな吹雪の中を130kmもの距離を走ってきているのに、遅れはほとんど広がっていない。
261系のハイパワーというのもあるのだろうが、動いていれば鉄道は本来雪に強いものだ。

かつては『冬こそJR』という宣伝文句を謳っていたが、いつからか聞かなくなった。
道路が整備されたおかげで、逆に鉄道の方が先に止まってしまうようになったからだ。

途中駅から乗ってくる乗客は3人、4人と少ないが、皆自由席に乗って来るので4号車自由席は20人くらいまで増えた。
音威子府を発車してからまた増1号車のラウンジに行ってみる。
途中通った指定席はガラガラだった。

こちらは6人の乗客がゆったりと過ごしていた。

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 4号車自由席とは対照的に閑散のはまなすラウンジ。

豊清水では下りサロベツ1号と交換。
向こうも稚内での折り返し時間が25分しかないので遅れたら大変だ。
こちらが停車するとすぐに、雪煙を巻き上げて発車していった。

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 豊清水で下りサロベツ1号と交換。

豊清水駅は来春のダイヤ改正で廃止になることが決まっている。

昔は駅前に牧場があったのを覚えているが、いつからか廃屋となってから、年々朽ちていく姿をさらしていた。
いつの間にか駅周辺から人家は消えていたようだ。

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 美深のあたりから青空も見えるようになった。

稚内を出てからようやく町らしいところまで来たら名寄。
ここもホームは1人、2人しか待つ人はいない・・・
ように見えたが、跨線橋の階段のあたりに自由席への乗車を待つ10数人がかたまっていた。

自由席はもう空いている列は少ない。
名寄からの人が車内に入ってきた。

相席になる所もあったが、席がないとわかると後ろの方へ行く人が多い。
増1号車も自由席なのでそちらへ向かったか、ガラガラの指定席に差額料金を払って座ることにしたのか。
こんな時期に他人と相席になるのは嫌だろう。

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 名寄では稚内以来のまとまった乗車があった。

名寄15:57発、9分遅れ。

4号車自由席は6割ほどの乗車率で名寄を発車する。

札幌直通の宗谷と違い、旭川止まりのサロベツは自由席指向の列車の様だ。
これは札幌から音威子府と稚内の区間は指定席のRきっぷが発売されているのに対し、旭川〜稚内間や札幌〜名寄間などは自由席のSきっぷとなるからだろう。

自由席との差額で指定席も利用できるが、差額無しで利用できるのなら誰だって自由席にするだろう。

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 和寒ではラッセル車と交換。

名寄からの最高速度は120km/h。
それまで85km/h止まりだったので、ここからは韋駄天というほどの走りっぷり。
窓の外が真っ白になるほどの雪煙を立てて猛突進するように走る。

士別でも何人か乗ってきたが、4号車へ来た人は少なかった。もうここからは暗くなる。

スマホでJRの運行情報を見たら、今日は富良野と留萌の方が激しい雪だったようで、美瑛〜富良野間は20:36発の便まで、留萌本線は最終列車まで運休ということだった。

すっかり暗くなって旭川市内の高架橋に差し掛かると、
「終点旭川には3分遅れて着きます」
とのアナウンス。

名寄からの大爆走の甲斐があってか、名寄時点では9分だった遅れはここまでに縮まっていた。

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 旭川に到着した特急サロベツ2号はまなす編成。

旭川16:52着、4分遅れ。

旭川駅は5番線に到着した。
ホームの向かい側6番線には、接続する札幌行『特急ライラック36号』が停車していた。


 ◆ 旭川 17:00【ライラック36号】18:25 札幌

宗谷線は札幌へ直通する特急が『宗谷』1往復だけになってしまい、2往復の『サロベツ』の場合は旭川で特急『ライラック』に乗り継ぐことになる。この場合は特急券も通しで1枚でいいことになっている。

しかし、札幌行ライラックに乗り継ぐ人は少ないようだった。

もともと宗谷線沿線からの乗客は旭川指向が高く、急行サロベツ時代も名寄〜旭川間は混んでいても旭川で大量に降りてしまい、そこから札幌まではガラガラになることも珍しくなかった。

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 接続の札幌行ライラック36号は対面乗り換え。

ところでこのホームには売店はない。
3・4番線のホームならばたしかセブン自販機コーナーがあったはずだが、このホームにあるのは飲料の自販機だけ。
もしかして駅弁の立売があるかもとホームを歩いてみたが、そんなものあるはずもなく。

札幌方面の特急は3・4番だったよなあ、なんでわざわざ何もないホームを使うんだろ。

隣のホームの3番線には17:05発の網走行の特急『大雪3号』が停車中だった。
3・4番線ホームは『ライラック25号』と『大雪3号』の乗り継ぎに使用中なのだった。

自由席の6号車に乗り込んだら先客は2人だけ、サロベツから乗り継いだ人はほとんどいないようだった。
発車間際にもう1人増えて、車内は4人だけという寂しい状態で旭川を発車する。

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 がら空きの6号車自由席。

乗り換えのホームでは何も買えず、こちらはWi-Fiもコンセントも無し。
はまなす編成と違うのはとにかく静かなこと。

稚内からの4時間近く、高らかに鳴り響くエンジンの音と振動が絶えなかった車内から乗り移った『ライラック』の車内は、静寂の世界だった。

深川、滝川と停車するがどの駅からも1人か2人しか6号車には乗ってこない。
このままガラガラのまま札幌に着くのかと思っていたら、岩見沢駅のホームにはたくさんの乗客が行列を作っていた。
この6号車にも大勢乗ってきて賑やかになる。

どうしたんだろうとJRの運行状況を見たら、『幌向駅構内で設備点検を行った影響により運休および遅れが発生しています』とあった。

岩見沢駅19時台までの普通列車3本は立て続けに運休になっている。
どうやら、札幌までの乗客はこちらに特急券不要で振替になったようだ。

問題の幌向駅に差し掛かったら停車した。ドアも空かずにすぐに発車する。
下りのホームにはカムイらしき編成が停車中だった。おそらく1時間15分遅れとなっている『カムイ29号』だ。

もうすぐ札幌到着というところで、
「終点札幌には12分遅れで着きます」

しかし札幌駅の手前で停止してしまった。隣には快速エアポートが先に停車していたが、そっちはしばらくすると動き出した。
こっちは止まったきり動かなくなってしまった。
「ただいまダイヤが乱れていてホームが空くのを待っています」

8分ほど停車して、ホームが空いたらしく動き出す。

札幌18:47着、22分遅れ。

ようやく札幌駅の7番線に到着した。

DSCN2950.JPG
 札幌に到着。

着いたときは7番線の発車案内は
『普通 19:42 苫小牧』だったのが、いつの間にか
『特急ライラック37号 19:00 旭川』
に変わっていた。

稚内を13:07に発車してから札幌到着の18:47までの実時間は5時間40分。
ひどい吹雪の中、今どきのJRとしてはよく頑張ったというか運が良かったというべきか、無事札幌に戻って来れた。


 ◆ おわりに

特急『宗谷』『サロベツ』にはまなす編成が使われるのは来年(2021)年の2月いっぱいまでとなります。
それ以降は団体ツアー列車や観光臨時特急などの運用になるのでしょう。

4月からは『ラベンダー編成』も加わり、2編成が揃う予定となっています

一方で新型コロナウイルス感染増による乗客減も深刻なようで、来春のダイヤ改正では『サロベツ』1往復が閑散期の4・5・10・11月の火・水・木曜日に運休が決定するなど、ますます厳しい状況に追い込まれます。

そんな中で『はまなす編成』が2月末までとはいえ、宗谷線にあてがわれたのは唯一の明るい話題。

皆さんも乗車体験とJR宗谷線の支援も兼ねて、『はまなす編成』乗車の旅に出てみてはいかがでしょうか

もちろん新型コロナウイルスの感染対策を万全にしてね。

〜最後までお読みくださいましてありがとうございました。

posted by pupupukaya at 20/12/29 | Comment(1) | 道北の旅行記

はまなす編成の特急宗谷で稚内へ1

今年(2020年)は261系5000番台という特急型車両が完成して『はまなす編成』としてデビューしました。

リゾート列車というか観光用車両としては久々の新車ということで話題になりましたね。
9月に小樽駅で一般公開、10月からツアー列車として運転を開始したようです。

11月末からは隔日ながら特急『宗谷』と『サロベツ』がはまなす編成に置き換えられて運行しているという。
無縁と思っていた列車が、ずいぶんと身近なところに降りてきたように思いました。

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  JR北海道『北海道鉄道140年の節目に「はまなす」編成がデビューします!』からの引用。 

前回の旅行記も書き上げたし、次の休日はこのはまなす編成に乗ろうと思っていました。
ちょうど26日土曜日が札幌発宗谷にはまなす編成が使用されることになっている。

ところがここ連日増加の一方のコロナ感染状況。

北海道では、12/26〜翌年1/15の期間は『年末年始の集中対策期間』として、『感染リスクを回避できない場合/札幌市及び感染拡大都府県との不要不急の往来自粛』ということに・・・

『感染リスクを回避』できればこの限りではないとも解釈できるので、土曜日に稚内まで往復することに決め、感染リスクを回避するべく以下のことを守ることにして出発することにしました。

 @ 誰とも話をしない。
 A 飲食時以外はマスク着用。
 B 車内では他の乗客とできる限り距離を置く。

まあ@は平時の旅行でもそんなな感じですが・・・


 ◆ 札幌 7:30【宗谷】12:40 稚内

12月26日土曜日の朝、札幌駅へ。

今回の稚内往復が不要不急でないかまでは自信は無いが、服装はいつも出勤しているスーツ姿で行くことにした。
少なくともフラッとやってきた鉄道ファンの試乗には見えないはずだ。

西改札口横の指定券売機で指定席往復割引切符(Rきっぷ)を買う。
稚内まで往復14,410円。冬は1000円高くなる。

今は券売機で座席表を見ながら好きな席を選べるようになったので便利になったものだ。
これをもう1歩進めて、自宅のPCやスマホから購入してチケットレスにしてくれたらなお良いのだけれど。

自宅のPCやスマホから購入してチケットレスにしてくれたらなお良いのだけれど。

これはJR券を買うたびに思うことなので2度言いました・・・

DSCN1502.JPG
 1日1度だけ表示される『特急宗谷・稚内』の表示に旅情が漂う。

行きの宗谷の座席指定はしたが、帰りはオープンにしておいた。
上りサロベツ2号ならば、はまなす編成にまた乗れるが、それだと稚内滞在時間は20分しかない。

一般車両になるけど上り宗谷にするか、それは向こうに着いてから考えることにした。
稚内駅にも指定券売機があるのは、7月の礼文島旅行で知っていた。

改札内の駅弁の売店で幕の内弁当いしかりを購入。本当は石狩鮭めしにしたかったんだけど、向こうの売店から持ってきますと言われたのでこっちににした。
次にキヨスクで金滴のカップ酒を2本買う。

稚内まで長いので呑み鉄(飲み鉄)で行こうというわけだ。

DSCN1511.JPG
 はまなす車両の特急宗谷が入線。

7:22入線だと思っていたが、なかなかやってこない。
ホームの4号車自由席の2つある乗車口は10人以上の行列ができているが、指定席の方は各乗車口に3〜4人と閑散としている。
さっき券売機で座席選択したときも空席だらけだった。

ようやく苗穂方から姿を現し、8番線に入線したのは発車3分前の7:27だった。
1日1本しかない稚内行なのだから、もう少しゆとりが欲しい。これじゃ快速エアポートに乗るのと気分的には変わらないよ。

ホームでいくつか撮影して、席に着いたらもう発車間際だった。
あっ、列車先頭の写真撮るの忘れた。
全く慌ただしいスタートとなった。

DSCN1525.JPG
 指定席の2号車。この時点でがら空き。

このはまなす編成は、観光列車やイベント列車、繁忙期の臨時列車用として新製されたものだ。
従来の観光列車用車両が次々と引退し、残ったリゾート列車は『ノースレインボーエクスプレス』1編成だけとなってしまった。これとて製造から既に28年が経過している。

はまなす編成は後継のリゾート列車として送り出された車両。

基本は261系ということで、特急『北斗』や『おおぞら』で使用されている1000番台をベースとした車両となっている。
そのため、先頭の塗色こそはまなす色となっているが、基本的なつくりは261系そのまま。

かつての○○エクスプレスと名付けられたリゾート列車のようなインパクトは無いが、足回りが定期列車の特急と同じなので、定期列車を置き換えた際もダイヤの変更は不要、また臨時列車とした場合も定期列車の足を引っ張ることなく運転ができるなど汎用性の高い車両となっている。

特筆すべきサービスは、フリーWi-Fiと全座席に付いたコンセント

普段鉄道を利用しない層からは、そんなもん今どきあたりまえでしょ?などと言われそうだ。
今は飛行機でも高速バスでも各座席にコンセントとフリーWi-Fiが標準装備となっている。

ところが鉄道だけはいまだに標準のサービス水準にもなっていないのが現状だ。

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 車内のフリーWi-Fiに接続。

今は車内販売がなくなり、乗車駅の売店も撤退し、無人化で指定席を購入するのも困難という駅も増えた。

人件費や人手不足でサービスが低下してしまうのは仕方のないことだと思うが、一方で車両を改造すれば済む人手不要なサービスまで等閑(なおざり)というのは困ったことだ。

それが、このはまなす編成で初めて実現したわけだ。
人的サービスは低下する一方、さらに乗車時間の長い北海道の在来線特急にはいち早く普及してほしいサービスだ。

DSCN1950.JPG
 ひじ掛けにはコンセントも2口ある。

札幌を発車すると、同時刻発車の特急すずらん2号が並走する。
しかし札幌駅構内を出るとあっという間に先に行ってしまった。

東へ向かうごとに雪の量がみるみる増えてきた。
夕張川を渡るころには相当な積雪量とわかるようになり、札幌から30kmしか離れていないのに景色は別世界のようだ。

今年(2020年)の岩見沢は、12月としては観測史上最大と言われるほどの大雪で、もう連日列車の遅れや運休が生じている。

今日の岩見沢の天気予報は雪で吹雪くとある。
実は出るときに、また岩見沢の大雪で大幅遅延や運休もアリかと思っていた。

ところが、岩見沢に近づいたら雪は降っておらず青空も見えている。
しかし線路わきの雪山はすごいことになっていた。

DSCN1587.JPG
 12月としては記録的な豪雪となった岩見沢。

4号車自由席の方からは下車客の姿が結構ある。
岩見沢への通勤通学客が特急宗谷を利用するのだろう。稚内までの長距離特急も、旭川までは特急カムイ・ライラックの一員でしかない。


 ◆ 呑み鉄で函館本線を北上

無事岩見沢を定時に発車したことで駅弁と酒をテーブルに出した。
朝から駅弁とカップ酒。
休日の特急の旅は呑み鉄といきたい。

まだまだ先は長いし、車の運転も無いし。

『幕の内弁当いしかり』850円を取り出す。
牛肉すき焼き風煮と鮭がメイン。あとホタテ煮、きんぴら、イカのフリッターといったところ。
味付けは全体的に薄いのが物足りないが、言い方を変えれば上品に仕上がっているとも言える。

鮭は脂乗りすぎだな。ノルウェー産のサーモンかな。
ここは荒巻のしょっぱい切り身があると良かった。

お酒は金滴純米酒。
幕の内弁当にはカップ酒が合う。

DSCN1615.JPG
 呑み鉄、雪見酒、肴は幕の内弁当いしかり。

駅弁を食べ終えて、あとは雪景色を見ながら金滴をチビチビ。

休日の特急列車の朝、終点に着くのは昼過ぎ。
がら空きの車内で誰はばかることなく、車窓を眺めながらの朝酒。
鉄道好き旅好き酒好きにとっては至福のひとときなのだった。

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 1人呑み鉄で米どころの石狩平野を快走。


 ◆ はまなす編成の車内設備

滝川を出たあたりで車内探検へ。
2号車から4号車へ行って、戻って先頭の増1号車のラウンジへ行ってみた。

気づいたのは客室内のほかデッキにも手荷物置き場がたくさん設けられていること。

ふた昔も前ならば電話室と喫煙室が設けられたのだろうが、そのスペースは荷物置き場に充てられたのは隔世の感。

これはインバウンド、特に馬鹿でかいスーツケースを1人で2個も3個も持ってくる国からの旅行客を想定してのことなのだろう。

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 車内あちこちに手荷物置き場がある。

レストルームは1、2、3号車に1箇所ずつ。
共用トイレと男性用トイレがあるのは従来通り。

トイレ内の洗面台は小型化されたが、その代わりトイレとは別に独立してコンパクトな洗面台が設けられた。

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 レストルーム色々。

指定席車はどの車両も空席が目立ったが、自由席は結構混んでいる。
これは札幌〜旭川間は『カムイ』や『ライラック』ならば自由席車は3〜4両あるのだが、この宗谷は1両しかないので自由席客が集中するためだ。

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 そこそこ混んでいた4号車自由席。

先頭の増1号車は『はまなすラウンジ』と名付けられた車両。
本来はフリースペースとして使用を想定しているようだが、宗谷・サロベツでの運用の時は自由席という扱いになっている。

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 増1号車のはまなすラウンジ入口。

はまなすラウンジの客は7人。
はまなす編成でない日は付いていない車両だし、自由席客を特にこちらに誘導しているわけでもないので、勝手知ってる人がこちらを選んで乗っている感じ。

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 宗谷・サロベツに使用時は自由席車両となっている。

片側は大きなテーブルがあるボックスシート、もう一方は窓側に向けて座席を並べたカウンターのような配置になっている。
車内でのイベントだとか、飲食用のフリースペースには最適だ。

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 広いテーブルがあるボックス席。

ボックス席が1つ空いていたので座ってみた。
グループでの会席なんかにはもってこいな感じだ。

テーブルの上の灰皿みたいなのは何かと思ってフタを開けたらコンセントだった。開けたフタにはスマホを立てかけて置けるようになっている。

DSCN1676.JPG
 テーブルにある充電用コンセント。

はまなすラウンジの先にもデッキがあり、その先の貫通路はパイプでふさがれて立ち入り禁止の札が下がっていた。
前面展望はかなわず残念。

DSCN1678.JPG
 先頭のデッキから先は立ち入り禁止。

深川を発車、ここまでは順調だったのだが、納内を通過したあたりで徐行運転するようになった。

「先行の普通列車が岩見沢駅のポイント不具合のため遅れて運行しています」
「この列車はその後追いのため旭川には15分遅れて到着します」

この先旭川まで特急を退避できる駅はなく、ノロい923Dのケツナメ(低速列車の後追い)となってしまった。

旭川に着いたのは9:14で、16分遅れの到着となった。

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 旭川に到着。

旭川駅のホームには、自由席の方には何人か並ぶ姿が見えたが、指定席の方は人の姿は少なかった。
この2号車には1人乗ってきただけだった。


 ◆ 旭川発15分延

旭川は1分停車で9:15発、15分遅れの発車。
車掌の到着時刻案内は次のようになった。

名寄、10:09(定時9:54)
音威子府、10:56(定時10:41)
南稚内、12:50(定時12:36)
稚内、15:55(定時12:40)

旭川では降っていなかったが、運転停車の永山を発車したあたりから吹雪いてくる。
視界の悪い中、遅れを取り戻すためにこの列車は最高速度の120km/hでぶっ飛ばす。

蘭留を過ぎると塩狩峠越えの連続20‰の登り勾配、261系ならば何のことはない坂だが、速度は60km/h以下に落ちる。

これは勾配よりも急曲線の速度制限によるもので、塩狩駅を過ぎると下り坂を転がり落ちるかの勢いで和寒へ向けて走り出した。

DSCN1837.JPG
 すっかり雪深くなった塩狩峠を行く。

士別駅に到着。隣の線には9:40発の旭川行サロベツ2号が停車中。
本来ならばこちらも9:40発で、同時発着で士別で交換していたのが、向こうを待たせた格好になる。

こちらが停車するとすぐにサロベツ2号は14分遅れで旭川へ向けて発車していった。

DSCN1889.JPG
 士別で上りサロベツ2号と交換。

DSCN1893.JPG
 サロベツ2号はそこそこの乗車率。

士別 9:54発、14分遅れ。
飛ばした甲斐あって若干回復した。

和寒から名寄までは直線区間が多いので、とにかく直線区間で時間を稼ぐべくぶっ飛ばす。
スマホの速度計を見ているとずっと120km/h近くで走っているとわかる。
たまに123km/hとか表示される。おっと、これは計測の誤差範囲内だろう・・・

飛ばした割には遅れは回復せず、名寄着は14分遅れの10:08となった。

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 名寄に到着。


 ◆ がら空きの車内

名寄では半数ほどの乗客が降りたようだった。
この2号車も名寄で降りる人が多く、車内は自分含めて3人だけになってしまった。

コロナの再流行でGoToキャンペーンが中止になり、年末年始の帰省も控える人が多いようで、どの交通機関も乗客減で大変なようだ。
それ以上に名寄からの特急宗谷の乗車率は目を覆いたくなるような姿だった。
観光客の利用増をねらって、せっかく新車のはまなす編成を宗谷線特急に充てたのに、これでは新車が泣いてしまう。

2月あたりの閑散期ならばこんな日もあるだろうが、本来ならばまぎれもなく暮れの移動シーズンなのである。

コロナによる往来自粛のせいとはいえ、去ったお客が再びかつてのように戻ることはあるのだろうか。
来春のダイヤ改正では、閑散期の曜日限定ではあるが宗谷線特急の減便が決まっている。

DSCN2066.JPG
 乗客3人だけになった2号車。

遅れているので乗降が済むとすぐに発車したいところだろうが発車しない。
車掌がホームを走る。ドアが凍って閉まらなくなったのだろうか。また車掌が走って戻る。

発車は名寄発12:13。結局17分遅れとなった。

今度は17分遅れということで車掌は各駅到着時刻を告げる。

「この先シカが出没してるため、急ブレーキにご注意ください」

ここからは直線区間も限られ、最高速度も85km/hとなる。また徐行区間もあったりして、この先もう遅れ回復は難しいだろう。

実はこの列車の17分遅れというのは致命的であったりもする。

幌延で名寄行4326Dと交換するからというのもあるが、この宗谷は12:40に稚内到着後、13:01発サロベツ2号として折り返すのだ。

稚内での折り返し時間僅か21分

札幌から延々と5時間以上走ってきて、僅かこれだけの時間で折り返すのは無理があるんじゃないかとも思えるが、2本の編成で3往復の特急を運行するためにはこうなってしまった。

仮に17分遅れで稚内に着いたとしたら4分で折り返さなければならない。
車内清掃くらいはするだろうから、定時発車はかなり難しくなる。
運転士としては1分1秒でも遅れは縮めたいところだろう。

DSCN1928.JPG
 名寄発車後のはまなすラウンジ。

名寄を発車してから再び増1号車のラウンジへ行ってみた。
乗客は3人だけ。空いていたボックス席に座ってみる。

ボックス席は大きなテーブルがあって広いのだが、窓の真ん中には柱があって展望はあまり良くない。
ラウンジなのだからもっとワイドな窓にすれば良かったのに・・・

と思ったが、これはグリーン車の流用なのではと思った。
基本は北斗やおおぞらの車両の流用で、グリーン車を座席だけ変えてラウンジにしたんだなと考えれば納得がいく。

今は自由席ながら本来はフリースペースの車両。しかし窓の上には座席番号が表示してある。
もしかすると定期列車に増結の際は指定席として販売することも想定しているのかも。
同じような座席配置の『ノロッコ』号も指定席になっているし。

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 どこか『ノロッコ号』のような雰囲気。

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 名寄からは天塩川が車窓の友となる(はまなすラウンジから)

ラウンジのボックス席は落ち着かなかった。
クッションが固いのと背もたれが低いせいかも知れない。

フリースペースのため長居できなくするためだとすると良くできている。
全車指定でもない限り、こういう場所は自由席替わりの客が占拠しがちだ。

また自席へ戻る。

DSCN1970.JPG
 美深に到着。

美深で数人降りて行くのが見えた。
この先は少ない乗客がさらに減る一方になる。

2号車は後ろ半分の乗客は私だけ。
車両半分を貸し切ったようなものだ。

人がいないことをいいことに座席を色々いじってみた。

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 座席をリクライニング。

はまなすの座席は座ると新幹線のように背もたれが妙に直角で、少しだけ倒した方が快適だ。
かといって座ったとたんに背もたれを倒すと後ろの人が激しくムカつくので注意しましょう。

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 向かい合わせのボックス席にした状態。

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 中央のひじ掛けに収納してあるテーブル。

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 ひじ掛けのテーブルを出した状態。

真ん中のがっしりとしたひじ掛けはテーブルが出てくる仕掛け。
背面テーブルもあるが、座席を向かい合わせてもテーブルが使えるようにとの配慮である。

ただこのひじ掛けは跳ね上げることができないので、常に1人ずつ仕切られた状態となる。
2人分の座席に横になって、簡易寝台スタイルになることはできない。

と言っても、夜行列車に使われることはないだろうけど・・・


posted by pupupukaya at 20/12/27 | Comment(0) | 道北の旅行記

2020年礼文島旅行記7 礼文島から札幌まで

 ◆ 礼文島→利尻島→稚内(サイプリア宗谷)

香深13:25発稚内行のフェリーに乗れば、稚内では1時間26分の接続で札幌行特急『宗谷』に乗り継ぐことができる。

当初は朝8:55発の便でと考えていたのだが、稚内からの特急サロベツがコロナ運休になってしまい、稚内でほぼ半日過ごすことになるなと思ったが、乗り継ぎを調べると午後の便でもその日のうちに札幌に着くことがわかった。

宗谷本線の特急2往復が旭川短縮になったことによる車両繰りの関係で、朝の時刻が繰り上がり、夜の時刻が繰り下がってずいぶん使いづらいダイヤになったものだなと思っていた。
しかし、このおかげで利尻礼文へのフェリーとの乗り継ぎが相当改善されたという思わぬ効果あったことを今回の旅行で発見した。

それまでは朝イチの便で香深を出発して、特急サロベツに乗り継ぐしか札幌へ日着できなかった。しかも稚内で3時間近い接続時間があり、先に高速バスがフェリーの客を乗せて札幌へ向かうのでは、対札幌に関してはJRの出る幕はなかったことだろう。
それが、昼のサロベツの稚内発が繰り上がって接続時間が短くなり、夜の宗谷の稚内発が繰り下がったことにより昼のフェリー便に接続が可能となった。

また、稚内駅が新しくなってから、それまで駅正面から出て踏切を渡って行かなければならなかったフェリーターミナルへの道も大分ショートカットされて近くなっている。

皆様も利尻礼文への旅行の際には、

JR特急の利用も検討されてはいかがでしょうか。

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 稚内からの乗船客が下船。だんだん観光客も増えているようだ。 

13:00に稚内からの便が到着して、乗船客がぞろぞろと出てくる。『どうみん割り』の効果なのかはわからないが意外と多く降りてくる。
フェリーは朝と夕方の便はそれそれの島に直行するが、昼の1往復だけはどちら行も利尻島に寄港する便となっている。
利尻島と礼文島を直接結ぶ唯一の便でもある。利尻空港に着いて1泊してから礼文島へという場合はこの便に乗るしかない。

こんど13:25発稚内行の便も利尻島に寄港する便となる。
直行ならば香深〜稚内間は1時間55分だが、昼間の寄港便は2時間50分かかる。
船に弱い人は敬遠したい便だろうが、基本的に乗り物に乗っているのが好きな私などには楽しい便だ。ちょっとだけど利尻島も見ることができるし。

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 乗船開始。いってらっしゃい!礼文島へまたお越し下さい。

13時15分に乗船開始となる。
船内に入ると、行きに乗った船とは違って椅子席がメインだった。船首のほうにカーペット敷きのスペースもあって、どっちも2等の乗船券で利用できる。
どうせ半分くらいの時間は甲板で過ごすので、空いている席に荷物だけ置いて外に出る。

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 サイプリア宗谷の客室は椅子席がメインだった。

下にはどこかの宿なのかサークルなのか、見送りの人が10人ほどかたまって手を振っている。
名物の桃岩荘の見送りではない。あっちは今年の営業は休止とホームページにあった。

3年前に来たときは『遠い世界に』の熱唱と、ふしぎな踊り(ドラクエかよ)で盛大に見送ってくれたが、残念ながら今年は無し。

もっとも、あの中に加わりたいとは思わないが・・・(^^;

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 どこかの見送りがあった。

誰だかわからない見送り人たちは、小さく見えなくなるまで手を振り続けていた。
これで4泊5日過ごした礼文島ともお別れ、少しセンチメンタルな気分にもなる。

同じ北海道内なのだから、来たくなればいつでも来れるんだけどね。
車なら0泊2日で行くこともできるし。
秋あたりにまた行っちゃうかもしれないね。

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 さようなら礼文島。

礼文島に別れを告げて、船が一路目指すは利尻島。
これもまたこの時期は滅多に姿を現さない利尻富士がくっきりと見える。
しかも船上からは順光。火山の荒々しい岩陰まではっきりとあらわになっている。

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 船は寄港地の利尻島へ向かう。

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 海上から見る利尻富士の秀麗な姿。

利尻富士に見とれているうちに利尻島の鴛泊(おしどまり)に入港する。
意外と下船客が多く、1/3ほどは下船して行った。といっても全体の客が少ないので大した人数ではないが。
代わりに乗船してきた人はそれよりも少なく、香深を出たときよりも船内は空くことになった。
利尻島は利尻空港があり、千歳と丘珠にそれぞれ直行便があるので、そちらを利用する人が多いのだろう。

礼文島にも空港はあるが、稚内から利尻と礼文に飛んでいた飛行機が千歳と丘珠発着に改められてからは礼文空港は休止ということになっている。

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 鴛泊港では25分の停泊。

鴛泊では車を何台か積み込む。車だけはフェリーでしか運べないし、物流の主役はフェリーである。
最後にトラックを乗せたら終わり。車も人も少ないので、作業員は25分間の停泊時間も持て余し気味だ。

それでも早く出ることはしないで、出航時間になると腕時計の秒針がジャストを示すと同時に係船ロープを緩めた。
こんな離島でも1分1秒の正確さを見ていると、ここは日本だなあと思う。

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 利尻島をあとに稚内へ。

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 利尻も礼文もすっかり小さくなった。

秀麗な利尻富士もだんだん遠ざかる。
礼文島を出たときは順光でくっきり姿を見せていたが、利尻を出港すると逆光になってしまい、あとはシルエットとなってしまった。

かわって水平線に見えてくるのが北海道の島影。
北海道ってあんなに平べったかったかなあと思う。道北地方はあまり高い山がないからなのだろう。稚内半島で一番高いところでも200m程度しかない。

何年か前、北海道の熊が泳いで利尻島に渡って、また泳いで北海道に戻ったということがあったなあ。
あの熊も同じ島影を目指して泳いだのかなあ、なんて思った。

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 ノシャップ岬が近づく。

15時40分ごろ、稚内半島がもう近くに見えてくる。もうすぐ稚内かと思うが、到着までまだ40分もある。
宗谷岬の方の丘の上にはこれでもかってほど風力発電の風車が立っている。
そういえば礼文島では1基も見なかった。
あんなもの立ってれば景観は台無しだな。近くだと騒音も相当なものだし。

いつだったか、風力発電の風車の下でキャンプしてからあれは嫌いになった。

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 稚内へ戻ってきた。

16時15分、稚内フェリーターミナルに接岸し下船する。
コンコースは出迎える人もなくガランとしていた。
フェリーターミナルの出口にはタクシーが下船客を待っていた。あまりタクシーに向かう人はいない。
客が少ないのと、駅が近くなってタクシーに乗るほどの距離じゃなくなってしまったのもある。

札幌行の高速バスはフェリーターミナルから直接発車する。次の便は16:40発で、これに乗れば札幌には22:30着と特急宗谷を待つよりも30分近く着く。こっちの方が安いし、やっぱりフェリーの客はこっちに流れてしまうのだろうか。

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 タクシーが並ぶ稚内フェリーターミナル。

フェリーターミナルから稚内へ向かう人たちも10人くらいはいたようだ。
ここから稚内駅までは700mほどの距離。歩くのが早い人なら7〜8分といったところ。


 ◆ 稚内→札幌 特急宗谷飲み鉄旅

駅に着いたらまず指定席の確保。
持っている切符は6日間有効の『指定席往復割引きっぷ(Rきっぷ)』。
行きは買ったときに座席指定しておいたが、帰りは指定してない状態だった。別に自由席でもがら空きだろうが、せっかくなので指定席にしておく。

こんな稚内駅にも指定券の券売機が置かれるようになっていた。
窓口でも指定券は発行してもらえるが、機械だと自分で座席表で好きな席を選択できるので便利だ。
座席表を見て、なるべく人から離れた席を選択する。
ソーシャルディスタンスというのもあるけど、稚内から札幌まではずっと飲んで行こうと決めていたからだ。

車じゃないから、堂々と飲んで行ける。それに金曜の夜だから許してもらえるんじゃないか。
たくさん飲めば匂いもするだろうし、それには人がいない方が良い。
バスならばこうはいかないしね。

そういうわけで酒とつまみを調達してくる。
駅の向かいにはスーパーがあって、惣菜に食指が動くが、こんなパックを車内で並べたらかえってむなしくなるだろうな。
駅弁があれば一番いいのだが、道の駅の売店キタカラに駅弁は休止中との張り紙が出ていた。
結局セイコーマートとキタカラで酒とつまみを仕入れた。

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 特急宗谷の改札が始まった稚内駅。

17時半を過ぎて改札が始まる。
改札口を通ったのは僅か10数人。これが始発稚内からの乗客全員となる。

特急が全て札幌発着だった頃は17:00発スーパー宗谷3号だったのが、唯一の札幌行となってからは17:46発に繰り下がっている。札幌着が22時過ぎに到着だったのが23時近くになってしまったので、稚内だけの用で来たのなら不便なダイヤという感は否めない。
その前は13:01発のサロベツしかないし、その間は普通列車すらない状態。
反面、利尻礼文からのフェリーが接続できるようになった面もあるのだが。

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 唯一の札幌行になる特急宗谷。

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 稚内発車時の車内。札幌まで乗車率はあまり変わらなかった。

一番後ろの席に陣取っている2人の鉄道ファンらしい兄さんたちの話し声が気になるが、まあこっちも酒を飲ませてもらうのでまあええわい。これはしばらくすると静かになった。

列車は次の南稚内へ。
この駅から何人か乗ってきたが、ほとんどは自由席の方の客だった。
車内はさっき見た券売機の座席表通りにがら空き状態で南稚内を発車する。

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 南稚内は地元の人の利用が多い。

南稚内を出ると、買ってきたつまみをテーブルに並べて1人酒宴を始めることにする。
ビールはぬるくならないように保温袋に入れてきた。

『わっかないし出汁之介』というホッケの燻製は意外とビールに合うな。

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 札幌までは飲みながら。

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 ビールは保温バッグに入れて。

車窓から利尻富士を見ようと進行右側の席を取ったのだが、こっち側は西日がモロに差し込んで来る。
宗谷本線で日本海が見える唯一の場所では、利尻、礼文両島のシルエットがくっきりと見えた。

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 南稚内〜抜海間のビュースポットから見えた利尻島と礼文島。

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 利尻富士のシルエットがずっと追いかけてくる。徳満〜豊富間。

もう食堂車も車内販売も無いが、こうして乗車前に準備しておけば座席は食堂車にも居酒屋にもなる。

ビール2本飲んで飽きてきたから今度はワンカップ。
おいちーずといって裂いたチーズを燻製状にした珍味が意外とワンカップに合うのだった。

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 次はワンカップだ。おいチーズが意外と日本酒に合う。

豊富では自由席から数人の下車があった。高校生の姿も見える。
稚内と豊富の間は町民限定の乗車票というのがあって、それだと特急が普通運賃の10円増しの片道1,140円で利用できるので重宝されているようだ。

かつては稚内発の帰宅時間帯の普通列車は14時台、17時台、19時台だったものが普通列車削減で17時台と19時台に集約され、さらに特急の旭川短縮による特急宗谷の時刻繰り下げにより、17時台だった普通列車は18時台に繰り下げられてしまった。
かつては稚内への通学や通院、買い物などで使い分けられていた稚内からの帰宅列車も、特急を除けば18時台と20時台だけになってしまって久しい。

こんな状況では普通列車の利用者も極端に減って、宗谷本線では利用客の極端に少ない13駅が来年3月で廃止になることが決まっている。

駅とか鉄道の廃止というと、とかく地域住民を切り捨てるような話になってしまいがちだが、実際は廃止が決定すれば代替輸送が用意されることになる。その運営は自治体にしろバス会社にしろ、バスによる運行ならば通学や通院に合わせたきめ細やかな便が設定できる。江差線のようにバス化したほうが逆に利用客が増えた例もある。

地域輸送をいつまでも鉄道にこだわっていると、逆に住民に不便を強いることにもなりかねない。

宗谷本線稚内口の例では、帰宅するには18時過ぎの列車まで待たなければならない不便な鉄道。
思い切って廃止すれば、利用実態に合わせて運行できる代替バスの運行になる。どちらが地元住民にとって便利かは明白だ。

それで考えると、宗谷本線北部の地域輸送はバスなどに譲り、石勝線のように都市間輸送専用の路線とするのも、宗谷本線を存続させる1つの方法かもしれない。

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 西日に染まった黄金色の空と利尻富士。豊富〜下沼間。

礼文島にいるときは観光客気分だったが、また戻ってきて列車に乗ると、いやでもJR北海道の、また宗谷本線の厳しい現実を見せつけられる。

幌延を出るとだいぶ日も傾いてきて夕焼け空になった。もうそろそろ利尻富士も夕日も見納めだ。

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 夕日が傾いてくる。南幌延〜安牛間。

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 天塩川の向こうに月が見え始めた。

雄信内を通過するあたりから山峡を行くので日が暮れたように感じるが、今日の日の入りは19時25分(稚内市)。天塩中川の少し先あたりとなる。
音威子府まで来ると空も暗くなり始めた。

なぜか音威子府の駅名を見ると里まで下りてきたような感覚になる。
急行時代は、この駅に着くとホームの乗車位置には乗客が並んでいたのを思い出す。
ここはオホーツク側の浜頓別や枝幸からのバスが発着していたので、そっち方面からの乗り換え客が多かったのだ。
それも、それぞれ旭川や札幌に直通バスが走るようになってからは過去のものになったようだ。

里らしさを感じたのは、きっと稚内方面とは違う客がたくさん乗ってきたので、ここから車内の空気が変わったからなんじゃないかと思う。
今はそんなことも無くなってしまった。

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 19時50分、音威子府着。空はまだまだ明るい。

美深ですっかり暗くなる。
名寄で少しは乗ってくるのかとおもったが、自由席の方に何人か乗っただけだった。

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 20時37分名寄着。さすがにもう空も暗くなった。

名寄を発車すると眠ってしまい、気が付くと岩見沢だった。
この指定席の乗車率は、旭川で少し入れ替わったようだが、稚内始発時とそう変わってはいなかった。

いまはコロナウイルス禍による需要減少ということで、鉄道に限らずバスも飛行機も乗客減がひどいが、コロナウイルスが収束したら乗客が戻ってくるのだろうか。
需要が戻ればまた乗客は増えるのだろうが、この期間に公共交通機関を嫌って車にシフトした客はそう簡単に戻ってはこないだろう。

自分自身がいい例で、道内完結の移動だけでJRの指定席の特急に乗るのは8年ぶりになる。宗谷本線の特急は10年ぶり。すっかり鉄道の旅とは縁遠くなっていた。
その理由は車を持ったから。

今回は駐車場とガソリン代を考えたらJR利用と差額が少なかったからということでJRを選択したが、それがなければ車の一択だっただろう。

旅行前に、宗谷線の特急に乗るのもこれが最後になるかもしれないねなどと冗談を言っていたが、残念ながら案外現実のものとなる日も近いと言わざるを得ない。
これが前回乗った10年前と比較した、宗谷線特急の変わりようと現実見て思った率直な感想である。

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 22時57分札幌着。

岩見沢発車時でも1両あたり10人に満たない乗車率のまま札幌へ。自由席の方は知らないが、到着しても人は疎らだったので似たようなものか。

なんだかわびしい旅の終わりだった。もう礼文島も遠い出来事である。

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 礼文島で買ってきた土産物。

久しぶりに慣れないことをすると何か失敗するもので、家に着いてからスマホがないことに気づいた。
いくら探しても見つからないので、どうやら車内に忘れてきたらしい。無意識に背もたれのポケットに入れてしまったかな。

これは明日札幌駅に電話するしかない。
もしやと思い、自宅のPCで、グーグルマップのタイムラインを見ると簡単にスマホの居場所が見つかった。


7月3日(金)の費用
費目場所金額(円)
レンタカートヨタレンタカー礼文店6,600
食費(外食)炉ばた ちどり(現金分)1,500
土産物代マリンストアー香深2,900
土産物代加藤商店1,460
食費(酒つまみ)セイコーマート1,562
食費(つまみ)ワッカナイセレクト972
7/3 合計14,994


 ◆ 7月4日(土)

翌日公衆電話で札幌駅の忘れ物センターに電話すると、
「もしかすると折り返しで稚内へ向けて出発したかもしれませんね」
「そうしますと稚内駅に着いてから捜索しますので、見つかっても送料がかかりますよ」
とかさんざん言われたが、とりあえず捜索をお願いして電話を切る。

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 昨日グーグルマップのタイムラインで見るとスマホの居場所が・・・

昼にまた電話を掛け直すと、スマホは無事苗穂運転所に駐泊中の車内で発見されたようだ。
これは月曜日に苗穂駅に取りに来てくださいということになった。

受け取りが苗穂駅なのはともかく、なんで月曜まで待たなければならないのかと思ったが、事務関係が土日は休みになるからだろう。
思わぬところで鉄道のタテ割り組織を知ることになった。

そもそも悪いのは車内に忘れてきた自分なので分が悪い。
それはそれで経験と思うことにした。

〜おわり

2020年礼文島旅行総費用
費目金額(円)
宿泊費26,200
交通費(JR)13,310
交通費(フェリー)5,700
交通費(島内バス)2,380
レンタカー6,600
食費14,555
土産物4,360
その他費用610
合計73,715

最後に今回の旅行の総費用をあげます。
礼文島へ旅行するときの参考にしていただければ幸いです。

〜最後までお読みいただきましてありがとうございました。

posted by pupupukaya at 20/07/26 | Comment(0) | 道北の旅行記

2020年礼文島旅行記6 最終日はレンタカーで

 ◆ 7月3日(金)

5時過ぎ、明るくなった窓から空を見ると隣の建物の隙間から青空が見えた。
外に出てみると雲ひとつない快晴。港の海面はさざ波ひとつない鏡面のようになって漁船や周りの建物を映していた。利尻富士もくっきりと見えている。

出発前は2日くらいは雨を覚悟していたが、来てみれば雨に当たることもなく、火曜日以外は午前か午後のどちらかは青空に恵まれた。野球ならば完全試合といったところ。

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 鏡面のような海面の香深港。

スマホで今日の天気予報を見ると完璧に晴れ、降水確率も終日0%になっていた。
このまま帰るのは勿体ないな。

朝の船で出れば夕方には札幌に着くが、昼の船で出ても夜遅くなるが今日中に札幌に着くことができる。
歩いていると、レンタカー屋の立て看板に、『キャンペーン特別料金/3時間6600円』というのが見えた。
車を運転するつもりはなかったが、今日はこれで島をもう1回りして来たくなった。

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 フェリーターミナル向かいのレンタカー屋。

レンタカー屋が開く8時に宿をチェックアウトする。チェックアウトと言っても1Fの店には誰もいないのでカウンターにキーを置くだけ。せめてキーボックスでも置いたらどうかと思うが、それはさておき。


 ◆ 礼文島をレンタカーで回る

まずはレンタカー屋へ。
表の看板の車を借りたいのだがというとすぐに対応してくれた。

3時間6600円は本土と比べるとずいぶんと高いが、礼文島は離島料金が適用されるので、事前予約して普通に借りれば3時間7920円。これは軽自動車の場合で普通車なら9000円以上になる。
観光シーズンの今時期ならば予約なしで行っても予約一杯と断られるだろうが、今年ならばようこそいらっしゃいましたといった状況だろう。

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 レンタカー屋でくれた礼文島の地図。

店の親父がレンタカー客用の地図を持ってきて、島の見どころをあれこれ説明してくれる。
月曜にこっちに着いて、歩いて行ってきたところばかりなので知っているが一応聞いておく。
これ全部3時間で回ってこれるのかというほど盛沢山だったが。

表に停まっている軽自動車へ案内される。時刻は8時を少し過ぎたところだが、8時10分から3時間ということにしてくれた。
料金はガソリン代込みとのことで、そのまま返せばOKとのこと。
さっそく出発する。

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 3時間レンタルしたダイハツ・ムーヴ。

まず最初に向かったのは澄海(スカイ)岬
さすがに車だと早い。香深のレンタカー屋前からここまで距離にして20km以上あるが、30分とかからずに着いた。

船泊の礼文荘に泊まって、歩いてここまで来たのは火曜日のこと。3日ぶりの再訪となる。
あの時は曇っていて山にはガスもかかっていたが、今日は快晴で文句なしの青空。どんな風景が待ち受けているのだろう。

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 晴れの澄海(スカイ)岬。

おおスカイ岬。おおブルースカイ。この海の明るさよ〜。

誰が呼んだか知らないが粋な名前を付けたものだ。
晴れた空の下に見る海は透き通って青く光るようだ。

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 澄海岬の入り江。

澄海岬というのは展望スペースから見下ろす入り江の通称名で、国土地理院の地形図で見ると入り江の反対側の岩が『岡田ノ崎』と載っている。
この入り江は中島みゆき『銀の龍の背に乗って』のプロモーションビデオの撮影地になった場所。
昔からTVオンチなので詳しくは知らないが、この歌はドラマの『Dr.コトー診療所』の主題歌に使われたらしい。

今日は入り江よりも岡田ノ崎側の方が海の色がきれいなブルーだった。

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 澄んだブルーの海。礼文ブルー。岡田ノ崎。

あれこれ写真を撮ったりしていると小1時間は過ぎたような気がしたが、車に戻ったらまだ15分しか経っていなかった。

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 ベタ凪の西上泊漁港。

次に向かうのはスコトン岬。
真直ぐ岬へは向かわず、レンタカー屋の親父に言われた通り、そこへ向かう途中で山へ登る小道へ入り、トド島展望台に寄る。
これも火曜日はスコトンから歩いて登ってきた場所。
展望台からはその時は見えなかった利尻富士のシルエットが見えた。

これだけ晴れていれば樺太(サハリン)も見えるかもと目を凝らしたが、水平線の上にそれらしい島影を見つけることはできなかった。

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 トド島展望台から利尻富士が見えた。

こんどは坂道をスコトン岬へ下る。
途中に黄色い点々をちりばめたような見事なエゾカンゾウの群生が・・・・
あああ〜!、通り過ぎちゃった。
車だとせわしない。

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 スコトン岬と海驢(トド)島。

スコトン岬へ。ここも誰もいなかった。

レンタカー屋でくれた地図に、
『スコトン岬は風が強いので、車を停めるときは風に向かって停めてね!』
との注意書きがあるほど風が強い所らしい。

そういえば礼文島は風が強い所だが、今回の旅行で強風に当たることもなかった。
なんと穏やかな週だったんだろう。

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 スコトン岬は最北限の地。

スコトン岬は最北限を名乗る。北端では宗谷岬に負けているので、最北端は名乗れないらしい。
岬の先には海驢(トド)島があって白黒ツートンの灯台が見える。昔は人が住んでいて、観光船も出ていたらしいが、今は無人島になっている。
それでも漁船をチャーターすれば行こうと思えば行けるので、ここが北限と言うわけではない。

1つ気づいたことがあって、礼文北部に行くときは、最初にスコトン岬に行ってから次に澄海岬へ行くべきだろう。
さきに澄海岬の青い海を見てしまうと、最北限の地もただのつまらない磯浜に見えてしまうのだった。

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 海驢(トド)島と灯台。

島の北部を後にして、また道道礼文島線を香深へ戻る。
今度は、歩いては行かなかった島の西海岸へ行くことにする。レンタカーを借りたのはそっちへ行きたかったのがメイン。

香深の町へ戻り、長い新桃岩トンネルを抜けると元地の漁村に出る。
かつての旧道は桃岩やユースホステル桃岩荘の方に出たが、今の新道は元地の町とダイレクトに結ぶようになった。

メノウ浜の看板が立つところに駐車場があったので、車はそこに置いて歩いて地蔵岩まで行く。

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 地蔵岩が立つ元地海岸。

お地蔵さまが手を合わせて拝んでいるように見えるからその名がついた地蔵岩

いかにも昔の日本人が好きそうなネーミング。
そのためか礼文島のシンボルでもあったこの地蔵岩も、トレッキングコースからは外れているのと、今は澄海岬や桃岩といった景勝地に押されて影が薄くなってしまったようだ。
昔宗谷本線に走っていた急行『礼文』のヘッドマークもこの地蔵岩をデザインしたものだった。

道路は地蔵岩の200m手前で終わり、そこには立入禁止の旨を掲示した看板が立つ。
柵で囲まれているわけではないので行こうと思えば行けるが、危険を冒して近づいたところで何かあるわけではない。
昔はここから地蔵岩〜礼文滝〜ウエンナイと海岸を辿るのが8時間コースとなっていたが、事故があってから礼文林道を迂回するコースに変更されている。

この海岸は映画『北のカナリアたち』のシーンにも出てきた見覚えのある場所。
映画では、この地蔵岩の下で起こったある事故がきっかけで、吉永小百合演じる教師が島を追われることになるのだった。
20年後に、バラバラになっていた教え子たちは全員この事故にかかわっていたということを告白する。
あんまり言うとネタバレになるのでもうやめます。

この映画には札幌市電も出てきて、見覚えのある沿線風景に親しみを感じたものだったが。
いや、もうやめます (^^;

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 お地蔵様が拝んでいるように見える地蔵岩。

駐車場の向かいはメノウ浜。
メノウが拾えるのでこの名がついたらしい。
もしかして拾えるかと思って浜を歩いてみたが、それらしい石は見つからなかった。

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 地蔵岩近くのメノウ浜。

こんどは西海岸を南に行く。
西海岸は道が狭いので軽自動車が走りやすい。

そういえば、レンタカー屋の親父が、
「今日は観光バスが走るみたいなので注意してくださいね」と言っていたな。
幸いまだ観光バスは見ていない。
今日だったら原付でも良いのだろうが、あいにく私はバイクに乗ったことがないので・・・

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 桃台猫台展望台から見た桃岩。

西海岸の道路の南端は桃台猫台展望台の駐車場。その先は『桃岩荘利用者以外立入禁止』の看板が立っている。
ある意味礼文島のシンボルともいえる有名なユースホステルだが、車に入り込まれて見世物にされてはさすがに迷惑なのだろう。
今年の営業は断念せざるを得なかったようだ。

駐車場から階段を登った高台が展望台になっている。
香深側から登る桃岩展望台は見下ろす格好だが、こちらのは反対側から見上げる格好。
頭が尖がった、桃太郎に出てくるような桃の形に見える。

その反対側の南側に見える小さな岩が猫岩。
猫が反対を向いているような恰好。

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 桃岩荘の赤い屋根と猫岩。

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 猫岩の望遠。猫背の猫岩。

ここもほかには誰もいなかった。
10時10分を過ぎたところ。車を返すまであと1時間近く。あとはどこに行くか。

新桃岩トンネルを出ると、町とは反対方向に車を走らせた。
また桃岩展望台に行こうと思ったわけだ。

最初に来たときは香深の町から歩いて登り、次は礼文林道から大型バス駐車場のある桃岩登山口から登り、今日は桃岩展望台駐車場まで車で行ってそこから登ることになる。
車で行くと途中から片側1車線の狭い道を通ることになるが、対向車が来たらどうしようかと冷や冷やした。

駐車場まで来たら、小学生の遠足なのか知らないが、大賑わい。
それとは別のトレッキングの人も一昨日来たときよりも増えていた。

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 桃岩展望台駐車場を見下ろす。

駐車場から桃岩展望台までは200mほど歩いて登る。一昨日は香深から40分かけて歩いて登ってきたのにあっけない。

桃岩展望台まで往復するだけならば車でも来られるが、そこから知床までトレッキングするのなら車は不要、ていうかむしろ邪魔。
なぜなら、向こうへ通り抜けてもまたこの駐車場まで車を取りにいかなくてはならないから。

今日は桃岩展望台へ行って写真を撮るだけで引き返す。
展望台に登る途中、今日もイブキトラノオのピンクの穂が一斉に風にそよいでいた。

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 桃岩展望台から利尻島の俯瞰。

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 桃岩展望台からの桃岩。

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 さっきの桃台猫台展望台を見下ろす。

小学生やトレッキングの人たちが知床の方へ去ってしまうと、展望台は人がいなくなった。
今日観光バスが走ると聞いていたので、観光バスの人たちだったんだろうか。

イブキトラノオの花に見送られて、また駐車場へ戻る。
もうそろそろ車を返す時間が近づいてきた。

レンタカー屋の前に着いたのが10時56分。なかなか上出来な回り方だった。
島の観光地をいくつか回ってくるだけだったら3時間で十分だった。
火曜から木曜まで3日かけて歩いてきたところも車ならば3時間なのだからあっけない。
しかし、礼文島の本当の良さは車じゃ絶対わからないと思う


 ◆ 礼文島の終わりはうに丼で

昼には少し早いが、つぎはうに丼が食べたい。
昨日ちゃんちゃん焼きを食べるのに入った店で、『うに丼4500円』という張り紙を目にして、たかが丼もの1杯にこんなお金を出すのは勇気がいるなと思っていたのだった。
しかし、礼文島まで行ってうに丼を食べなかったのかと後悔するのも嫌だしねえ。

幸い初日に買った礼文島プレミアム商品券がまだ3千円分残っている。これは土産物を買って使い切ろうと思っていたが、うに丼に使うことにした。こういうのを最初に買っておけば心理的な負担を減らすことができる。

向かった店が『海鮮処かふか』。
ここはマリンストアーの2階にあって、漁協による直営の店。ここなら間違いないだろうと思ったからだ。ところが店は閉まっていた。定休日ではなく、『当分の間は夜営業のみとさせていただきます』の張り紙が・・・。

仕方ない、昨日と同じ『炉ばた ちどり』に入る。焼き物ではないと言うとカウンター席に通された。
ちゃんちゃん焼きが名物の店だが、うに丼もまた名物となっていて、観光客は両方注文する客も多いらしい。
観光シーズンの今時期ならば行列のできる店なのだろうが、今日も余裕がある。
席に着くなり迷うことなく「うに丼」と言った。

それでも席に着いてから次第に客が増え始めた。
ほかの客がうに丼を注文すると、うに丼は1組1品だけということだった。
昨日が時化で、ウニの入荷が少なかったという。そういえば昨日は波が高かったもんな。

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 また入った炉ばた ちどり。

さて出てきました。うに丼4500円

「まずは醤油をかけないで召し上がってください」
同じことを礼文荘でも言われた。

礼文島に限らず、うに丼にまず醤油をかけるなど愚の骨頂ですぞ。

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 時価4500円也のうに丼。

あ〜ウニがとろける・・・甘〜い・・・

しかもここのうに丼は、ご飯の間にもウニが挟まっているんですね。ウニの2段重ね。
最初はウニだけを味わい、2段目が出てきたら醤油とわさびでいただくという2度おいしさが味わえる。

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 エゾバフンウニのとろけるような甘さ。

商品券3千円分と現金1500円。
プレミア分を引けば実質3千円でうに丼を食べられたことになるな。

旅行中でもこういうセコイ性格が抜けないのは困ったことだ。

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 歩道に寝そべっていた猫。

またマリンストアーに寄って、土産物のムラサキウニの蒸しウニ缶と礼文島香深産昆布の昆布しょうゆを買った。
こういうものは土産物屋で買うよりスーパーの方が安い。これは実家へのお土産としよう。

まだ船の時間があるので、フェリーターミナル向かいの土産物屋を物色する。
いくつか欲しいものがあったので買うことにした。全部調味料ばかり。
さっきマリンストアーで買ったのと同じ昆布しょうゆが置いてあって見ると、ゲッ、マリンストアーより安い。
またしてもやられた。ロシア人もびっくりのマリンストアーだった。

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 フェーリーターミナル向かいにある礼文おみやげセンター。

土産物屋のレジで申し訳なさそうに「袋は有料なんですがどうなさいます」と聞かれる。
そうだった、7月から全国一斉にレジ袋有料化がスタートしたのだった。
全部自宅用だし、裸で受け取ってバックパックに押し込んだ。

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 香深港に入港する稚内からのフェリー。

これで礼文島はおしまい。
あとはフェリーの乗船開始を待つだけになった。




posted by pupupukaya at 20/07/26 | Comment(0) | 道北の旅行記

2020年礼文島旅行記5 礼文林道・礼文滝コース

 ◆ 7月2日(木)

今日は目覚めたら6時だった。昨日までは3時台に目覚めてたので、ずいぶん寝坊したような気になる。
素泊まりなのだから、早く起きたら早く出ればいいのだが、そうすると戻りも早くなってしまう。
天気予報は概ね曇りか曇りのち晴れといったところ。とりあえず雨に当たる心配はなさそう。

朝食は昨日セイコーマートで買っておいたカップヌードルとパン。なんか情けない食事だが、ごちそう続きだったので、こういうのも妙に恋しくなる。

今日の予定は、香深井まで行ってそこから礼文林道を経て礼文滝まで行き、そこで折り返して礼文林道に戻り、香深へ戻ってくるというもの。
トレッキングコースの礼文林道コース(8.2km)と礼文滝コース(4.0km)を合体させた格好となる。

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 礼文林道・礼文滝コースのルート(地理院地図より筆者作成)

7時40分少し前に宿を出る。
1Fの店は9時からオープンなので誰もいない。しかし、2Fの宿へは店を通らないと出入りできないためか鍵を掛けずに開放している。
ずいぶんと物騒な気もするが、島には悪い人はいないんだろうか。

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 誰もいない1Fのカフェ店内。

香深井は香深の町とは別で、フェリーターミナルからだと4.8km北にある漁村だ。バスならば11分だが、歩けば1時間はかかる距離。
ちょうど7時45分発のスコトン行のバスがあるのでそれに合わせて出てきたのだが、既に停車しているバスの車内には4〜5人のハイカーが見えた。一緒になったら嫌だなあと思い、香深井まで歩くことにする。
時間はたっぷりあるし、それに途中のセイコーマートに寄れるという利点もある。

フェリーターミナルの自販機でスポーツ飲料を買ってからスタートする。
買ってから気が付いたが、セコマで買えば良かったんじゃ・・・

途中のセイコーマートで昼食用のおにぎりとサーターアンダギーを買った。なぜか13年前に行った沖縄の離島を思い出したから。
道道礼文島線を北へ向かってテクテク歩く。歩いているうちに曇り空だったのがだんだん青空へと変わってきた。

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 香深から香深井までは道道を歩いて1時間。

香深井のバス停は香深井郵便局の真向かいにあり、バスで来たのならばここが出発点となる。横の家に自販機があったので、バスで来たならここで飲み物しか手に入らない。
時刻は8時43分、香深から歩いてセイコーマートに寄って、ほぼ1時間少々ということになる。


 ◆ 礼文林道コース

橋の手前を左に曲がって狭い道路に入る。人家が終わるあたりに除雪車の車庫があって、そこから礼文林道が始まる。

礼文林道は車の通行は一応可能だが、入口には『自粛』をお願いする看板が立っていた。
林道と言っても二条の轍だけが続いているような道だし、轍が深くなっていたりぬかるみがあったり、対向車が来てもすれ違いは不可能なので車では入らない方が無難である。

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 礼文林道の入口にある看板。

林道に入ってしばらく行くと8時間コースの道が分かれて行く。桃岩荘でやってる『愛とロマンの8時間コース』はスコトン岬を出発してここに出て、礼文林道を南下して戻るコースとしている。この次来たときは挑戦してみたいところ。

礼文林道に入って30分くらいはずっと林の中を通る。上り坂は緩やかだが、退屈な道をダラダラと歩く。この辺りから携帯も圏外となった。
地図は国土地理院の地形図を画像にしてスマホに入れておいたので、それを見ればどこにいるのかはわかる。
が、トレイルコースは整備されているので、地図がなくても不便なことは無いと思う。

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 二条の轍が続く礼文林道。

ずっと歩いているうちに林がなくなり、ヤブの丈も低くなってきて視界が開けるようになった。
礼文滝入口の看板が立つ分岐点に着いたのは9時45分、香深井からここまでが大体1時間というところだった。


 ◆ 礼文滝コース往復

ここから礼文滝へ向かうことになる。
この礼文滝コースは西海岸の礼文滝までの片道2kmのコースで、ロープを伝って下りる急斜面や沢を渡る箇所もある険しい道だ。
コース入口の看板には、
礼文滝コースは川を複数個所横断する大変険しいコースとなっております。通行の際は足元に十分注意し、安全に気を付けてご利用ください
とあった。

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 礼文滝入口。

最初は笹を刈ってつけたような道が続くが、だんだんヤブに覆われてきて、こんどは林の中を下ったり登ったり。
海に向かうので基本下り坂、戻りはこれ登らなきゃならないのかとため息が出そうな急な連続の下り斜面もあった。そんな道が1kmほど続く。
時どき高山植物の可憐な花が足元に咲いているのが唯一の慰め。

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 鬱蒼としたアップダウンが続く。

暗い林や背の高いヤブの中をずっと行くと突然視界が開ける。
そこはロープで囲まれた、ちょっとした広場のようになっていた。
ここへ来た人が少しずつ積んで出来たのか、小さなケルンもあった。

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 ケルンのある広場。

10時06分、礼文滝入口からここまでちょうど20分。

ここから見下ろすV字谷が素晴らしい。
ここは通称ハイジの丘と呼ばれる。アルプスの少女ハイジに出てくるようなアルプスの丘のようだということでそう呼ばれるようになったらしい。

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 ケルンから見下ろしたハイジの丘。

確かにここにヤギでもいたらハイジの世界だな。
青い空、青い海、緑の草原、風が気持ちいい、あ〜もうここから動きたくない。
ずっと暗いヤブの中を登ったり下りたりしてきたので余計にそう思う。

5分ほど佇んで、また出発する。道はさらに礼文滝へと続く。
谷を見下ろしながらしばらく歩くと、今度は一気に谷底へと下る。
一気にといっても、道は一応つづら折りにつけられているが、それでも板で階段状になるほど急になっている。戻りはこれを登らなきゃならないのか。
谷の底からはこんどは沢伝いに道が続く。

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 谷底からさっき下りてきたつづら折りを振り返る。

V字谷の底に流れる沢の脇に足場を求めてつけられた道なので、途中で何回も川を渡る箇所がある。
橋はなくて、そういうところはロープが渡してある。
ロープなど無くても飛び石に乗って越えられるところはいいが、ロープをしっかり握って飛び越えるところはスリルがある。
着地に失敗しても足元がずぶ濡れになるだけだが。

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 数か所ある渡河箇所。ロープが頼り。

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 トレイルの脇に咲く花。

何度も何度も川を渡って下って行くうちに海が目の前に現れた。
礼文滝まであと一息。

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 また川を渡る。

海が目前というところが、ちょうど礼文滝の上に当たる。
ここからは滝を見ながらロープ伝いに下る。

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 海が見えてきた。ここがちょうど滝の上部になる。

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 海岸から見上げる礼文滝。

10時40分、礼文滝に到着。
ハイジの丘のケルンからここまで30分。礼文林道からここまで1時間もかからなかった。
岩肌を流れ落ちる滝は、近くで見ると迫力がある。

どこにでもある滝だが、ここは沢伝いに何度も川を渡ってロープ伝いに下りてこなければ辿り着けない秘境である。
いや〜うれしいねえ。

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 礼文滝の浜。

海岸は、礼文滝のまわりだけは石の浜になっているが、その両側は断崖が続く。
昔は『愛とロマンの8時間コース』のルートはずっと西海岸沿いにあって、今いる場所もそのコースの一部だったが、事故が起きてから礼文林道を迂回するコースに改められたのだという。

昼には早いが、岩に腰掛けてセイコーマートで買ってきた昼食のおにぎりを食べる。
海は波がずいぶんと高い。これは日本海上の低気圧のせいだろう。天気予報を見ると今日晴れているのは道北地方だけで、道南道央は雨となっていた。

ここは今は晴れているが、山々にはどんどんガスがかかり始めている。
せっかく苦労して来たのだから、ゆっくりしていきたいところだが、ガスがこっちにも流れてくるかもしれない。
おにぎりを食べたら早々に戻ることにした。

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 元地漁港の防波堤が思いのほか近くに見える。

岩の向こうには元地漁港の防波堤と灯台が見えている。ここから直線距離だと1kmほどの距離。
昔は岩伝いに元地まで歩いて行けたのだが、もう大分前に通行禁止になってしまった。

また登って下りて礼文林道まで戻らなければならない。
意外と近くに見える元地の漁港がうらめしく見えた。

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 低気圧のせいか海は荒れていた。

11時00分、礼文滝を出発。今度はロープを引いて滝の脇をよじ登る。
また谷底の沢伝いの道を戻ることになる。
遠くにみえていたガスは、この谷にも流れ始めていた。

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 ハイジの丘にもガスが忍び寄ってくる。

つづら折りを登ってまたケルンの所まで戻ってきた。
ここで4人ほどのガイド付きのパーティーとすれ違う。礼文滝まで往復するようだ。

ガイドが私のカメラを見て、
「カメラのレンズは大丈夫ですか?さっきレンズフードが落ちてましたが」
「えっ?」
慌ててカメラを見たが、自分のではなかった。

ハイジの丘もだんだん霞んできた。晴れているうちに往復してこれたので運が良かったよ言えよう。
こんどは礼文林道目指してまた下りたり登ったりの道を行く。

途中で、なるほどレンズフードが石の上にあった。ニコンのレンズフード。私のはキヤノンだしレンズも純正ではないのでね。
落とし主もレンズフードのためにわざわざ探しにくることはないだろうな。
レンズ落としましただったら血相変えて引き返してくるかも知れないが。

再び礼文林道の礼文滝入口まで戻ってきたのが11時52分
戻りは登りだから行きより時間がかかるのかなと思っていたが、戻りも1時間はかからなかった。

雄大な風景や険しい道に登山のような印象を持っていたが何のことはない、ここから礼文滝までの高低差は僅か180mでしかなかった。

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 礼文林道は完全にガスの中になってしまった。

礼文林道は南半分の方が景色は良さそうだが、もう完全にガスってしまって山も谷も白一色になってしまった。
東側の斜面を伝うように海からのガスが流れ込んで来る。今日はもうダメだね。

途中にあるレブンウスユキソウ群生地にはトイレがある。
晴れていればここから元地海岸を見下ろし、利尻富士も見えるスポットなのだろうが、今日は白一色。
ここで用を足して、ガスが晴れないかなあ・・・と期待して柵にもたれて谷を見ていたが一向にその気配はないようだった。

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  レブンウスユキソウ群生地。奥の建物はトイレとレンジャーハウス。

林道とは別に谷の斜面に歩道が設けられて、そこからレブンウスユキソウの花を見ることができる。ちょうど今が満開のようで、緑の中に白い花が点々と咲いていた。

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 斜面に点々と咲く群生地。

薄い雪をまとったようなウスユキソウ。ヨーロッパではエーデルワイスとなる。
ドイツ語でエーデルワイス(Edelweiß)は訳すと『白い貴族』とでもなるのだろうか。

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 薄く雪をまとったようなレブンウスユキソウ(礼文薄雪草)。

白くて小さい花は見るからに弱々しい。
ガスって薄暗いくらいのほうが花には健康的なのだろうか。

この時期の利尻礼文は曇り空やガスが多くて旅行者は落胆させられることが多い季節だが、だからこそ低地でも高山植物が自生する環境になり、花が咲いて私たちの目を楽しませてくれる面もある。

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 礼文林道元地口。

13時08分、礼文林道はここで終わり。道道を下って行けば宿まで20分とかからないだろう。
また意外と早く着いてしまった。
ガイドに載っているトレイルコースの所要時間もまた相当余裕を持った時間になっているので、これで行程を組むと早く着きすぎるのだった。

このまま宿に戻っても13時半、もうちょっと歩いてこようかと町とは反対側へ歩き出す。
もしや、と思って桃岩展望台に行ってみることにした。

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 桃岩展望台に続く登山道から桃岩登山口を振り返る。

桃岩展望台まで登ってきたが、やっぱり何も見えなかった。
こんなガスの中歩こうなんて人もいないようで、ここまで全くの無人。
やっぱり宿に戻るしかないのか。

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 桃岩展望台もガスって何も見えなかった。

展望台までの道沿いはピンクの穂をつけたイブキトラノオが満開。
昨日は晴れていたが今日はガスの中。だけど、日光の下よりもガスってる方が色つやが良いように見える。
写真うつりも全然違っていた。

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 ガスってる方が花は元気そうに見える。

そのまま町まで下ってきて、結局2時半には宿に戻ってしまった。
これで、今回の礼文島行で行きたいところはすべて行ってきたことになる。

もう行くところもないしすることもない。シャワーを浴びて、布団に入ってひと眠りする。


 ◆ 炉ばた ちどり

今日はホッケのちゃんちゃん焼きを食べることに決めていた。
これは『炉ばた ちどり』か『海鮮処 かふか』ということになる。どちらも網の上で炭火焼きにするという礼文島独特のスタイルで出している。

4時半宿を出てちゃんちゃん焼きを求めて店へ向かう。入ったのは炉ばたちどり。海鮮処かふかは漁協直営だが17時にならないと開店しないので。
こっちのちどりの方はちゃんちゃん焼きの元祖らしい。今時期ならば外まで行列ができるほどの有名店だが、さすがに今年は閑古鳥だろう。

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 ちゃんちゃん焼発祥とされる炉ばたちどり。

店に入ると小あがりの炭焼き用のテーブルが何卓か、椅子の大テーブルそれにカウンター。先客は観光客の夫婦が1組、地元の兄さんらしい2人がカウンターでビールジョッキを手に話をしていた。

出てきたとうさんにちゃんちゃん焼きが食べたいと言うと、
「ちょっとお時間いただきますよ」
とのこと。
炭焼きだからいろいろ準備があるんだろう。別に急ぎじゃないし早く来過ぎたのでゆっくり待たせてもらう。

炭焼きの準備が出来たテーブルに着いて、ちゃんちゃん焼きと生ビールを頼む。
ホッケは大ぶりのもの。これに特製の甘味噌とネギを乗せて、下からの炭火で焼く。
ビールをチビチビやりながらしばらく待つ。

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 名物のホッケちゃんちゃん焼き。

焼けてきたら結構忙しい。生ビールは空になったのでもう1杯頼んだ。
炭火に落ちた脂で燻されたホッケと味噌を絡めながら食べるとビールによく合う。
身を食べ終わったらひっくり返して身の方を焼く。こうすると皮がパリパリになって美味いのよ。

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 尻尾の方から焼けてきたら、ほぐして味噌を絡めて食べる。

カウンターの方から地元の兄さんたちの会話が聞くとは無しに聞こえてくる。

「俺、ビール飲めないんだ、この間の健診で痛風(つうふう)だって言われてさ」
「ああ、俺も痛風だって言われたよ」
「酷いのになるとビッコ引いて歩くようになるしね」
「足に来るのはまだマシで、手首に来るとヤバいらしいよ」

何だよ、揃いも揃って痛風かよ。
島の男たちの悩みは痛風らしかった。

ネーちゃんいる飲み屋も無いし、飲むしか楽しみが無いしね

こっちまで泣けてくるような島の男たちの愚痴 (´;ω;`)

「この夏はさっぱり出ないねえ、こっちゃあノルマもあるのに」
「本土から車を航送してくるだけ赤字だよ」

レンタカー屋に勤めているらしい兄さんの愚痴。
これが島訛りで喋るので、余所者の私には寄席のように滑稽に聞こえる。

「電話で予約受けたら、なんでそんなに高いんだと文句言われてよお」

「前の客がマット泥だらけにしてきたんで、洗って次の客に貸したら、なんでマット濡れてるんだとまたクレーム来てさあ」

「この間なんか、消費者センターまでクレーム行って」

島の男たちの悩みは尽きない

そうしているうちに、店内のテレビは東京都でコロナ患者が107人出たと報じていた。

こりゃ終わらんべ、また旅行自粛がはじまるわ

遠い東京の出来事も、観光に生きる礼文島にとっては他人事ではないのだった。

そろそろ帰ることにする。
ホッケのちゃんちゃん焼きと生ビール2杯で2150円
2千円分は礼文島プレミアム商品券で支払う。
残りは3千円分。これは明日土産物でも買うことにしよう。

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 7/2、本日の歩数(スマホの歩数計)

今日が一番歩いた。
スマホの歩数計を見ると今日の歩数は35,998歩。距離にして27.4km

もう目的は果たしたので、明日は朝のフェリーで稚内へ戻る。
7/1からはコロナ運休していた特急サロベツも運転再開しているので、夕方には札幌に戻れる。

7月2日(木)の費用
費目場所金額(円)
食費(飲料)香深フェリー(タ)160
食費(昼食)セイコーマート319
食費(外食)炉ばた ちどり(現金分)150
7/2合計629


posted by pupupukaya at 20/07/24 | Comment(0) | 道北の旅行記

2020年礼文島旅行記4 桃岩展望台コース

 ◆ 7月1日(水)

昨日と同じく鳥の鳴く音で目を覚ます。3時半。もう外からは明かりが差し込んで来る。もうひと眠りしてまた目覚めると5時過ぎだった。外からは相変わらず鳥のさえずり。

今日も相変わらずの曇り空だった。天気予報も今日は曇り、明日は雨マークもある。日本海上にある大型低気圧が北海道に接近しているようで、明日の雨はどうもガチっぽい。道南道央は完全に雨マークとなっていた。

朝食までボーっとしてても勿体ないし、テレビなど見る気もしない。
窓から見える浜に行ってみた。浜へは宿の裏手から出ることができる。

引き潮で広くなった砂浜は海面はベタ凪で波音もなく静か。海というより湖のようにも見える。
澄んだ海水ときれいな砂浜はどことなく南国のビーチにいるような錯覚にもなる。

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 船泊湾の砂浜はベタ凪の澄んだ海だった。

しかし澄んだ海中に揺らいで見える昆布はまさに北の海なのだった。

満ち潮の時には波打ち際になるだろうあたりには貝殻がびっしりと打ち上げられていた。
もしかして穴あき貝が落ちているかもと注意して見ながら歩くと、たちまちに何枚も集まった。



穴あき貝は、貝殻にドリルでつけたような丸い穴が開いている。もちろん人がつけたものではなく自然のもの。
これはツメタガイという肉食の巻貝が、やすりのような歯舌で貝殻を削って穴を開け、中身を食べた跡。
襲われた貝からすれば恐怖の存在だろうが、時を経てこうして浜に打ち上げられると何となく愛らしい姿となる不思議。

礼文島の土産物屋に並んでいたりするのを見かけたが、この辺りの浜では普通に拾えるものだった。
少し歩けば、たちまちに10枚以上拾うことができた。
これは海水で洗って持ち帰る。旅の思い出品にはなるだろう。

一面空を覆っていた雲はいつの間にか少なくなり、そのうちに日も差すようになった。

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 浜で拾った穴あき貝。

朝食は7時からだが、少し遅れて行くと仕事組の人たちは食事を終えて立ち去る頃だった。

お櫃と味噌汁を持ってきた女将に、
今朝はいい天気になりましたねえ
と言うと、女将が言うには、今週になってから(この時期にしては)珍しく天気が良くなって、先週はずっと雨で寒く、朝はストーブを焚いていたという。
なるほど、それで廊下にストーブが出ていたのか。

女将曰(いわ)く
でもあんまり天気が続いても、逆に花が早く終わっちゃうしねえ

まあ確かに相手は高山植物だから、日に当たることが続けばそうなるんだろうね。

テーブルにはおかずが入った重が置いてあるだけなので素っ気なく見えたが、昨日は塩鮭だったものは今朝はホッケになっていた。目玉焼きだったのも今朝は玉子焼き。
連泊者は違ったものを出すという心遣いがうれしい。

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 最後の朝食。ヨーグルトのデザート付き。

今まで仕事とプライベートを合わせても色んな所に泊ったことがあるが、ここの食事は1位とまではいかないが確実に2位か3位の座にはなると思う。
昨日の夕食といい、見た目は3流のボロ宿だが、料理は1流の宿だった。
これもたまたま日柄が良かっただけで、時化(しけ)の日に当たったら、それこそシケた食事が続いてた可能性もあるが・・・。

食べている途中で、「良かったらデザートをどうぞ」と持ってきた。
これはヨーグルトにマンゴと粉末の昆布砂糖(?)を乗せた品。昆布とヨーグルトの組み合わせが、変わった味がした。


 ◆ 香深へ移動

2泊した礼文荘は引き払って今日は宿替えとなる。
今日の予定は、病院前8時55分発のバスで香深へ行くことになる。
チェックアウトするときに2日分のお酒代1600円の支払い。これは初日に香深港で買って忘れていた礼文島プレミアム商品券を使った。
基本的に宿代には使えないが、追加の酒代や料理代には使うことができる。おつりは出ないので、3枚と100円で支払った。
土砂降りの札幌から持ってきたビニール傘は、邪魔になったので宿に引き取ってもらった。

出る頃にはすっかり青空が広がって、日差しも強くなっていた。

今日は暑くなりそうですよ
と主人が出がけに言った。
島の人が言うんだから間違いないのだろう。
礼文島の天気予報は、基本的に当てにならないと感じるようになっていた。

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 病院前バス停からバスに乗る。

船泊診療所の前にある病院前のバス停で待っていると、一昨日(おととい)に同じバスに乗っていた利尻空港タグの兄さんがやってきた。久種湖畔キャンプ場で2泊してたようだ。

バス停は進行方向とは反対側だが、『香深方面行のバスは玄関前に停車します』と張り紙がある。
診療所の車寄せの下に立っていた兄さんは、診療所にやってきた車にクラクションを鳴らされていた。

・・・すまんね〜、浜の人は気が短いんでね〜、悪く思わんでね〜 (^^;
言わないけどそう思った。

やってきたバスはスコトン発だが誰も乗っていなかった。

ほとんど快晴に近かった船泊の空も、香深に向かうにつれて雲が多くなってきた。初日はくっきり見えた利尻島はガスに霞んでいる、湿気の多そうないやな空気が感じ取れる。

昨日歩いた島めぐりコースも今日にしていれば綺麗だったろうなと思ったが、そうしたら昨日何していれば良かったんだということになるし、あの曇り空の下を歩いたことは別に後悔してはいない。

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 バスの窓から。利尻山はまた頭だけ覗かせていた。

バスは終点までは途中から乗ってくる人もなく、乗客はずっと私を含めた2人だけだった。

ずっと法定速度で走って時どき後続車に譲ったりしながらバスは、香深フェリーターミナルには時刻表通りに着いた。途中から利用する場合も、時刻表の時間よりも遥か前に行ってしまうということもないようだ。

時刻はまだ10時前、今日もまたトレッキングコースを歩くことにしている。
まずは荷物を何とかしなければ。
今日から2泊する宿に頼めば預かってくれるのかも知れないが、何となく面倒くさい。
フェリーターミナルにコインロッカーがあるのでここに預けてしまおう。
バックパックごとロッカーに入れると手ぶらになってしまうので、中身を別の袋に移してそちらをロッカーに入れることにした。
別に手ぶらでも良さそうだが、礼文島は山の天気。雨具くらいは用意しておいた方が良い。


 ◆ 桃岩展望台コースを歩く

昨日、今日の予定をどうするか色々考えたのだが、今日は礼文島トレッキングの定番(?)ともいえる桃岩展望台コースを歩くことにした。

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 本日歩いたルート(地理院地図より筆者作成)

桃岩展望台コースは香深から桃岩展望台を経て島南部の知床という漁村へ下りる全長6.4kmのコース。
礼文島のトレッキングを取り入れたツアーも、このコースを歩くものが多いようだ。


9時50分、フェリーターミナルを出発する。
町中を北へ歩くと、やがて礼文島に2つしかない信号機のうちの1つという交差点がある。ここを左に曲がると上り坂が始まる。
ちなみに、もう1つの信号機は船泊にあって、そちらは押しボタン式となっている。
どっちも信号機をつけても意味ないように見えるほど車は通らないが、子供の教育上のために付けたのだとか。

しばらく進んで町が途切れたあたりに、新しくできた新桃岩トンネルが口を開けている。
これが出来たことによって、元々あった旧桃岩トンネルは封鎖されてしまった。香深〜元地間の往来は便利になったが、元地方面から桃岩展望台へ行くには逆に不便になった格好になる。

元地は地蔵岩や桃岩を下から見上げるポイントがあったり、有名なユースホステル桃岩荘もあるのだが、徒歩で行くにはこの長いトンネルを通るしかない。歩道も狭く、あんまり歩きたいトンネルではないな。

実は3年前に仕事で礼文島に来たのは、この新桃岩トンネル絡みだった(かなり間接的だが)。少々懐かしくもある。

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 2016年11月に開通した新桃岩トンネル入口。

新桃岩トンネルの入口わきに『桃岩展望台近道』と書かれた道しるべがあって、登山道はそこから始まる。

しばらくは鬱蒼とした林の道が続く。暑い。
ずっと着ていたウインドブレーカーは脱いでバックパックに入れた。

大型バス駐車場からのコースと合流するあたりから視界が良くなる。足元に高山植物も見え始めた。
レンジャーハウスまで続く車道と交差するとここから一気に登りになる。レンジャーハウス前は駐車場があって、一般車で来た場合はそこに車を置くことになる。

10時30分桃岩展望台着。

フェリーターミナルからここまで歩いて約40分。
ちょっとした広場になっていて、その名の通り桃岩を上から見下ろす箇所。
ここに着いたら、

うわ〜〜〜!
マジかよ〜〜〜〜〜!
と叫びそうになった風景がそこにあった。

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 桃岩展望台と利尻富士。

さっきバスの窓から頭しか見えてなかった利尻富士が綺麗に姿を見せているではないか。
裾野は薄いガスを纏っているが、それが雲の上に浮かんでいるような恰好で、より一層幻想的な光景を作り出している。
まるで1000m級の頂上にでもいるような錯覚になるが、いま立っている場所の標高は200mと少しなのだった。

反対側は桃岩、その向こうには小さいが猫岩が見える。
この辺りは有名どころなのでわざわざ画像を貼るまでもないと思うが、一応貼っておきます。

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 桃の形をしているからこの名がついた桃岩。

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 猫が背を丸めてうずくまっているような形の猫岩(画像中央)。

車やバスで来た人は、桃岩展望台までで引き返すことも多いようだが、ここからがこのコースの本番となる。
ツアー客もぞろぞろと来るような道なので、木柵を設けたりやロープを張ったりして整備してある。昨日の腰まで藪に埋まるような岬めぐりコースの道とはえらい違う。

いやしかしこの雲に浮かんだような利尻富士の見え方はどうだろう。
足元には高山植物が咲き乱れ、天空の花道を行くようだ。
しばし足を止めて利尻富士に見入る。

実は肉体は既に失い、もう魂だけの存在になっていて、

この先に三途の川でもあるのでは・・・

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 海に浮かぶ利尻富士。

同じ礼文島でも花の縄張りが違うのか時期が違うのかは分からないが、咲いている花がずいぶんと違っていた。
昨日岬めぐりコースの主役だったエゾカンゾウはほとんど見つからず、代わってこちらの主役はピンクの花穂が揺れるイブキトラノオ(伊吹虎の尾)だった。
この群落にさしかかると、可愛らしくピンク色の穂が一斉に揺らいで出迎えてくれる。

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 あちこちでイブキトラノオのピンク色の花が揺れていた。

ピンクと緑と空色のコントラスト。
しかし写真うつりは悪かった。画像では肉眼の通りにはならない。カメラとか写真に造詣が深ければ綺麗に決めるのだろうが、一眼レフのオート撮影ではこれが限界です。

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 元地灯台1.9km 桃岩0.9kmの道しるべ。

景色に見入ったり撮影をしたり、何度も足を止めているうちに、後続組に抜かれる。
あと、意外と反対から来る人とすれ違う。知床から逆コースで来た人たちだろう。

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 スカイブルーの海の色。

ここまでは断崖の上を通ってきたが、やがて草原が広がる場所に出る。
草原の中に一筋の遊歩道が下ってまた登るのが一望できる。ここがキンバイの谷
キンバイって何だろうと思っていたが、ここがレブンキンバイソウ(礼文金梅草)の群落ということらしかった。

レブンキンバイソウはと探したが見つからず、意外と歩いている足元に普通に咲いていたりする。

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 レブンキンバイソウを見つけた。日本では礼文島にのみ自生する。

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 キンバイの谷を見下ろす。

さっきガイドとマンツーマンで歩いている人に追い越されたが、ガイド付きの人はキンバイの谷で引き返していった。
ここまで来れば知床まで通り抜けても手間は同じだと思ったが、よく考えたら車で来た人はまた車へ戻らなければならないのだった。

キンバイの谷からまた登り切ったところがつばめ山の頂上。
ここからは東に利尻水道、南に礼文水道、西に日本海と三方の海を望む場所。木柵で囲われた、ちょっとした展望台のようになっている。
眺めは抜群だが、雄大過ぎて1枚の写真で表現するのは難しい。

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 つばめ山から見た桃岩と元地方向。下に桃岩荘が見える。

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 足元に咲くチシマフウロ、レブンシオガマ、写真うつりが悪い。実物はもっと綺麗。

つばめ山を過ぎるとあとは基本下り。
途中に広地灯台があって、ここにはベンチがあった。ここでちょっと休憩させてもらう。

さっきまで尖がったシルエットを見せていた利尻富士は、いつの間にか頭だけすっぽりと雲の中になってしまっていた。
雲は少しずつ動いているので、待っていればまた雲が晴れるだろうと、ここでしばらく様子を見ることにした。
それにまだ11時30分を過ぎたばかり。

ゆっくり歩いてきたつもりだが、フェリーターミナルを発ってから、まだ2時間も経っていない。
早く下山したところで、次に行くところがあるわけじゃない。ここでしばらくのんびりと過ごす。

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 元地灯台は別名花の浮島の灯台。

40分くらいベンチで利尻富士の様子を眺めていたが、頂上の雲は流れているが一向に消える気配はない。
あきらめてもう先に行くことにした。

元地灯台からは下に会津ノ崎と灯台、それに利尻富士を見下ろしながら一直線に下る道。
それはそれで絵になる風景だが、今までずっと絶景ばかり続いていたのと、もうそろそろコースも終わりだなということで退屈な感じは否めない。
かといって、ここからまた来た道を戻るのかと言われれば、そこまでする気にもならない。
途中からは灯台の管理用なのか、二条の轍の道となった。

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 利尻富士を正面に見ながら知床へ下る。

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 桃岩展望台コース知床口。

知床口のゲートでトレイルコースは終わり。
桃岩展望台コースに咲く花の看板が立っていて、花の写真と名前が載っている。
その中に、これでもかと咲いていたピンクのイブキトラノオと白いハナウドは載っていなかった。ありふれているからなのだろうか。

さらに下ると知床の漁村が見えてきた。
時刻は12時30分。さっき元地灯台の休憩時間を差し引けば、香深フェリーターミナルを出発して2時間で知床に下山できたことになる。
桃岩展望台コースのフェリーターミナル〜知床間の所要時間は、ガイドブック等の公称では3時間程度となっているが、実際にはゆっくり歩いても2時間程度の所要時間なのだった。

このまま真直ぐ行けばバス停のある道道に出るのだが、町の手前に『北のカナリアパーク0.6km』と書かれた道しるべがあったのでそちらの方へ行ってみる。

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 知床の漁村と雲をかぶった利尻富士。

小さな沢を渡った先に、廃校になった小学校の建物が現われた。
それらしく綺麗にリフォームされているので期待するが、今は防災避難所となっているだけのようだ。
そこから新しい道路を行くと北のカナリアパークがある。

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 北のカナリアパークとロケに使われた木造校舎。

利尻富士を背に建つ古い木造校舎は、2012年に放映された東映映画『北のカナリアたち』のロケに使われたもの。
吉永小百合演じる小学校教師が、とある事件から島を追われ、その教え子が起こした事件からまた再び島を訪れるまでのストーリー。

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 映画『北のカナリア』に使用された校舎。

実はこの旅行に出発する前にDVDをレンタルして見ておいた。
おお、映画で見たのと同じ校舎だと感激する。
礼文島に行って北のカナリアパークも見てこようという人は、一度この映画を観ておいて損はないですよ。


 ◆ ゲストハウスのんの

ここ知床から香深までは3kmほどの距離。数少ないが路線バスもあって元地灯台で休憩しなければ間に合ったが、もうずっと平坦な道路なので、歩いてもどうってことは無い。それに早く戻っても困るので。

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 知床から香深までの道道。

右側に海と利尻富士を見ながらテクテクと歩く。道沿いは家が途切れることなく続いていた。
13時45分、ぐるっと1周してまたフェリーターミナルに戻ってきた。

コインロッカーの荷物を出して、14時になったので今日からの宿に向かう。
チェックインが14時からとなっていたからだ。

今日から香深で2泊する宿はゲストハウスのんの
素泊まりオンリーでトイレ・シャワー共同ながら1泊4,500円という格安なのが魅力。
ビジネスホテルでも3千円台からある本土に比べると安くはないが、この時期に礼文島に泊ると平気で1万円超えがザラということを考えると格安ということになる。

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 今日から2泊する宿はゲストハウスのんの。

場所はフェリーターミナルから徒歩1分という交通至便な場所にある。とはいっても町の中心部からは若干離れているので、フェリーターミナルに近いのが必ずしも便利というわけでもないようだが。
ともかく、当初は礼文荘の2泊で帰るところだったのだが、もう2泊するのを決めたのはこの宿の存在だった。

1階はカフェになっていて、宿のエントランスもカフェと同じで、店に入った脇に2階の宿へのドアがある。
チェックインは1階のカフェで行う。
店番のねえさんが2階まで一緒に上がってきて色々説明してくれた。電子レンジや電気ポット、冷蔵庫もあってこれらも共同である。
海外旅行で安宿に泊まるとこんな所ばかりなので、むしろ慣れた宿に感じた。

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 6畳1間の簡素な和室だが、値段相応。

下のカフェに似合わず部屋が畳部屋なのは、元々旅館だった建物を改装したからだろう。
窓の外はすぐ隣家の壁。小さなテーブルと、布団が敷いてあるだけの簡素な部屋だが、1人旅ならばこれで十分。

時刻はまだ2時を過ぎたばかり。さて、これからどうする。
夕食はどこか店に入るか、それとも何か買ってきて部屋で飲みながら食べるか。
横になってしばらく考えた。

あっ、礼文町郷土資料館があるのを思い出した。一応雨に当たったときのことを考えて、屋内で時間を潰せるようなところはマークしておいた。そこへ行くことにした。


 ◆ 香深の過ごし方

外に出ると、さっきまできれいに見えていた利尻富士がきれいさっぱり消えていた
水平線ちかくは雲が覆っていた。ほんの30分前まではあんなにくっきり見えていたのに。
本当にこの時期の利尻礼文は大気が不安定というか山の天気そのものだと実感する。

郷土資料館は『礼文町町民総合活動センター ピスカ21』という建物に同居していた。中の受付で310円の入場料を払ってチケットとパンフレットを貰う。
礼文島のジオラマやトドのはく製から始まって、島の歴史や文化を展示している。
それなりに見ごたえもあって、これなら500円くらい取ってもいいんじゃないくらいに思えた。

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 トドのはく製。

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 1階の展示コーナーを見下ろす。

できるだけジックリと見てきたつもりだが、外に出ると15時20分。40分しか経っていなかった。

利尻富士は相変わらず雲の中。
もう宿に戻って1杯やってようかと、香深唯一のスーパー、香深マリンストアに寄る。
これが店内に入ると驚いた。

ロシア人もびっくり

何に驚いたかって、棚や冷蔵ケースはスッカスカ。またどれも高いこと。離島だから高いのは仕方ないが、昨日行った船泊マリンストアーとはえらい違いに感じた。

どうでもいいことだが、昨日行った船泊の『マリンストアー』に対し、ここ香深のは『マリンストア』となる。
本当にどうでもいいが。

しょうがないな、セイコーマートまで行くことにした。
礼文島唯一セイコーマート香深はなぜか香深の町ではなくて、町から2km以上北に行ったところにある。
車社会だから別にどこにあってもいいのだろうが、車を持たない人や旅行者にとっては困ったところ。

まあいいや、セイコーマート買い物コースというトレッキングコースとでも思えばいいや。
どうせ時間はたっぷりとあるし。

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 礼文島にただ1軒のセイコーマート。

さすが我が道民のセイコーマート。こんな辺境でも期待を裏切らない豊富な品揃え、本土と変わらない価格。
あらためてセイコーマートを見直したのだった。
ホットシェフやイートインもある。ただ、イートインはコロナの影響で閉鎖中だった。

総菜や酒、それに明日の朝食を仕入れて、セイコーマートの袋を下げてまた来た道を戻る。
青空なのだが、歩いている途中、利尻島を隠した海霧(ガス)が流れ込んできた。
香深に戻ってくる頃には、ガスは町中を真っ白に覆い隠すほどになっていた。

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 香深に戻ると町はガスに覆われていた。

フェリーターミナルには、ちょうど稚内からのフェリーが着くのが見えた。
着いた人を出迎える気分で、ターミナルに寄ってみる。

1階のコンコースには、一昨日はほとんどいなかった各宿の迎えの人たちが、宿の名前の入った幟(のぼり)を持って立っている。
日本じゃとっくの昔に消えた時代がかった光景が、真新しいフェリーターミナルのコンコースに残っているのだった。

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 宿の幟(のぼり)を持って下船客を迎える光景。

やがて乗船客が次々とエスカレーターを下りてきた。
一昨日と違って、観光客とわかる人が増えていた。
道民限定で旅行代金を補助する『どうみん割』も今日からスタートしている。

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 今日の夕食というか酒宴。

部屋に戻って、シャワーを浴びてから1杯やりはじめる。
ずっと歩いていたのでビールが美味い。
焼き鳥は電子レンジで温めてきた。

礼文荘の2食付き据え膳上げ膳(すえぜんあげぜん)も悪くなかったが、部屋にこもって1人で酒宴というのもまた気楽な良さがある

スマホで明日の天気を見ると、雨マークが消えていた。これも朝が晴れだったり逆に夕方から晴れとするのもあったり各社バラバラな予報だが、少なくとも雨に当たることはなさそうだ。
コロコロと変わる予報だから、どうなるかはまだわからないが。

7月1日(水)の費用
費目場所金額(円)
交通費宗谷バス980
食費(飲料)香深フェリー(タ)120
コインロッカー香深フェリー(タ)300
入場料礼文町郷土資料館310
食費(食品・酒)セイコーマート香深2,237
7/1 合計
3,947


posted by pupupukaya at 20/07/23 | Comment(0) | 道北の旅行記

2020年礼文島旅行記3 岬めぐりコース

 ◆ 6月30日(火)

朝、ピーチクパーチクさえずる鳥の声で目覚める。窓の外は空がもう明るかった。
枕元のスマホを見ると3時18分。トイレに行って戻ってきたらすっかり目が覚めてしまった。
今日の礼文島の日の出は3時50分。朝日の写真が撮れるかなと期待したが、空全体は雲が覆っているので無理っぽい。

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 朝日で赤く染まるスコトン岬。

素泊まりの宿ならもう出発したいところだが、朝食は7時から。
鳥のさえずりを聞きながら外を眺めていたら、スコトン岬が朝日で赤く染まった。朝日の写真撮れたなあ。

5時発表の天気予報を見ると、今日の礼文町の天気は曇り。昨日まで悩まされた雨マークは消えていた。
何だか頼りない空模様だが、今日は1日トレッキングすることに決めた。

時間はたっぷりあるので、朝食前に朝風呂に入ってきた。

ようやく7時を過ぎ、1階の朝食会場へ。
昨日の夕食時と同じように、先客がもう食事をしていた。

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 塩鮭がメインの朝食、あとから目玉焼きが出てきた。

テーブルにはお重が置いてある。席に着くとご飯が入ったお櫃と味噌汁が運ばれてくる。重のフタを開けると塩鮭がメインのおかず。ずいぶんと質素だなと思っていたら、しばらくして目玉焼きとサラダの皿がやってきた。

お櫃にはお茶碗2膳半ほどのご飯が入っていたが、これからのトレッキングに備えて全部平らげる。
昨日夕食時に女将から、岬の方は今は売店がやっていないので、もしよかったらおにぎりを作ってあげますよと言われていたが、これだけ食べれば夕方まで腹は持つだろう。

食べ終えて朝食会場を出ると、仕事の人たちはもうゾロゾロと出勤するところだった。
今日は病院前バス停8:29発のバスでまずスコトン岬へ向かうことにしている。


 ◆ 岬めぐりコースを歩く

8時20分過ぎ、バックパックを背負って宿を出る。荷物は歩きに必要なものだけ残してあとは袋に入れて部屋に置いてきた。
礼文島内の路線バスは全線が自由乗降区間となっていて、事前に運転手に伝えればそこで降りられるし、逆に乗車する場合はバスに向かって手を上げれば停車してくれる。

宿の向かいで待っていたらバスが来た。手を上げるとバスはウインカーをつけて停車した。

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 手を上げると停車したスコトン行のバス。

今日歩くのは岬めぐりコースと呼ばれるトレイルコースの1つ。
スコトン岬をスタートして、ゴロタ岬、澄海(スカイ)岬を回って船泊に戻ってくるコース。

礼文島とひと口に言っても意外と広く、船泊の町からスコトン岬までは7kmもの距離がある。歩けば1時間以上はかかる。数少ないがバスをつかまえれば僅か12分。別に歩いても良かったのだが、今日は初日だし、天気も微妙なので手堅くバスで行くことにしたのだった。

バスのフロントガラスはびっしりと水滴が付いていた。香深方面は雨だったのか。
乗車したバス車内は私と同じくトレッキングと思しき乗客が5人ほど。1人は浜中で下車した。トレイルコースの1つ、8時間コースのスタートはここになる。

スコトンのバス停は岬の600mほど手前にあるが、バスはスコトンの停留所を通り過ぎてスコトン岬の駐車場が終点になった。
ここまでの運賃は420円。

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 スタートのスコトン岬。

道路の終端から下りる階段があって、その先が展望スペースになっていて、『最北減の地スコトン岬』の標柱が立つ。岬の先に海驢(とど)島が見える。
最北端の宗谷岬に対し、こちらは最北限を名乗るが、北の位置としては宗谷岬には6.5kmほど負けている。

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 この日に歩いたルート(地理院地図より筆者作成)

とにかく、最北限のスコトン岬から始める。8時48分スタート。
スコトンのバス停を過ぎて、道道から分岐する坂道を登る。
木のない山の斜面は、オレンジ色をちりばめたようにエゾカンゾウが満開だった。
写真に撮るが、暗い空のせいか見栄えのする写り方にならない。

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 トド島展望台から船泊方向を見る。

9時24分トド島展望台着。ここは車で来られるらしく、駐車スペースがあった。
ここから船泊湾を一望できる。空は暗いが視界は良い。しかし、遠くの山々はガス(霧)に覆われていた。

トド島展望台からしばらく歩くと、鮑古丹と江戸屋への分岐点へ出る。ここで車道は終わり、本格的なトレイルとなる。
木が1本もないので、一条の踏み分け道が山の上まで筋のように見える。海側は断崖絶壁、山側はなだらかな丘陵が広がって絶景だ。

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 ゴロタ岬へ続く道。

9時56分、坂を登り切ったところに柵で囲まれた展望スペースに出た。ここがゴロタ岬。
正確にはゴロタ山の頂上で、肝心のゴロタ岬は岩が邪魔してここからは見ることはできない。

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 ゴロタ岬。

ゴロタ岬には先客がいた。挨拶をすると、先客は反対方向に下りて行った。私とは逆コースの人らしい。
ウインドブレーカーを着てきたが、ここまで登って汗びっしょりになってしまった。
景色を見ながら風に当たっているとだんだん汗も引いてきた。

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 ゴロタ岬から南東方向、ゴロタ浜を見下ろす。

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 ゴロタ岬ですれ違った人が下りて行く。

15分ほど休憩してまた歩き出す。こんどはゴロタ浜へ下って行く。
やがて馬の背に出る。右に日本海、左に船泊湾を望む。

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 ゴロタ岬南側の馬の背から。

ミユキストならば『銀の龍の背に乗って』の一節が浮かんでくるところ。

 ♪ 僕は龍の足元へ崖を登り呼ぶよ「さあ、行こうぜ」
 ♪ 銀の龍の背に乗って届けに行こう〜
  (中島みゆき作詞作曲 銀の龍の背に乗っての一節より)

もう銀の龍の背ならぬ緑の龍に乗った気分。

眺めはいいが、だんだん草が腰のあたりまで覆うようになる。そんな踏み分け道を塞ぐようにハナウドの白い花がびっしりと咲いていた。
いつもなら風が強い所なのだろうが、今日は風はそれほど吹いていない。海も凪のように穏やかだ。

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 ニュッと伸びた不気味なエゾニュウのつぼみ。

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 足元に咲き乱れる花。エゾカンゾウ、ハナウド、チシマフウロなど。

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 エゾカンゾウの群落。

しばらくは海を見ながら馬の背を緩やかに下るが、途中から急坂を一気に下る。
登りより下りの方が怖い。登りはパワーに任せて進めばいいが、下りは足を下ろす場所を間違えればズルッといっちゃいそうだから。しかも草が覆って足元が見辛いとくる。

何とか下まで来れば、ここからは浜沿いの平坦な道となる。

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 ゴロタ浜ですれ違った人々。あちらはゴロタ岬へ向かう。

このあたりで逆方向の人たちと何人かすれ違った。
歩きやすいが退屈な道が続く。しばらくすると鉄府(てっぷ)の町中に入る。
町中といっても十数軒の家が並んでいる漁村だが、ひと休みできるような場所は無かった。

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 またヤブの中を登るのかよ。

鉄府の町を過ぎると澄海岬を示す道しるべが立っている。その先は草に覆われた登坂。
ここもずっぽりと草に埋まって登る。雨上がりだったら腰までずぶ濡れになりそう。

急な斜面はオレンジ色のエゾカンゾウの花が満開。この花はよっぽど斜面が好きなんだろう。
しかし写真うつりは悪い。日が出ていればもう少し映えるのだろうか。

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 斜面に満開だったエゾカンゾウ。

途中で振り返るとさっき通ってきた鉄府の町が一望できた。
その向こうに見えるのがさっき登って下りてきたゴロタ山なのだが、いつの間にか山の頂上は真っ白なガスに覆われてしまっていた。

あらら、さっきゴロタ浜ですれ違った人たちはあのガスの中だ。
山の天気とはよくいったものだ。

南の方も薄いガスがかかり始めている。晴れているのはこの辺りだけのようにも見えた。あのガスの中を歩くのはいやだな。

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 さっき通ってきたゴロタ山はガスに覆われてしまった。

登りはつらいが、また絶景や花々が楽しませてくれた。
こんどのトレイルはそんなに長くはなく、すぐに下りとなる。
澄海岬や西上泊(にしうえんとまり)の町を見下ろしながら下る。

神社の前に出て、そこから車道を下ると澄海岬の駐車場があった。
ここに売店がいくつか並んでいるはずなのだが、昨日女将に聞いた通り、売店らしき建物はシャッターが閉まっていた。

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 澄海(スカイ)岬に到着。

澄海岬と書いてスカイ岬と読む。誰が呼んだか知らないが、イカした名前を付けたものだ。
ここから見下ろす海が空のように青く澄んで見えるからこう呼んだのだろう。

今日は一面曇り空だが、海を見下ろすと青く見える。
最近リニューアル工事されたらしく、歩道の敷石や柵が真新しい。海は美しいが、海岸には流木を片付けたらしいゴミ袋が散乱していた。

あーあ、晴れてればなあと思うが、この時期の不安定な天気を考えれば、雨に当たらなかっただけで良しとするべきだろう。

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 チョコバーとお茶が昼食代わり。

ここでちょうど12時。スコトンを出発してから3時間少々しか経っていない。意外と早かった。
澄海岬のある西上泊からは普通の道路が通じている。路線バスこそ無いが、歩けば宿まで1時間くらいで着く。
あまり早く戻ってもすることがあるわけでなく、時間を持て余してしまう。
もう少し早く出れば、8時間コースも余裕だったかな。8時間コースとはここからさらに西側の海岸沿いに南下し、香深井に抜けるルート。
しかし、あっち方向もガスがかかっている。

とりあえずベンチに腰掛けて、宿の前にあった自販機で買ったお茶と、稚内で買ってきたチョコバーで休憩。

普段ならば観光バスがやってきて、その度にツアー客の喧噪が展開されるのだろうが、今日はたまにレンタカーで回っているらしい観光客が1人、2人やってきて立ち去るだけ。それ以外は貸切状態だった。

しばらく海を見ながらボーっと過ごしていた。たまにはこんな時間があってもいいんじゃないか。
1時間ほどしてから出発する。

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 西上泊からは舗装道路をテクテク歩く。

人家や漁港のある西上泊からは片側1車線の立派な車道が通じている。
途中で道道に合流し、船泊までは約1時間の退屈な道が続く。
かといって、さっき歩いてきたトレイルを逆戻りするかと言われれば、それは勘弁してくれだ。
それに、ゴロタ山はもうずっと雲の中だし。

歩いている途中に、8時間コースの入口があった。
次に礼文島に来たときは挑戦してみたい。
13時40分、町道の突き当りの道道との交差点に着く。ここが浜中の集落で、岬めぐりルートはここが終点。

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 浜中バスステーション。

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 浜中付近の船泊湾。

船泊湾を見ながら道道を歩く。海は波ひとつないベタ凪だった。こういう日はウニ漁は捗るのかなあ。
14時少し前、宿の前まで戻ってきた。
いくら何でもまだ早いなあと思い、久種湖を1周してこようと思った。礼文島のトレイルコースの中に久種湖畔コースという1周1時間のコースがある。

というわけで、キャンプ場内の遊歩道に足を踏み入れた途端、蚊の大群だらけ。こりゃたまらんと逃げ出す。
しょうがない、宿に戻ってビールでも飲んでいるかということで船泊の町にあるマリンストアーまで歩いた。

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 船泊マリンストアー。

船泊にはコンビニは無いが、ここマリンストアーに来れば食料品や日用品は一通りそろっている。
ほかに店がないせいか、わりと繁盛しているようだった。
ここでビール2本とつまみを買って宿に戻る。


 ◆ ホテル礼文荘2日目

宿に着いたのが14時40分。もう行くところはない。
フロントでキーを受け取るときに「風呂は何時からでしたっけ」と聞いたら4時からだけど少し早めてくれて、3時40分からは入れるようにしてくれた。

部屋に戻る途中、洗濯物を抱えた朝食会場で見た工事かなんかで泊まっている人とすれ違った。朝早く出て行ったが、戻りもずいぶんと早いんだな。

部屋に戻ってバックパックを降ろしたら、やれやれやっと着いた〜って感じになった。
まだ風呂まで1時間もあるのか。
本当は風呂上がりに飲もうと思っていたビールだが、待ちきれなくてもう飲んでしまった。

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 ビールが美味かった。

は〜、うめ〜〜〜〜!
トレッキングの後に飲むビールはまた格別なのだった。

3時40分になったので風呂に行く。本当は4時からなので一番風呂。
風呂から上がって、脱衣室から出るときに次の客と入れ替わりになった。ちょうど4時。向こうは一番風呂のつもりで来たのに先客がいたのであれっ?みたいな感じでいた。

また2本目のビールも飲んでしまった。いいや、まだ夕食まで2時間以上もあるし。

6時半、夕食会場へ。
別な客が入ったのか、昨日とは別の部屋だった。

自分の名前が書かれた札が置いてあるテーブルに着く。
ワオ、昨日より豪勢になっている。
また昨日と同じ冷酒の2合瓶を頼んだ。

昨日は塩ウニが入っていた小鉢のフタを取るとななな〜んと、生うに。
しかもエゾバフンウニだよ。

コンロの上に乗った鍋はご飯の上にきのこ、とろろ昆布それに蒸しウニが載っている。
お客さんお酒を召し上がるようなので雑炊にしましたとのこと。
何て気が利くんだろう。号泣ものだ。

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 昨日にも増して豪華になった夕食。

さて、まずは刺身とウニで1杯始めると、八角の焼き物が出てきた。
こうなるとお酒も1升ビンでほしいところだが、さっきビール2本飲んだところだしこれで我慢する。

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 上画像からはみ出たが、コンロに据えられたウニ雑炊。

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 生エゾバフンウニ (>▽<)きゃー!

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 生ボタンエビ (>▽<)きゃー!きゃー!

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 締めはウニ雑炊で。

お酒1本空いたところで、コンロに火をつけてもらった。
このウニ雑炊がまた絶品だった。昆布のだしの旨味が凝縮した汁とコッテリした蒸しウニの風味がもうたまらん。

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 雑炊は昆布だしの旨味とウニの風味が合体した絶品だった。

すっかり幸せな気分となって部屋へ戻った。

窓の外を見ると、やっぱり曇り空。今日は夕日を見ることはできなかった。

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 部屋の窓から。今日は夕日は見えず。

この宿の隣は道道の建設管理部の事務所。夜になっても明かりが消えることがなく、表にも車が1台置いてある。ずいぶん遅くまで残っているんだなと思ったが、早朝にも同じ車があったのですぐにわかった。
1人は一晩中詰めているようだ。夜中に何か起こったときに誰もいませんでしたじゃ困るからだろう。

明日の天気予報は曇りで夕方から晴れマークとなっていた。
朝のバスでとりあえず香深へ行き、それからどうするかは天気の様子を見て考えることにしよう。

6月30日(火)の費用
費目場所金額(円)
食費(飲料)自販機160
交通費宗谷バス420
食費(ビール)船泊マリンストアー723
6/30 合 計1,303


posted by pupupukaya at 20/07/19 | Comment(0) | 道北の旅行記
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