北海道医療大学が移転するらしいです

道内の鉄道にとって衝撃的なニュースが飛び込んできました。
それはこちら ↓ ↓ ↓ ↓

【特報】道医療大、北広島へ移転 28年度、新球場敷地に 27日の理事会で判断

“北海道医療大(石狩管内当別町)が北広島市のプロ野球北海道日本ハム「北海道ボールパークFビレッジ」(BP)に移転を検討していることが22日、複数の大学関係者への取材で分かった。2028年度にBP敷地内に新キャンパスを設置、当別キャンパスに加えて札幌市北区の札幌あいの里キャンパスと北海道医療大学病院も集約する。27日の同大理事会で可否を決定する方針。”

(2023,9,22北海道新聞デジタルより引用)

紙の朝刊1面記事にもなっています。
これが事実だとすると、札沼線こと学園都市線、それに当別町にとっても由々しき事態ですね。

大学最寄り駅である北海道医療大学駅は、同大学のために存在する駅といえましょう。
JR北海道ホームページ、域交通を持続的に維持するために から北海道医療大学駅の乗車人員を拾ってみると、平成27年〜令和元年の5年平均で2369.4人

同大学が北広島市へ移転するとなると、この片道だけで2千人以上もの利用客がスッポリといなくなるわけです。
特に当別〜北海道医療大学間など、大学関係者の利用がほとんど。

大学移転後に北海道医療大学駅だけが残されても、この駅周辺は農家が点在するのみ。
当別〜北海道医療大学間は確実に廃止となることでしょう。

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 廃止の危機?北海道医療大学駅(2020年10月筆者撮影)

せっかく電化もして、駅もバリアフリー化工事をして新たな改札口も設け、札沼線代替バスのための交通結節点施設を設けたのに、全部無駄になってしまいます。

北海道新幹線並行在来線を除いて、現在JR北海道の路線で廃止が確定しているのは、根室本線富良野〜新得間、留萌本線深川〜石狩沼田間ですが、札沼線当別〜北海道医療大学間がそれに続くことでしょう。

しかし、ちょっとオヤッ?と思うこともあって、こんな重要なことならば北海道医療大学は当別町やJR北海道にも打診しているはずで、当然そこからは大反対が起こるはずです。

とても大学単独で決められる話ではありませんね。

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 当別キャンパスの画像(北海道医療大学公式サイトより引用)

それに上画像で分かるように、ビル群を形成する大学キャンパスが廃墟となるわけで。
2013年に竣工した10階建ての中央講義棟もまだ新しい。
それを放棄して北広島に新築移転するなど、狂気の沙汰としか思えないんですけど。

しかも移転先は北海道ボールパーク内の敷地だという。
私はボールパークへは仕事で5回行ったことがあり、どこに何があるかよく熟知していますが、大学移転用地なんてあったかな。

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 医療大移転予定地(北海道新聞デジタルより引用)

で、道新掲載の移転予定地の画像をよ〜く見ると、ボールパークの駐車場じゃん

2028年にはJR北海道の北海道ボールパーク駅が開業する予定になっており、その暁にはアクセスも改善されて駐車場も縮小できるとの読みなのでしょうか。

大規模な当別キャンパスを移転するとなるとそれなりに広い敷地が必要となるわけで、駐車場2つ潰したくらいの敷地に収まるのかは疑問です。

上の道新記事引用文で赤文字にした『取材でわかった』という言い回しはどこか引っ掛かりますな。
『わかった』だけでそういう事実があるまでは明言していないわけですから。

まだ決定事項ではないし、それだけで1面記事にするほどのことなのでしょうかね。
個人的には、道新お得意の勇み足記事のような気がしてならないのですが。

過去の道新1面記事にはこんなのもありましたね。

 * 新千歳―旭川に直行列車構想 JR・HAP 追分経由で時間短縮
(2021年1月4日)
“JR新千歳空港駅と旭川駅を乗り換えなしで結ぶ新たな直行列車構想が浮上している。”

詳細は こちら

この記事もど〜んと1面を飾りましたが、その後はトンと話を聞かなくなりましたな。

元旦やエイプリルフールの記事ならばともかく、ネタ記事を1面にするのはどうなんでしょうか。
スポーツ紙が廃刊になり、こんどは夕刊が廃刊となる道新は東スポ化を目指しているのか。

上記の記事は新年の微笑ましいポジティブ記事と言えなくはありませんが、ネガティブな記事は慎重にして欲しいものです。
原発事故や新型コロナでネガティブキャンペーンを張り、マスコミがさんざん不安を煽るのは記憶に新しいところです。

まあそんなわけで、私などネット民はこの道新記事は人騒がせな記事に思ったわけですが、新聞やテレビしか情報源のない、いわゆる情弱と呼ばれる人で関係者の方々はパニックになったことでしょう。

でも、ここまで書いたことは私個人の感想でありまして、本当は北広島への移転検討はあるのかも知れません。
少子高齢化が進む日本社会ですから、大学の機能を縮小してコンパクト化するということはあり得るでしょう。
だからと言って、いままで投資し続けてきた当別キャンパスを放棄して、新たに北広島に新築移転する?

この道新記事を見て、なんだか眉唾感が抜けきらないので記事としました。
外していたらごめんなさい。

posted by pupupukaya at 23/09/23 | Comment(0) | 鉄道評論

有珠山噴火災害による室蘭線不通時の函館山線迂回運転ついて考える

 ◆2000年の有珠山噴火不通時に行われた山線迂回運転

先日こんなものが出てきました。
それは、『JR北海道臨時時刻表』というパンフレット。
5月8日現在とあるのは、2000年5月8日のこと。

ちょうど有珠山が噴火した年で、この年の3月29日から噴火の影響で室蘭本線の長万部〜東室蘭間が運休とななりました。
翌日の3月30日からは、特急列車と貨物列車が通称山線と呼ばれる函館本線小樽経由で運転を再開することになりました。

この山線は、国鉄最後の1986(昭和61)年11月以降は定期の優等列車は走らなくなりましたが、ニセコ〜札幌間はリゾート特急『ニセコエクスプレス』が運転されていました。
過去をさかのぼれば、1993年までは臨時急行の『ニセコ』が運転されていたほか、1996年まではスキーシーズンに臨時寝台急行の『シュプールニセコ』が仙台から山線経由で札幌まで運転されていました。

普段はローカル列車が走るだけの路線でしたが、それなりに幹線だった頃の下地が残っていたので、素早く山線への迂回運転の対応が出来たのでしょう。

で、そのパンフレット。

A3サイズの紙を2つ折りにして4ページとしたものですが、有珠山噴火に伴う山線経由の臨時特急のダイヤ、それに伴って運休して代行バスとなる山線の普通列車、乗車券類の取り扱いなど結構詳しく記載してあるので、ちょっとその当時のことを思い出してみることにします。

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 JR北海道発行『JR北海道臨時時刻表』より

表紙兼1ページ目は函館〜札幌(う回小樽・倶知安経由)特急列車時刻表

この期間に運転されていた臨時特急北斗は6往復ありました。
山線区間内は小樽と倶知安のみ停車です。
編成は基本7両ですが、多客時は増結されて最大10両編成で運転されていた模様。

車両は『スーパー北斗』で使用されていた281系ですが、62号,68号,65号,69号の2往復は当時まだ走っていたスーパーの付かない『北斗』で使用されていた183系だったようです。

この臨時特急ダイヤの詳細については後述することにして、次へ行きます。

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  JR北海道発行『JR北海道臨時時刻表』より

2ページ目は乗車券類のについての案内。
特急が小樽経由になったことにより、特急の運賃・料金は距離が短い小樽経由のものに変更されています。

札幌〜函館間で見れば、同区間の営業キロは東室蘭経由の318.7kmに対して小樽経由は286.3km。

当然ならばこれは経路である小樽経由の運賃・料金が適用されるわけで、東室蘭経由の運賃は5,560円でしたが小樽経由で5,250円に、同じく指定席特急料金は3,030円から2,820円と値下がりしています。

一方でRきっぷ等の企画乗車券は値段据え置きで発売されています。
一番下に『払い戻しを行わないことを条件に〜中略〜発売いたします』の断り書きが見えます。

これは、JR北海道旅客営業規則第7条(2)に記載されている『不通区間に対する旅客運賃の払いもどしの請求をしない』ことを条件に不通区間の乗車券を発売する、いわゆる不通特約を適用したものと思われます。

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  JR北海道発行『JR北海道臨時時刻表』より

3ページ目は本州方面への夜行列車時刻表
この当時の札幌〜函館間を走る夜行列車は、『北斗星』2往復を筆頭に週4日運転の『トワイライトエクスプレス』、週3日運転の『カシオペア』、急行『はまなす』、臨時快速『ミッドナイト』と今にして思えばこの頃が本州と道内を結ぶ夜行列車の最盛期でした。
『北斗星』は定期2往復のほかに臨時1往復があり、さらに多客時にはB寝台オンリーの『エルム』なんて列車が設定されていました。

迂回運転でも、夜行列車もしっかりと走らせるところは立派なものです。
もちろん食堂車も平常営業です。

このうち山線を迂回運転していたのは『北斗星1・2号』、『はまなす』それに『カシオペア』と『トワイライトエクスプレス』は共用のスジを走るため、それぞれ隔日で交互に運転されていました。

迂回運転中は、函館〜札幌間はDD51を客車の前後に連結したプッシュプル運転となっていました。
これは札幌運転所に出入りする際、札幌駅で方向転換が発生するので、同駅での機回しを避けるための措置だったのでしょう。

『北斗星3・4・81・82号』とカシオペアと運転日が被る日の『トワイライトエクスプレス』は函館打ち切りとなり、臨時北斗が接続しています。
『北斗星81・82号』は『カシオペア』登場と同時に1往復廃止された『北斗星』が多客時に臨時列車扱いで復活したもの。
臨時列車ながらも定期列車時代と同等に個室寝台も連結され、食堂車も営業していました。

なお、この当時は季節列車に格下げされていた札幌〜函館間の夜行快速『ミッドナイト』は運転されることはありませんでした。

下段には2ページ目にある乗車券類案内の続きが掲載されています。

この中に小さく書いてある注意書きに、

『室蘭線の苫小牧〜伊達紋別間と日高線の勇払〜様似間発着となるお客様は別のお取り扱いとなりますので駅係員までお申し出ください』

の一文が見えます。

これは上記の各駅から函館方面への乗車券は、前述の不通特約に則って不通区間の室蘭本線経由で発売していたからでしょう。
臨時『北斗』運転により、札幌・小樽経由で函館方面へ向かうルートが確立したことにより、JR北海道旅客営業規則第7条3が適用されたのだと思われます。

 *JR北海道旅客営業規則第7条3の引用
『列車の運行が不能となつた場合であつても、当社において鉄道・軌道・自動車・船舶等の運輸機関の利用又はその他の方法によつて連絡の措置をして、その旨を関係駅に掲示したときは、その不通区間は開通したものとみなして、旅客の取り扱いをする』



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  JR北海道発行『JR北海道臨時時刻表』より

4ページ目の最初が札幌〜東室蘭方面特急列車時刻表
特急北斗が山線経由となったために、その代替として臨時特急が7往復設定されています。
ここの詳細は山線迂回運転と直接は関係ないので割愛します。

次が東室蘭〜長万部間普通列車時刻表
この頃の室蘭本線は長万部〜洞爺間、長和〜東室蘭間で普通列車の運転が再開し、洞爺〜長和間は昼間の一部時間帯のみ普通列車と貨物列車限定で運転を再開していました。
長万部〜東室蘭間直通の普通列車も3往復設定されています。

その次が、小樽〜長万部間列車・代行バス時刻表
山線区間は有珠山の被害は直接はありませんが、特急列車と貨物列車の迂回運転ルートとなったことから、輸送力を確保するために一部の普通列車を運休してバス代行にすることが行われました。
網掛けとなっている下り11本、上り8本の列車が代行バスの時刻となっています。

ただこの普通列車の時刻も、基本的には代行バスを除いて平常時の時刻がそのままで、臨時特急運転に対応した時刻変更はなされていないようです。

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  JR北海道発行『JR北海道臨時時刻表』より

この普通列車の時刻もおや?と思うところがいくつもあって、例えば倶知安6:27発長万部着8:26着の列車2926D。
この列車が長万部に着く前の8:20に札幌行『北斗61号』が長万部を発車している。
山線区間は全線単線だし、交換可能駅は黒松内までありません。

時刻表通りに発車したら、途中で正面衝突ですね。
実際は2926Dが長万部に到着しないと北斗61号の出発信号が青にならないし、各種安全装置も働いているから正面衝突など起こりませんが、これはどうしたことでしょう。

おそらく、2926Dは黒松内を定時に発車せず、北斗61号と交換を行ってから発車していたのではないでしょうか。
普通列車に関しては時刻変更を行わず、その都度遅れとして対応していたと思われます。

迂回運転はあくまで災害による一時的な措置で、特急のダイヤもちょこちょこ変更されていた頃ですから、その度に普通列車のダイヤも修正して各駅に告知も行っていたら大変ということもあったのかも知れません。

それにこのパンフレットが発行された頃は、有珠山の災害不通区間も限定的ではあるものの運転再開をしていたから、迂回運転もそう長期化しないからということもあったのでしょう。

実際6月1日から特急は昼間だけ東室蘭経由に戻されていますし、6月8日には完全に正常ダイヤに戻り、山線迂回運転も終了しています。


 ◆ 山線迂回運転時のダイヤを見る

では山線迂回運転だった当時のダイヤはどのようなものだったのでしょうか。
下はパンフレットから起こした時刻表になります。
八雲、森、大沼公園、五稜郭の各駅の時刻は省略していますが、71号が五稜郭と大沼公園通過になる以外はこれら各駅に停まります。

2000年5月函館本線迂回運転時刻表 上り
列車名北斗60北斗62北斗64北斗66カシ・トワ北斗星2北斗68北斗70はまなす
車両281183281281  183281 
札 幌8:3110:5013:5615:2816:2217:1318:1119:2521:56
小 樽9:1711:3414:2816:0516:5917:4818:4320:0022:33
倶知安10:2612:3615:3817:01  20:1221:35 
長万部11:5413:5717:0418:2219:1120:0021:4423:04 
函 館13:1515:3118:3119:4020:5621:4623:150:182:52
所要時4:444:414:354:12  5:044:53 
終 着    
上野・
大阪
上野
9:35
  
青森
5:18

2000年5月函館本線迂回運転時刻表 下り
列車名はまなすカシ・トワ北斗星1北斗61北斗63北斗65北斗67北斗69北斗71
車両   281281183281183281
始 発
青森
23:08
上野・
大阪
上野
17:13
      
函 館1:434:294:477:059:3411:3414:0017:1819:00
長万部 6:076:298:2011:1413:0015:2418:4420:12
倶知安   9:3812:3514:2617:0320:1221:36
小 樽5:568:589:4610:3313:4415:3018:2621:1622:31
札 幌6:319:4310:2511:0214:1716:0219:0321:4522:59
所要時   3:574:434:285:034:273:59

最速列車は下りの61号で、所要時間は3時間57分
この最速列車の区間別の内訳を見ると、こうなります。

 函館〜長万部間・・1時間15分(89.8km/h)
 長万部〜札幌間・・2時間42分(64.4km/h)
  ※カッコ内は同区間の表定速度

ちなみに、1980年の時刻表から特急『北海』の長万部〜札幌間所要時間を拾ってみると、2時間54分でした。
途中停車駅は同じく倶知安と小樽のみ。
最高速度は95km/hで281系の振り子機能も停止した状態で12分もの差がついたのは、途中4つある峠をハイパワーで駆け登る性能の違いでしょうね。

一方で上りの最速列車は66号4時間12分となっています。
列車によって所要時間にばらつきがあるのは、やはり単線区間の山線で、しかも交換駅も限られているからでしょう。
代行バスに置き換えられて本数は減ったとはいえ、普通列車も運転されていますから、その合間を縫ってのダイヤということになります。

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 長万部駅を発車する281系『北斗』(2021年撮影)

ところで、この時刻表を見ていると、おや?と思うところがあります。

上りの『カシオペア』と『北斗星2号』の時刻が、札幌発時刻が平常時と変わらないのはさておいて、長万部以降の時刻も平常時と変わらないのはおかしいんじゃないかということです。

例えば、『北斗星2号』の札幌〜長万部間の所要時間は時刻表によると2時間47分になります。
気動車の臨時北斗でも、同区間の所要時間はおおむね3時間以上掛かっていますから、これはいくら何でも速すぎる。

実はこのからくりは欄外に書いてあって、『小樽経由のトワイライトエクスプレスは90分程度、北斗星2号は50分程度の遅れが生じますのでご了承ください』と注意書きがある。

『北斗星2号』はこの50分が山線迂回運転で生じた遅れ時間のようですね。
どうやら、長万部から先の各駅は時刻変更を行わずに単純な遅れ列車として運転されていたようです。

それにしても『トワイライトエクスプレス』の大阪着遅れ90分は札幌発時刻が2時間以上繰り下がった影響も含んでいるのでしょうが、それを大阪着までに90分遅れにまで取り戻しているのには恐れ入ります。

この時刻変更を行わずに遅れ列車として運行していた理由は、JR他社間またがりの列車なので、ダイヤを設定するとなると色々調整が必要となるだろうし、あくまで一時的な措置ということで容認されていたのではないでしょうか。

ところで『カシオペア』と『はまなす』は何も注意書きがありませんが、この2列車は遅れなしでそれぞれの終点に着いたのでしょうか。
そんなわけは無いと思いますが、どうなんでしょう。

まあでも、この頃はそんな大らかさも許されていた時代だったのでしょうね。

逆に下り列車の場合、長万部までの時刻は平常時と同じですが、札幌着は律儀に24分〜67分遅くなったダイヤが設定されています。
これは逆に自社内なので所定ダイヤが設定できたためだと思われます。


 ◆ 山線迂回ダイヤを作成してみる

この迂回運転時の時刻表を見ていて、実際のダイヤはどのようなものだったのか、どの列車がどの駅で交換(単線区間で列車がすれ違うこと)していたのか、大変気になってきました。
時刻表を基にしてダイヤを作成すれば一目瞭然なのですが、特急の運転時刻は停車駅のものしかわかりません。

しかし、さほど本数が多いわけでもなく、列車の交換ができる駅も限られているため、実際にダイヤ上にスジを引いてみればそれらしい駅の場所でスジが交差するのではないかと思い、ダイヤを作成してみました。

一番上の横線を小樽駅として、距離ごとに交換可能駅の平行線を引けば横軸は完成。
あとは時間の縦軸を、これも平行線を引けば縦軸も完成。
こんなものはフリーソフトのCADを使えば簡単にできます。

で、そこへ特急列車のスジを引いてゆきます。
思った通り、それらしい駅の場所でスジは交差しました。
この交差する駅が交換駅ということになります。
単線だから駅間で交差することはありえないので、微調整すれば上手くまとまりました。

特急列車のダイヤはすぐに完成しました。
次いで普通列車のスジ。

これが結構難解で、特急と違って各駅の時刻はわかるのですが、なんせ臨時特急列車が割り込んでくるもので、交換可能駅で交差させなければならない。
ダイヤ作成者の苦悩がちょっと垣間見ることができた気がしました。

それで完成したのが以下のダイヤです。

yamasendia845.jpg
 (画像をクリックして拡大してご覧ください)

画像のは1時間目ダイヤですが、作成時は分単位の目盛りで行いました。
見づらくなるので分単位の目盛りは消してあります。

特急列車のスジが曲がりくねったり変な交換待ちが発生したり、あまり良い出来ではありませんが、単線でしかも交換駅が限られているために大きくは違わないと思います。
北斗星2号のスジはパンフに記載のある通り、長万部着で50分程度遅れるようにスジを寝かせてみました。

こうしてダイヤにして見ると、どの列車がどの駅で交換しているのか一目瞭然ですね。

所要時間がかかっている列車は、やはり交換する列車が多いからということもわかります。
あとは普通列車の存在も足かせになるようで、特急だけど普通列車とスジが平行している列車も多いですね。

午前中にぽっかりと空いたような列車の空白時間帯があるのは、保守間合い時間として設定したのだと思われます。
このほかに貨物列車が5往復設定されていて、貨物列車は深夜時間帯に運転されていたので、この時間帯が選ばれたのでしょう。

この作成したダイヤを見ると特筆すべきことがあって、それは何かというと、目名駅で列車交換が行われているということです。

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ダイヤを拡大したのが上の図。
北斗64号と67号、69号と68号のスジが見事に目名で交差しますね。

このスジを少しずらして蘭越で交差させるとスジがいびつになるし、他の列車との交換もうまくいかなくなるので目名駅で交換していたことは間違いないようです。

何が特筆かといいますと、目名駅の交換設備は国鉄最後のダイヤ改正で撤去されていたのですが、この山線迂回運転の長期化に備えて新設されました。
それまでは熱郛〜蘭越間23.0kmに交換設備がなく、またこの区間は連続20パーミルの勾配が続く峠越え区間だったので、ダイヤ作成上のネックが解消されたことになります。

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 目名駅ホームにて(2005年撮影)

上は目名駅のホームから撮影した画像。
右側の線路が2000年に増設されたものです。
山線迂回運転終了後は増設された線路に列車が入ることはなかったようです。

もし今後再び有珠山の災害で再び山線迂回運転となった場合は、この目名駅での列車交換が見られるのかも知れません。

山線の輸送力増強工事は目名駅だけでなく、ATS設備の付け替え工事が各駅で行われ、これによってそれまで8両編成までしか対応できなかったものが、気動車列車は10両まで、コンテナ貨物列車は10両+機関車2両、寝台特急列車は客車12両+機関車2両まで対応することができるようになりました。

あくまで一時的な迂回運転ですから、そこまでの改良工事は過剰投資ではないかとも思えます。
しかし有珠山は20年から30年の周期で噴火を繰り返している山で、将来噴火災害が再び起こって同様の迂回運転がなされる可能性は高く、それに備えての投資でもあったことでしょう。

それにこの2000年当時は北海道新幹線など凍結状態。
北海道内の鉄道は在来線による輸送が半永久的に続くだろうと誰もが思っていました。


 ◆ 山線は有珠山噴火災害時の代替ルートとなり得るのか

しかし北海道新幹線建設は風向きが大きく変わり、建設へと動き始めます。
16年後の2016年には北海道新幹線が新函館北斗まで開業しました。
2030年度には札幌まで開業することが決定しており、これから札幌駅でも新幹線工事が本格化します。

その一方で、函館本線、長万部〜小樽間は並行在来線という扱いとなり、JR北海道から経営は引き離されることが決定します。
鉄道存続に要する多額の維持費を負担するのが厳しいという理由から、北海道と沿線自治体は山線を廃止しバス転換という決断をしました。

一方で山線は、再び有珠山噴火の災害発生時に備え、貨物列車の迂回ルートとして存続すべきという意見もあります。
これは山線存続論者にとっては、ワンチャン残された論理と言えます。

ところがこの貨物迂回ルート論も、当のJR貨物から函館本線山線は貨物の代替ルートにならないと、あっさり否定されてしまいます

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 長万部駅に入線する20両編成コンテナ列車(2005年撮影)

2000年に実際に貨物列車の山線迂回運転が実施されていたにもかかわらず、このJR貨物の回答は意外とも思えます。

その理由を、有珠山噴火の不通による貨物列車の迂回運転の実績からから探ってみることにします。
この輸送についてまとめてあるホームページがあったので、それを参考に見てみましょう。

 *有珠山噴火災害教訓情報資料集 : 防災情報のページ - 内閣府

2000年当時、有珠山噴火前は最大20両編成の貨物列車が1日片道当たり24本走っていました。
1両の貨車に5トンコンテナが5個積めますから1列車あたりの積載コンテナは100個。
単純計算ですが、1日24本ならば2400個運べるわけです。

それが噴火による不通となり、迂回路となった函館山線は急曲線が多く勾配がきつい線形の悪い路線で、編成は貨車10両編成+機関車2両という制約が発生しました。
単線なのと、迂回する旅客列車も運転されることから、本数も1日片道5本が限界でした。
運転時間帯も深夜に限られての運転でした。

こんな両数と本数では、片道1日当たりの運べるコンテナの数はわずか250個。
輸送力では、平常時の1割にしかなりません。

とりあえず貨物列車も山線迂回運転による運転再開をしましたが、実際には無力といえるほどの輸送力しか確保できませんでした。

五稜郭駅(現在の函館貨物駅)には、室蘭線が不通になってからたちまちコンテナが大量に滞留したといいます。

JR貨物は不通になるとすぐに五稜郭駅〜札幌貨物ターミナル駅間に1日約200台のトラック代行輸送の手配をしました。
同時に船舶による代行輸送も始めて、11隻の輸送船を借りて函館〜室蘭間と青森〜苫小牧間で1日6往復の運航を開始しています。
これらの代行輸送のおかげで、貨物は不通前の7割の輸送量まで回復しました。

函館〜札幌間のトラック代行輸送は、のちに長万部駅に仮設のコンテナホームを設置することで12往復の貨物列車が運行されることになります。
トラック輸送も函館〜札幌間は1日1往復しかできなかったものが、長万部〜札幌間では1日2往復できるようになり輸送効率が飛躍的に改善、輸送力は不通前の8割にまで回復しています。

これらの通り、実際に有珠山噴火不通時の輸送で活躍したのは船舶代行輸送とトラック代行輸送でした。

急曲線が連続し急勾配だらけ、かつ単線の山線は所要時間もかかりすぎ、貨物列車を運転しても不通の室蘭本線の代替を受け持つことはできなかったのです。

だから、山線区間は廃止せず輸送障害時の貨物列車迂回ルートとして存続するべきだとの意見に対し、JR貨物が山線は迂回ルートにはならないとしたのも無理もないことです。


 ◆ 函館本線山線に再び迂回『北斗』が走る可能性

今後、北海道新幹線開業前で山線がJR北海道の路線として営業中に、再び有珠山が噴火して室蘭本線が不通になれば、函館本線の山線区間に特急『北斗』が再び走ることでしょう。

今度は山線を走る261系『北斗』が見られることになりますね。

こんな災害を望むようなことを書くと、お前はなんて不謹慎なんだとの声も聞こえてきそうです。
しかし、有珠山は過去に20〜30年周期で必ず噴火している活火山ですので、こういったことも考えざるを得ません。

2000の噴火から今年で早や23年になります。
前々回の噴火は1977年だったから、その23年後に再度噴火していることを考えたら、そろそろ噴火が始まってもおかしくはない頃です。

そうでなくとも噴火災害に対する備えはしておかなくてはならないし、特急『北斗』の迂回運転を考えておくことだって備えの一つになります。

今後2030年度予定の新幹線開業前に有珠山が噴火し、室蘭本線が不通となることは十分考えられることです。
そうなったときは、山線に261系車両による臨時の特急『北斗』が運転されることでしょう。

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 長万部駅を発車する261系『北斗』(2021年撮影)

運転本数は2000年と同じく1日6往復程度が限界でしょうか。
倶知安駅での列車交換も現在では不可能になっていますから、さらに制約は多そうです。
函館〜長万部間でスピードダウンもしていますから、2000年当時のように所要時間4時間を切ることは不可能でしょう。

一方で貨物列車の迂回運転は実施されずに、100%トラックと貨物船による代行輸送となる可能性が高いでしょう。

前述のとおり、10両編成で1日5往復程度の輸送力では無力に等しく、2000年当時はDD51形だった機関車も現在はすべてDF200形になっており、その入線に伴う山線の軌道強化や車両限界拡大の対応も必要になります。

前回の迂回運転から20年以上が経過し、線路施設の老朽化も進行しているでしょうしね。
僅かな輸送量のため、かつ既に廃止が決定している路線に、貨物列車のための強化工事を行うなど到底考えられません。

だから室蘭本線が不通になる事態が生じれば、JR貨物は真っ先にトラックと貨物船による代替輸送に切り替えるでしょう。

しかしこれは机上の考えであり、トラックドライバー不足が深刻になりつつある現在においては2000年当時と同等の輸送力を確保するのは難しく、さらに人手不足に拍車をかける2024年問題というものもあり、実際に代替輸送が発生すれば正念場となることは想像に難くありません。

だからといって、貨物列車を山線に迂回運転することは、上記の理由からありえないでしょう。
臨時特急『北斗』が細々と迂回運転するだけとなりそうです。

まあでも、山線を迂回する特急『北斗』にもう一度乗ってみたい、今やすっかり落ちぶれたローカル線が幹線時代に戻った姿を見てみたいと思うのは鉄道ファンとして正直なところです。

そんな事態が起こらないことが望ましいことは言うまでもありませんが、もし起こったときは最後の函館本線山線の花道を飾る出来事として話題となるかも知れませんね。

 〜最後までお読みくださいましてありがとうございました。   

posted by pupupukaya at 23/08/13 | Comment(0) | 鉄道評論

2023年ダイヤ改正で変わる石北特急

今年もJR北海道の3月ダイヤ改正が発表になりました。

 2022.12.16
 (ニュースリリース | JR北海道 - Hokkaido Railway Company)

こんどの改正で変わるのは、特急『オホーツク』『大雪』の283系化。
他は特急『ライラック』の一部と北海道ボールパークFビレッジの開業に合わせたダイヤの変更など。

駅の廃止は、前に発表されていた日高線の浜田浦が該当。
とかく議論を呼んだ北の最果て駅は、めでたく存続となったようですね。
私個人的にはどっちでも関係ない話ではありますが。

話がずれたので元に戻します。

毎年毎年、ダイヤ改正のたびに本数が削減とか編成が短くなったりとか、北海道の鉄道もすっかり寂しくなったものですが、今回の改正では特に列車本数の削減というのはなさそうです。
これも普通列車ダイヤの詳細が公表されていないので何とも言えませんが。

2023年3月ダイヤ改正で一番大きな動きは、なんと言っても石北線特急でしょう。

123509.jpg
 ※ 2022.12.16 JR北海道、2023年3月ダイヤ改正についてより引用

改正後はグリーン車がないモノクラス3両編成とはまた寂しくなったもの。
石北線で丸々1両をグリーン車に充てても過剰なのは明らかですが、一昔前ならば普通車の一部をグリーン席に改造して充てたことでしょう。
もうそんな改造をする体力も気力も残っていないということなのでしょうか。

ダイヤも283系車両導入と聞いて、石北特急も全列車札幌直通が復活を期待しましたが、『オホーツク』と『大雪』の分離状態は変わりませんでした。

今の分離状態は、もともと183系特急車両の不足からやむなく行われた措置で、必要な車両が揃ったらゆくゆくは札幌直通に戻すものとだと思っていましたが、どうやらこの体制は将来的に維持される模様です。

それでも若干ながら時間短縮が実現するのは明るい話。
2023年3月ダイヤ改正前後でどのあたりが変わるのか、今回の改正で石北線内では一番時間短縮の大きい大雪2号3号で比較してみましょう。

特急大雪2・3号新旧ダイヤ比較
 
改正前
改正後比較  
改正前
改正後
比較
駅名
大雪
3号
大雪
3号
駅間
増減
 駅名
大雪
2号
大雪
2号
駅間
増減
旭川 (発17:0517:07  網走 (発8:068:05 
上川 (発17:4517:470 女満別(発8:218:200
丸瀬布(発18:4118:40△3 美幌 (発8:328:310
遠軽 (着18:5718:57+1 北見 (発8:568:550
遠軽 (発19:0019:00- 留辺蘂(発9:159:140
生田原(発19:1719:16△1 生田原(発9:369:34△1
留辺蘂(発19:3819:36△1 遠軽 (着9:519:48△1
北見 (発19:5719:550 遠軽 (発9:559:52-
美幌 (発20:2220:17△3 丸瀬布(発10:1210:10+1
女満別(発20:3320:29+1 上川 (発11:1011:04△4
網走 (着20:4920:44△1 旭川 (着11:5011:43△1
所要時間3:443:37△7 所要時間3:443:38△6
 ※JR北海道HP掲載の時刻表から筆者作成。

こうして新旧ダイヤを比較してみると、上川〜丸瀬布(白滝)間の時間短縮が大きいことがわかります。

石北トンネルを挟むこの区間は25パーミルの連続勾配があって、今までの183系では50km/h前後で越えてきたものが、283系のハイパワーに物を言わせて駆け登るのが見て取れます。
もう一方の25パーミル区間である生田原〜留辺蘂間は僅か1分ですがこちらも短縮しています。

あとの細かいプラスマイナスは283系化による高加減速によるものと、元のダイヤは秒単位になっていて時刻表は秒を切り捨てて分単位にしていることによる端数、それに単線なので駅での列車交換のあるなしでしょう。

2.JPG
 183系特急は25パーミル上り勾配を50km/hで走行(白滝〜上川間大雪4号にて)。

峠区間では25パーミルの勾配とR300m台の曲線が連続し、直線区間でも最高95km/hに制限されている石北線。
それにもかかわらず、旭川〜網走間で最大7分の短縮を実現するのだから、さすが283系特急ですね。
1両当たり710馬力というハイパワーエンジン搭載は伊達じゃありません。

逆に言うと、石北線は抜本的な高速化工事を行わない限り、これ以上の時間短縮は無理ということになりますが。

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 1線スルー化された駅を通過する183系オホーツク(2021年7月東旭川で)

とまれ僅か数分の時間短縮ですが、石北線特急の所要時間は国鉄最後の1986(昭和61)年11月ダイヤ改正以来据え置き状態だったので、こんどのダイヤ改正は大きな進歩と言えるのではないでしょうか。

ですが、『大雪』は旭川止まりなのが泣き所。

例えば『大雪2号』は網走〜旭川間で6分も短縮していますが、接続する特急『ライラック』のダイヤが00分発、30分発の固定なので、『ライラック』に乗り継ぐ客からしてみれば旭川に早く着くだけ迷惑という代物。
網走〜札幌間のトータル時間で見れば、逆に所要時間が1分増えているというオチ。

もう少しなんとかならんものかと思いますが、『大雪2号』は丸瀬布で『オホーツク1号』と交換しており、簡単に時刻をずらすわけにはいかない事情でもあります。

一方で札幌直通の『オホーツク』はというと、旭川〜網走間では『大雪』同様に時間短縮していますが、札幌〜旭川間では改正後も所要時間はほとんど短縮できていません。

このあたありはハイパワーの283系に置き換わっても最高速度は従来通り110km/hなのと、エンジンをいたわって余裕をもった走行としたからでしょう。

1.JPG
 2023年3月で見納めになる183系車両(2022年1月網走駅で)

3.JPG
 2023年3月から石北線特急に投入される283系車両(2021年1月札幌駅で)

次に石北線特急に動きがあるとすれば、2030年度予定となっている北海道新幹線札幌開業時でしょうか。

現在『北斗』で使用されている261系気動車は、多くが余剰となるはずなので、その車両が283系と置き換わることでしょう。
そうなれば札幌〜旭川間で120km/h走行が可能となるので、さらに数分の時間短縮が見込まれます。

その肝心の北海道新幹線ですが、現在のところ工事が3〜4年程度の遅れが出ている模様。

 **工事着手の遅れや巨大な固い岩が出てきたことによるトンネル掘削の一時中止等により、一部の工区で3〜4年程度の遅れが生じています。**

 上記引用
  北海道新幹線 完成・開業時期について

まだ事業期間が相当残っているということから公式に開業時期についての変更はなされないようですが、事業費の増額やトンネル残土受け入れ地の問題もあって、新幹線開業までは前途多難な課題が数々あるようです。

まさか工事中止とはならないでしょうけど、今のJR北海道はとにかく新幹線頼み。
とにかく2030年度予定となっている北海道新幹線札幌開業までは特急列車のダイヤには大きな動きは無いことでしょう。

それにしても改正後の3両モノクラス編成を見ると、もう特急やめて旭川〜網走間の快速にすべきである・・
・・・なんて思ってしまいますが、私は鉄道アナリストではないので、そういう話はやめときます。

〜最後までお読みくださいましてありがとうございました。

posted by pupupukaya at 22/12/18 | Comment(0) | 鉄道評論

寝台特急列車は残せなかったのか

先日、偶然に木古内駅でTRAIN SUITE 四季島(トランスイートしきしま)を目撃しました。

道の駅の駐車場で車の中にいると、15時ごろ列車が入ってくる音がしました。
それでふと見ると、なんとなんと、というわけでした。

ダイヤは一般には公表しておらず、何日の何時にどこを走っているのか一般の人は知ることができない列車なわけですが、追っかけの撮り鉄さんなら当然ダイヤは入手しているんでしょう。
しかしこの日はそれらしい人は1人もいませんでした。

DSCN4789.JPG
 木古内停車中のTRAIN SUITE 四季島と道南いさりび鉄道キハ40形。

四季島が停車中の線路はホームがないので、ここに旅客列車が停車しているのは違和感も覚えます。
青函トンネル区間は新幹線と在来線の共用区間で、在来線の列車も直通は一応できるし貨物列車は実際毎日直通しているのですが、旅客列車が停車していると妙な違和感を覚えたわけでした。

DSCN4791.JPG
 6号車ダイニングしきしま。

四季島はJR東日本が運行する周遊型のクルーズトレイン。
観光やホテルがセットになった企画商品として発売するので、乗車だけというのはできないようです。

色々調べたら、この四季島は7月11日に上野駅を出発した3泊4日コースの3日目だったようですね。
2022年7月は3回、8月は2回、9月は3回運行とありました。

ちなみに3泊4日コースの四季島乗車ツアーの代金はおいくら万円かといえば、一番安いスイートが2名1室で80万円、1名1室ならば120万円だそうです。

DSCN4798.JPG
 15時07分、青森へ向けて発車する四季島。

また北海道と本州を直通する寝台特急列車に乗ってみたかったですが、もう叶うことはないのでしょうか。
こんなことならもっと乗っておけばと後悔するも、今さらどうしようもないわけで。

木古内駅を通っていた寝台特急列車は、うちにあった2004年の時刻表を見ると、『北斗星』2往復と『日本海』が1往復、毎日運転ではありませんでしたが『カシオペア』『トワイライトエクスプレス』もそれぞれ1往復ずつここを通っていました。
計5往復、そのほかに急行『はまなす』がありました。
多客期には臨時列車の『北斗星81・82号』『エルム』も運転されましたから、1日に何本の寝台列車が通っていたのでしょう。

それが2016年の北海道新幹線開業と引き換えに全て無くなってしまったわけです。
本州〜北海道間は観光需要もあるでしょうし、当時は1往復くらいは残るんじゃないかと思っていましたが甘かったですね。

この過去にあった寝台特急列車、残すわけにはいかなかったのでしょうか。
なぜ消滅してしまったのでしょうか。

今日はこの辺りを考えてみたいと思います。

 ★  ★  ★

最初にJR時刻表1991年2月号寝台特急列車のページを見てみましょう。

1987年の分割民営化で新制JRとなり、国鉄の車両や施設、ダイヤをそのまま引き継いで始まったJR各社ですが、民営化4年目。
JR各社も国鉄を脱して地域に根ざした会社としての独自色が出てきた頃です。

この当時は東京(上野)と京阪神を発着とする寝台特急列車が全国に向けて運行していました。
まだ東北新幹線が盛岡までで、東海道新幹線も『のぞみ』号がなかった時代。
今から30年前の時刻表を見ると、寝台特急列車がまだまだたくさんありました。

最盛期に比べたら本数は少なくなりましたが、それでも時刻表上では5ページ分が割かれていました。
国鉄時代末期から続いていた列車の整理もひと段落し、新たに個室寝台が登場したり食堂車をリニューアルしたりと、寝台特急も新時代を迎えた頃でした。

DSCN5038.JPG
 東京・大阪から山陽・九州方面(JR時刻表1991年2月号より引用)

この頃は九州ブルートレインがまだまだ健在だったころ。
国鉄からJRになって4年目、1列車の『さくら』から11列車の『あさかぜ3号』まで6本もの寝台特急列車が発車していました。
『あさかぜ』なんて完全に東海道・山陽新幹線と運行区間がかぶるわけですが、この当時新幹線の所要時間は東京〜広島間で最速4時間30分、東京〜博多間で5時間47分となっていましたから、寝台特急の需要もそれなりにあったのでしょうね。

東京発着の列車は新たにB個室を増やしたり、大阪発着の列車は夜行バスへの対抗として座席車を連結したり、この頃はまだ寝台特急列車の運行に意欲が見られた頃でした。
食堂車もまだ健在です。

それも長くは続かず、この2年後には食堂車が営業休止。その後は車内販売もなくなります。
2000年代中ごろからは利用者の減少を理由に次々と廃止や運転区間短縮が続き、『はやぶさ』と『富士』の併結で残っていた九州ブルートレイン最後の1往復も2009年3月のダイヤ改正で姿を消すことになります。

この時刻表には載っていませんが、東京〜大阪間には寝台急行『銀河』1往復がありました。
『ひかり』号でわずか3時間足らず(1991年当時)なのにわざわざ夜行寝台車で?と思われるでしょうが、当時はそれなりに愛用者がいたようです。

東京発着の九州行きブルトレの列車名は、ブルトレ廃止後に新幹線の愛称名として採用されることになります。
『さくら』と『みずほ』は九州新幹線に、『はやぶさ』は正反対の東北・北海道新幹線で採用されました。

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 上野から青森・北海道方面(JR時刻表1991年2月号より引用)

1988年に津軽海峡線が開業し、華々しく寝台特急『北斗星』が定期2往復、季節1往復でスタートしました。
車両はすべて国鉄の中古車両を改造したものでしたが、個室やロビーカーを連結したブルートレインは何もかも新しく、豪華個室のロイヤルや予約制フランス料理の食堂車など、鉄道ファンならずとも大いに話題になったものでした。

新制JRの象徴として、長らく斜陽だった寝台特急列車の起死回生として、明るい話題を振りまいた列車でもありました。
翌年には季節1往復も定期列車に格上げとなり『北斗星』は3往復体制が『カシオペア』登場まで続くことになります。

青森行きの『ゆうづる』『はくつる』は、元々青函連絡船を介して北海道内の特急へ連絡する列車でした。
北海道連絡の役割は『北斗星』に移ったわけですが、この頃は東北新幹線が盛岡止まり。
青森へも秋田へも、盛岡で乗り換えが必要だったことから、直通で行ける夜行寝台特急も重宝されていたのでしょう。

この時刻表には載ってませんが、夜行急行『八甲田』や『津軽』もまだ健在でした。

DSCN5042.JPG
 東京・上野・大阪から各方面(JR時刻表1991年2月号より引用)

『出雲』『瀬戸』『北陸』『出羽』『鳥海』『日本海』『つるぎ』『トワイライトエクスプレス』『あけぼの』。
こうして見ると、この当時は寝台特急列車だけで全国を旅行できたと言えますね。
逆に寝台特急が通っていない県を挙げると、高知県、徳島県、愛媛県、和歌山県、奈良県、三重県、長野県、山梨県、千葉県といったところ。
うち長野県と山梨県は夜行の急行がありましたし、和歌山県は普通列車の新宮夜行があったので、夜行列車もない県は6県となります。

北に目を転ずれば、東北方面が充実していますねえ。
上野から上越・羽越・奥羽線経由で青森行き『鳥海』、秋田行き『出羽』。
上野〜青森間奥羽線経由の『あけぼの』。この頃は山形新幹線工事のため山形は通らず陸羽東線経由となっていました。

大阪からは日本海縦貫線経由で青森・函館へ『日本海』2往復。
大阪〜札幌間は週4回運転の『トワイライトエクスプレス』。

上野や大阪から各線経由で集まる奥羽線の秋田〜青森間の特急は、午前中の下りと午後の上りは寝台特急くずればかり。
『あけぼの』などの下り列車に乗っていると、各駅から青森へ向かう地元客が、立席特急券で自由席のように乗ってきたものでした。

1991年当時は定期列車だけでも24往復48本もの列車が毎日全国へ向けて運転されてたんですね。
これら寝台特急列車の多くは2000年代に入ると利用者の減少、新幹線の延伸といったことを理由に次々と姿を消すこととなります。

この中で2022年の現在でも残っている列車は、『出雲』と『瀬戸』のみ。
電車化され『サンライズ出雲』『サンライズ瀬戸』と形は変わっていますが、1往復が東京〜岡山間併結運転で残っています。

 ★  ★  ★

こうして30年前の時刻表を眺めていると、寝台特急列車も全部とは言わないが、各系統に1往復くらい残っていても良かったんじゃないかと思えてきます。

新幹線が開業してもスピードアップしても、日本は旺盛な観光需要があるので、移動手段の多様化、寝台車の旅を楽しむというコンセプトで人気列車となっていた可能性もあります。
実際、『サンライズ』も人気がありますしね。

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 在りし日の上野駅13番線ホームの光景。(2006年撮影)

しかし、実際寝台列車の運行を続けるとなると、いろいろ壁が立ちふさがることになります。

一番は車両の老朽化

寝台特急列車のほとんどは国鉄時代に製造された24系25形という客車。
製造年は1974年〜1980年なので、2010年以降は全ての車両が製造から30年以上経過となります。
『北斗星』なんて晩年は車体一面ボロボロになった客車が運行していたのを覚えています。
客車は機関車が牽引するわけですが、この機関車の老朽化も客車以上に深刻でした。

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 1975年製DD51形機関車はこの時点で製造から40年。(2015年撮影)

じゃあ車両を新製するといっても、莫大な資金が必要となります。
仮に夜行列車1往復を毎日走らせるとなると、予備を含めて3編成が必要となりましょう。

しかも、1編成が運行できるのは片道のみ。昼間は車両基地でずっと休んでいるだけですからね。
1編成が1日に何往復もできる新幹線や在来線特急に比べて恐ろしく効率が悪い運用です。

もう一つの問題が、JRの会社間またがりの問題。

基本的に他社またがりの列車の運賃収入は、その運転距離によって各社に分配されるという決まりがあります。
東京〜博多間を運行する寝台特急列車の場合、各社への収入配分はこうなります。

JR東日本・・・9%
JR東海・・・29%
JR西日本・・・56%
JR九州・・・6%

例えば、JR九州が寝台列車を保有して博多から東京へ直通する列車を走らせるとしましょう。
でも、自分の会社には収入の6%しか入って来ません。
いくら観光需要とか看板列車とか言ってもこれではビジネスにならないでしょう。
収入割合が多い東海と西日本に協力を呼び掛けたところで、夜中に通過するだけの列車に投資してくれるとは思えません。

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 JR旅客会社境界図(JR時刻表1991年2月号より引用)

九州ブルートレインの廃止が早かったのはこの辺の事情が一番大きかったのでしょう。

1998年に客車列車だった『出雲』『瀬戸』を電車に置き換える形で登場した『サンライズ』はそんな問題を解決するべくJR西日本とJR東海の共同開発で生まれた列車です。
しかし後が続くことはありませんでした。

今はJR会社またがりだけでなく、新幹線の並行在来線として第三セクターとなった路線が増えたので、ますます複雑になってしまいました。

さらに、寝台特急列車は新制JR各社にとって扱いづらい存在と化すことになります。

分割民営化後にJR各社が力を注いだのは、新幹線や特急列車による都市間輸送、それと都市圏の通勤通学輸送でした。
当初は国鉄から無償譲与となった車両や施設で運行していた列車も、3〜4年後には新型車両投入やスピードアップ、増発などで利用者も大幅に増えるようになりました。

一方の寝台特急列車はというと、利用者は減る一方。
またスピードが遅い客車列車のため、スピードアップや増発した特急の足を引っ張る、朝ラッシュ時に到着する列車が通勤電車の邪魔になるなどの問題が出始めました。
利用者から見れば、車内設備が旧態依然、料金が高い、着く時間が遅すぎる(早すぎる)といった理由から敬遠されるようになります。
こんな寝台特急列車を尻目に急成長したのが夜行高速バスでした。

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 ブルートレインの標準だった2段式B寝台車。(2013年撮影)

競争力向上のために寝台特急列車のサービス向上をしたいところですが、JR各社も特急列車のスピードアップや通勤通学列車の増発が優先課題で、どうしても後回しにならざるを得ません。
ましてや他社またがりのため、ダイヤや車両の変更もいちいち他社間で調整が必要という面倒な存在でもあり、悩ましい存在でもあったでしょう。

一方の東北ブルートレインはJR東日本の自社内で完結してますし、北海道へはJR北海道との調整で済んだので割と遅くまで残っていたのだと思われます。

『北斗星』『カシオペア』『トワイライトエクスプレス』といった北海道直通列車は観光客の利用が主だったこと、根強いファンがいたことなどから、九州ブルートレイン全廃後も残っていました。
食堂車も営業し、晩年の九州ブルトレのような見すぼらしい姿にもならず、今後も安泰かと思われました。

これも2016年の北海道新幹線開業を機に、車両の老朽化や青函トンネル区間専用の機関車を新製する必要があるといった理由から、すべて姿を消すこととなります。
JR北海道としても経営難の中、寝台特急よりも北海道新幹線にリソースを割かざるを得なかったこともあるでしょう。

 ★  ★  ★

国鉄から無償で引き継いだ寝台特急列車。
当初は車両の改造だけで済んだので初期投資も少なく、円満に運行継続したかのように見えましたが、地域密着を目指したJR各社独自の経営努力が実り始めると、全国一元時代から引き継いだ旧態依然の寝台特急列車は、予期もせずお荷物と化してゆくことになりました。

以上の理由から現状のJR各会社の経営による運行継続は無理だったと言えます。

そんな寝台特急列車ですが、ビジネスとして存続する方法は1つだけあったと思われます。
1987年に全国一元だった国鉄が分割民営化され、6つの旅客会社と1つの貨物会社に分かれたわけですが、この時にもう1つ寝台特急列車を運行する旅客鉄道を立ち上げれば良かったのかもしれません。

JR貨物と同じように自社の線路を持たず、各旅客会社に線路使用料を払って運行するというもの。
独自の運賃体系にして、飛行機みたいにシーズンや購入時期で料金を別にしたり。
別にこんなのは世界的に見れば珍しいことではありません。

例えば米国では鉄道は全て私鉄が保有していて、その私鉄は基本的に貨物鉄道会社となっている。
旅客列車は政府が出資した『アムトラック』が貨物鉄道会社に線路使用料を払って運行しています。

ヨーロッパでも寝台列車は旅客鉄道会社とは別の会社によって運行していることが多いですね。

DSCN5051.JPG
 シカゴ〜サンフランシスコ間の時刻表(AMTRAK Timetable2014より引用)

それと同じように、車両の保有と維持管理、列車の運行だけ行うというもの。
名前は『JR全日本』とでもなるのかな。

そんな風になっていれば、全国に走っていた寝台特急列車も残っていたのかも知れませんね。
JR貨物と同じように自社は車両と乗務員だけ自前で、JR各社にはアボイダブルコストのみ負担するだけなのだからコストも低く抑えられる。

初めからJR貨物が寝台特急も運行すれば良かったんじゃないか。
貨物だけに限らず、JR他社またがりの列車運行の会社とすれば良かったんじゃ・・・

今となっては、もし(if)の話なのでいくらでもできそうです。

今さらどうしようもないことは重々承知していますが・・・

〜最後までお読みくださいましてありがとうございました。

posted by pupupukaya at 22/07/17 | Comment(0) | 鉄道評論

鉄道連絡船復活は並行在来線問題の切り札となるのか

 ◆ 北海道新幹線の並行在来線問題

小樽〜余市間でもだめだったか、というのが正直な感想。

 *どうしん電子版 2022/3/27
  並行在来線 長万部―小樽廃線へ バス転換合意 27日決定*

2030年度末に予定されている北海道新幹線札幌開業と引き換えにJR北海道から経営分離される並行在来線のうち、長万部〜余市間についてはバス転換が決定していたが、残る余市〜小樽間もバス転換にほぼ決定した模様です。
これで北海道新幹線並行在来線対策協議会のうち、後志ブロックについては結論が出たことになります。

P8130060.JPG
 日中でも利用者が多かった余市駅。これもバス転換になる。

今後は渡島ブロックになる函館〜長万部間についての協議に移るのでしょう。
函館〜長万部間は貨物列車のルートとなっているために物流だけではなく北海道経済にとっても影響が大きいために、旅客輸送が赤字なので鉄道は廃止しますと簡単にはいかないでしょうね。
このあたりの事情は前記事に書いたのでそちらをご覧ください。


渡島ブロック構成員のうち、長万部町はすでにバス転換支持を表明しています。
残る沿線自治体は函館市、七飯町、森町、八雲町。

現在のところ直近で開催された第8回渡島ブロック会議(令和3年4月26日)を見ると、函館〜長万部間については次の3案が検討されているようです。

1,第三セクター鉄道(函館〜長万部間鉄道)
2,バス転換
3,三セク+バス転換(函館〜新函館北斗間鉄道、新函館北斗〜長万部バス)

山線唯一の希望だった余市〜小樽間までもがバス転換合意となってしまったので、どの自治体も鉄路存続には今まで以上に慎重にならざるを得ないでしょう。
このままの流れで沿線自治体だけの存廃議論だけで道や国が介入しないとなると、少なくとも新函館北斗〜長万部間もバス転換になり鉄道も廃止されてしまいそうな勢いです。

検討案にはありませんが、仮に貨物専用の三セクとしても、沿線で貨物取扱駅があるのは函館市だけで、残りは貨物列車が通過するだけでは何の恩恵も無しということでは沿線自治体からの投資も期待できません。

この区間の物流となると北海道経済の問題となるので、道と道内の経済団体の出資して三セクの鉄道保有会社を立ち上げ、運営はJR貨物ということになるのが一番現実的でしょう。

どういう形であれ、もし貨物専用鉄道として運営するとなると今までの協議はご破算にして、また別なスキームを立ち上げる必要があります。

DSCN6525.JPG
 新函館駅を発車するはやぶさ号。新幹線への期待は大きいが、代償もまた大きい。

今の流れでは、沿線自治体がバス転換という結論を出して鉄道を廃止するということもありうるわけで、じゃあ、この区間の鉄路存続を断念。在来線の線路が無くなった場合、鉄道貨物輸送ははどうなるのでしょうか。
この場合考えられるのは次の3点になりましょう。

1,新函館北斗〜長万部間を新幹線と貨物共用とする

2,貨物列車の北限は函館貨物駅とし、それ以外の貨物はフェリー+トラックで代替する

3,青森〜室蘭または苫小牧間に鉄道連絡船を就航して貨物列車を航送する

は札幌までの延伸区間はトンネルばかりなので、青函共用区間問題と同様に最高速度が160kmとなって新幹線の効果が薄くなってしまうという大きな問題が起こります。

はフェリーはともかくトラックとドライバーの確保が困難。またフェリーから積み下ろしたコンテナはトラックで各地に向かうことになり、それが再び列車で運ぶことは考えられないので、JR貨物の駅は函館貨物駅だけ残してあとはオフレールステーション(トラック代行のコンテナ基地)となることでしょう。

は突拍子のない発想ですが、過去には青函連絡船で貨車航送を行っていたし、意外と現実味はあるのかもしれません。
それに、青函トンネル区間から貨物列車が激減することで、現在海峡線内での新幹線の最高速度が160km/hに抑えられているという青函トンネル共用走行問題も解決することになります。

実際、鉄道連絡船経由での貨物列車運行となるとどのようなものになるのでしょうか。
『東洋経済』あたりでよく目にする鉄道連絡船復活論。
それが現実的なのか、また復活するとなるとどのようなダイヤになるのか。

前置きが長くなりましたが、この記事のタイトルである『鉄道連絡船復活は並行在来線問題の切り札となるのか』について検証してみたいと思います。


 ◆ 青函連絡船時代の貨車航送

その前に、津軽海峡線開業の1988年3月13日まで運航されていた青函連絡船の貨車航送についておさらいしてみることにします。

懐かしいですね、青函連絡船。
私は3回しか乗ったことはありませんが、それでも懐かしく当時の記憶が蘇ります。
こんな郷愁を誘うのは、もう40歳代も半ば以上の人でしょうけれど。

DSCN6016.JPG
 青函連絡船のイメージ(連絡船廃止記念の下敷きより)

残念ながら現役当時の写真は持っていないので、廃止前に記念に買った下敷きの画像を貼ってみました。

で、青函連絡船のおさらいです。
連絡船の本数は、国鉄最後の1986年11月のダイヤ改正の時刻表を見ると、臨時便を含めて下り10本、上り9本となっています。

青函連絡船時刻表 1986.11.1改正
下り 青森→函館 上り 函館→青森
便青森発函館着 便函館発青森着
◆1010:054:00 ◆1020:104:05
10:304:25 20:404:30
215:259:15 ◆1702:406:35
237:3011:20 47:2011:15
◆1539:5013:40 610:1014:05
2510:1014:05 812:1516:10
312:1016:05 2015:0018:55
515:0018:50 2217:0020:55
717:0520:55 2419:4523:35
919:5023:45    
 ◆=臨時便
(1986年11月の時刻表から筆者作成)

時刻表に掲載されている便は旅客扱いしている便だけで、意外と知られていませんが、それ以外にも貨物便が運航されていました。客貨船と貨物船合わせると、1日19往復もの便が運航していました。
別な見方をすれば、全運航本数のうち約半分しか旅客扱をしていなかったことになります。
だから青函連絡船の主な役目は貨物列車を航送することで、その中の一部の便で旅客輸送もしていたとも言えます。

下は昭和61年11月発行貨物時刻表から作成した青函連絡船の時刻表です。

青函航路の貨物時刻表(下り)1986.11.1改正
継承列車(本州側)青函航路継送列車(北海道側)
列車番号始発駅時刻青森着便番号青森発函館着函館発終着駅時刻
4091梅田  1:26*22:121010:054:005:1310:43 札幌(タ
951東青森 22:5623:0910:304:25  
3051隅田川 15:151:251712:356:257:3112:35 札幌(タ
◆8553梅田 11:501:05◆80613:107:008:2314:38 札幌(タ
5161飯田町  5:013:091515:008:5010:2520:27 札幌(タ
4097沼垂 17:10*3:25215:259:1510:5116:24 札幌(タ
3067宮城野 23:486:19237:3011:2012:4018:06 札幌(タ
◆8153隅田川 17:337:02◆80638:1512:0513:0618:12 札幌(タ
3061東京(タ 11:058:361539:5013:4015:2621:56 札幌(タ
3053隅田川 20:438:142510:1014:0515:2020:34 札幌(タ
3063越谷(タ 21:3921:39312:1016:0517:1822:28 札幌(タ
151隅田川 21:1611:265112:4016:3518:130:40 札幌(タ
3065隅田川  0:2013:1015514:3018:2019:431:17 札幌(タ
3081小名木川 22:3213:37515:0018:5020:041:32 札幌(タ
4093大阪(タ 19:22*14:06717:0520:5522:104:03 札幌(タ
4087名古屋(タ 22:5118:0815719:2023:150:355:40 札幌(タ
551梅田 21:47*17:50919:5023:451:046:16 札幌(タ
4079西浜松 20:4419:4717321:551:453:058:18 札幌(タ
4095四日市 17:1420:555322:202:103:328:44 札幌(タ

青函航路の貨物時刻表(上り)1986.11.1改正
継承列車(北海道側)青函航路継送列車(本州側)
列車番号始発駅時刻函館着便番号函館発青森着青森発終着駅時刻
3060札幌(タ 17:5423:001020:104:055:5721:24 東京(タ
950  20:404:307:057:19 東青森
554札幌(タ 19:371:211702:406:35*9:0711:55 四日市
3068北旭川 18:091:28503:057:058:1521:14 隅田川
550札幌(タ 21:353:401504:558:50*11:0711:59 浪速
3052釧路(操 17:244:031605:209:1510:2420:35 隅田川 
3064札幌(タ  0:015:5847:2011:1512:380:16 隅田川
◆8152札幌(タ  0:556:28◆80627:5511:4513:1012:13 隅田川
4092札幌(タ  2:538:141529:4513:35*15:08
9:10 大阪(タ
3080札幌(タ  3:158:57610:1014:0515:284:53 小名木川
3062札幌(タ  4:5511:00812:1516:1017:324:56 越谷(タ
4096札幌(タ  6:5412:5515414:3518:25*20:275:49 沼垂
556札幌(タ  6:3013:362015:0018:55*20:3515:34 梅田
5160苫小牧(操 5:1014:542217:0020:5522:0814:24 飯田町
150苫小牧 10:5015:535217:3021:2022:3514:06 小名木川
3066札幌(タ 12:3618:0015619:1523:100:498:11 宮城野 
156札幌(タ 13:0918:232419:4523:350:2022:39 名古屋(タ
3050札幌(タ 15:3220:3917221:501:402:5912:54 隅田川
◆8552札幌(タ 15:0821:05◆806422:20
2:15
3:307:34 梅田
 ◆=臨時便、*=青森操車場発着時刻
(昭和61年11月ダイヤ改正貨物時刻表から筆者作成)

この頃の貨物列車は既にほとんどの列車が主にコンテナ列車による拠点間の輸送に切り替わっていて、本州と北海道を直通する列車は両側とも列車番号が同じで、1本の貨物列車が連絡船1隻を介して本州と北海道を結んでいました。

青函連絡船時代のダイヤで、試しに下り3051列車の場合の青森到着から函館発車までの時刻を見てみましょう。
この列車は隅田川〜札幌貨物ターミナル間を21時間20分で結ぶ、同区間の貨物列車としては当時最速だった列車です。

 1:25、青森に3051列車到着。
 1:40、1岸に172便が到着、搭載していた上り3050列車を車両甲板から降ろす。

続いて3051列車を4分割して車両甲板に積み込む。
貨車積みが終わると貨車に緊締具を付けて船体に貨車を固定する。
これら貨車の積み下ろし作業の所要時間は通常30〜40分程度だったようだ。

 2:35、171便として青森出港。
 6:25、函館の2岸に入港。

171便の車両甲板から4分割されていた列車を積み下ろして1本の列車にする。

 7:31、北海道側3051列車として札幌へ向けて発車。

3051列車が青森に着いてから連絡船で航送され、函館駅を発車するまでの所要時間は6時間6分となります。
これが現在の青函トンネル経由だと青森信号場〜五稜郭間で2時間49分にまで短縮されているわけですから、貨物列車にとっても青函トンネル効果は大きかったわけですね。

この流れで見ると、連絡船出港の1時間10分前に本州側の貨物列車が到着し、函館入港の1時間6分後に発車していることになります。
列車と連絡船の接続時間は1時間程度と考えられます。

これを踏まえて、貨物列車の新・連絡船ルートをシミュレーションしてみることにしましょう。


 ◆ 新・連絡船による貨物列車輸送をシミュレーションする

まずは本州側と北海道側の連絡船桟橋をどこに設けるか。
いろいろ検討案はあるようですが、とりあえず本州側は青森北海道側は苫小牧とします。
この両市のどこに設けるかというのは別の議題にするとして、とにかく青森〜苫小牧間に新・連絡船を就航するものとします。

161125.jpg
 現在の貨物列車のルートと新・連絡船ルートの比較(地理院地図より筆者作成)

連絡船の所要時間は、八戸〜苫小牧間のシルバーフェリーを参考にすると、北行きが7時間15分、南行きが7時間30分で結んでいいます。
地図上で測ってみると、青森〜苫小牧間もシルバーフェリーとほぼ同じ距離なので、所要時間も同じくらいと考えて良さそうです。

過去には東日本フェリーが青森〜室蘭間に就航していて、その所要時間は北行きが6時間30分、南行きが7時間となっていました。
北行きと南行きで所要時間が大きく異なるのは津軽海峡の潮流の影響でしょう。
これで考えれば、青森〜苫小牧間連絡船の所要時間は北行き(下り)7時間南行き(上り)7時間30分といったところでしょうか。

で、現在の鉄道ルートでの青森〜苫小牧間の所要時間を2021年発行の貨物時刻表で見てみましょう。
これは青森信号場の到着時刻と苫小牧貨物駅の発車時刻の差分としました。

これを下り列車の場合で同区間の所要時間を定期列車だけで見ると、最短が仙台(タ)発札幌(タ)行きの2051列車で6時間25分、最大は東京(タ)発札幌(タ)行き6095列車で9時間17分となっています。

定期列車19本の平均は7時間34分。
列車によってばらつきがあるのは、五稜郭駅での機回しや解放・連結作業、単線区間での交換待ち、新幹線の通過待ちなどから発生する時間と思われます。

ここで、貨物列車のうち一番本数が多い区間の隅田川〜札幌貨物ターミナル間を最速で結ぶ3057列車が、新・連絡船ルートになるとどれくらい時間が変わるのかを比較してみましょう。
先に述べた通り、列車と連絡船の接続時間は1時間、連絡船の所要時間は下り7時間とします。

現行の3057列車の場合16時間55分。
駅名隅田川青森着青森発苫小牧札幌タ
3057列車17:022:473:039:129:57

連絡船経由とした場合19時間58分。
 鉄道連絡船鉄道
駅名隅田川青森着青森発苫小牧着苫小牧発札幌タ
3057列車17:022:474:0011:0012:0013:00

隅田川駅を17:02に発車した3057列車を現行のダイヤでの時刻と、青森〜苫小牧間を連絡船経由としたシミュレーションを比較してみるとこうなりました。
最速列車3057列車の場合で、現行よりも約3時間所要時間が延びることになります。

ただ、これは最速列車で比較した場合で、隅田川〜札幌貨物ターミナル間の所要時間は現行の定期列車の最長が19時間23分、臨時列車に至っては20時間を超える列車もあり、必ずしもスピードを身上としない貨物列車であれば意外とアリなのかもしれませんね。
ダイヤだけ見れば新・連絡船案は頭ごなしに却下する案でもなさそうです。

次に新・連絡船は1日当たり何本運航することになるのでしょうか。
現在の本州〜北海道間の貨物列車の本数は臨時列車も含めると下りが26本、上りが25本となっています。
一応青函連絡船時代に倣って1列車1便とし、現在の運行本数を確保するとなると、これが新・連絡船の本数となります。

ざっくりとですが、連絡船1隻が青森〜苫小牧間を1日1.5往復することになるでしょう。仮に1日26往復設定すると考えると計算上必要な船は18隻ということになります。
また、青函連絡船時代は1隻でコキ17両を航送していましたが、現在の貨物列車は最長20両編成。
さらに1周り大型の船になりそうです。
1便で貨物列車2列車分運べば必要な船の数は半分になりますが、それとて巨大船が必要になります。

さらに、鉄道の車両航送という特殊な船体の大型船を18隻(あるいは9隻)新造しなければなりません。
貨車の積み下ろしのための専用岸壁を設ける必要もあるし、なにより大型船が発着する埠頭を作ってそこまでの貨物線も建設する必要が出てきます。

DSCN0574.JPG
 青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸の車両甲板と保存車両。

まあ、巨額の初期投資が必要になることは間違いないでしょう。

それに、貨物列車が新・連絡船ルートで青森〜苫小牧間をスルーするとなると、青森〜函館間の貨物列車は1日1〜2往復程度で十分ということになります。
そうなると道南いさりび鉄道に入るJR貨物からの線路使用料は激減するでしょうから、同社の経営自体も危うくなりかねないことになります。
(道南いさりび鉄道の収入のうち9割はJR貨物からの線路使用料といわれる)

また、線路使用料が期待できなくなると、新幹線アクセス鉄道となる函館〜新函館北斗間の鉄道存続も困難となってしまうでしょう。
下手をすると渡島半島から新幹線以外の鉄道が消滅することも考えられます。


 ◆ 函館〜長万部間並行在来線問題の結論

新・連絡船案は、青函共用走行問題が解決するのが一番のメリットですが、それ以外の代償が大きすぎます。

また、1988年に鉄道の車両航送が廃止されてからすでに34年もの年月が過ぎています。
当時の技術を伝えられる人も高齢化していることから、一から人員を養成する必要も出てきます。

そこまでするくらいならば、十分に使える既存の鉄道に貨物列車を走らせた方が早いし安い。
というわけで、新・連絡船案はまず無いものと考えてよさそうです

DSCN0518.JPG
 青函連絡船メモリアルシップ八甲田丸と青森桟橋可動橋跡。

ところで、鉄道連絡船復活と聞くと、ちょっと心がときめくのは筆者だけはないでしょうね。
オールドファンとしては、かつての青函連絡船の旅情やロマンの再来を期待したいところです。
しかし、仮に連絡船が復活したとしても、それは貨物専用としての航路となる可能性が高いです。

旅客輸送をするとなると、それはそれでまた追加投資や旅客のための人員が必要となるし、既存の民間航路との競合も発生するわけであり難しいところでしょう。

また、岸壁での航送車両の積み下ろし作業も、人手に頼った青函連絡船時代とは違って、多くの作業がオートメーション化され無人で行われることでしょう。
仮に新・連絡船が就航しても、青函連絡船とは似ても似つかぬ桟橋風景となりそうです。

結論として、函館〜長万部間の並行在来線問題については以下の2択が考えられます。

1,新函館北斗(あるいは五稜郭)〜長万部間は何らかの形で貨物専用鉄道として存続する。

2,新函館北斗(あるいは五稜郭)〜長万部間の鉄道は廃止して、フェリー+トラックによる貨物輸送を新たに構築する。

いずれにしても前例のないことだし、は資金調達の面から、はトラックドライバー不足の面から難航しそうです。

あっさりとバス転換が決まった山線の長万部〜小樽間と違って、函館〜長万部間の存廃協議は一筋縄ではいかないことはお分かり頂けたと思います。

新幹線札幌開業まであと9年を切ったいま、残された時間は多くありません。

新函館北斗〜長万部間の並行在来線問題は、少なくとも鉄道による旅客輸送と沿線自治体からの投資はあきらめて、貨物専用鉄道への転換とするスキームを早々に立ち上げた方が良いのではないかというのが筆者なりの結論となりました。

 最後までお読みいただきましてありがとうございました。

  【参考文献】
 昭和61年11月改正貨物時刻表(社団法人鉄道貨物協会)
 2021年3月ダイヤ改正貨物時刻表(公益財団法人鉄道貨物協会)
 青函連絡船物語 大神隆著(交通新聞社)
 東洋経済オンライン

posted by pupupukaya at 22/03/27 | Comment(0) | 鉄道評論

北海道新幹線並行在来線 函館〜長万部間は存続できるのか

前回のつづき

森〜長万部間あるいは新函館北斗〜長万部間、この鉄道が廃止されるとどうなるのか考えてみよう。

普通列車利用客と一部の特急利用客は代替バスに移行ということになる。
廃止となっても一部の区間を除いては函館バスによる既存の路線バスがカバーしているので、それらの増強で対処できるだろう。

しかし、ここで深刻な問題が発生する。
それは貨物列車の存在。

函館線の五稜郭〜長万部間の貨物列車は、臨時便を含めると1日当たり上下51本も運行されている(少し古いが2013年ダイヤから)。
2017年度の道内〜道外間の年間輸送量は鉄道が4,534千トンとなっている。

もしこの区間の鉄路が廃止され、本州の貨物列車は函館以北へ運行できなくなったらどうなるのだろうか。

それまで札幌・旭川・道東まで直通だったのが、函館で列車からトラックへコンテナを積みかえる必要が出てくる。
例えば道内の貨物列車最長の20両編成が積むコンテナの数は最大100個。
これをトラック輸送するとなると、4個積みのコンテナフルトレーラーでも25台必要な計算だ。
それを函館から札幌までだと、距離にして250km以上(道央道+国道230号の場合)も運転して運ぶのだ。

co2削減が叫ばれているこの時代に大量のトラックを増やすことになる。
いや、それよりも大量のトラックドライバーを確保できるのだろうか。
(その頃には自動運転が実用化されている可能性はあるが)

そんな輸送方法など現実的ではなく、それまで鉄道輸送だった貨物の多くは間違いなく船便+トラックにシフトするだろう。
陸送の大量輸送機関を失うわけだから、北海道経済も大きく影響を受ける。
特に道内産の農産物の道外への移出量のうち鉄道のシェアは高く30%を占めている。
中でも米は40%、玉ねぎは何と70%が鉄道で輸送されている(JR貨物HPより)。
鉄道よりも時間がかかる船便にシフトし、輸送コストも上がるとなると、道内産の農作物が海外産に対して不利ということも起こりうる。

だけど影響は物流だけに留まらない。
例えば『道南いさりび鉄道』は貨物列車の線路使用料に依存する収入の多くを失うことになる。
JR貨物も、北海道内発着分の貨物輸送の大部分を奪われることになり、それに係る資産の多くを放棄しなくてはならない。
レッドベアの愛称で呼ばれるDF200型機関車も、多くは不要となってしまう。

DSCN4446.JPG
 函館本線を走る貨物列車。今はなき鷲ノ巣駅にて。

物流にとってまさに生命線と言える函館〜長万部間は、とても採算性だけで鉄路の存廃を決められる区間ではないのだ。
北海道経済のみならず日本の食糧事情にも大きく関わってくると言っても過言ではない。
沿線自治体が鉄道存続を断念した場合でも、国策として何らかの形で貨物専用鉄道として存続させる必要がある。

しかしそんなことは可能なのだろうか?



 ◆ 貨物専用鉄道の可能性を考える

新幹線が開業してJRから経営分離されて第三セクター鉄道となった路線は全国に8路線ある。
その8路線に共通することは、JR貨物の貨物列車が運行されていること。
また、貨物列車が通ることによって、受け取る線路使用料が結構大きいために経営が成り立っている面もある。

例えば道南いさりび鉄道のホームページにある事業報告書からその数字を見てみよう。
第5期(平成30年4月1日〜平成31年3月31日)事業報告書(貸借対照表・損益計算書)から鉄道事業の営業収入と営業費を抜き出してみる。

鉄道事業(2018年度)
 営業収益 1,615,462千円
 営業費  1,779,251千円

このうち、営業収益の内訳を知りたいのだが、事業報告書やホームページ内に営業収益の内訳までの記載はなかった。
代わりに国土交通省の鉄道統計年報[平成30年度]から数字を拾ってみる。
営業収益と営業費の額が一致するので同年度のもので間違いない。
それをExcelで円グラフにしたのがこちら。

151741.jpg
 道南いさりび鉄道 2018年度の営業収益の内訳(鉄道統計年報より作成)

線路使用料とは文字通りJR貨物からの線路使用料で、これには『貨物調整金』も含まれている。

線路使用料に含まれる貨物調整金とは何かというと、並行在来線として第三セクターとなった鉄道が、今まで通りのJR貨物からの使用料だけでは経営が成り立たないために、鉄道・運輸機構が補助金として交付しているもの。
(詳しくはググってください)

この線路使用料収入が、鉄道事業収益の89%を占めている。
対して旅客収入の割合はたったの8%
運輸雑収とは広告掲載料やグッズの売上、函館〜五稜郭間におけるJR北海道からの車両使用料も含まれていると思われる。
しかし、それを合計しても11%でしかない。

道南いさりび鉄道が自社の営業努力で稼いでいる収入は、全体の約1割でしかない。
9割はJR貨物の営業によって入って来る線路使用料だ。
収益の内訳だけ見れば、ある意味サブスクで成り立っている企業ともいえる。


今度は道南いさりび鉄道の営業費の内訳を見てみる。
下の表は鉄道統計年報から作成した同社の営業費の内訳。

 道南いさりび鉄道
営業費内訳(2018年度)
費用内訳千円
線路保存費646,028
電路保存費487,455
車両保存費99,370
運転費102,695
運輸費27,485
保守管理費7,955
輸送管理費133,086
その他営業費110,133
減価償却費141,018
諸税24,027
合計1,779,252

道南いさりび鉄道の旅客列車は上下合わせて36本運転されているが、そのほとんどが1両のワンマン列車で、駅も全駅無人駅となっている。
それに対して貨物列車は定期列車だけでも1日50本近くが走る貨物の大動脈だ。
全列車が電気機関車けん引、電化設備は100%貨物列車が使用。軌道への影響も1両ワンマン列車の比ではない。
線路の維持管理費用のうち、多くは貨物列車のためにかかっている費用といえよう。

試しに多くは貨物列車運行のためにかかっていると思われる、線路保存費電路保存費保守管理費輸送管理費減価償却費の合計を出すと1,415,542千円となる。
収入のうち線路使用料が1,434,562千円なので、貨物列車のためにかかっている費用は線路使用料でカバーされていることになる。

車両保存費運転費運輸費は旅客列車の車両の維持管理や運転に係る人件費、動力費だ。
この3つを合計すると229,550千円。旅客収入が137,096千円なので、単純計算で92,454千円の赤字。

要は 旅客営業をするだけ損 ということになる。

単純に数字を見た限りの結論は、

旅客列車を走らせずに貨物調整金を含んだ線路使用料だけ受けとって、鉄道保有会社としていた方が会社としては健全
と言わざるを得ない。

ここでは道南いさりび鉄道の例を挙げたが、並行在来線の三セク鉄道はどこも似たり寄ったりだ。
下の表は鉄道統計年報から作成した2018年度の並行在来線8社の鉄道事業収益の内訳になる。

2018年度並行在来線三セク8社の鉄道事業収益内訳 (千円)
路線名旅客収入線路使用料運輸雑収
道南いさりび鉄道137,0968%1,434,56289%43,8043%
青い森鉄道(青森県)1,422,73222%*4,022,12063%905,89314%
IGRいわて銀河鉄道1,246,84228%2,602,50159%585,47813%
しなの鉄道3,133,73870%488,07311%872,90719%
えちごトキめき鉄道706,94619%2,394,51565%567,09415%
あいの風とやま鉄道2,951,87953%1,922,03734%719,54813%
IRいしかわ鉄道1,252,16052%498,92021%678,16528%
肥薩おれんじ鉄道352,15220%989,52957%382,70122%
 * 青い森鉄道は上下分離方式のため使用料は所有者の青森県に行く。

どの鉄道も線路使用料のウエイトが高いのがわかる。逆に低いところは旅客収入が多いというより、旅客列車の方が多く運転されており、貨物列車のための費用のウエイトが低いということだろう。
どの会社も線路使用料が収入の柱となっていることがわかる。

仮に函館〜長万部間の線路が無くなったら北海道直通の貨物列車が激減することになり、これら三セク鉄道も大きく影響を受けることになるだろう。
『青い森鉄道』や『IGRいわて銀河鉄道』も、線路使用料に大きく依存しているため、もしかしたら会社存続の危機ということになりかねない。

一方で、貨物は新幹線と共用すればいいとする説もあるようだ。
しかし青函共用問題がまだ解決していないように、貨物列車と新幹線が同一の線路を走るとなると、新幹線が大幅にスピードダウンしてしまう。
新函館北斗〜札幌間の新幹線区間のほとんどがトンネル区間だ。

いっそのこと貨物新幹線にするか・・・
これだと余裕がある仙台以北は貨物新幹線が走る余裕がありそうだが、仙台以南はちょっとダイヤ的に無理そうだ。
それに在来線直通ができないので、途中でコンテナを積み替える作業が必要となる。
新在直通の貨物新幹線車両を今から開発する・・・?

DSCN2904.JPG
 上磯駅と『ながまれ号』。奥は通過する貨物列車。

道南いさりび鉄道の例を見るように、貨物調整金を合わせたJR貨物からの線路使用料は、貨物列車が存在するが故の費用を、ほぼ全額カバーしてくれる制度なのである。
ヘタに旅客輸送など行わない方が企業経営としては健全という結論になる。

そんなわけで、新函館北斗〜長万部間、あるいは森〜長万部間は、全国初の貨物専用線の並行在来線となる可能性が高い

DSCN9378.JPG
 オーストラリアのとある駅跡。人口希薄地帯のため現在は貨物専用鉄道となっている。

貨物専用線自体が日本では珍しいが、海外では普通にある。
沿線人口が希薄で旅客列車を仕立てるほどの需要は無い路線。こんな鉄道は貨物専用となって、旅客輸送はバスが担当している。

とはいえ、貨物専用の並行在来線三セクなど日本では前例がなく、旅客輸送に傾倒している日本の鉄道からすると異例の鉄道となることは間違いない。

  ★  ★  ★

北海道新幹線の並行在来線のうち、今の流れでは長万部〜余市間は早いうちにバス転換が決定しそうだ。
今のところ表立った動きの見られない函館〜長万部間をどうするかはこれから議論が活発になるだろう。

旅客輸送も含めた経営にするのか、貨物専用とするのか。

僅かな利用客のために旅客列車車両を保有したり、駅その他の施設に多大な経費を計上するのは現実的ではない。
かといって貨物専用鉄道を選択しても、どこが経営(あるいは出資)するかという問題も出てくる。

道南いさりび鉄道の路線に加わるのか、あるいは貨物専用鉄道として北海道とJR貨物が出資した三セク会社を立ち上げるのか。国がどういう形で関わってくるのか。

その動向は来年(2022年)以降大きく注目したいところだ。

〜最後までお読みいただきましてありがとうございました。

posted by pupupukaya at 21/12/30 | Comment(0) | 鉄道評論

北海道新幹線の並行在来線問題を考える

2030年度の札幌延伸開業を目指して工事中の北海道新幹線。
山の中ではあちこちでトンネル工事が行われているほか、倶知安駅では新幹線駅建設のためホームの移転工事が行われた。
新幹線延伸開業に向けた札幌駅周辺の再開発工事も、来年には本格化することになっている。

その一方で、並行在来線となる函館本線の函館〜小樽間は新幹線開業と同時にJR北海道から経営分離されることも決まっている。

函館〜長万部〜小樽の区間は並行在来線としてJR北海道から経営が分離されることになっている。
道や沿線自治体が出資する第三セクター方式による鉄道存続か、バス転換のいずれかを選択しなければならない。

新幹線開業まで10年を切った今、その選択についての動きが出てきたようだ。
今回は北海道新幹線の並行在来線問題をいろいろ考えてみたいと思います。

まずは『どうしん電子版』の記事から。

  北海道新聞,どうしん電子版 12/28 05:00

記事の内容は、12月27日に行われた北海道と沿線9市町で構成する北海道新幹線並行在来線対策協議会 後志ブロック会議で、4町がバス転換支持を表明したというもの。

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 北海道新聞,どうしん電子版、上記記事より画像引用。

これによると沿線9市町村のうち、仁木町、共和町、倶知安町、長万部町の4町がバス転換支持している。
余市町だけが余市〜小樽間の存続、残りの4市町が判断を保留としている。

“態度を保留した各自治体にも、鉄路を維持した場合の巨額の赤字問題がのしかかり、最終判断を迫られつつある。”
 〜同記事より引用

これを見て、時代も変わったなあ・・・と思った。

一昔前であれば、沿線自治体は鉄道存続ありきを主張し、廃止反対運動くらいは起こったことだろう。
判断を保留としている市町もあるが、この流れではあっさりとバス転換に決まりそうだ。

駅を廃止するにしても以前ならば物議を醸したものだが、来年ダイヤ改正(2022年3月12日)で7駅の廃止が決まっているが、特に反対運動のようなものは無かったようだ。
そりゃそうで、以前ならば公共の福祉を盾に反対していればよかったものが、今は存続希望ならそれ相応の費用を負担しなければならなくなったからだ。

これは並行在来線問題にしても同じで、僅かな利用者のために多額の赤字を負担しなければならない鉄道よりも、赤字が少なくてきめ細やかな輸送ができるバスに転換した方がはるかに合理的だ。

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 草生したホームと線路、やって来るのは上下9本の気動車だけ。黒松内駅で。

一方であまり動きが伝えられてこないのが函館本線の函館〜長万部間
並行在来線対策協議会のうち、こちらは沿線7市町で渡島ブロックとして構成されている。

この区間は現在特急『北斗』のほか、本州と道内を結ぶ貨物列車が多数走っている路線だ。
普通列車では、函館市内と新函館北斗を結ぶ新幹線アクセス列車『はこだてライナー』のほか、函館への通勤通学輸送がそれなりに多い路線でもある。

函館〜長万部間については第三セクター化による鉄道存続は確実とも取れるが、果たしてそうなのだろうか。
それを実際に数字とグラフで見てみよう。

以降のグラフや表は、『第7回渡島ブロック会議(令和2年8月25日)資料1』のデータから筆者が作成したものです。

まずは函館線 函館〜森間の駅間別乗車人員のうち普通列車(快速も含む)のみ抜き出したものをExcelでグラフにしてみた。

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 函館線 函館〜森間 主な駅間別普通列車の乗車人員
 ※大沼〜森間は駒ヶ岳〜森、東森〜森の2区間合計。

駅間の乗車人員で一番多い区間が五稜郭〜桔梗間で、上下合わせて2,940人の利用がある。
七飯〜新函館北斗間1,904人
ここまでが函館の通勤通学客と『はこだてライナーの』の利用者が大半を占める。
函館〜新函館北斗に限れば、輸送密度は4,261人/日(2018年度)となっている。
特急利用者が新幹線にシフトする2030年度の輸送密度は5,592人/日と試算されている。

 ※駅間別乗車人員に比べて多が、函館〜五稜郭間の道南いさりび鉄道からの入込みも含まれていると思われる。

国鉄時代に制定された廃止対象となる特定地方交通線が輸送密度4,000人/日未満だから、それで行けば時刻表の路線図で青線表示される地方交通線として存続していたほどのレベルだ。

これをバス転換するとなると逆に大変だろう。
1列車の乗客をバス数台で運ぶことになる。
また、新幹線のシャトル列車が無くなることによって、ただでさえ函館市内から遠い新幹線へのアクセスが悪くなり、新幹線の優位性が大きく損なわれることになる。

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 新函館北斗〜函館間を15分で結ぶはこだてライナー。

新函館北斗からは利用者は1/3以下にまで大きく減る。大沼でさらに半分以下になる。
森までは209人。鉄道として存続するにはちょっと厳しい数字だ。
ただ、函館から大沼公園と森までは、新幹線開業後は特急からの転移があるので若干の増加は望める。
大沼や駒ヶ岳といった観光地や景勝地でもあるので、観光列車を走らせれば営業次第では集客できる路線になるかも知れない。

次は森〜長万部間について見てみよう。
以下は森〜長万部間の駅間別乗車人員。これもExcelで作成した。

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 函館線 森〜長万部間 普通列車の駅間別乗車人員

森駅からは乗車人員が大きく減る。
これは普通列車のダイヤにも現れていて、函館〜森間は駒ヶ岳経由と砂原経由を合わせて上り13本、下り11本の列車があるが、森〜長万部間は上下それぞれ6本と、ほぼ半減する。

グラフを見ると落部・野田生から八雲への利用が目立つくらい。あとは森〜八雲、八雲〜長万部の利用だろう。

そしてさらに列車別で見ると以下の数字になる。
平成30年度特定日調査(平日)に基づく列車別乗車人員から抜き出した数字です。

森〜長万部間下り
列車別乗車人員(人)
  森〜八雲間 八雲〜長万部間
891D29 
821D
893D
 2841D10 
823D
895D

下り列車の乗客で一番多いのが891Dの森〜八雲間で29人。大半は八雲への通学客と思われる。
その次が2841Dの10人。八雲発が17:18の列車なのでこれも八雲から帰宅の通学客だろう。
あとの列車はどれも10人に満たない乗客を乗せてガラガラで走っていることになる。

891Dは時間帯からして長万部への通学列車も兼ねていることになるのだが、八雲から先の乗客数はわずか4人。
途中にある国縫など駅周辺は市街地を形成しているほどだが、広報おしゃまんべ令和3年7月号によると、国縫駅の利用者のうち通学利用は0となっている。
これは長万部町が無料のスクールバスを運行しており、町内の通学生は鉄道を利用しないからだろう。
学生が使わなければ、あとは通勤と通院での利用者が僅かにいるだけ。

この広報おしゃまんべ7月号では『町の考え』として、

“駅利用者が少なく、並行在来線を存続とした場合の負担が大きいことから、並行在来線の旅客は廃止する方向で検討すべきと考えております。”  
 〜広報おしゃまんべ 令和3年8月号より引用

と結論付けている。

そう、長万部町はすでにバス転換支持を表明している。
長万部町内にある国縫、中ノ沢、二股の3駅の利用客を合わせても1日に10人に満たない(同広報より)。
そんな僅かな利用者のために多額な費用を投じるのは現実的ではないし、町民の支持も得られないだろう。
町のシンボルだからとか、路線図から町が消えるからといった理由で鉄道が存続できるほど甘くはない。

このあたりの考えを同じくバス転換支持となった仁木町の『広報仁木』にも次の一文が記載されている。 

“巨額の初期投資や累積赤字が見込まれる第三セクターによる鉄道運行ではなく、民間バス事業者によるバス運行が現実的なものと考えている” 
 〜広報仁木 令和4年1月号より引用

バス転換にしても初期投資や毎年発生する赤字から逃れることはできないが、鉄道存続に比べればはるかに少ない額となる。
三セクによる鉄道存続と民間のバス会社によるバス転換の費用を表にして並べると、その違いが一目瞭然だ。

函館長万部間の交通モード別初期投資及び収支(単位:億円)
 初期投資2030年度2040年度30年累計
全線第三セクター鉄道▲317.26▲18.79▲20.31▲944.17
全線バス運行※▲36.58▲2.46▲1.96▲130.38
函館〜新函館 鉄道
新函館〜長万部 バス
▲160.09▲11.46▲12.76▲565.45
 ※国・道のバス補助は考慮しない。

森町と八雲町の動向は今のところ不明だが、八雲町については、上記の利用者数を考えると長万部町と同様の意向となる可能性が高い。

森町は新幹線の駅が設けられず、新幹線開業からは蚊帳の外となるため、鉄道存続を打ち出す可能性が高いといえる。
実際、函館方面の乗客数は、大沼回り、砂原回り合わせても200人以上の乗客がある。
沿線に大沼公園駅といった観光地もあるので、函館〜森間は三セクとして存続ということはありうる。

では、八雲町と長万部町がバス転換支持となり、第三セクター鉄道設立から手を引いてしまうと森〜長万部間の鉄道は無くなってしまうのだろうか。

ところがそう簡単にはいかない事情があるのだった。

〜長くなったので次回へつづく

つづきを読む
posted by pupupukaya at 21/12/30 | Comment(0) | 鉄道評論

JR北海道2022年3月ダイヤ改正に思うこと

JR北海道のホームページに2022年3月ダイヤ改正が発表されました。

 JR北海道ニュースリリース 2021.12.17

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 JR北海道ホームページ “2022年3⽉ダイヤ改正について”より引用。

私は鉄道アナリストではないので、ここでダイヤ改正内容の是非を論ずることはしませんが、今回のダイヤ改正で注目したところを2つ取り上げてみたいと思います。
そしてそれは、北海道の鉄道の今後を予見するもの。また、JR北海道の叫びにも感じました。


 1,駅の廃止7駅について

2022年3月ダイヤ改正で廃止となる駅。

函館線5駅:池田園、流山温泉、銚子口、石谷、本石倉
花咲線1駅:糸魚沢
宗谷線1駅:歌内

これまでは廃止になる駅と言えば、元々集落などなかった場所に設けられた仮乗降場などを出自とする駅や、過疎化で駅前が限界集落と化したために『極端にご利用の少ない駅』のうち、乗車人員が1日1名以下となった駅が対象となっていた。

駅前に町も集落もない、あるいは農家が数戸点在するだけといった駅が廃止されるのは、誰の目から見ても仕方がないと思うところだ。

しかし、今回のが違うのは、駅前にまとまった町や集落があるにも関わらず廃止となる点である。
上記の廃止駅の中で駅前に集落の無い駅は歌内駅流山温泉駅くらいで、あとは駅前にそれなりの集落がある場所となっている。

特に函館線の石谷駅本石倉駅の場所は、国道5号線は車でよく通るのでよく知っているが、道沿いに家がずっと続いていて、市街地と呼べるほどではないにしろ、それなりに人が住んでいる場所である。

それでも廃止になるとは、地元住民からの見捨てられようにも程があるんじゃないかと思えるが・・・
函館線と並行する国道は函館バスの路線バスが通っているので、駅を廃止しても問題ないという判断だったのだろうか。

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 2023年3月改正で廃止になる石谷駅(2021年7月撮影)

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 2023年3月改正で廃止になる本石倉駅(2021年7月撮影)

もう1つ注目したいのが宗谷線の歌内駅

この駅は、JR北海道が2017年3月のダイヤ改正での廃止を地元の中川町に要請したが、中川町の拒否により廃止できないでいた。

駅の維持管理にはお金がかかる。北海道の場合は、冬季の除雪費用もかかるのでなおさらだ。
その後JR北海道の経営悪化により、駅の廃止か、自治体による維持管理での存続かを迫られるようになった。

歌内駅は、2021年4月より駅の維持管理を中川町が行うという条件で存続する自治体管理駅となったもの。
しかし町による維持管理は難しいという声が上がり、住民の理解も得られたとして、今ダイヤ改正をもって廃止ということが決まった。

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 雪に埋もれた歌内駅(2020年12月撮影)

2021年から自治体管理駅となった駅は歌内駅を含めて、宗谷線に17駅、石北線に1駅あるが、歌内駅はその中で廃止になる駅の第1号となる。

今回ダイヤ改正の廃止駅が今までと違うのは、1つが駅前にまとまった集落があっても、利用者が少なくて地元の同意が得られれば廃止の対象となるということ。
2つ目が、自治体管理駅に移行した駅でも、負担が重くて維持が困難と判断すれば、自治体の方から廃止に向けて動くということだ。

今後は駅の廃止の動きがますます加速するんだろうなと思える動きではある。


 2,特急おおぞら編成

特急『おおぞら』と言えば札幌と道東を結ぶ特急であり、北海道で最初に運行を開始した特急列車でもある。

1997年のダイヤ改正からキハ283系車両を導入して『スーパーおおぞら』として運行開始していた。
札幌と道東の時間短縮は素晴らしく、例えば2004年の時刻表から『スーパーおおぞら』最速列車の所要時間を見てみる。

 札幌〜帯広間:2時間09分
 札幌〜釧路間:3時間34分

この当時どれだけ人気だったかを、当時の拙ブログの旅行記から引用してみる。

“札幌行スーパーおおぞら2号の自由席に乗る。基本の編成は6両だが、今日は9両。スーパーおおぞらは人気があり、常に2〜3両増結して走っている。”

この当時は道東自動車道は夕張IC〜十勝清水ICが未開通。車ならば霧や事故で悪名高かった国道274号日勝峠越えで行くしかなかった頃だ。
多客期には増結して、最大11両編成というのも見られたようだ。
基本編成は2007年に1両増えて7両編成になっている。この頃がピークだったのだろう。

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 西早来信号場ですれ違う7両編成のスーパーおおぞら。(2010年11月撮影)

その後は道東道の延伸が進み、2011年に道東道の札幌と帯広圏の間が全通、延伸はさらに続いて2016年には阿寒ICまで開通している。

『おおぞら』はというと、2011年の石勝線で起こった脱線・火災事故をはじめ車両のトラブルが相次ぐようになる。
車両の不具合やメンテナンスで車両不足となり、それまでのような長大編成は見られなくなった。

インバウンド客の増加で、それらの輸送が盛んになりかけたものの、2020年明けから始まった新型コロナウイルス。
この影響により、基本編成6両から減車して5両編成となった。乗客減の一番ひどい時には4両編成になったこともあったが、あくまで一時的な措置ということだった。

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 再び基本の6両編成に戻ったおおぞら(2021年1月撮影)

それが2021年3月改正で正式に基本編成5両となった。

今回発表の2022年3月ダイヤ改正は5両編成は変わらないが、ご利用の少ない時期には4両編成になるのだという。

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 JR北海道ホームページ “2022年3⽉ダイヤ改正について”より引用。

去年の4両編成化はコロナウイルスの影響による一時的なものだったが、今改正後の減車は計画的なものとなる。
この流れでは2022年の次の2023年のダイヤ改正ではついに『おおぞら』も4両が基本編成になってしまうのだろうか。

『おおぞら』は長らく北海道の特急のエースだった。
国鉄時代は、新型特急車両が導入されると、真っ先に『おおぞら』に投入されたものだった。

ローカル線廃止が相次いだ国鉄末期〜JR発足当初にかけて、札幌を初めとした都市圏輸送と都市間輸送を担う特急列車は、JR北海道にとって期待の星だった。

しかしあれから30年。
高速道路網が整備された今は、道央と道東の都市間を結ぶ特急も例外ではなく、ここまで利用者減が深刻なのだと思い知らされた。

4両編成のおおぞらなんて見たくない・・・

さらに深刻なのが宗谷線と石北線の特急だろう。
今回の改正で特に動きはないが、大雪とサロベツの計画運休は継続のようだ。

 ★  ★

2021年はもうすぐ終わるが、依然として終わりの見えないコロナウイルス禍。
北海道だけでなく、2022年3月ダイヤ改正はJR各社も大幅な減便としている。
仮に収束しても、乗客が戻ってくるまでには長い時間がかかると見越してのダイヤ改正の内容だ。

前向きな話題もあって、学園都市線にロイズタウン駅の新設、東風連駅を名寄高校駅として移転・改称がある。
ロイズタウン駅については『?』と思うところもあるが、話が長くなるのでそれについてはまたどこかで。

コロナ禍が無いと仮定しても、この減便・減車トレンドはそう簡単には止まることは無いだろう。
今ダイヤ改正での駅の廃止とおおぞらの減車が、JR北海道の叫びのように思えたのは私だけだろうか。

北海道の鉄道に関しては、少なくとも2030年度とされている北海道新幹線の札幌延伸開業までは、前向きな話題はなさそうだ。

〜最後までお読みいただきましてありがとうございました。

posted by pupupukaya at 21/12/18 | Comment(0) | 鉄道評論
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