夜行列車の旅はいいもんだ。暗闇の中を走り続け、翌朝には遠い土地に運ばれているというのがとても良い。
特に寝台車は横になってゴトゴト揺られていると気持ち良く寝られる。
おかげでよく眠り、目が覚めると外はすでに明るくなっていた。列車は全速で走行中という感じで、相変わらず細かい振動が続いている。
外を見ると昨日と変わっていて荒涼とした車窓になっていた。
人家も見えず、山も無く、地平線の向こうまで草原がずっと広がっている。平原とか草原というより大平原とか大草原という言い方が当てはまる。
昔札幌から稚内まであった急行利尻号がこんな感じだった。目覚めるとこんなような景色のサロベツ原野を走っていたのを思い出した。
朝焼けの大草原を走り続ける。
いまは朝6:15で、定時運転ならばあと1時間でデンバーに着くころだが、昨日の夜で1時間以上遅れていたようなのでフォートモーガンのあたりだろうか?フォートモーガンの定時発時刻は5:05である。
カリフォルニアゼファーの朝 フォートモーガン付近の車窓から
このあたりはグレートプレーンズと呼ばれるロッキー山脈東側に南北に広がる内陸の平野で、面積は日本の3倍以上もある。
グレートプレーンズは日本語で大平原と訳されるが、地平線まで果てしなく続く草原はまさに大平原にふさわしい。
グレートプレーンズは日本語で大平原と訳されるが、地平線まで果てしなく続く草原はまさに大平原にふさわしい。
大平原に朝日が昇る。
人家ちかくでは牛が放牧されている。
各寝台車に設置されたコーヒーポット。ジュースもある。
トイレに行く途中、階段の横に昨日は無かったコーヒーポットが置いてあった。寝台車の客は自由に飲むことができる。
紙のコーヒーカップに注いで部屋に持ち帰って早速モーニングコーヒータイム。
7:20ごろ車内放送で「ブレックファースト〜」と言ったようなので食堂車へ行った。
ここもクルーの指示でテーブルに着く。
今回は夕食時と違って注文票に記入するのではなくメニューを見て普通に口頭で注文する。
朝食の定食は3種類あって、メニュー一番上のスクランブルエッグを頼んだ。
ソーセージかベーコンか聞かれたのでソーセージにした。
3人連れと相席になった。主人と奥さんその友人という感じだった。テーブルに着くと自己紹介をするのが恒例のようで、名前と日本から来たというようなことを言った。
3人は「オー、ジャパン」と驚いたようなアクションだった。
しばらく黙っていたが、主人が話しかけてきた。
「Do you speak English?」
「No,Japanese only」
と正直に答えた。
どうしたわけか車の話になって、主人が自分はトヨタ車に乗っている、彼女も彼女もトヨタ車だ。私の車はホンダと言うと、主人は日本車は素晴らしいというようなことを言った。
英会話ではなく単語とジェスチャーだけのやり取りだが結構通じるものだ。
食堂車の朝食風景。
スクランブルエッグ定食。
夕食の時と違って今度はすぐに運ばれてきた。
スクランブルエッグ、ローストポテト、ソーセージ、スコーンが一皿に載っている。ソーセージはハンバーグのような形をしているが、ブレックファースト・ソーセージといって腸詰めしていないタイプのものらしい。
これも意外と少量で、あっという間に食べ終わった。
えらく気に入られたのかグッバイと言うと、握手をして肩を抱き合って席を立った。
部屋に戻って、またコーヒーを飲みながら車窓を眺める。
目が覚めてから見渡す限り地平線の風景が続く。大陸を実感した。
デンバーの摩天楼が見えてきた。
草原ばかりだったが少しずつコーン畑や麦畑も増えてきた。
車窓には家並も見えるようになった。デンバーだ。
定時刻ならばデンバーで50分停車となっている。
地図ではこの列車はデンバーで進行方向が変わることになっている。きっと機関車交換で長時間停車なんだなと思っていた。
だんだん並行する線路が増えてきて、機関車や貨車がたくさんある操車場のようなところを通過する。
列車は駅ではないところで停止した。しばらくするとバックで動き始めて、そのままホームに進入した。
なるほどバックで駅に入れば機関車が先頭で出ていけるので機関車交換の必要はないわけだ。
バックでホームに進入する。
さて、デンバーは長時間停車なので降りて街を見てこようかと思ったのだが、列車も結構遅れている。
すぐに発車するかもしれない。
定時刻ならばデンバー着は7:15だが、実際の到着時刻は9:16になった。既に2時間も遅れている。
ちょっとホームに降りてみたら、乗客たちが大勢ホームに出ている。ほとんどの人は軽装で荷物も持っていない。どうやらしばらく停車するようだ。
また車内に戻って、クルーがいたのでデンバーの発車時間を質問した。
クルーは答えたが、うーん聞き取れない・・・
手帳とボールペンを出して書いてもらった。大事なことなので聞き間違えたら一大事だ。
「11:30 Be back」と書いて渡された。11時半までに戻ってこいと言うことだ。
「オーケー、サンキュー」と礼を言ってまた外に出た。
デンバー駅のホームとカリフォルニアゼファー号。
しかし、11時半に発車するとなると2時間以上も停車することになる。
デンバーの定時発時刻は8:05なので、ここで3時間以上の遅れだ。
鉄道のダイヤはあまり正確ではない国だし、終点から乗り継ぐわけではないので遅れるのは構わないのだけど、翌日のサンフランシスコ到着が夜遅くになるのは嫌だなと思い始めた。
心配したところでどうにもならないことだし、せっかくだからデンバーの街を見物してこよう。
デンバーのダウンタウン。高地のためか空気が澄んでいる。
デンバーはコロラド州の州都で、人口は約63万人。
ロッキー山脈の麓にある標高1600mの場所に位置する高地の、気圧が低い土地柄のため、ゴルフや野球ではほかの場所よりも飛距離が10%ほど伸びるといわれている。
ユニオン駅はダウンタウンの北端にあって、駅からは16番ストリートモール(16th Streer Mall)という代表的な通りが伸びていて、一般車は通れない歩行者とバスだけのトランジットモールになっている。
通りを走るバスはフリーモールライドと言って無料で利用できる。結構本数もあるようで、歩いていると頻繁に見かけた。
16番ストリートモールと時計塔のD&Fタワー。
青空が広がった良い天気で、強い日差しは歩いていると溶けてしまいそうになる。
しかし空気は乾燥しているようで、日影に入るとすぐに汗は乾いた。標高1600mは高原のような空気だ。
通りは旅行者とわかる人が多いが、一見ビジネス風の人も結構歩いている。道路工事もやっていて作業員たちが働いてる。
そういえば今日は月曜日だったなと思いだした。
ウシの置物。
ストリートモールを走る無料バス『フリーモールライド』。
ライトレール(路面電車)も走っている。
デンバーのランドマークになっている熊のオブジェを見たくて探してみたが見つからなかった。『地球の歩き方』に載っていたのだが、重たいから車内に置いてきたのだが持って来ればよかった。
16番ストリートモールとライトレールの電車。
ライトレールの線路が交差するあたりまで行ってまた駅まで歩いて戻ってきた。
デンバーは街並みも整っていて清潔でなかなか良いところだ。
デンバー・ユニオン駅は石造りの風格ある駅舎で、1880年に建設、1914年に現在の形に改築された。
鉄道の繁栄した時代を象徴し、デンバーの玄関口と言わんばかりに街の正面に向けて堂々とそびえ立っている。
1920〜1930年代は1日80本もの列車が発着していたが、第二次大戦後は旅客輸送は自動車や航空に移ってしまったので列車はどんどん削減され、現在この駅に発着する列車はカリフォルニアゼファー号1往復のみ。
それでも近年は駅裏にライトレールが乗り入れ、また地下バスターミナルもできたのでデンバーの総合ターミナルとなった。
駅舎やホームも大改修工事が行われたようで新しくなっている。
デンバー停車中。
ユニオン駅のホーム側。
広くて明るいホーム。
ユニオン駅のホームも大改修工事が終了して間もないようで、新しくなっている。
工事中は1面1線の仮設ホームだったようだが、完成したホームは4面6線の堂々たる構えだ。各ホームは跨線橋と地下道で結ぶほか、頭端式ホームなのでホーム同士でも行き来できる。
4面6線のホームは列車は1日1往復しか発着しないのにあまりにも過剰設備な気がする。
地下道はまっすぐ行くと地下バスターミナルにつながっていた。
シカゴからデンバーまで連結されてきたレトロ車両。
シカゴ駅で最後部に連結されていたレトロ車両はここデンバー駅で切り離されていた。
古めかしいけど貴賓車のような風格があって、オープンデッキには「チェサピーク・アンド・オハイオ鉄道」「チャペルヒル」と書かれたトレインマークが付けられていた。
何かのイベントに使われるために回送されてきたのだろうか?まさか個人所有の客車?
レトロ車両のトレインマーク。
無骨な最後部。
客車のドア。
街を歩いてきて駅の中も歩き回ってきたが、まだ発車まで30分以上ある。
デンバーの停車時間は2時間30分近くもあるわけで、さすがに長すぎる。途中でなにかあったのだろうか。
車内に戻ると、そんなことは大したことではないと言う感じで乗客たちもクルーもゆったりと過ごしていた。