デンバーの停車時間は定時運転ならば50分だが、2時間半にも及ぶ停車時間になった。当初の時刻変更からさらに遅れを増してしまったが、おかげでデンバーの街を歩いてくることができた。
11時半ごろ車内に戻る。ホームには団体旅行の一行など大型スーツケースを持った人が行き交う。デンバーからこのカリフォルニアゼファーに乗る人も多い。
デンバーは駅に掲示のあった通り11:45に発車した。定時ならば8:05発なので、この時点で3時間40分遅れになる。
デンバーからはカリフォルニアゼファー号の一番の見どころであるロッキー山脈越えが始まる。
ルーメットの自室にいたのでは片側しか景色が見えないので眺めの良いラウンジカーへ行った。
ラウンジカーは見事に満席。そりゃそうだ、これから一番の絶景区間とあってはみんな早くから陣取っていただろう。
ロッキー山脈越えを控えてラウンジカーは大盛況。
また部屋へ戻るかどうしようかと思っていると食堂車のランチタイムの放送があった。乗客のみんなは絶景に釘づけだろうし今だったら食堂車も空いてるだろうと思って先にランチにすることにした。
テーブルはいくつも空いているが、クルーは相席になる様に席を指示する。
今回のテーブルは向かいに母娘2人連れ、隣は自室のルーメットの通路挟んだ向かいの部屋のおっさんだ。
私はスペシャルサンドイッチ、他の3人はハンバーガーを注文する。
おっさんも母娘もあまり観光旅行というなりではない。飛行機嫌いか、何か事情があって列車移動というところか。
そんなわけで会話はほとんど無く、逆に居心地が良かった。おっさんも寡黙な人で”幸福の黄色いハンカチ”で演ずる健さんみたいだ。
昼食のホットドッグ。付け合せはポテトチップス。
『スペシャルサンドイッチ』はホットドッグだった。付け合せのポテトチップは車内で揚げたようで暖かい。
レタスやトマトがどっさり載っていて食べずらいが、ケチャップをかけてかぶりつく。
草原の大カーブを列車は走っていて、先頭の車両が車窓に現れたり、草原の下に今通ってきた線路が見える。
リトル・テン・カーブ、ビッグ・テン・カーブと呼ばれている登坂のための急なS字カーブだ。その向こうには高層ビルが建ち並ぶデンバーの摩天楼がうっすらと見えている。
S字カーブを通る度に摩天楼は車窓の右へ行ったり左に行ったりする。
幾度ものカーブと坂で標高が高くなると、グレートプレーンズと呼ばれる大平原の雄大な景色が広がった。
残念ながら、一番絶景の見どころは食堂車にいたので画像はありません。
デンバーと大平原を一望する。プレインビューと呼ばれている。
ランチは早々に食べ終えて、またラウンジカーへ行った。相変わらず満席で大盛況だ。食堂車と違って缶ビール片手の人も目立つ。
車両中央に今は使用していないバーみたいな場所があって空いていたので、そこに立って景色を眺める。
ラウンジは2階にあって、窓が天井まで回り込んでいるので明るく開放感があって、景色を見るには良い。
座席も景色を見るために窓側に向けて並んでいる。奥の方は食堂車のようにテーブル席もあった。
大平原の地平線はだんだん遠ざかって行って、崖っぷちやトンネルが多くなり、ロッキー山中の渓谷へと入って行く。
ロッキーの渓谷を行く。”世界の車窓から”のような眺め。
だんだん小さくなって行く大平原。
けわしいロッキー山脈の峠道を登る。
30分ほど立って景色を眺めていたが、席も空かないし疲れてきたので部屋に戻ることにした。1階の売店で缶ビールを買ってきて部屋で飲んだ。
スマホのGPSで測定すると高度2700m、時速は47km/h。デンバーから約1時間で1000m以上登ってきたことになる。
ラウンジカーは天井まで窓があって開放的。
14時頃、長いトンネルに入る。
モファットトンネルという名前でロッキー山脈の尾根を貫いている。長さ約10kmで1928年に開通した。
ここが大陸分水嶺となって、大西洋に注ぐ川と東側の太平洋に注ぐ川とに分かれる。
トンネルが開通する前は、急勾配のループ線やスイッチバックが連続する旧線で、標高3500mのロリンズ峠まで登って尾根を越えていた。
険しくアツいルートの廃線跡は道路として残っているので、グーグルアースなどで確認することができる。
トンネルを抜けたところがウインターパークというリゾート地になっていて、リゾートマンションや別荘が立ち並ぶ。スキー場もあって、冬は賑わうのだろうが今はひっそりとしている。
上越新幹線の越後湯沢みたいな所だ。
長いトンネルを抜けるとスキーリゾート地ウィンターパークがある。
車掌の車内放送があって、次のフレーザー・ウィンターパーク駅では5分停車すると言った。と言っても、「ファイブ ミニッツ」と聞こえたので5分停車だろうと思っただけだが、停車すると車内の乗客たちがぞろぞろとホームに降りたので間違いないだろう。
フレーザー・ウインターパーク駅でしばらく停車。
5分間停車とはいえ、ずっと乗りっぱなしにとっては貴重な気分転換のタイムで、乗客もクルーも降りて外の空気を吸う。
車内は全車禁煙なので、スモーカーにとっても貴重な喫煙タイムになる。
標高2600mの高所なので寒いかと思ったら意外と暖かい。車内の気温とそう変わらない。もっとも車内は冷房がガンガン効いていて寒いくらいだったが。
5分間停車のホームは外に出た乗客でしばし賑わう。
ホームと三角屋根の上屋だけの無人駅。
空気は澄んでいて、周りの景色や町も高原の雰囲気。そのかわり日差しがこれでもかというほどきつい。
発車時刻になると車掌が掛け声を叫んで合図した。
発車時刻が近づくと車掌が乗車するように叫ぶ。「All aboard!」
発車してから最後部の車両に行ってみた。貫通路には小さな窓があるが、この窓は黒い油のシミがだらけであまり良く見えなかった。汚れの少ない部分にデジカメのレンズを押し当てると、サマになる写真が撮れた。
フレーザー川に沿って走る。最後部の窓から。
グランビーからはコロラド川がしばらく車窓の友となる。
コロラド川はロッキーマウンテン国立公園に流れを発し、メキシコのカリフォルニア湾に注ぐ2300kmもの長い川だ。
この川の水はアリゾナ州であの有名なグランドキャニオンを形成するが、ここはそのずっと上流に位置する。
グランドキャニオンほどではないが険しい渓谷もいくつかあって、絶景が続く。
ずっと飽きることなく車窓を眺めていた。この区間は進行左側の部屋がオススメだ。
渓谷沿いを行く。カーブの向こうに姿を現した車両。
貨物列車とすれ違う。
渓谷はさらに険しくなって、カーブでは車輪をキーキーと軋ませながら走る。
ゴア・キャニオンと呼ばれる。
ゴア・キャニオンと呼ばれるコロラド川の渓谷沿いを行く。
垂直に近い崖は、岩肌むき出しで切り立っている。よく崩れないものだと思う。日本と違って地盤が安定しているからこれで十分なのだろうか。
それにしても列車が通過中に崩れたらひとたまりもないな。
垂直の崖とトンネルが続く。
垂直に切り立った岩肌の下を行く。崩れないんだろうか。
谷間が広くなって開けてくる。
進むにつれて雲が厚くなって薄暗くなってきたが、途中で雨が降り出した。
16時頃、食堂車のクルーがディナーの予約を取りに来た。昨日と同じ18:45からのファースト(1番)に入れる。
本格的に降り出した。雨に煙るコロラド川。
列車最後部から。
険しいコロラド川沿いを延々と走って、グレンウッド・スプリングス駅に到着。ここで10分停車になるのでまたホームに降りた。
スモーカーたちは待ってましたとばかりに煙をくゆらせる。スモーキングストップとでも言うところか。
シカゴからの距離は1968km、ここが距離的にはカリフォルニアゼファー号のほぼ中間点になる。
ここはスプリングスの名前の通り、世界最大の天然ミネラル温泉があるリゾート地で下車客も多い。
また石造りの立派な駅舎もあって、デンバー以来の有人駅でもある。
グレンウッド・スプリングス駅、ここで10分間停車。
石造りの歴史ある駅舎があって、デンバーを出て以来の町らしいところだった。
グレンウッド・スプリングスを出ると山岳区間も終わって次第に開けてきた。
さっきまで雨が降っていたのか、進行方向と反対側には虹が出ていた。何となくメルヘンチックな風景だ。
雨が上がりの虹が追いかけてくる。
18:45になって車内放送でディナーの案内があったので食堂車へ行く。
クルーに予約券を渡して席に案内してもらう。
また大学生のSさんと同席になった。向かいはカナダから来たという夫婦で、すでに仕事はリタイアして旅行を楽しんでいるとのこと。
席に着いて程なくサラダとパン、それに注文票がやってきた。
テーブルの上にはバターの籠とドレッシングの籠が置いてあって1つずつ取る。
2回目のディナーなのでこちらも余裕がある。
昨日はステーキだったので今日はシーフードにしてみた。Sさんはローストチキンにしたようだ。
2日目のディナー。最初に出てくるサラダとパン。
メインディッシュが来るまでは会話タイムとなる。
私は人見知りが強くて、どうもこういう場は苦手でしかも英会話もさっぱりなのだが、英会話のほうはSさんがカナダ人夫婦の相手をしてくれるので気が楽だ。
たまにこちらにも話を振られるが、ニコニコしながら一言二言返答する。
メインディッシュが運ばれてくるまで約1時間。よくもまあ話が続くものだと感心する。コミュニケーションの力がある人はさすがだね。
さて、シーフードだが、白身魚(タラかな?)のソテーが2枚と付け合せはインゲンとライスだった。
シーフードのメインは白身魚のソテー。付け合せはライスだった。
向かいの夫婦はステーキだった。となりのSさんのローストチキンのデカいこと。そっちにすれば良かったかな?
白身魚もライスもバターが多用されているようで意外とこってりしている。塩味だけなのか何か物足りない。醤油をひと回しかけたくなったが、まさか持参するわけにもいくまい。
デザートはストロベリーソースのかかったアイスクリーム。これはさっぱりして美味しかった。これでフィニッシュ。
向かいのカナダ人夫婦が先に席を立った。
デザートのアイスクリーム&ストロベリーソース。
突然、Sさんが大きくため息をついて「疲れました」と言った。
彼は英語が堪能だと思っていたが、大学生の彼にとってはずっとプレッシャーだったらしい。
ここ(食堂車)の人たちは親切で分かりやすく話してくれるが、町の人たちの英語は難しくて早口で聞き取れない。ホステルの相部屋でも難しい英会話で大変だったとこぼした。
私がろくに英語もわからず一人で旅行していると知ると、「よく一人で来れましたね」と言った。
そろそろ戻りましょうかということになって、またチップの話になる。
今朝と昼に食堂車に来たが、他の客を見ていると大体1ドル札2枚くらい置いていた。チップを置かない人もいたようだ。
だから2ドルでいいんじゃないかと彼に話した。
他のサービスのチップについては諸説あるようだが、ケチだと思われたくないのと言葉がわからないのでせめて気前よく渡したい。
部屋に戻ったのが20:25だった。
窓の外は真っ暗。グランドジャンクション駅はいつの間にか過ぎていてこの辺りからユタ州のはずだ。定時運転ならばまだ明るい時刻に走っていた場所だ。
また部屋を出てラウンジカーへ行った。1階の売店でビールを買って2階のラウンジで過ごす。
また夜のラウンジカーへ。
薄暗いが手元は見えるし本くらいは読める。
ビールを飲みながら今日の出来事などをメモ帳に書く。その内容は後に旅行記ブログの文になるのだが・・・
夜のラウンジカーは座席車の人が多い。マナー違反なのかさすがに寝ている人はいない。
寝台車の人たちは格好こそカジュアルだが、やっぱりハイソサエティ―な感じの人が多くて何となく性に合わない。座席車の人たちのミドルクラスな感じの方が性に合っている。
だから、食堂車よりこちらのラウンジカーの方が気に入っていた。
ヘルパー駅に停車。街灯りが見えるとなぜかほっとする。
部屋に戻るとベットがセットされていた。
これで寝台車の旅も最後だなと思いつつ、夜汽車の旅情に浸りながらウイスキーを飲んだ。
寝る前に腕時計を1時間遅らせる。明日からはまた時差が−1時間となって、太平洋時間帯になる。
ルーメットの寝台でくつろぐ。
月夜の下を並走するトラック。