時刻表に無い通学列車〜花咲線8325D

北海道の花咲線末端区間に時刻表に載っていない列車が毎日運転されている。
これに気付いたのは根室駅に掲示の発着時刻表を見た時だった。

市販の時刻表を見ると、根室駅に朝一番に到着する列車は釧路を5:55に発車し8:13に着く快速「はなさき」とわかる。しかし実際はこの1本前に時刻表に載っていない厚床始発の列車が存在するのだ。

DSCN1453.JPG
「道内時刻表」7月号花咲線の欄。快速「はなさき」こと3625Dより前の列車は無い。

DSCN1326.JPG
2013年9月の根室駅掲示の時刻表。到着列車の一番上にある列車は市販の時刻表に載っていない

DSCN1325.JPG
これは道内全駅にあるタイプ。件の列車は「休日・学休日運休」と印字してある。

ちょっと興味を持ったので謎の列車に乗ってみるべく2013年9月、雨の朝の落石駅にやってきた。

7:25発根室行列車の時刻が近づくと、駅前に車が次々とやってきて、制服姿の高校生を降ろしては去って行く。
落石の町は駅から離れたところにあり、普段は徒歩や自転車で駅まで来るのだろうが、雨の日は車で送ってもらうようだ。

DSCN9854.JPG
落石駅の駅舎

遠くで踏切の音が鳴り、列車は定時にホームに入ってくると高校生たちは駅舎から出てきた。キハ54の1両編成。私は5人の通学生とともに1両の列車の客となった。

DSCN9876.JPG
1両の通学列車

DSCN9879.JPG
ホームへ向かう乗客

DSCN9881.JPG
落石駅に到着した列車

この列車が市販の時刻表には載っていない幻の列車なのである。
臨時列車もすべて掲載しているはずの大型時刻表や道内時刻表にもなぜか載っておらず、JR北海道釧路支社の花咲線時刻表にも載っていない。まるでミステリーのような列車だ。


でもさすがに駅に掲示の時刻表には載っていて、「休日・学休日運休」と表示してある。

以前はこの列車もちゃんと時刻表に載っていて、「◆運転日注意」○月○日まで運転・但し土曜・休日を除く」の但し書きがある臨時列車8325Dとして存在していたのだが、いつの間にか消えてしまっていたのだ。
臨時列車としても平日はほぼ毎日運転の列車が時刻表から消されてしまったのはなぜなのだろう。

DSCN9862.JPG
落石駅待合室に貼ってあった時刻表にもしっかり8325Dはあった

DSCN9900.JPG
乗客はすべて通学生の8325D車内

通学列車といっても車内の乗客は自分含め15人ほど。当然乗客は全員が高校生で、制服姿でないのは私一人のみでかえって目立つ。
話し声もなく、車内の音はディーゼルエンジンとレールのジョイントの音だけ。

つぎの昆布盛は森の中にホームだけの駅だが、どこから来たのか女子高校生が2人乗ってきた。

DSCN9888.JPG
森の中の昆布盛駅

西和田は乗客ゼロ。このあたりから牧草地が多くなって開けてくる。人家も見られるようになった。
花咲も乗客ゼロ。乗客があろうとなかろうとワンマン列車は律儀に停まってドアを開ける。このへんはやはり鉄道でバスとは違う。

DSCN9893.JPG
西和田―花咲間

DSCN9889.JPG
列車は80km/hで走行

DSCN9897.JPG
花咲線の由来になった花咲駅。駅は町から遠いためか乗客ゼロ。

町が近づいてきて東根室に着く。ここは言わずと知れた日本最東端の駅。根室高校の最寄駅になるが、降りたのは1人だけだった。

DSCN9907.JPG
ホームだけの東根室駅。降りたのは1人だけだった。

根室には定刻通り7:47に着いた。最初の到着列車だからかホームには駅長が出迎えている。改札口で落石からの整理券と350円を払って改札口を出た。

根室まで乗ってきた高校生たちは駅前に停まっていたタクシーに分乗して去って行った。雨の日は学校まで割り勘で利用するのだろう。

DSCN9913.JPG
終点根室に到着

DSCN9918.JPG
根室駅の駅舎

時刻表に無いミステリー列車は何のことはない、普通の通学列車だった。

それにしても時刻表から消された理由は謎である。
載せてしまうと、学校の都合で「学休日」に変更があって運転日変更の場合などその都度公示しなければならないから、その手間を省くためか。また、一般の利用者は皆無だが僅かでも定期利用がある以上廃止にもできないので、都度運転といった臨時増発列車のような扱いになったのだろうか。


8325Dは乗客を全員降ろすと到着ホームから構内奥への移動する。ここで午前中はずっと休止し、12:24発5632Dとして釧路へと折り返す。

DSCN9917.JPG
快速「はなさき」到着のため8325Dは構内奥に引き上げる。

今乗ってきた8325Dの36分後の8:13に釧路から来る快速「はなさき」が到着する。かつては夜行特急「まりも」と接続していたが、それも無くなったのでがら空きだろうと思っていたら意外と多くの乗客が降りてきた。

DSCN9925.JPG
意外と乗客のあった釧路発快速はなさき。


ところでここからちょっとしたトラブルに遭遇というかめずらしい体験をしたので続けて記します。

落石駅に車を停めて8325Dで根室まで来たのだが、今度は8:22発釧路行5628Dでまた落石に戻るはずだった。
落石までの乗車券を買い列車に乗ったはいいが、発車時刻になって運転士のアナウンスがあった。
「ただいま落石―別当賀間規定以上の雨量のため25km/hの徐行運転になります。この後大幅に遅れることも予想されます。点検終了後の発車になりますのでもうしばらくお待ちください」

DSCN9928.JPG
上り釧路行の改札。このときはまだ普通に発車すると誰もが思っていた。

DSCN9933.JPG
落石までの乗車券

車内は騒然と、というほどでもなくこのあたりまで来ると皆さん落ち着いたものだが、釧路から特急に乗り継ぐ人も多く不安げな顔も隠せない。
私も落石駅に置いてきた車が心配になった。

そうこうしているうちに駅長が車内に入ってきて「落石駅付近集中豪雨のため運転は打ち切りとなりました。皆さんには代わりにタクシーに乗っていただきます」と言った。
とりあえず全員列車から降りて待合室に移動する。
駅員たちはが乗客の人数を数えてタクシーの手配を始めた。駅長も表に停まっているタクシーの運転手と交渉をしている。

私以外は釧路までの乗客で総勢28人。1台4人ずつで7台のタクシーで釧路駅までお送りしますとのことだった。
とりあえず駅前のタクシーは駅長の交渉で話がついたようだが、さすがに根室の町で7台のタクシーをしかも釧路まで確保するのは大変なようで、駅員も市内のタクシー会社に電話をかけまくる。

タクシー振替えと簡単に聞こえるが、根室から釧路まで国道44号線で124kmも離れている。料金はタクシー会社から根室駅に請求になるのだろうが、釧路駅まで確実にメーターは3万円以上にはなるのでそれを7台でとなると21万円以上!?

運行中に事故をおこすことを考えれば安いものかもしれないが、駅側のあまりにも素早い対応とJRの負担するタクシー代を考えるとえらい感心してしまった。

用意のできたタクシーから乗客たちが順番にタクシーに分乗して、駅長は雨の中深々と頭を下げてタクシーを見送っていた。

DSCN9941.JPG
釧路までタクシーでの振り替え輸送になった。駅長さんも平身低頭で見送る。

釧路までの乗客を全員送った後、もう1台電話でタクシーを呼び、自分は落石駅まで送ってもらえることになった。
駅長が落石のどこまで行くのか聞かれ、駅でいいんですと答えると、駅からどうされるんですか、この雨ですが?とさらに聞かれ、いや駅に車を置いてあって・・・。用もないのに往復しただけなのでちょっとバツが悪い。

私は落石まで350円の客だが、タクシーに乗せてもらい、駅長に頭を下げて見送られると何か申し訳ない気分になった。
落石に近づくと雨はだんだん強くなってきた。落石駅に着いたときは滝のような雨だった。メーターは4000円を超えていた。

タクシーを降りると停めてあった自分の車に飛び込んだ。

DSCN9945.JPG
集中豪雨に見舞われた落石駅。このあと沿線では保線作業のトラックをよく見かけた。


おわり

posted by pupupukaya at 13/09/16 | Comment(3) | 道東の旅行記
この記事へのコメント
はじめまして。検索からたどりつきました。

花咲線、いちどは乗車してみたい路線ですが、釧路〜根室は特急バスで往復したことがあるのみです。

時刻表にも載っていない列車があるとは驚きですね。
乗車されたのもすごいですが・・・花咲線乗車をねらっていますので、貴記事を参考にさせていただきます。
Posted by たびこん at 2013年10月29日 23:39
JR釧路支社管内の時刻表及び花咲線内の携帯時刻表には掲載されています。また貴重なのはルパン三世ラッピングトレイン運用表に載らないのが幻となります。
同列車は季節列車扱いです。
夢空間☆花咲線の会 代表♂茉莉花
Posted by ♂茉莉花 at 2014年05月31日 21:14
先日(2016年1月22日)、釧路から花咲線で根室まで行き、根室よりタクシーで東根室駅経由花咲駅まで行きました。
前日までの雪が見事に晴れて大変よい天気でした。
当HPを拝見し、訪問時に撮った写真を確認したところ、東根室駅と花咲駅で撮った時刻表の写真に、時刻表になない電車が載っていることに気がつきました。
びっくりです。その時は全然気にがつきませんでしたが・・・。乗ってみたいですね。
Posted by 流山のくず野郎 at 2016年02月05日 23:07
コメント
ニックネーム: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
Powered by さくらのブログ
最近のコメント(ありがとう)