撮影禁止? 産経新聞『JR北海道に怒られた!』を考える

先日、インターネットのニュースを巡回していると、気になる記事が掲載されていました。
いや、気になるどころか、寝耳に水ともいえる出来事でした。

その記事とはこちら。

*産経ニュース
   北の鉄路を考えるF JR北海道に怒られた!の巻 帰ってきた令和阿房列車で行こう 第三列車
  2024/6/26

『北の鉄路を考える』シリーズは産経新聞で連続して掲載しているコラムで、JR北海道の列車で移動しながらの旅行記がメインですが、新聞記者らしく所どころに批判や批評も織り交ぜるという読み物でもあります。

その何が気になったかというと、上のリンク内の記事を引用させていただきます。

【産経ニュースより引用】
第三列車連載2回目が掲載された21日正午すぎだった。安全を確認し、乗客の顔が写らぬよう配慮してホーム上で撮った列車写真を、デジタルの産経ニュースから削除するよう求めてきたのだ。
【引用終わり】

記事の始めには『北の鉄路を考える』記事の2回目が掲載された日にJR北海道広報からメールが届いたとあります。
そのメールを要約すると以下の通り。

  • JR北海道敷地内での写真撮影を伴う取材は10営業日内までに申請の上取材あっせん書が必要(事後は不可)。
  • ホーム上・列車内での撮影は有料の立会人が必要。
  • 過去にホーム上で撮影された写真はデジタル版から削除すること、今後申請のない写真は掲載しないこと。

記事内のJR北海道広報からのメールの引用では丁寧な言い回しですが、内容的にはキツイものです。

このメールに記事を執筆した記者氏も相当憤慨したのか、
いつからJR北海道は、ホームなどでの列車撮影を事実上禁止している中国や北朝鮮並みになったのだろうか。
と記しています。

JR側がデジタル版から削除要請をしている画像を見ても、単なるスナップ撮影のようなもので、特定の意図を感じさせるものではないし、記者氏も特に意図は無いものと思われます。

この件については筆者の私見ながら、産経の記事だからJR北海道は当然記者氏の行動を『取材』と判断したからと思われます。
JR北海道は一応は私企業なので、当社の敷地内で取材をするなら広報を通じて許可を得てから、と言いたいことは良く分かります。

どこの会社だって、敷地内や店先で許可なく取材されて記事にされるのは好ましくないと判断するでしょう。
だからと言って、すでに掲載された画像まで削除せよというのは少々無理筋にも思いますが。

  ★   ★   ★

話が少々ずれてきたので戻します。
で、冒頭の『寝耳に水』とした一文がこちら。

【産経ニュースより引用】
「JR北海道のホームページには、個人の営利活動目的の撮影は『ご遠慮いただいている』としか書いてなかったけど」
【引用終わり】

記事の通り、これがJR北海道が禁止している事項ならば、今後は収入を得ている動画やブログ作成のための駅構内や列車内での撮影はできないことになります。
私ら鉄道で旅行してその旅行記ブログをWeb上に掲載している者にとっては、これらの話が飛び火してこないとも限りません。

で、その『撮影はご遠慮』云々の記載は、JR北海道HPのどこに記載されているのでしょうか。
なにぶん私も初耳なもので、ガセネタであることを期待しつつ、同社のHPをあちこち探してみます。

見つけたのがJR北海道HPのお問い合わせ/よくあるご質問の中にある『その他について』のQ&Aにありました。

【JR北海道HPより引用】
Q,JR北海道が保有する列車内や駅などの施設内で撮影することはできますか。(映画やドラマ、CM、各種SNS、動画共有サイトへの投稿など)

A,個人の営利活動における駅や列車内など弊社の保有する施設内での各種撮影はご遠慮をいただいておりますが、法人としての撮影でしたら内容によりご相談をお受けすることが可能です。
 <法人からの受付は(株)JR北海道ソリューションズへのリンクあり>
【引用終わり】(下線および山カッコ内は筆者追加)

これによると、個人の営利活動における撮影は不可、法人の場合は許可が必要ということになります。

引っかかるのは営利活動というもの。
『営利』とは何ぞや?ということになりますが、画像で1円でも収入を得たら営利になるのでしょうか?
ちょっと営利についてググってみます。

【goo辞書より引用】
営利(えいり)
財産上・金銭上の利益を得る目的をもって事を行うこと。

簿記では売上高から経費を差し引いたものが利益としています。
これで言うと、営利とは簿記でいう利益を目的とした行為ということになります。

当ブログも僅かですが広告料収入がありますが、利益というには程遠い状況です。
ていうか運営の目的はほとんど趣味です。

個人のうち営利活動を目的としていない者の撮影は制限の対象外ということになります。
さっきのQ&Aの中で『収益性のある動画共有サイト投稿などの営利活動を除く』場合はこのように記載されています。

【JR北海道HPより引用】
A:収益性のある動画共有サイト投稿などの営利活動を除いた個人的な趣味等での撮影については、安全上の問題がなく、他のお客様のご迷惑にならなければ、特に禁止をしているということはございません。
【引用終わり】(下線は筆者追加)

この『個人的な趣味等』が何をどこまで指すのかは定かではありませんが、趣味で運営している個人HP・ブログへの掲載ならば認められると解釈することができます。

よって、営利活動ではない当ブログの管理人である私は、今後も支障なく旅行記等の作成のための撮影を行うことができると判断しました。

  ★    ★    ★

一方で法人による撮影の場合はというと、株式会社JR北海道ソリューションズが行っているロケーションサービスが対応をしていて、関係個所との対応や立合いを行っているとあります。

こちらはTVや映画、CM、グラビア撮影を対象としているようで、確かに大型の撮影機材を持ち込んでスタッフに出演者が駅に出入りするとなると事前許可が必要になるのはわかります。

しかし今回の産経記事のように、ほぼ単独行動と思われる取材で、ホームからのスナップ撮影する程度でいちいち申請が必要とするならば杓子定規にも程があると個人的には思います。

ところでなぜJR北海道では駅や車内での撮影についてこんなにやかましくなったのでしょうか。

他の鉄道会社はどうなのだろうと調べたら、JR東日本のHPにも同様の記載があって、こちらもJR北海道同様に個人の営利活動における撮影は不可としています。
ていうか、このルールを設けたのは、JR東日本の方が先のようでした。

これは私人逮捕YouTuberがJR東日本内の駅で起こしたある事件が発端のようです。
そういった撮影が駅や車内の秩序を乱したり乗客に危険が及ぶことから、個人の営利活動の撮影を禁止する姿勢を打ち出したということになります。

対象者を『営利活動』としたのは、迷惑系YouTuberの締め出しを目的としたからでしょうか。
単順に撮影禁止では一般の利用客や観光客のスナップ撮影まで一律に禁止となってしまいますから。

ですが、駅や車内で撮影している人が営利活動なのかそうでないのか判別するのは不可能ですね。
掲載や投稿後のものになると、連絡して削除を求めるくらいしかなくなります。

それに、有名YouTuberとかならともかく、個人でアップされたものが営利活動かどうかを判別することは難しいですし、そんなところまで追いかけていたら、鉄道会社としてもそれだけで大変な業務となってしまいます。
そこまでしたところで、ただ人手やコストがかかるだけで何の生産性もない仕事ですからね。

toritetsu8709.jpg
個人の営利活動による撮影の禁止を打ち出したのは、過去に撮影者によって事件を起こされた鉄道会社としては、何らかの対応を取らざるを得なくなった結果とも受け取れます。

  ★    ★

件の『JR北海道に怒られた!』の話に戻ります。
この記者氏も記事は最後のほうにこんな一文を書いています。

産経ニュースより引用】
報道目的でホーム上で撮影した写真を掲載してはいけない法的根拠を示すよう(JR北海道に)お願いしたが、締め切りまでに明確なお答えがなかった。
【引用終わり】(カッコ内筆者追加)

JR側としても、法的根拠を示せと言われても無いに等しいのではないでしょうか。

筆者は法律に詳しいわけではありませんが、色々調べたら著作権や肖像権のあるものを対象としたものについてはともかく、日本国内では一般的な撮影を法で取り締まることはできないようです。

これが民事ならば、例えば駅や車内で目立つように『撮影禁止』の旨の掲示があれば、規約違反として撮影をとがめる立証ができるようです。
しかし今回の場合は、自社HPのQ&Aにさらっと書いてあるだけで、しかも後出しで言って来たとあっては難しいでしょうね。

DSCN7228.JPG
 駅には行為の禁止はあっても撮影目的に関する禁止事項の掲示は見当たらない。

なぜJR北海道は産経側に、すでに掲載された記事の画像削除と以後は申請せよと求めてきたのでしょうか。

ここからは筆者の推論ですが、JR北海道側が産経新聞の記事に自社構内で無断撮影された画像を発見して、それがルール違反とある以上は見過ごすことはできなかったということが考えられます。

新聞記事となると社会的な影響力も大きく、他のポータルサイトにも同記事が転載され多くの人の目につく記事となります。
またルールに定めのある『法人』が運営していることは明白です。
法人や個人の営利活動による無許可撮影を禁じているのに野放しにしておけば、こっちは駄目で、あっちはOKなのはおかしいという意見が必ず出てくるでしょう。

そんなわけで、JR北海道は企業の姿勢として、産経編集部に前述のメールを出さざるを得なかったのではないでしょうか。
また数ある新聞社の中には、なりふり構わない取材を行う記者もいたりするもので、それに対する警戒も込めているのかも知れません。

とはいえ、法人だろうと営利活動目的の個人だろうと、一律に撮影を禁ずるのは鉄道会社にとっても得策ではないでしょう。
なぜなら、鉄道敷地内で撮影する意図や目的は千差万別であり、また法人の全員がマスコミ関係者というわけでもなく。
公開される画像や動画の中には、鉄道会社の宣伝になったり、イメージアップになるものも多くあるはずです

鉄道会社側も、自社HPのQ&Aだけで公開しているだけというあたり、こういった事情もありルールを表立って主張したくはないとも受け取れます。
本気で営利活動目的の撮影を禁止したければ、駅や車内の誰でも目に付く場所にその旨の掲示をするはずだからです。

DSCN7218.JPG
 ホームに掲示された撮影での禁止事項。札幌駅ホームにて。

一律にルールで禁止すると自社の宣伝やイメージアップにつながるものまで一律に締め出してしまうことになります。
撮影禁止をことさら主張することで企業のイメージダウンとなることも想像に難くありません。

とにかく、迷惑系YouTuber等の締め出しを目的として、今のうちはグレーゾーンとして幅を持った解釈をできるようにしておきたいというところでしょう。
何度も言いますが、こんなルールをコストや人手をかけて適用すること自体、鉄道会社にとって何の生産性もないわけですから。

こんな例は世の中に数えきれないほどあるわけです。
全てのルールが明文化がされて取り締まることになったら、それはそれでギスギスした社会になるわけで。
それこそ産経記者氏の言う『中国や北朝鮮並み』の社会になってしまいますね。
(もっとも、筆者は両国へ行ったことがなく、実情までは存じ上げませんが)

今回のこともグレーゾーンとして、あまり白日の下にさらすような真似はしない方が良かったのかも知れません。
そういう意味では、今回の産経の記事も、とんだ寝た子を起こしたような記事だったように思えます。

いや、寝た子を起こすな的な考えからすると、今回のこの記事も書くべきではなかったのかも知れませんね。

でも書いちゃったから公開します。

〜最後までお読みくださいましてありがとうございました。


posted by pupupukaya at 24/06/29 | Comment(0) | 鉄道評論
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