新型コロナウイルスの感染者が日本国内で初めて確認されたのが2020年1月のことでした。
以降感染者が増加し、幾度もの緊急事態宣言等の行動制限が要請され、公共交通機関も大幅な利用者減を余儀なくされました。
そんなコロナ禍が3年間にもわたって続きましたが、2023年5月には感染症法の位置付けが2類から5類に変更され、行動制限は終了しました。
以降は様々な分野で活発な活動が戻ってきて、現在は少なくとも街中を歩いている限りはコロナなど既に過去の出来事のように思われます。
お盆や年末年始の繁忙期になると、新幹線や飛行機などの利用者数がコロナ前を上回ったというニュースも飛び込んできます。
一方では、リモートワークの普及による移動形態の変化により、交通機関の利用客はコロナ前には戻らないという話も聞きます。
こんなこともありましたなあ・・・
各交通機関がコロナ前とコロナ後でどう変わったのか。
これからどうなってゆくのか。
鉄道ファンの私からすると、気になっていたところでした。
6月になり、統計さっぽろ(月報)令和6年5月号 がHP上に公表され、これにより札幌市内の各交通機関の統計が2024年3月までのデータが揃いました。
これを機に、コロナ前だった2019年3月のデータと最新の2024年3月のデータを比較して、コロナ前とコロナ後の利用者数を比較してみることにしました。
JRの最新のデータは2024年4月が最新ですが、バスや市営交通機関のデータが3月が最新なので、それに合わせてJRも3月のデータを引用します。
数値は一日平均輸送人員となります。
月の総数しか掲載のないものは、総数から3月の日数である31を除した数値としました。
◆ JR北海道
まずはJR駅のコロナ前とコロナ後の利用客数を比較してみることにします。
国鉄だったころは誰もが汽車と呼んで、札幌市の交通ネットワークから外されていた感がありましたが、国鉄末期からJR化後にかけては新駅開業や列車の増発が相次いで行われました。
今では札幌都市圏の主要な交通機関として定着しています。
札幌市内駅の利用者数も、一部駅を除いてコロナ前までは一貫して増加傾向にありました。
市内駅の乗車人員を合計した総数が一番多かったのは2018年度で、年間の総数は約8145万人となっています。
下はその2018年度の3月と比較した数字です。
駅名 | 2019年3月 | 2024年3月 | 増減率 |
市内駅合計 | 211,481 | 183,661 | 86.85% |
1日当り 単位(人)
1日当り18万人台は、2004年頃の水準まで後退してしまったことになります。
(2004年1日当り市内駅合計数は181,842人)
コロナ前までの15年間は、札幌圏の都市輸送は稼ぎ頭として右肩上がりで成長してきたわけですから、経営基盤の弱いJR北海道にとっては大きな痛手です。
次は駅別の乗車人員を比較してみます。
こちらは数が多いので、増減のベスト10とワースト10を記します。
最初は増減率上位ベスト10です。
順位 | 駅 名 | 2019年3月 | 2024年3月 | 増減率 |
1 | 苗穂 | 4,636 | 5,659 | 122.05% |
2 | 桑園 | 10,101 | 9,948 | 98.48% |
3 | 稲穂* | 816 | 794 | 97.37% |
4 | 百合が原* | 729 | 709 | 97.29% |
5 | 新札幌 | 13,483 | 12,967 | 96.18% |
6 | 太平* | 810 | 773 | 95.42% |
7 | 発寒 | 4,382 | 4,008 | 91.47% |
8 | 八軒 | 2,400 | 2,187 | 91.10% |
9 | 発寒中央 | 4,349 | 3,949 | 90.79% |
10 | ほしみ* | 974 | 883 | 90.71% |
1日当り 単位(人) *印は無人駅
苗穂駅の増加率122%はダントツです。
2018年秋に移転して橋上駅となった苗穂駅ですが、それまで出入口が無かった北側にとっては新駅開業にも等しい出来事でした。
2023年には駅南北の再開発事業も完了し、駅前は南口も北口も見違えるようになりました。
空中歩廊がアリオ札幌まで直結するなど、利便性も格段に向上し、これからも発展が見込めるエリアです。
大発展を遂げた苗穂駅前。
それ以外の駅でコロナ前を上回った駅はありませんが、桑園は都心に割と近く、マンションの人気エリアを反映したものでしょう。
不思議なのは、なぜか稲穂、百合が原といった郊外駅が上位にランクインしていること。
無人駅なので統計では定期利用者しか計上していないこともあり、これらの駅は今回の考察からちょっと外す必要がありそうです。
あとは快速エアポートが好調な新札幌。
これについては後述します。
新札幌駅から段があって、発寒、八軒、発寒中央と西側の駅が続きますが、コロナ前比9割強という少々厳しいもの。
次いでワースト10です。
コロナ以降利用客の戻りが鈍い駅ということになります。
順位 | 駅 名 | 2019年3月 | 2024年3月 | 増減率 |
18 | 琴似 | 11,146 | 9,549 | 85.68% |
19 | あいの里教育大 | 3,481 | 2,976 | 85.49% |
20 | 新琴似 | 3,769 | 3,186 | 84.54% |
21 | 森林公園 | 3,852 | 3,221 | 83.62% |
22 | 札幌 | 96,201 | 80,134 | 83.30% |
23 | 上野幌 | 2,381 | 1,953 | 82.04% |
24 | 平和 | 2,617 | 2,146 | 82.03% |
25 | 星置 | 5,619 | 4,526 | 80.55% |
26 | 拓北 | 2,400 | 1,894 | 78.93% |
27 | あいの里公園 | 1,610 | 1,191 | 73.99% |
1日当り 単位(人)
ざっくりとですが、郊外駅が多くなっています。
こちらは、電車内の密を嫌ってマイカー等に移行した人たちが戻ってこないことが一番の原因でしょうか。
もう1つは、札幌市の人口動態が2020年をピークに以降は減少に転じており、特に郊外の区での減少幅が大きいことから、これらの駅も減少傾向にあるようです。
琴似駅と新琴似駅の減少率が大きいのが意外です。
この理由は、2019年10月に行ったJR北海道の運賃値上げにより地下鉄と比べて運賃面での有利さが無くなったこと、近年は冬季の運休や遅延が多く発生するようになり、それを理由に地下鉄へのシフトが起こったことが考えられます。
ちなみに、2023年度データでは桑園駅の乗車人員が琴似駅を上回るようになりました。
上の表の比較で見る限り、コロナ前に回復したといえる駅は、苗穂、桑園、新札幌くらいなもの。
(無人駅は前述の理由から外してます)
今年(2024年)3月のダイヤ改正で普通列車の本数削減が行われましたが、今後はコロナ前までの回復が難しいことを見込んでということが見て取れます。
札幌駅も83.3%と大きい減少率が意外ですが、これは郊外駅の減少と特急など長距離客が戻ってきていないことが大きいでしょう。
以下は別の統計になりますが、JR北海道ニュースリリースからの数字を引用します。
ご利用状況の変化について(5月15日定例会見資料)
区 間 | 2024年/2019年3月対比 |
特急列車 都市間主要3線区 | 79% |
快速エアポート | 112% |
特急の利用客はコロナ前の8割程度に留まっています。
最近はインバウンドの急増などで特急が混雑しているイメージですが、混雑は本数削減や短編成化の影響というのが大きいようです。
混雑している見た目と反対に、統計上の数字には現れていないことになります。
それに比べて好調なのは快速エアポート。
新千歳空港の利用客増加と、あとは北広島市にオープンした北海道ボールパークFビレッジの影響でしょう。
今後もボールパーク新駅の開業や、当別町からの北海道医療大学の移転も計画されています。
3月ダイヤ改正でも快速エアポートの好調が反映され、日中毎時5本→毎時6本に増便されました。
これからも発展が見込める路線です。
◆ 札幌市内バス3社
最近はバス運転手不足ということが社会問題となりつつあり、路線の廃止や減便といった話も目立つようになってきました。
バスの利用者数はコロナ前から毎年減少が続いており、コロナがあってもなくても過去年度と比較すれば減少していることは間違いありません。
コロナ前とコロナ後でどれくらい違うのか見てみたいと思います。
なお、中央バスとJRバス(ジェイ・アール北海道バス)は市外が起終点となる路線がありますが、それらを含んだ一般路線の数字です。
路 線 | 2019年3月 | 2024年3月 | 増減率 |
JRバス | 87,749 | 75,835 | 86.42% |
じょうてつ | 36,001 | 29,587 | 82.18% |
中央バス | 162,785 | 140,887 | 86.55% |
1日当り 単位(人)
こちらは3社とも8割台となっています。
もっと減っていると思いきや、意外と低い減少率に留まっています。
JRと違い、こちらは生活密着路線ということもあるのでしょうか。
路線別の増減はわからないので、ここでは総論としての考察となります。
JRの郊外駅と同様に、こちらもマイカー等へ移行した人たちがバスに戻ってこないのでしょう。
あとはコロナ以降、高齢者の外出控えが定着したこともあるのかも(ソースはうちの親)。
バスは日中の乗客は高齢者が多い。琴似駅前にて。
バスは郊外路線を数多く抱え、人口減少や高齢化の進行といったエリアが多く、今後発展が見込めそうな路線も少なそうです。
じょうてつバスの減少率が高いのは、早くから人口減少が続いている南区の郊外に多くの路線を抱えているからでしょうか。
コロナ前から一般バス路線は衰退している感がありましたが、コロナ禍で一気に進んだ感があります。
路線別に見ればともかく、全体としては残念ながらコロナ前回復というのは見込めそうにありません。
今後の課題は、運転手不足の中、路線をどうやって維持してゆくか。
路線や本数を減らしたら利用者が減り、利用者が減ればさらに路線や本数を減らすといった負のスパイラルにならなければ良いのですが。
◆ 札幌市営地下鉄
1971年に南北線が開業して以来、交通の主役の座となっています。
降雪量の多い札幌においては、地下鉄は無くてはならない交通機関です。
ラッシュ時の混雑などを見れば、すっかりコロナ前に戻った感じがありますが、統計上ではどうなのでしょうか。
路 線 | 2019年3月 | 2024年3月 | 増減率 |
総数 | 623,874 | 611,398 | 98.00% |
南北線 | 235,737 | 227,044 | 96.31% |
東西線 | 239,036 | 240,752 | 100.72% |
東豊線 | 149,101 | 143,602 | 96.31% |
1日当り 単位(人)
こちらはさすがに減少率は低く、総数で見ると98%まで回復と、ほぼコロナ前に戻ったといえましょう。
さすがは安定の地下鉄といったところでしょうか。
路線別では東西線が100%超えを達成。
これは沿線に人気エリアを抱えマンションが増えていることや、東札幌や新さっぽろなど再開発エリアの影響でしょうか。
冬場は何かと頼りない、JRからのシフトも多いと考えられます。
雪に100%強い地下鉄。自衛隊前駅にて。
線別では、東西線のほうが南北線よりも乗車人員が多いのが意外ですが、2016年に南北線と東西線の乗車人員が逆転しています。
これは南北線沿線は古くから開けていた地区が多く発展の余地が少なかったことや、地下歩行空間の開通でさっぽろ〜大通間の利用者が徒歩に流れてしまったことも大きいようです。
こちらも駅別の数字が気になるところですが、月報では駅別の乗車人員は公表されておらず、これは令和5年版の札幌市統計書の発行を待つしかありません。
◆ 札幌市電
札幌市電は、昔は市内交通の主役でしたが、地下鉄開業に合わせて路線を縮小して1路線となっています。
利用者は山鼻地区住民が主体という地味な路線で、中央区の人口減や学校の郊外移転などが重なり、利用者も長らく減少の一途となっていました。
その一大転機となったのが2015年12月の都心線開業と路線のループ化です。
この事業は一応は成功して、利用客が大幅に増加しました。
ですが、山鼻地区住民以外が積極的に利用することもないためか、ループ化開業翌年度以降は再び微減傾向にありました。
ではその札幌市電は、コロナ後はどうなったのでしょう。
路 線 | 2019年3月 | 2024年3月 | 増減率 |
市電 | 25,471 | 26,552 | 104.24% |
1日当り 単位(人)
こちらは他の交通機関に比べ、ぶっちぎりの増加率。
この3月度の1日当り26,552人は、ループ化初年度である2016年3月の27,952人に次ぐ数字になります。
利用客増の一番の要因は中央区の人口増加でしょうか。
中央区の人口が最低だったのは1995年の17万3千人。
そこから人口増加に転じて、2023年には25万4千人にもなりました。
28年間で8万人も増えたことになります。
沿線のマンションも急増し、特に山鼻西線などはマンションが林立している感もありますが、これら住民の足となるのが市電です。
もう1つ増加の原因として考えられるのが、石山通(国道230号)を通っているじょうてつバスからのシフト。
同路線は本数が多く市電と競合する関係でもありましたが、バスは最近は減便が続き分が悪くなった格好です。
市電のイメージも大きく変わった。狸小路にて。
すすきのや狸小路の再開発事業も完了し、新たな商業施設がオープンしてから沿線のブランド力を地味に増している札幌市電。
こうなると次の手は路線新設といきたいところですが、札幌市は「路面電車の延伸を行うことは極めて困難である」と結論付けています。
せめて新幹線の札幌開業に合わせて市電も・・と願いたいところですが、今の市長以下札幌市の政策としては公共交通への投資は行いたくない模様。
バスが急速に脆弱になっている中、市電の位置付けは重要になって来ていると私など思うのですが。
将来的に営業車の自動運転が実用化されれば、また状況は変わってくるのでしょうけど。
以上、JR、バス、地下鉄、市電と4部門に分けてコロナ前とコロナ後の数字を比較してみました。
数字はすべて札幌市の統計からの引用ですが、付け足しの文章はすべて筆者の感想です。
同じ数字でも、見方によっては全然違う考え方もあることでしょう。
それでは今日はこのへんで。
〜最後までお読みくださいましてありがとうございました。
【鉄道評論の記事一覧】
- JR札幌駅の券売機は東コンコース利用が便利です
- 2025年3月15日JR北海道ダイヤ改正について考える
- 室蘭駅無人化と今後のきっぷ形態を考える
- 撮影禁止? 産経新聞『JR北海道に怒られた!』を考える
- もしも北海道新幹線が〇〇だったら
- 大幅に減便となるじょうてつバス真駒内線
- 2024年3月16日ダイヤ改正、新体制の快速エアポートを見る
- 仙台市内発仙台市内行、一筆書き乗車券
- 2024年春ダイヤ改正とエアポート増発
- 実際に列車に乗って小樽〜余市間の存続問題を考える
- 北海道医療大学が移転するらしいです
- 有珠山噴火災害による室蘭線不通時の函館山線迂回運転ついて考える
- 2023年ダイヤ改正で変わる石北特急
- 寝台特急列車は残せなかったのか
- 鉄道連絡船復活は並行在来線問題の切り札となるのか
- 北海道新幹線並行在来線 函館〜長万部間は存続できるのか
- 北海道新幹線の並行在来線問題を考える
- JR北海道2022年3月ダイヤ改正に思うこと
- 新千歳空港−旭川の直行列車は可能なのか
- 特急宗谷に乗って宗谷線の今後を考える