年々寂しくなる一方の北海道の鉄道。
そんな中で唯一の希望が北海道新幹線札幌開業であります。
2030年度開業を目指して目下建設中。札幌駅周辺でも本格的な工事が始まっています。
私など、新幹線を首をなが〜くして待っているわけですが、先日残念なニュースが飛び込んでまいりました。
*30年度札幌延伸、断念表明 北海道新幹線 工事難航、遅れ数年単位
(北海道新聞デジタル2024年5月8日)
トンネル工事の難航で4年ほど遅れているというのは前から伝えられていましたが、工期短縮を図っても遅れを取り戻せないとの判断から今回の発表となったものです。
どこかのリニアのように人為的な開業延期と違って、難工事という不可抗力が原因ということがせめてもの救いでしょうか。
ともかく、まずは安全第一で工事をやってもらいたいものです。
札幌駅西側の新幹線工事現場。
それにしても、新幹線が札幌に来る頃には私は何歳になっているのだろう、なんて考え始めたら少々気が遠くなりそうです。
こちらも若くはないのでね。
とは言え、いち個人が気をもんだってどうしようもありません。
こちらはこちらで、自由な想像をしてみることにしました。
そんなわけで、少々お付き合い願います。
◆ もしも北海道新幹線が着工されなかったら
東北新幹線は2010年12月に八戸〜新青森間が開業し、全線開業となりました。
北海道新幹線の新青森〜新函館北斗間は、それに先立って2005年から着工されていますが、それが無かったとしたらどうだったのでしょうか。
本州〜北海道間の鉄道は、半永久的に在来線のみでやってゆく想定です。
まずは、新青森〜函館間を走っていた特急『白鳥』『スーパー白鳥』は現在も走り続けているでしょうね。
同区間の789系電車は札幌にやってきて『ライラック』となることはなかったわけです。
東北新幹線、新青森開業時の運行体系は変わることなく続いていることでしょう。
あと気になるのは、2016年の北海道新幹線新函館北斗開業と引き換えに消えていった本州〜北海道を結んでいた夜行列車たち。
東北新幹線新青森開業後も毎日運転の『北斗星』を筆頭に、週3日運転の『カシオペア』、週4日運転の『トワイライトエクスプレス』それに急行『はまなす』と4本の列車がありました。
新幹線よりも、なんだかこっちのほうが楽しそうですね。
ですが2024年の現在では4本揃って残っているとはちょっと考えられません。
その理由は車両の老朽化。
『北斗星』『トワイライトエクスプレス』については車両の製造が1970年代という古いもの。
一番新しいものでも2024年の今では車齢が40年以上、しかも肝心の機関車はそれ以上に老朽化とあっては、やはり現実世界で北海道新幹線が開業した2016年あたりが限界だったと思われます。
『カシオペア』は1999年から運行を開始した一番新しい車両なので、現在でも走り続けていた可能性が高いです。
しかし、機関車の老朽化は避けられない問題です。
もしかしたら『TRAIN SUITE 四季島』のE001形みたいな車両が新製され『北斗星』の後継車となっていたかも知れません。
JR東日本が夜行列車運行に意欲的であったならばの話ですが。
食堂車もどうなっていたのかなあ。
車内販売も消えつつある昨今、経営的には厳しそうですね。
よくそこらで聞く、北海道新幹線がなかったら夜行寝台列車は廃止されなかった、などという単純なものでもないようです。
青森〜札幌間を結ぶ急行『はまなす』は、地味ながら東北新幹線に接続するビジネス列車的な性格もあり、これら夜行列車の中では一番最後まで運転されていました。
札幌〜本州間だと、昼行では所要時間が掛かりすぎるという事情もあります。
ですが、『はまなす』で使用されていた14系客車は、2024年現在も残っているとしたら製造から50年以上。
こちらもさすがに客車列車としての運行は無理でしょう。
もし2024年現在で『はまなす』が運転されているとしたら、昼間の特急『北斗』の間合い運用ということになったでしょうか。
北海道内は自走し、津軽海峡線内は電気機関車で牽引されて走行という形。
機関車牽引による青函トンネルへの気動車の入線は、『ノースレインボーエクススプレス』による臨時列車で実績があるので、不可能ではありません。
青森駅で機関車を開放すれば新青森駅発着とすることもできるわけです。
そんなバカな、と仰る声も聞こえそうですが、もしもの話なので勘弁してつかわさい・・・
それにしても、北海道から東北へは新幹線が無いほうがむしろ近かった気がするのは私だけでしょうか。
北海道新幹線開業ですっかり縁遠くなってしまった気がします。
◆ もしも北海道新幹線が長万部〜札幌間先行開業をしていたら
あまり知られていませんが、今行われている新幹線工事とは別に、北海道新幹線札幌延伸への着工が決定したことがありました。
下は2008(平成20)年12月17日の北海道新聞朝刊一面記事。
北海道新聞2008年12月17日朝刊の切り抜き(筆者所有)
記事の内容は、政府・与党による整備新幹線ワーキンググループ会合で、北海道新幹線の長万部〜札幌間の2009年着工で合意したというもの。
北海道新幹線については、新青森〜札幌間のうち新青森〜新函館(仮称)間は2005年に工事着工となっていましたが、未着工区間の一部である長万部〜札幌間はこの合意により先行開業する。
さらに、新幹線の札幌延伸は事実上確定し、完成予定は2019年度との記載もあります。
これが実現していたら、2016年春に北海道新幹線の新函館北斗開業。
それに続いて2020年春には長万部〜札幌間が開業していたことになります。
新函館北斗〜長万部間については特急『北斗』が、途切れている両新幹線を結ぶリレー特急となっていたことでしょう。
長万部駅での乗り継ぎは、今の西九州新幹線での『かもめ』と『リレーかもめ』で武雄温泉駅で行われている同一ホームでの対面乗り換えとなれば便利ですね。
さらに、長万部〜札幌間は飛び地新幹線になってしまうあたりも西九州新幹線と似ています。
それとは別に、『北斗』は新幹線がない室蘭・苫小牧方面への連絡があるために、数往復は札幌発着で存続していそうです。
そうであれば、札幌から函館へは行きは新幹線で、帰りは在来線でなどという選択もできそうです。
新幹線駅が先にできていたかも知れない長万部駅構内。
函館に行くにも東京行『はやぶさ』に乗るにも長万部で乗り換えになるのが面倒ですが、対面乗り換えと大幅な時間短縮となることから大変便利にはなっていたことでしょう。
この長万部〜札幌間先行開業が実現していたら、一体どのようなダイヤになっていたのかが気になります。
ここで現在の『北斗2号』『はやぶさ18号』のダイヤをベースにして以下の乗り継ぎ時刻をシミュレーションしてみました。
札幌〜長万部間の所要時間は、国土交通省のHP内にある、
第9回整備新幹線小委員会 配布資料 - 『(別紙)収支採算性及び投資効果に関する詳細資料』
から作成しました。
札幌〜長万部間は倶知安通過の速達タイプで所要時間38分30秒、長万部で接続時間は武雄温泉駅を参考に3分30秒とします。
北斗2号とはやぶさ18号の時刻は現在の実際のもの(2024年3月16日改正版)を使用しました。
で、作成してみたのがこちら。
列車名 | 新幹線 | 北斗2 | はや18 | |
札幌 | 発 | 7:27 | ||
長万部 | 着 | 8:05 | ┓ | |
長万部 | 発 | 8:09 | ||
新函館北斗 | 着 | 9:18 | ┓ | |
函館 | 着 | 9:33 | ┃ | |
新函館北斗 | 発 | 9:35 | ||
仙台 | 着 | 12:29 | ||
東京 | 着 | 14:04 |
札幌発時刻は7:27となり、長万部乗り換えで函館着は9:33になります。
札幌〜函館間の所要時間は2時間06分となり、函館がとても近くなります。
(現在の同区間所要時間は北斗2号の3時間33分が最速)
もう少し頑張れば2時間を切ることも可能でしょうか。
ライバルである飛行機や高速バスに対し、所要時間では圧倒的な差をつけたことでしょう。
札幌から見れば、函館は完全に日帰り圏となっていたことは間違いありません。
当初予定通り2020年春に開業していたとしたら、開業早々その後3年間続くことになった新型コロナによる乗客減の直撃となっていたかも。
どうも北へ伸びる新幹線は受難が多いような気がします。
それはともかく。
仮に2009年に工事着工しても、札幌駅のホーム問題や札幌市内の地下化、あとトンネル掘削土の処理や羊蹄トンネル内の岩塊の問題は発生したわけで、こちらも数年遅れての開業となった可能性は高いです。
この長万部〜札幌間が先行開業の世界は、いろいろ考えさせられるところがあります。
これが実現していたら北海道の経済や交通体系はどうなっていたのでしょう。
並行在来線となる函館山線がどうなっていたかも気になるところです。
話を現実の世界に戻します。
2008年には着工が決定し、予算も配分されて札幌に来ることが決定した北海道新幹線でした。
ところが政治により決定した整備新幹線着工は、今度は政治によって覆されることになります。
翌年2009年の衆議院選挙では民主党(当時)が大勝。
これによって、それまで与党だった自民・公明は野党に転落します。
民主党が政権交代によって与党となると、まず始めたのが前年度に自公政権が決定した予算の執行停止でした。
それと同時に、決定されていた政策や事業も次々に見直しを始めることになります。
事業見直しは、新規着工が決定していた整備新幹線にもおよび、長万部〜札幌間先行開業も白紙に戻された格好となりました。
一方で工事が開始されていた新青森〜新函館北斗間は工事が継続され、当初の計画通り2016年春に無事開業しています。
北海道新幹線開業日が決まり、垂れ幕が掲げられた函館駅。
当時の民主党のキャッチフレーズは『コンクリートから人へ』。
道路やダム建設など、とにかく公共事業の誘致によって支持を得る、それまでの与党への反発でもあったのでしょう。
そうした政策は、一時的には国民の支持を得ます。
しかし、2011年3月に発生した東日本大震災は、インフラ整備の凍結といった民主党の方針を大きく変えることとなりました。
これにより整備新幹線に対する風向きが変わります。
2011年12月、白紙に戻された整備新幹線3区間の着工が決定しました。
北海道新幹線は、今度は新函館(仮称)〜札幌間の工事申請となり、翌2012年6月に認可され工事着工に漕ぎつけます。
開業時期は2015年度開業予定の新青森〜新函館(仮称)間から概ね20年後とされ、札幌開業は2035年度とされました。
2012年の衆院選では民主党が大敗、再び自公政権に戻り長期政権となる第二次安倍内閣が発足します。
2015年、政府・与党申合わせで整備新幹線の開業前倒しの方針が示され、新幹線札幌開業は5年前倒しの2030年度に決定しました。
2030年度とされた開業予定は、この方針を受けて決まったものです。
そういうわけで、今回の札幌開業延期の話は、政府によって前倒しされた予定が元に戻っただけとも言えます。
とはいえ、今のところ鉄道・運輸機構が『2030年度末の開業が極めて難しい』という発表をしただけなので、今後の進捗によっては、計画通り2030年度末の開業がワンチャンないわけではありません。
しかし、札幌市による2030年札幌冬季オリンピック誘致断念となった今、その可能性はかなり低そうです。
今回の開業延期はちょっと(相当?)がっかりしましたが、そうがっかりばかりもしていられませんね。
以上、北海道新幹線の着工が無かった世界と、長万部〜札幌間が先行開業していた世界を想像してみました。
最後になりますが、この記事を書いていて、新幹線というものはとにかく政治に振り回されるということを思い知らされました。
〜最後までお読みくださいましてありがとうございました。
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