JRの乗車券を発行する際にルールというか大原則というのがありまして、例えばJTB時刻表の『JR線営業案内のページ』にある『運賃計算のルール』の項目に、運賃計算の基本原則としてこうあります。
“一度通った駅を再度通る場合はその駅で打ち切って計算します” |
(JTB時刻表より引用)
乗車券の運賃は、実際に乗車する経路の営業キロ(および擬制キロ)で計算し、同一方向に連続する限り営業キロを通算するということになっています。
同じ駅を2回通ったり、区間が重なったりしない限りは、どこまでも通算することができるわけです。
このルールを最大限に活用したのが『最長片道切符』と呼ばれるもので、北海道から九州までジグザグに移動する、距離にして約1万700kmという壮大なルートの乗車券です。
最長片道切符というのは極端な例ですが、片道ルートでけでなく、一筆書きルートならば、発駅からぐるっと1周して同じ駅に戻ってくる乗車券も発行可能です。
JRの運賃は1km当たりの賃率から求められており、この賃率は距離が長くなれば低くななります。
特に600kmを超えた分からの賃率はグンと安くなっており、遠距離の乗車券は単純往復で買うよりも、ぐるっと1周するように買ったほうがお得ということになります。
で、今回仙台から東京まで往復するのに買ってみたのがこちらの乗車券。
仙台市内→仙台市内の乗車券。
経由欄が、『仙台・新幹線・大宮・東北・三河(三河島:常磐線)・逢隈(常磐線)・東北』とある、まさしく一筆書き1周乗車券です。
(カッコ内は筆者追加)
営業キロは707.3kmで10,340円。
仙台市内〜東京都区内の乗車券を往復で買うと12,100円だから、往復に比べて1,760円安くなりました。
この経路を図で示すと以下のようになります。
上記仙台市内→仙台市内乗車券のルート(筆者作成)
仙台市内→仙台市内というのがどこか奇妙な乗車券ですが、これは仙台駅から201km以上ある駅との乗車券は『特定の都区市内駅を発着する場合の特例』が適用され、仙台市内発着となるためです。
これは1周乗車券でも例外なく適用となります。
あとですね、このブログの読者諸氏であればお気づきになられた方も多いでしょうが、岩沼〜仙台間の扱い。
運賃計算に使う営業キロの計算は、新幹線は並行している在来線と同じ線として扱うという原則があります。
岩沼駅は東北新幹線に並行する東北本線の駅ですから、岩沼〜仙台間が複乗となってしまい、1周とはならないのでは?という疑問。
実は札幌駅みどりの窓口で上記の乗車券を買う際、最初窓口氏に同じことを指摘されました。
結論から言うと、仙台〜福島間を新幹線経由とすると、岩沼〜仙台間は新幹線と在来線は別線扱いとなるんですね。
JTB時刻表を見ると、新幹線と在来線とを別の線として運賃を計算する区間がいくつか定められていて、この場合で言うと福島〜仙台間が該当します。
これは中間に在来線と接していない白石蔵王駅が存在するからでしょう。
“〜前略〜 区間内の各駅※(両端の駅を除く)を発駅・着駅または接続駅とする場合には、新幹線と在来線とを別の線として運賃を計算します。” ※筆者注:この場合は福島〜仙台間 |
(JTB時刻表より引用)
なんだか文面だけじゃよくわからない特例ですが、図にすると以下のようになります。
1周しても常磐線から岩沼が接続駅となるために片道乗車券として成立する(筆者作成)
仙台発新幹線経由で福島へ、ぐるっと回って今度は常磐線から東北本線に入る場合、岩沼が接続駅ということになるわけです。
これで岩沼〜仙台間の新幹線と在来線が別線扱いとなる特例が成立することになります。
逆に言えば、仙台〜福島間を在来線経由とすると、運賃計算は岩沼で打ち切りとなります。
この場合は岩沼〜仙台間の乗車券を別に買う必要があります。
★ ★ ★
もう1つ注目したいのが東京側。
こちらの経由駅が日暮里となってしまうのが不便な感じがします。
ルート的に、東北本線から来て常磐線へ入るので日暮里経由となるのは仕方がありません。
特急『ひたち』は日暮里は通過しますから、『ひたち』に乗るためには一度上野駅か東京駅まで行く必要があります。
それ以前に、東北本線の列車はすべて日暮里には停車しません。
こういった不便を解消するために『特定の分岐区間の区間外乗車』という特例が設けられています。
その1つの区間が日暮里〜東京間。
JR東日本:特定の分岐区間に対する区間外乗車の特例より画像引用
西日暮里駅以遠の各駅と三河島以遠の各駅相互間の乗車券を持つ乗客は、日暮里〜東京間を折り返し乗車できますよということ。
これは新幹線で上野や東京発着となった場合でも同様に適用となります。
ただしこの場合は日暮里〜東京間で途中下車できないので、もし東京駅で降りたい場合は日暮里〜東京間の乗車券を別に買う必要があります。
またこれとは別な特例もあって、下図の太線区間を通過する場合は、実際の乗車経路にかかわらず最短経路で運賃・料金を計算するという決まりがあります。
もちろん同じ区間を2度乗ったり同じ駅を2度通ったらダメですが、101km以上(東京近郊区間内のみは除く)の乗車券であれば何度でも途中下車できます。
JR各社の旅客営業規則の第70条に記載されているので、いわゆる『70条区間』などと呼ばれているものです。
JR東日本:東京付近の特定区間を通過する場合の特例より画像引用
今回の場合は、湘南新宿ライン等を利用して赤羽から池袋・新宿経由と乗車すれば、途中下車し放題となります。
券面には日暮里経由とありますが、様々な特例を知っていれば、かなり自由度が高くなりますね。
なぜ今回このような乗車券を購入したのかというと、札幌から仙台まで飛行機利用で、そこから宇都宮に行く用事があって(用事というか旅行ですが)仙台から新幹線で単純往復するのもつまらないし、面白い乗り方はないかと思って考えついたものです。
仙台から宇都宮まで、新幹線『やまびこ』で『トクだ値10%OFF』利用だと往復15,040円。
1周乗車券+仙台〜宇都宮間自由席特急券+特急ひたち(チケットレス35%OFF)だと合計15,750円
単純往復と比べて710円しか違わないし、東京側の山手線内の駅ならばほぼ途中下車もできるので、かなりお得だと思いました。
宇都宮〜東京間は、湘南新宿ラインの快速を利用すれば、宇都宮〜池袋間だと所要1時間30分程度なので新幹線を使うまでもないでしょう。
それに宇都宮から新幹線に乗っても、池袋・新宿経由とするためには大宮で下車しなければなりません。
ちなみに仙台から東京まで新幹線で往復すると、『トクだ値10%OFF』利用でも19,580円となります。
きっぷ | 区間 | 値段 |
乗車券 | 仙台市内→仙台市内 | 10,340円 |
自由席特急券 | 仙台→宇都宮 | 3,530円 |
チケットレス特急券 | 東京→仙台 | 1,880円 |
合 計 | 15,750円 |
もっとも、特急『ひたち』だと、東京〜仙台間で4時間半以上もかかるので、ほぼ列車に乗りっぱなしということになってしまいますね。
私は列車に乗っているのが好きなので、むしろこの方が嬉しいのですが。
最近は『トクだ値』をはじめとするインターネット専用の割引商品や、各種フリーきっぷを利用することが多くなり、またそちらのほうが安かったりするので、普通乗車券を買って特急や新幹線の利用をする機会がめっきり減りました。
しかしたまに大型時刻表など買ってきて、巻末の営業案内などを参照して運賃計算のルールや様々な特例を知ると、思いもかけず安くなる区間を発見できたし、また各種運賃計算ルールについて詳しく知ることができました。
ただこれは、私がとにかく列車に乗っていることが好きなので選択できたルートなわけで、世間一般ではこんな時間がかかって面倒なルートを選択してまで節約しようという人はそうそういないでしょう。
だけど時間がかかっても節約したい、あるいは鉄道の旅そのものを楽しんでかつ節約したい人にとっては十分アリのルートなのではないでしょうか。
なお、今回は仙台市内→仙台市内としましたが、東京都区内→東京都区内のルートでも同じように一筆書きルートが成立します。
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