実際に列車に乗って小樽〜余市間の存続問題を考える

北海道新幹線の並行在来線として、函館本線の函館〜小樽間は経営はJR北海道から切り離されることが決定しています。

このうち、長万部〜余市〜小樽間の通称山線と呼ばれる区間は、バス転換が決定し鉄道としては新幹線札幌開業と引き換えに廃止されることになりました。
新函館北斗〜長万部間は、貨物専用鉄道として存続する流れのようです。

で、その廃止がほぼ決定した函館山線のうち、小樽〜余市間についても鉄路廃止・バス転換決定と聞いたとき、個人的には疑問に思ったところでもありました。
私自身は同区間の列車を頻繁に利用しているわけではありませんが、昔からこの区間だけはいつ乗っても混んでいるという印象がありましたから。
朝夕は札幌直通列車もありますし、広域の札幌圏という位置づけでもある鉄道でも存続不可能ということには驚きでした。

しかしバス転換と決まってしまったものは仕方ないし、残念なことだけどあるうちに乗っておかなければ・・くらいに思っていました。

ところがですね、ここ最近インターネットのポータルサイトなんかで、小樽〜余市間について存続に向けた記事を目にするようになりました。
単なる反対運動や市民運動ではなく、鉄道存続に向けた新会社の設立に向けた動きがあるとの報道もあります。
とはいえまだ関係者で模索している段階で、具体的な話はまだまだこれからということになるのでしょう。

そんな函館本線の小樽〜余市間ですが、その実態をこの目で見るべく、2023年10月のスポーツの日三連休の日曜日、札幌から余市まで往復してみました。

とりあえずは、余市までの乗車記から始めさせていただきます。

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 721系電車の快速エアポート95号。

余市までの旅は札幌駅から。
札幌発10時13分発快速『エアポート95号』で出発します。

ホームに上がってびっくり。
自由席はどの乗車口も長蛇の列。
さすが観光都市である小樽へ向かう列車だけのことはあります。

新型コロナウイルスが収束したのかどうかはわかりませんが、すでに人々の関心ごとからは遠ざかって過去のことになりつつあります。
今年になってから観光地はどこもV字回復とばかりに混雑しているのを目にするようになりました。

私は1人だし、荷物も特にないので立ちっぱなしでも構わないんですけど、通路まで立ち客びっしりなのは恐れ入りました。
乗客の恰好や聞こえてくる話から、ほとんどが小樽への観光客。
関西なまりが妙に目立ちます。

琴似、手稲と停車するも車内の動きはほとんど無し。
まさに小樽への観光列車ですね。

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 札樽間の車窓の友は風光明媚な石狩湾。

銭函を過ぎると石狩湾沿いの区間に出ます。
今日は秋晴れで空気も澄み、遠く増毛連山まで見通すことができます。
混んでずっと立ちっぱなしの車内ですが、この景色だけは列車にして良かったと思えるところ。

途中の小樽築港ではなかなか発車しない。
「ただいまお客様対応を行っています」とのアナウンス。
終点小樽には4分遅れで到着しました。

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 倶知安行普通列車が待つ小樽に到着。

小樽駅の5番ホームに着くと、向かいの4番ホームで倶知安行普通列車が快速エアポートからの乗り換え客を待っています。
6分接続のところ4分遅れ着なので、残り2分間しかありません。
ホームは乗車促進のためでしょうか、普段は聞かれない発車ベルが響いていました。

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 倶知安行デクモことH100形気動車。

小樽10時53分発倶知安行は、デクモと呼ばれるH100形気動車2両編成。
快速エアポートから乗り継ぐ人は予想以上に多く、車内はデッキや通路まで立ち客で埋め尽くされるほどになりました。

とうに発車時刻は過ぎていますが、混んだ車内にさらに乗客が乗り込んできます。
ラッシュもかくやと思えるほどの乗車率。
H100形の定員は99人なのですが、確実にそれ以上乗っているでしょう。
2両で200人以上乗っているのは確実ですが、300人程度は乗っているんじゃないかと思えるほどでした。

運転士が、もう乗車してくる客がいないことを確認してドアを閉めます。
私はというと、体のでかいアメリカ人観光客の後ろ。幸い窓越しに外は見えるので、余市までは車窓を眺めながら行きます。

インバウンドといえばアジア各国からの訪問が中心ですが、最近はアメリカ人訪日客が増えているらしく、あちこちでアメリカ人と思しき観光客を目にするようになりました。
空前の円安ドル高とあっては、アメリカからするといま日本に行かなくていつ行くんだといったところでしょうか。

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 塩谷駅に停車。

小樽では4分遅れで発車します。
すぐに始まるオタモイ峠越えの20パーミルの登り勾配が始まりますが、デクモは60km/hを維持して軽快に登ります。
塩谷で1分遅れまでに回復したかに見えましたが、デッキが混んでいるために乗降に時間がかかり、遅れ回復までは至りませんでした。

運転士も放送で「降りる方は前のほうへ」と呼びかけます。
無人駅では前乗り前降りなので、奥のほうに乗ってしまうと乗客をかき分けて出口へ行かなければならないから大変です。
これは次の蘭島でも同様でした。

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 塩谷の海岸を見下ろすスポットも枝葉が茂って見通しが悪く。

塩谷を発車してしばらくすると、山の上から塩谷湾を見下ろすポイントがあるのですが、今は線路わきの枝葉が茂ってしまい眺望は悪くなってしましました。
それでも立っていると目線が少しだけ高くなり、枝葉越しに一瞬塩谷湾を望むことができます。

蘭島から余市の手前までは山線でも数少ない直線区間となり、列車も90km/hまでスピードを上げます。
この辺りはローカル線に落ちぶれたとはいえ、かつては特急『北海』も運転されていた本線の本領を発揮します。

まもなく余市です。

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 多くの乗客が下車する余市駅に到着。

案の定、乗客のほとんどは余市で下車しました。
誰もがヤレヤレやっと着いたと言わんばかりに、跨線橋へ改札口へと向かいます。

残った倶知安行きはというと、車内は座席が8割方埋まるくらいの乗車率。2両合わせて50人程度といったところでしょうか。
ざっくりとですが、車内に残った人数を差し引くと、余市で200人近くが下車したことになります。
実際に数えたわけではないので正確な数字ではありませんが、車内の乗車率を考えると150人を下回ることはないことは確実です。

そのほとんどは観光客。
午前中ということを考えても地元の客ではありませんね。
余市の観光人気もなかなかのものです。

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 改札口の渋滞。

その今着いた百何十人もの乗客を1口の改札口と1人の駅員でさばくわけですから、改札口から跨線橋の階段まで行列ができます。

今日は余市で何かイベントでもあるのか、と思いたくなるような混雑ですが、昔から午前中の小樽発の上り列車は大抵こんな感じでしたね。
小樽から立ち客も乗せて出発し、余市でほとんど下車するというもの。
過去の記憶では、余市を発車すると車内はガラガラなんてこともありました。

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 列車からの下車客で駅前は賑わう。

このたくさんの下車客はどこへ向かうのかというと、1つは十字街を直進してニッカウヰスキーへ。
もう1つは左折して柿崎商店へ。
ここの2階は海鮮工房柿崎になっていて、海鮮ものが安く食べられる店として人気だったのですが、今やすっかり有名店になってしまったようです。
今日もまだ11時半前というのに、外の歩道にまで行列ができていました。

ここの店内は広くて回転も早いので、それほど長く行列に並ぶこともないと思いますが、今日はちょっとやめておきます。

次いでニッカウヰスキーに行ってみると、正面入口は完全予約制のガイドツアー申込者しか入れないとのこと。
ニッカミュージアムは予約なしで入場できるが、入口は反対側の駐車場側からのみ。
ここからだと相当な遠回りだし、別にニッカ目的で来たわけではないので今回はパス。

折り返しの列車までは駅の中や周りをあれこれ見て過ごしました。

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 クマの噴水と余市駅。

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 幅広の余市駅1番ホーム。

駅前広場にクマの噴水を見つけたり、自転車置き場から幹線時代の名残を残すホームを撮影したりして過ごします。
妙に幅の広い余市駅1番ホームは立派ですね。
昔の名残りということもあるのでしょうが、あとでこの幅広ホームの訳がわかります。

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 改札口上の乗車口案内。

11時40分頃、駅は次の列車を待っているらしい数人がベンチに座っているだけといった、ローカル線らしいのんびりとした光景。

今のうちに戻りの切符を買っておこうと窓口で「小樽まで」と言うと、駅員に「次の小樽行は12時31分ですけど大丈夫ですか?」と聞かれました。

小樽行の発車は50分後。
バスのほうが本数が多いので、急ぎならばバスでということなのでしょう。
それでも大丈夫と伝えて、小樽までの乗車券を買います。


 ◆ 余市駅の利用実態

ここで、余市駅を取り巻く状況と利用状況について見てみたいと思います。

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 余市駅の発車時刻表。

余市駅の発車時刻表を見ると、午後は1時間に1本というペースなのですが、午前中はダイヤの空白が目立ちます。

朝の通勤通学時間帯である7時台8時台はそれぞれ2本ありますが、その次の午前中の列車は10時27分があるだけ。
今待っている次の12時31分発の列車は、前の列車の2時間04分後ということになります。

余市から小樽・札幌方面へ行きたい人にとっては、お世辞にも便利なダイヤとは言い難いですね。

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 中央バス案内所にあるバスの時刻表。

こちらは同じ駅舎内にある中央バス案内所に掲示の時刻表。
余市駅から小樽へのバス路線は、主に駅から少し歩いた余市駅前十字街のバス停から発着します。
こちらは路線バスと都市間バスを合わせて1時間当たり3〜4本をキープしています。

本数だけ比較すると、小樽〜余市間の利用客はバスがメインのように思えますが、そうとも言えないのがこの区間の不思議なところです。
さっき十字街のバス停で小樽駅前行ニセコバスを見ましたが、旅行者らしい4人が乗っただけで、それ以外にバス停に人は見ませんでした。

このバスの本数も、昔に比べたら大分本数が減っていて、たとえば小樽駅と余市梅川車庫の間を運行している中央バス余市線の時刻表を比べてみると、2004年時点では日中は20分間隔(1時間当たり3本)の本数があったことがわかります。

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 小樽〜余市間毎時15〜20分間隔だった頃(道内時刻表2004年12月より引用)

それが今では同じ余市線の本数は、日中は1時間に1本となっています。
最近は運転手の不足から減便せざるを得ない事情もあるのでしょう。
それでも過去の1/3までに減便されたということは、利用客減少が止まらないということが見て取れます。

それに対して鉄道はというと、午前中の小樽方面が不便なのは同じですが、20年以上変わらない本数をキープしています。
こちらも利用者は減り続けているのかと思いきや、数字を見るとそうでもないのですね。

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 余市駅乗降客数推移グラフ。統計情報リサーチ(元は国土数値情報)のデータより筆者作成。

上のグラフは余市駅の1日当たり乗降客数を表したものです。
2011年度からコロナ前の2019年度まで、ほぼ横ばいで推移していることが分かります。

2020年度はコロナウイルスによる行動制限のための異常値とみることができますが、コロナ後は2019年以前の水準にまで戻るかどうかは不明です。

コロナ時は別として、札幌近郊駅ならば乗降客数は右肩上がりですが、それ以外の地方の駅ならばどこも右肩下がりの中、余市駅の成績はなかなかの健闘っぷりです。

それでも絶対数が多いわけではなく、道内の駅別乗降者数を1位から並べると50位以下となるほどの数字になってしまいますが、余市駅と同等の乗降者の駅を並べるとこうなります。

駅名
北見1,350
室蘭1,262
富良野1,192
(2019年度1日平均)

こうして見ると余市駅の位置付けは、乗降客数だけで言えば道内の主要駅に劣らない駅といえます。
どの駅も廃止の話は今のところ聞きませんからね。
(富良野〜新得間が来年4月の廃止が決定していますが、富良野駅は存続します。)

この余市駅は、この10年近く(コロナによる減少を除けば)乗降客数が横ばいを維持しているのが本当に不思議に思えます。

ここで余市駅の立地をちょっと考えてみましょう。

・駅前に古くからの商店街はあるが、駅前にあるものといえばそれくらい。
・駅裏にショッピングセンターがあるが、駅からのアクセスが良いとは言い難い。
・高校や大型病院は駅から遠い。
・小樽へはバスのほうが遥かに本数が多く、札幌へ直通する便も多い。
・2018年には後志自動車道が余市まで開通している。

これだけの悪条件が揃いながら、ここまで健闘している鉄道もそうそうないんじゃないでしょうか。

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 12時31分発小樽行の改札が始まる。

気づけば改札口の前の行列は長く伸びて、駅舎の外へはみ出すほどになっていました。
12時20分、小樽行きの改札が始まります。

改札の行列の一番後ろについてホームへ入ります。
ホームの各乗車口の前には、あっという間に行列が出来上がりました。

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 4つある乗車口には、たちまち行列ができる。

まだ改札が始まったばかりですから、この後も次々に改札口から人が入ってきます。
余市駅のラッシュといえば朝7時02分発札幌行963Dのものが有名ですが、日曜昼の余市駅ホームも平日の朝ラッシュに負けぬ勢いです。
列車が入線する頃には、各乗車口の人数は15〜20人ほどになっていました。

余市駅から乗車する乗客はざっと70人!

観光客が多いようですが、この列車は地元の利用客らしい人も多く見受けられました。

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 小樽行1937Dが到着。

今日は余市で何かイベントがあったわけではなく、ただの10月の連休ですからね。
もちろん廃止直前の、お名残り乗車でもありません。
これはほぼ日常の光景と言っても良いのではないでしょうか。

余市駅は休日でも昔から乗客は多く、下は2010年にやはり余市駅ホームで撮影したものです。

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 13年前、2010年8月13日の余市駅。列車は倶知安始発の1935D。

余市駅というものは、人々を鉄道に向かわせる目に見えない力でも働いているのか、そんなことを思わせるような光景です。
それでも、列車本数が少ないことと編成が短いことを考えると、乗客の絶対数は多くはありません。

余市への観光入込だって、車や観光バスでの訪問客が圧倒的に多く、いくら列車が観光客で混んでいても全体数から見ればわずかなものなのでしょう。


 ◆ コストだけによる意思決定の是非を考える

ぱっと見た目には利用客が多い小樽〜余市間ですが、何らかの形で鉄道として存続したくても、経営は相当に難しいとされています。
鉄道存続でもバス転換でも、どちらにしても赤字必至とされています。

幾度も行われた協議の結果、赤字額が小さいほうがいいとして、最終的に沿線自治体はバス転換という選択をしました。

利用状況の統計から、バス転換でも問題ないとの調査結果も出ています。
現状では合理的な判断ではありました。

ところがですね、このバス転換は思わぬところから待ったがかかります。
簡単に説明すると、鉄道の代替を受け持つ中央バス側がバス転換を受け持つ余裕が無いことが明らかになったことでした。

中央バスのドライバー高齢化も年々深刻化しており、新規のバス路線で鉄道と同程度の輸送力を確保するのは難しい
(東洋経済オンラインより引用)

これには、代替予定事業者である中央バスに相談もなしにバス転換を決めてしまったこともあるようです。

バス運転手不足と高齢化は全国的に問題となっていることで、これは都会でも例外ではなく、札幌市内のバス路線も同様の理由でダイヤ改正で減便する路線が増えています。

この鉄道がバス転換されるのは早くても数年後のことになりますが、バス会社の事情を無視して強引にバス転換を決めてしまった印象は否めません。

そのころには運転手不足が解消されているのでしょうか?
はたまた自動運転車による旅客営業が本格化しているのでしょうか?

このままでは鉄道の代替交通が思うように確保できず、各自治体ごとにバラバラの、ツギハギだらけのような交通網になってしまう可能性もあります。

かといって、高コストを負担できないという理由から沿線自治体はバス転換を選択したのだし、いまからそれを改めて再検討するとなると大変な話です。

そんな中でバス転換は無理があるとして、鉄道存続へ向けた動きと新会社立ち上げの話も出てきていますが、保存鉄道や観光鉄道ならばいざ知らず、立ち上げた新会社だけでどうこうできる話ではないでしょう。

沿線自治体を説得して、北海道庁からの支持も得て、場合によっては政治の舞台でも立ち回って鉄道会社としての資金を確保する必要があるわけで、なかなか険しい道のりです。

でも一番の壁は、日本では一般的に公共交通というと営利企業とされている世の中の認識ではないでしょうか。
公共交通というものは道路や電気・水道それに通信といったものと同じ社会インフラの1つであるはずなのに、あまりそういった認識はされていません。

これは鉄道でもバスでも、独立採算制ということに拘っているからでしょう。
公共性が強いとはいえ慈善事業ではありませんので、売り上げが限られている中でかけられるコストは限られてきますから、かけられるサービスは最小限なものということになってしまいます。

また特にコストというものに対して、不況が長く続いた日本社会においては、非常にナーバスなものになってしまいました。

これは日本はバブル期以降の不況下にあって、企業は利益を確保するために、とにかくコストカットに走ってしまったことが一番の原因でしょう。

非正規雇用を増やしたり、リストラをして人員削減を行い、工場を人件費が安い海外に移転するなど、売り上げよりもコストを削減することで利益を増やすということをやってきたわけです。

政府は政府で、日本型社会主義と呼ばれてきた高コスト体質から脱却するべく、規制緩和や民営化を推し進めることになります。

こうした施策は経営的には一時的に良い結果をもたらしたのですが、後が続きませんでした。

商品開発や技術開発、新たなサービスを作って売り上げを増やすことをやめ、とにかくコストカットを命題として、その後の発展が無いまま20年間もの時が過ぎてしまったのが平成時代の日本でした。
その結果、日本国内は20年以上にも及ぶデフレ不況が蔓延することになってしまいます。

それだけではありません。
人件費抑制による採用減と非正規化によって、就職氷河期世代が大量に生まれることになりました。
それまで日本経済を牽引してきた製造業は弱体化して海外との競争力を失ってしまいました。

官民そろってコストカットしかしてこなかった日本社会は、のちに別な形で大きなツケを払わされることになったのです。

話をもとに戻しますが、コストは低いに越したことはありません。
ですが、交通インフラを維持するために必要なコストは払わねばなりません。
それが鉄道なのかバスなのか、あるいはデマンド交通なのか。

今までの廃止路線のように、1日当たりの輸送人員が100人程度かそれに満たないような区間であれば鉄道の維持は明らかにオーバースペックといえます。

しかし、函館本線の小樽〜余市間に限っていえば、輸送人員が1000人を超える区間で、しかもピーク時の輸送が1時間当たり数百人もあるという区間です。

ふた昔前ならば、バスが代替輸送を引き受ける余裕があったのかも知れません。
しかし、バスも現状の路線維持が精いっぱいという現状の中、鉄道が高コストだからバス転換が最善の策と決めつけるのは時代遅れの発想と言えるでしょう。

一旦コストというものを離れて、今後に相応しい交通機関についての議論がもっと必要なのではないでしょうか。

その結論が鉄道なのかバスなのか、あるいはそれ以外の手段なのかは無責任ながら私ではわかりません。

しかし、仮に鉄道による輸送が相応しいという結論に至れば、それは鉄道として運営するのがベストだと思うのです。

バスに比べて高コストでも、見合ったコストは社会インフラとして社会全体で維持してゆかなければなりません。
そのために国があり、政府があり、税金を払っているわけですから。

コストカットを命題にして意思決定をすれば、平成不況と同じように別な形で大きなツケを払う時が必ずやってきます。

そうは言っても、日本では鉄道をはじめとした公共交通を、社会・・・国や地方自治体の負担で維持する公的な制度が無いのが残念なところです。
できるのは上下負分離方式にしたり、赤字分を補助金として補填したりするくらい。

かといってそうした制度を作るとなると、もうこれは政治や政策の話になってしまいますね。

・・・

『コストカット型の経済から30年ぶりに転換する』
・・・と表明したどこかの総理大臣の君、聞いてる?


なんだかローカル線の話が天下国家の話にまで飛躍してしまいましたね。

話を元に戻しまして、私自身が余市まで実際に列車に乗って思った感想を述べさせていただきます。

この小樽〜余市間を実際に乗ってみると、乗客の多さには驚かされます。
統計上で見ればとうてい経営的に成り立つ数字ではないのはわかりますが、仮にバスになったらこの人たちは果たして余市へ行くことがあるのだろうか、そんなことを思いました。

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 小樽駅に到着。

小樽行の車内は全席が埋まって立ち客が十数人といったところ。2両合わせて100人いくかいかないかというくらい。
行きの列車よりは余裕がありますが、札幌を発ってからずっと立ちっぱなしです。

新しいしパワーもあって頼もしいデクモですが、座席数の少なさは恨めしい。
以前のキハ150形は49席あったのに対し、こちらは僅か36席。
山線使用ならば2両1ユニットでも良かったんじゃないと思いますが、そうすると他線区で使用する際にオーバースペックになってしまいます。

仮に小樽〜余市間が存続するとなれば、いっそのこと電化して札幌方面からの電車が乗り入れればいいんじゃないか。
小樽からわずか20km足らずの距離だし、そうすれば自前の気動車を保有しなくても済む。

なんて勝手なことを想像しながら小樽駅に到着しました。

向かいの5番ホームには快速『エアポート126号』が待機しています。
発車5分前とあって車内には立ち客も見えますが、今降りた列車の半分くらいの人がそちらに乗り換えて行きました。

私は小樽で一旦降りて、久しぶりに小樽見物をしてくることにします。


 ◆ 久しぶりの小樽観光

昭和初期のモダニズム建築を伝える小樽駅は、私が好きな駅舎の1つ。
現在でも手狭さを感じさせない広い駅舎や、思い切った吹き抜けのコンコースは当時の小樽の経済力を思わせます。

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 『おたる』の古い駅名標が残る4番ホーム。

1929(昭和4)年に起こった世界恐慌以来、日本は不況から立ち直れず戦争への道を進んで行くことになります。
この小樽駅舎はそんな昭和不況下の1934(昭和9)年の建物。
道内初の鉄筋コンクリート駅舎として竣工しました。
不況下において、ずいぶん思い切った投資をしたものだと思えます。

それが戦中戦後、高度経済成長期を経ても昔と変わらぬ姿で存在し、メルヘンチックな観光都市小樽の象徴として存在しているのですから、大変な先見の明というべきでしょう。
もしこれが当時標準だった木造駅舎で建設されていたら、戦後の利用客増加と老朽化に耐え切れず近代的な駅舎に建て替えられていたことでしょう。

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 ホーム側窓から見る吹き抜けコンコース。

今は車で移動することが多くなったので、小樽駅も久しぶりです。
駅舎の中はリニューアルされてすっかり新しくなってしまいましたが、ホーム側はレールを組んだ上屋や古い書体の『おたる』の駅名標が残っているのでちょっと嬉しいです。

故石原裕次郎氏のパネルがあって、裕次郎ホームの名がついたホームですが、目立たない場所のせいか、この辺りまで来る人はいないようですね。

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 1934(昭和9)年竣工の小樽駅舎。

小樽駅から都通りのアーケード通りを抜けて堺町通りへ行ってみます。
ここが人、人、人の大賑わい。
コロナ前もかくやと思うような人出でした。

ひところは中国人ばかりで、ここは日本か?と思うところでもありましたが、今はそんなこともないようです。

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 観光客で賑わう堺町通り。

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 小樽運河も大賑わい。

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 色内駅のレプリカと手宮線跡地。

小樽運河を見て、旧手宮線の線路跡を歩いて小樽駅に戻ります。
すっかり世界的な観光地にまでなった小樽ですが、小樽がここまで観光都市にまで成長した理由の1つに、大抵のスポットは駅から歩いて行けることにあるのではと思うのですが、どうなんでしょう。

函館も市電があって、こちらも観光客が気軽に利用できる交通機関があるからこそあそこまで観光が発展したような気がします。

駅に着いても観光地まで遠く、車かバスでピンポイントで回る観光は魅力に乏しい。
まあ楽っちゃあ楽だけど。
小樽の町をぶらぶら歩きながらそんなことを考えていました。


 【おまけ】JRで余市へ行く際の裏ワザ

最後にJRを利用して札幌から余市へ行く際の裏ワザをお教えしましょう。

札幌から余市へ行くには、余市駅がIC乗車券非対応の駅なので、切符を買ってから乗る必要があります。
そこで札幌駅で余市までの乗車券を買いました。

本来は券売機で金額だけが表示された切符を買うわけですが、話を分かりやすくするために今回は窓口で行先が表示された乗車券を購入しました。

で、札幌→余市の乗車券は1,290円になります。

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 札幌→余市の乗車券(1,290円)。

下は余市→小樽、小樽→札幌で分割した場合。

DSCN1276.JPG
 余市→小樽、小樽→札幌の乗車券(合計1,190円)。

小樽で切って2枚の切符にすると合計で1,190円になります。
通しで買うよりも、なぜか100円安くなるんですね。

行きも帰りも、小樽で出て切符を買いなおすと100円安くなります。
これは特に理由があるからではなく、JRの運賃区分が5km刻みとなっている関係で、たまたま発生した現象。

これと同じような区間は、探せば他にいくらでも見つけられます。

ちなみに始めから2枚の切符を購入しておけば、小樽で出場せずにそのまま乗り換えることも可能です。

面倒な思いをして切符を2枚に分ける気になるかどうかはともかく、切符の買い方でこんなことが起こるのは面白いですね。

みなさんも札幌から小樽観光に出かけた際は、さらに余市まで足を延ばしてみてはいかがでしょうか。
直接余市へ行くよりも、往復で200円お得になります。

〜最後までお読みくださいましてありがとうございました。 


posted by pupupukaya at 23/10/09 | Comment(0) | 鉄道評論
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