有珠山噴火災害による室蘭線不通時の函館山線迂回運転ついて考える

 ◆2000年の有珠山噴火不通時に行われた山線迂回運転

先日こんなものが出てきました。
それは、『JR北海道臨時時刻表』というパンフレット。
5月8日現在とあるのは、2000年5月8日のこと。

ちょうど有珠山が噴火した年で、この年の3月29日から噴火の影響で室蘭本線の長万部〜東室蘭間が運休とななりました。
翌日の3月30日からは、特急列車と貨物列車が通称山線と呼ばれる函館本線小樽経由で運転を再開することになりました。

この山線は、国鉄最後の1986(昭和61)年11月以降は定期の優等列車は走らなくなりましたが、ニセコ〜札幌間はリゾート特急『ニセコエクスプレス』が運転されていました。
過去をさかのぼれば、1993年までは臨時急行の『ニセコ』が運転されていたほか、1996年まではスキーシーズンに臨時寝台急行の『シュプールニセコ』が仙台から山線経由で札幌まで運転されていました。

普段はローカル列車が走るだけの路線でしたが、それなりに幹線だった頃の下地が残っていたので、素早く山線への迂回運転の対応が出来たのでしょう。

で、そのパンフレット。

A3サイズの紙を2つ折りにして4ページとしたものですが、有珠山噴火に伴う山線経由の臨時特急のダイヤ、それに伴って運休して代行バスとなる山線の普通列車、乗車券類の取り扱いなど結構詳しく記載してあるので、ちょっとその当時のことを思い出してみることにします。

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 JR北海道発行『JR北海道臨時時刻表』より

表紙兼1ページ目は函館〜札幌(う回小樽・倶知安経由)特急列車時刻表

この期間に運転されていた臨時特急北斗は6往復ありました。
山線区間内は小樽と倶知安のみ停車です。
編成は基本7両ですが、多客時は増結されて最大10両編成で運転されていた模様。

車両は『スーパー北斗』で使用されていた281系ですが、62号,68号,65号,69号の2往復は当時まだ走っていたスーパーの付かない『北斗』で使用されていた183系だったようです。

この臨時特急ダイヤの詳細については後述することにして、次へ行きます。

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  JR北海道発行『JR北海道臨時時刻表』より

2ページ目は乗車券類のについての案内。
特急が小樽経由になったことにより、特急の運賃・料金は距離が短い小樽経由のものに変更されています。

札幌〜函館間で見れば、同区間の営業キロは東室蘭経由の318.7kmに対して小樽経由は286.3km。

当然ならばこれは経路である小樽経由の運賃・料金が適用されるわけで、東室蘭経由の運賃は5,560円でしたが小樽経由で5,250円に、同じく指定席特急料金は3,030円から2,820円と値下がりしています。

一方でRきっぷ等の企画乗車券は値段据え置きで発売されています。
一番下に『払い戻しを行わないことを条件に〜中略〜発売いたします』の断り書きが見えます。

これは、JR北海道旅客営業規則第7条(2)に記載されている『不通区間に対する旅客運賃の払いもどしの請求をしない』ことを条件に不通区間の乗車券を発売する、いわゆる不通特約を適用したものと思われます。

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  JR北海道発行『JR北海道臨時時刻表』より

3ページ目は本州方面への夜行列車時刻表
この当時の札幌〜函館間を走る夜行列車は、『北斗星』2往復を筆頭に週4日運転の『トワイライトエクスプレス』、週3日運転の『カシオペア』、急行『はまなす』、臨時快速『ミッドナイト』と今にして思えばこの頃が本州と道内を結ぶ夜行列車の最盛期でした。
『北斗星』は定期2往復のほかに臨時1往復があり、さらに多客時にはB寝台オンリーの『エルム』なんて列車が設定されていました。

迂回運転でも、夜行列車もしっかりと走らせるところは立派なものです。
もちろん食堂車も平常営業です。

このうち山線を迂回運転していたのは『北斗星1・2号』、『はまなす』それに『カシオペア』と『トワイライトエクスプレス』は共用のスジを走るため、それぞれ隔日で交互に運転されていました。

迂回運転中は、函館〜札幌間はDD51を客車の前後に連結したプッシュプル運転となっていました。
これは札幌運転所に出入りする際、札幌駅で方向転換が発生するので、同駅での機回しを避けるための措置だったのでしょう。

『北斗星3・4・81・82号』とカシオペアと運転日が被る日の『トワイライトエクスプレス』は函館打ち切りとなり、臨時北斗が接続しています。
『北斗星81・82号』は『カシオペア』登場と同時に1往復廃止された『北斗星』が多客時に臨時列車扱いで復活したもの。
臨時列車ながらも定期列車時代と同等に個室寝台も連結され、食堂車も営業していました。

なお、この当時は季節列車に格下げされていた札幌〜函館間の夜行快速『ミッドナイト』は運転されることはありませんでした。

下段には2ページ目にある乗車券類案内の続きが掲載されています。

この中に小さく書いてある注意書きに、

『室蘭線の苫小牧〜伊達紋別間と日高線の勇払〜様似間発着となるお客様は別のお取り扱いとなりますので駅係員までお申し出ください』

の一文が見えます。

これは上記の各駅から函館方面への乗車券は、前述の不通特約に則って不通区間の室蘭本線経由で発売していたからでしょう。
臨時『北斗』運転により、札幌・小樽経由で函館方面へ向かうルートが確立したことにより、JR北海道旅客営業規則第7条3が適用されたのだと思われます。

 *JR北海道旅客営業規則第7条3の引用
『列車の運行が不能となつた場合であつても、当社において鉄道・軌道・自動車・船舶等の運輸機関の利用又はその他の方法によつて連絡の措置をして、その旨を関係駅に掲示したときは、その不通区間は開通したものとみなして、旅客の取り扱いをする』



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  JR北海道発行『JR北海道臨時時刻表』より

4ページ目の最初が札幌〜東室蘭方面特急列車時刻表
特急北斗が山線経由となったために、その代替として臨時特急が7往復設定されています。
ここの詳細は山線迂回運転と直接は関係ないので割愛します。

次が東室蘭〜長万部間普通列車時刻表
この頃の室蘭本線は長万部〜洞爺間、長和〜東室蘭間で普通列車の運転が再開し、洞爺〜長和間は昼間の一部時間帯のみ普通列車と貨物列車限定で運転を再開していました。
長万部〜東室蘭間直通の普通列車も3往復設定されています。

その次が、小樽〜長万部間列車・代行バス時刻表
山線区間は有珠山の被害は直接はありませんが、特急列車と貨物列車の迂回運転ルートとなったことから、輸送力を確保するために一部の普通列車を運休してバス代行にすることが行われました。
網掛けとなっている下り11本、上り8本の列車が代行バスの時刻となっています。

ただこの普通列車の時刻も、基本的には代行バスを除いて平常時の時刻がそのままで、臨時特急運転に対応した時刻変更はなされていないようです。

DSCN8612.JPG
  JR北海道発行『JR北海道臨時時刻表』より

この普通列車の時刻もおや?と思うところがいくつもあって、例えば倶知安6:27発長万部着8:26着の列車2926D。
この列車が長万部に着く前の8:20に札幌行『北斗61号』が長万部を発車している。
山線区間は全線単線だし、交換可能駅は黒松内までありません。

時刻表通りに発車したら、途中で正面衝突ですね。
実際は2926Dが長万部に到着しないと北斗61号の出発信号が青にならないし、各種安全装置も働いているから正面衝突など起こりませんが、これはどうしたことでしょう。

おそらく、2926Dは黒松内を定時に発車せず、北斗61号と交換を行ってから発車していたのではないでしょうか。
普通列車に関しては時刻変更を行わず、その都度遅れとして対応していたと思われます。

迂回運転はあくまで災害による一時的な措置で、特急のダイヤもちょこちょこ変更されていた頃ですから、その度に普通列車のダイヤも修正して各駅に告知も行っていたら大変ということもあったのかも知れません。

それにこのパンフレットが発行された頃は、有珠山の災害不通区間も限定的ではあるものの運転再開をしていたから、迂回運転もそう長期化しないからということもあったのでしょう。

実際6月1日から特急は昼間だけ東室蘭経由に戻されていますし、6月8日には完全に正常ダイヤに戻り、山線迂回運転も終了しています。


 ◆ 山線迂回運転時のダイヤを見る

では山線迂回運転だった当時のダイヤはどのようなものだったのでしょうか。
下はパンフレットから起こした時刻表になります。
八雲、森、大沼公園、五稜郭の各駅の時刻は省略していますが、71号が五稜郭と大沼公園通過になる以外はこれら各駅に停まります。

2000年5月函館本線迂回運転時刻表 上り
列車名北斗60北斗62北斗64北斗66カシ・トワ北斗星2北斗68北斗70はまなす
車両281183281281  183281 
札 幌8:3110:5013:5615:2816:2217:1318:1119:2521:56
小 樽9:1711:3414:2816:0516:5917:4818:4320:0022:33
倶知安10:2612:3615:3817:01  20:1221:35 
長万部11:5413:5717:0418:2219:1120:0021:4423:04 
函 館13:1515:3118:3119:4020:5621:4623:150:182:52
所要時4:444:414:354:12  5:044:53 
終 着    
上野・
大阪
上野
9:35
  
青森
5:18

2000年5月函館本線迂回運転時刻表 下り
列車名はまなすカシ・トワ北斗星1北斗61北斗63北斗65北斗67北斗69北斗71
車両   281281183281183281
始 発
青森
23:08
上野・
大阪
上野
17:13
      
函 館1:434:294:477:059:3411:3414:0017:1819:00
長万部 6:076:298:2011:1413:0015:2418:4420:12
倶知安   9:3812:3514:2617:0320:1221:36
小 樽5:568:589:4610:3313:4415:3018:2621:1622:31
札 幌6:319:4310:2511:0214:1716:0219:0321:4522:59
所要時   3:574:434:285:034:273:59

最速列車は下りの61号で、所要時間は3時間57分
この最速列車の区間別の内訳を見ると、こうなります。

 函館〜長万部間・・1時間15分(89.8km/h)
 長万部〜札幌間・・2時間42分(64.4km/h)
  ※カッコ内は同区間の表定速度

ちなみに、1980年の時刻表から特急『北海』の長万部〜札幌間所要時間を拾ってみると、2時間54分でした。
途中停車駅は同じく倶知安と小樽のみ。
最高速度は95km/hで281系の振り子機能も停止した状態で12分もの差がついたのは、途中4つある峠をハイパワーで駆け登る性能の違いでしょうね。

一方で上りの最速列車は66号4時間12分となっています。
列車によって所要時間にばらつきがあるのは、やはり単線区間の山線で、しかも交換駅も限られているからでしょう。
代行バスに置き換えられて本数は減ったとはいえ、普通列車も運転されていますから、その合間を縫ってのダイヤということになります。

DSCN4132.JPG
 長万部駅を発車する281系『北斗』(2021年撮影)

ところで、この時刻表を見ていると、おや?と思うところがあります。

上りの『カシオペア』と『北斗星2号』の時刻が、札幌発時刻が平常時と変わらないのはさておいて、長万部以降の時刻も平常時と変わらないのはおかしいんじゃないかということです。

例えば、『北斗星2号』の札幌〜長万部間の所要時間は時刻表によると2時間47分になります。
気動車の臨時北斗でも、同区間の所要時間はおおむね3時間以上掛かっていますから、これはいくら何でも速すぎる。

実はこのからくりは欄外に書いてあって、『小樽経由のトワイライトエクスプレスは90分程度、北斗星2号は50分程度の遅れが生じますのでご了承ください』と注意書きがある。

『北斗星2号』はこの50分が山線迂回運転で生じた遅れ時間のようですね。
どうやら、長万部から先の各駅は時刻変更を行わずに単純な遅れ列車として運転されていたようです。

それにしても『トワイライトエクスプレス』の大阪着遅れ90分は札幌発時刻が2時間以上繰り下がった影響も含んでいるのでしょうが、それを大阪着までに90分遅れにまで取り戻しているのには恐れ入ります。

この時刻変更を行わずに遅れ列車として運行していた理由は、JR他社間またがりの列車なので、ダイヤを設定するとなると色々調整が必要となるだろうし、あくまで一時的な措置ということで容認されていたのではないでしょうか。

ところで『カシオペア』と『はまなす』は何も注意書きがありませんが、この2列車は遅れなしでそれぞれの終点に着いたのでしょうか。
そんなわけは無いと思いますが、どうなんでしょう。

まあでも、この頃はそんな大らかさも許されていた時代だったのでしょうね。

逆に下り列車の場合、長万部までの時刻は平常時と同じですが、札幌着は律儀に24分〜67分遅くなったダイヤが設定されています。
これは逆に自社内なので所定ダイヤが設定できたためだと思われます。


 ◆ 山線迂回ダイヤを作成してみる

この迂回運転時の時刻表を見ていて、実際のダイヤはどのようなものだったのか、どの列車がどの駅で交換(単線区間で列車がすれ違うこと)していたのか、大変気になってきました。
時刻表を基にしてダイヤを作成すれば一目瞭然なのですが、特急の運転時刻は停車駅のものしかわかりません。

しかし、さほど本数が多いわけでもなく、列車の交換ができる駅も限られているため、実際にダイヤ上にスジを引いてみればそれらしい駅の場所でスジが交差するのではないかと思い、ダイヤを作成してみました。

一番上の横線を小樽駅として、距離ごとに交換可能駅の平行線を引けば横軸は完成。
あとは時間の縦軸を、これも平行線を引けば縦軸も完成。
こんなものはフリーソフトのCADを使えば簡単にできます。

で、そこへ特急列車のスジを引いてゆきます。
思った通り、それらしい駅の場所でスジは交差しました。
この交差する駅が交換駅ということになります。
単線だから駅間で交差することはありえないので、微調整すれば上手くまとまりました。

特急列車のダイヤはすぐに完成しました。
次いで普通列車のスジ。

これが結構難解で、特急と違って各駅の時刻はわかるのですが、なんせ臨時特急列車が割り込んでくるもので、交換可能駅で交差させなければならない。
ダイヤ作成者の苦悩がちょっと垣間見ることができた気がしました。

それで完成したのが以下のダイヤです。

yamasendia845.jpg
 (画像をクリックして拡大してご覧ください)

画像のは1時間目ダイヤですが、作成時は分単位の目盛りで行いました。
見づらくなるので分単位の目盛りは消してあります。

特急列車のスジが曲がりくねったり変な交換待ちが発生したり、あまり良い出来ではありませんが、単線でしかも交換駅が限られているために大きくは違わないと思います。
北斗星2号のスジはパンフに記載のある通り、長万部着で50分程度遅れるようにスジを寝かせてみました。

こうしてダイヤにして見ると、どの列車がどの駅で交換しているのか一目瞭然ですね。

所要時間がかかっている列車は、やはり交換する列車が多いからということもわかります。
あとは普通列車の存在も足かせになるようで、特急だけど普通列車とスジが平行している列車も多いですね。

午前中にぽっかりと空いたような列車の空白時間帯があるのは、保守間合い時間として設定したのだと思われます。
このほかに貨物列車が5往復設定されていて、貨物列車は深夜時間帯に運転されていたので、この時間帯が選ばれたのでしょう。

この作成したダイヤを見ると特筆すべきことがあって、それは何かというと、目名駅で列車交換が行われているということです。

yamasendia151593.jpg

ダイヤを拡大したのが上の図。
北斗64号と67号、69号と68号のスジが見事に目名で交差しますね。

このスジを少しずらして蘭越で交差させるとスジがいびつになるし、他の列車との交換もうまくいかなくなるので目名駅で交換していたことは間違いないようです。

何が特筆かといいますと、目名駅の交換設備は国鉄最後のダイヤ改正で撤去されていたのですが、この山線迂回運転の長期化に備えて新設されました。
それまでは熱郛〜蘭越間23.0kmに交換設備がなく、またこの区間は連続20パーミルの勾配が続く峠越え区間だったので、ダイヤ作成上のネックが解消されたことになります。

DSC01486.JPG
 目名駅ホームにて(2005年撮影)

上は目名駅のホームから撮影した画像。
右側の線路が2000年に増設されたものです。
山線迂回運転終了後は増設された線路に列車が入ることはなかったようです。

もし今後再び有珠山の災害で再び山線迂回運転となった場合は、この目名駅での列車交換が見られるのかも知れません。

山線の輸送力増強工事は目名駅だけでなく、ATS設備の付け替え工事が各駅で行われ、これによってそれまで8両編成までしか対応できなかったものが、気動車列車は10両まで、コンテナ貨物列車は10両+機関車2両、寝台特急列車は客車12両+機関車2両まで対応することができるようになりました。

あくまで一時的な迂回運転ですから、そこまでの改良工事は過剰投資ではないかとも思えます。
しかし有珠山は20年から30年の周期で噴火を繰り返している山で、将来噴火災害が再び起こって同様の迂回運転がなされる可能性は高く、それに備えての投資でもあったことでしょう。

それにこの2000年当時は北海道新幹線など凍結状態。
北海道内の鉄道は在来線による輸送が半永久的に続くだろうと誰もが思っていました。


 ◆ 山線は有珠山噴火災害時の代替ルートとなり得るのか

しかし北海道新幹線建設は風向きが大きく変わり、建設へと動き始めます。
16年後の2016年には北海道新幹線が新函館北斗まで開業しました。
2030年度には札幌まで開業することが決定しており、これから札幌駅でも新幹線工事が本格化します。

その一方で、函館本線、長万部〜小樽間は並行在来線という扱いとなり、JR北海道から経営は引き離されることが決定します。
鉄道存続に要する多額の維持費を負担するのが厳しいという理由から、北海道と沿線自治体は山線を廃止しバス転換という決断をしました。

一方で山線は、再び有珠山噴火の災害発生時に備え、貨物列車の迂回ルートとして存続すべきという意見もあります。
これは山線存続論者にとっては、ワンチャン残された論理と言えます。

ところがこの貨物迂回ルート論も、当のJR貨物から函館本線山線は貨物の代替ルートにならないと、あっさり否定されてしまいます

DSC02035.JPG
 長万部駅に入線する20両編成コンテナ列車(2005年撮影)

2000年に実際に貨物列車の山線迂回運転が実施されていたにもかかわらず、このJR貨物の回答は意外とも思えます。

その理由を、有珠山噴火の不通による貨物列車の迂回運転の実績からから探ってみることにします。
この輸送についてまとめてあるホームページがあったので、それを参考に見てみましょう。

 *有珠山噴火災害教訓情報資料集 : 防災情報のページ - 内閣府

2000年当時、有珠山噴火前は最大20両編成の貨物列車が1日片道当たり24本走っていました。
1両の貨車に5トンコンテナが5個積めますから1列車あたりの積載コンテナは100個。
単純計算ですが、1日24本ならば2400個運べるわけです。

それが噴火による不通となり、迂回路となった函館山線は急曲線が多く勾配がきつい線形の悪い路線で、編成は貨車10両編成+機関車2両という制約が発生しました。
単線なのと、迂回する旅客列車も運転されることから、本数も1日片道5本が限界でした。
運転時間帯も深夜に限られての運転でした。

こんな両数と本数では、片道1日当たりの運べるコンテナの数はわずか250個。
輸送力では、平常時の1割にしかなりません。

とりあえず貨物列車も山線迂回運転による運転再開をしましたが、実際には無力といえるほどの輸送力しか確保できませんでした。

五稜郭駅(現在の函館貨物駅)には、室蘭線が不通になってからたちまちコンテナが大量に滞留したといいます。

JR貨物は不通になるとすぐに五稜郭駅〜札幌貨物ターミナル駅間に1日約200台のトラック代行輸送の手配をしました。
同時に船舶による代行輸送も始めて、11隻の輸送船を借りて函館〜室蘭間と青森〜苫小牧間で1日6往復の運航を開始しています。
これらの代行輸送のおかげで、貨物は不通前の7割の輸送量まで回復しました。

函館〜札幌間のトラック代行輸送は、のちに長万部駅に仮設のコンテナホームを設置することで12往復の貨物列車が運行されることになります。
トラック輸送も函館〜札幌間は1日1往復しかできなかったものが、長万部〜札幌間では1日2往復できるようになり輸送効率が飛躍的に改善、輸送力は不通前の8割にまで回復しています。

これらの通り、実際に有珠山噴火不通時の輸送で活躍したのは船舶代行輸送とトラック代行輸送でした。

急曲線が連続し急勾配だらけ、かつ単線の山線は所要時間もかかりすぎ、貨物列車を運転しても不通の室蘭本線の代替を受け持つことはできなかったのです。

だから、山線区間は廃止せず輸送障害時の貨物列車迂回ルートとして存続するべきだとの意見に対し、JR貨物が山線は迂回ルートにはならないとしたのも無理もないことです。


 ◆ 函館本線山線に再び迂回『北斗』が走る可能性

今後、北海道新幹線開業前で山線がJR北海道の路線として営業中に、再び有珠山が噴火して室蘭本線が不通になれば、函館本線の山線区間に特急『北斗』が再び走ることでしょう。

今度は山線を走る261系『北斗』が見られることになりますね。

こんな災害を望むようなことを書くと、お前はなんて不謹慎なんだとの声も聞こえてきそうです。
しかし、有珠山は過去に20〜30年周期で必ず噴火している活火山ですので、こういったことも考えざるを得ません。

2000の噴火から今年で早や23年になります。
前々回の噴火は1977年だったから、その23年後に再度噴火していることを考えたら、そろそろ噴火が始まってもおかしくはない頃です。

そうでなくとも噴火災害に対する備えはしておかなくてはならないし、特急『北斗』の迂回運転を考えておくことだって備えの一つになります。

今後2030年度予定の新幹線開業前に有珠山が噴火し、室蘭本線が不通となることは十分考えられることです。
そうなったときは、山線に261系車両による臨時の特急『北斗』が運転されることでしょう。

DSCN4162.JPG
 長万部駅を発車する261系『北斗』(2021年撮影)

運転本数は2000年と同じく1日6往復程度が限界でしょうか。
倶知安駅での列車交換も現在では不可能になっていますから、さらに制約は多そうです。
函館〜長万部間でスピードダウンもしていますから、2000年当時のように所要時間4時間を切ることは不可能でしょう。

一方で貨物列車の迂回運転は実施されずに、100%トラックと貨物船による代行輸送となる可能性が高いでしょう。

前述のとおり、10両編成で1日5往復程度の輸送力では無力に等しく、2000年当時はDD51形だった機関車も現在はすべてDF200形になっており、その入線に伴う山線の軌道強化や車両限界拡大の対応も必要になります。

前回の迂回運転から20年以上が経過し、線路施設の老朽化も進行しているでしょうしね。
僅かな輸送量のため、かつ既に廃止が決定している路線に、貨物列車のための強化工事を行うなど到底考えられません。

だから室蘭本線が不通になる事態が生じれば、JR貨物は真っ先にトラックと貨物船による代替輸送に切り替えるでしょう。

しかしこれは机上の考えであり、トラックドライバー不足が深刻になりつつある現在においては2000年当時と同等の輸送力を確保するのは難しく、さらに人手不足に拍車をかける2024年問題というものもあり、実際に代替輸送が発生すれば正念場となることは想像に難くありません。

だからといって、貨物列車を山線に迂回運転することは、上記の理由からありえないでしょう。
臨時特急『北斗』が細々と迂回運転するだけとなりそうです。

まあでも、山線を迂回する特急『北斗』にもう一度乗ってみたい、今やすっかり落ちぶれたローカル線が幹線時代に戻った姿を見てみたいと思うのは鉄道ファンとして正直なところです。

そんな事態が起こらないことが望ましいことは言うまでもありませんが、もし起こったときは最後の函館本線山線の花道を飾る出来事として話題となるかも知れませんね。

 〜最後までお読みくださいましてありがとうございました。   


posted by pupupukaya at 23/08/13 | Comment(0) | 鉄道評論
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