2030年度の札幌延伸開業を目指して工事中の北海道新幹線。
山の中ではあちこちでトンネル工事が行われているほか、倶知安駅では新幹線駅建設のためホームの移転工事が行われた。
新幹線延伸開業に向けた札幌駅周辺の再開発工事も、来年には本格化することになっている。
その一方で、並行在来線となる函館本線の函館〜小樽間は新幹線開業と同時にJR北海道から経営分離されることも決まっている。
函館〜長万部〜小樽の区間は並行在来線としてJR北海道から経営が分離されることになっている。
道や沿線自治体が出資する第三セクター方式による鉄道存続か、バス転換のいずれかを選択しなければならない。
新幹線開業まで10年を切った今、その選択についての動きが出てきたようだ。
今回は北海道新幹線の並行在来線問題をいろいろ考えてみたいと思います。
まずは『どうしん電子版』の記事から。
北海道新聞,どうしん電子版 12/28 05:00
記事の内容は、12月27日に行われた北海道と沿線9市町で構成する北海道新幹線並行在来線対策協議会 後志ブロック会議で、4町がバス転換支持を表明したというもの。

北海道新聞,どうしん電子版、上記記事より画像引用。
これによると沿線9市町村のうち、仁木町、共和町、倶知安町、長万部町の4町がバス転換支持している。
余市町だけが余市〜小樽間の存続、残りの4市町が判断を保留としている。
“態度を保留した各自治体にも、鉄路を維持した場合の巨額の赤字問題がのしかかり、最終判断を迫られつつある。”
〜同記事より引用
これを見て、時代も変わったなあ・・・と思った。
一昔前であれば、沿線自治体は鉄道存続ありきを主張し、廃止反対運動くらいは起こったことだろう。
判断を保留としている市町もあるが、この流れではあっさりとバス転換に決まりそうだ。
駅を廃止するにしても以前ならば物議を醸したものだが、来年ダイヤ改正(2022年3月12日)で7駅の廃止が決まっているが、特に反対運動のようなものは無かったようだ。
そりゃそうで、以前ならば公共の福祉を盾に反対していればよかったものが、今は存続希望ならそれ相応の費用を負担しなければならなくなったからだ。
これは並行在来線問題にしても同じで、僅かな利用者のために多額の赤字を負担しなければならない鉄道よりも、赤字が少なくてきめ細やかな輸送ができるバスに転換した方がはるかに合理的だ。
草生したホームと線路、やって来るのは上下9本の気動車だけ。黒松内駅で。
一方であまり動きが伝えられてこないのが函館本線の函館〜長万部間。
並行在来線対策協議会のうち、こちらは沿線7市町で渡島ブロックとして構成されている。
この区間は現在特急『北斗』のほか、本州と道内を結ぶ貨物列車が多数走っている路線だ。
普通列車では、函館市内と新函館北斗を結ぶ新幹線アクセス列車『はこだてライナー』のほか、函館への通勤通学輸送がそれなりに多い路線でもある。
函館〜長万部間については第三セクター化による鉄道存続は確実とも取れるが、果たしてそうなのだろうか。
それを実際に数字とグラフで見てみよう。
以降のグラフや表は、『第7回渡島ブロック会議(令和2年8月25日)資料1』のデータから筆者が作成したものです。
まずは函館線 函館〜森間の駅間別乗車人員のうち普通列車(快速も含む)のみ抜き出したものをExcelでグラフにしてみた。

函館線 函館〜森間 主な駅間別普通列車の乗車人員
※大沼〜森間は駒ヶ岳〜森、東森〜森の2区間合計。
駅間の乗車人員で一番多い区間が五稜郭〜桔梗間で、上下合わせて2,940人の利用がある。
七飯〜新函館北斗間が1,904人。
ここまでが函館の通勤通学客と『はこだてライナーの』の利用者が大半を占める。
函館〜新函館北斗に限れば、輸送密度は4,261人/日(2018年度)※となっている。
特急利用者が新幹線にシフトする2030年度の輸送密度は5,592人/日と試算されている。
※駅間別乗車人員に比べて多が、函館〜五稜郭間の道南いさりび鉄道からの入込みも含まれていると思われる。
国鉄時代に制定された廃止対象となる特定地方交通線が輸送密度4,000人/日未満だから、それで行けば時刻表の路線図で青線表示される地方交通線として存続していたほどのレベルだ。
これをバス転換するとなると逆に大変だろう。
1列車の乗客をバス数台で運ぶことになる。
また、新幹線のシャトル列車が無くなることによって、ただでさえ函館市内から遠い新幹線へのアクセスが悪くなり、新幹線の優位性が大きく損なわれることになる。
新函館北斗〜函館間を15分で結ぶはこだてライナー。
新函館北斗からは利用者は1/3以下にまで大きく減る。大沼でさらに半分以下になる。
森までは209人。鉄道として存続するにはちょっと厳しい数字だ。
ただ、函館から大沼公園と森までは、新幹線開業後は特急からの転移があるので若干の増加は望める。
大沼や駒ヶ岳といった観光地や景勝地でもあるので、観光列車を走らせれば営業次第では集客できる路線になるかも知れない。
次は森〜長万部間について見てみよう。
以下は森〜長万部間の駅間別乗車人員。これもExcelで作成した。

函館線 森〜長万部間 普通列車の駅間別乗車人員
森駅からは乗車人員が大きく減る。
これは普通列車のダイヤにも現れていて、函館〜森間は駒ヶ岳経由と砂原経由を合わせて上り13本、下り11本の列車があるが、森〜長万部間は上下それぞれ6本と、ほぼ半減する。
グラフを見ると落部・野田生から八雲への利用が目立つくらい。あとは森〜八雲、八雲〜長万部の利用だろう。
そしてさらに列車別で見ると以下の数字になる。
平成30年度特定日調査(平日)に基づく列車別乗車人員から抜き出した数字です。
森〜八雲間 | 八雲〜長万部間 | |
891D | 29 | 4 |
821D | 3 | 8 |
893D | 3 | 3 |
2841D | 9 | 10 |
823D | 2 | 3 |
895D | 1 | 2 |
下り列車の乗客で一番多いのが891Dの森〜八雲間で29人。大半は八雲への通学客と思われる。
その次が2841Dの10人。八雲発が17:18の列車なのでこれも八雲から帰宅の通学客だろう。
あとの列車はどれも10人に満たない乗客を乗せてガラガラで走っていることになる。
891Dは時間帯からして長万部への通学列車も兼ねていることになるのだが、八雲から先の乗客数はわずか4人。
途中にある国縫など駅周辺は市街地を形成しているほどだが、広報おしゃまんべ令和3年7月号によると、国縫駅の利用者のうち通学利用は0となっている。
これは長万部町が無料のスクールバスを運行しており、町内の通学生は鉄道を利用しないからだろう。
学生が使わなければ、あとは通勤と通院での利用者が僅かにいるだけ。
この広報おしゃまんべ7月号では『町の考え』として、
“駅利用者が少なく、並行在来線を存続とした場合の負担が大きいことから、並行在来線の旅客は廃止する方向で検討すべきと考えております。”
〜広報おしゃまんべ 令和3年8月号より引用
と結論付けている。
そう、長万部町はすでにバス転換支持を表明している。
長万部町内にある国縫、中ノ沢、二股の3駅の利用客を合わせても1日に10人に満たない(同広報より)。
そんな僅かな利用者のために多額な費用を投じるのは現実的ではないし、町民の支持も得られないだろう。
町のシンボルだからとか、路線図から町が消えるからといった理由で鉄道が存続できるほど甘くはない。
このあたりの考えを同じくバス転換支持となった仁木町の『広報仁木』にも次の一文が記載されている。
“巨額の初期投資や累積赤字が見込まれる第三セクターによる鉄道運行ではなく、民間バス事業者によるバス運行が現実的なものと考えている”
〜広報仁木 令和4年1月号より引用
バス転換にしても初期投資や毎年発生する赤字から逃れることはできないが、鉄道存続に比べればはるかに少ない額となる。
三セクによる鉄道存続と民間のバス会社によるバス転換の費用を表にして並べると、その違いが一目瞭然だ。
初期投資 | 2030年度 | 2040年度 | 30年累計 | |
全線第三セクター鉄道 | ▲317.26 | ▲18.79 | ▲20.31 | ▲944.17 |
全線バス運行※ | ▲36.58 | ▲2.46 | ▲1.96 | ▲130.38 |
函館〜新函館 鉄道 新函館〜長万部 バス | ▲160.09 | ▲11.46 | ▲12.76 | ▲565.45 |
※国・道のバス補助は考慮しない。
森町と八雲町の動向は今のところ不明だが、八雲町については、上記の利用者数を考えると長万部町と同様の意向となる可能性が高い。
森町は新幹線の駅が設けられず、新幹線開業からは蚊帳の外となるため、鉄道存続を打ち出す可能性が高いといえる。
実際、函館方面の乗客数は、大沼回り、砂原回り合わせても200人以上の乗客がある。
沿線に大沼公園駅といった観光地もあるので、函館〜森間は三セクとして存続ということはありうる。
では、八雲町と長万部町がバス転換支持となり、第三セクター鉄道設立から手を引いてしまうと森〜長万部間の鉄道は無くなってしまうのだろうか。
ところがそう簡単にはいかない事情があるのだった。
〜長くなったので次回へつづく
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