1月4日 月曜日の道新朝刊にど〜んと出た1面記事。
リンクは北海道新聞 どうしん電子版
“JR新千歳空港駅と旭川駅を乗り換えなしで結ぶ新たな直行列車構想が浮上している。”
↑ 上記記事からの一部引用
記事の内容は、JR北海道と北海道エアポート(HAP)が協力して、新千歳空港〜旭川間の直行列車を新設しようという構想があるというものです。
かつて新千歳空港〜旭川間が快速『エアポート』〜特急『スーパーカムイ』として直通していましたが、2016年のダイヤ改正で直通運転は終了しています。
それを、こんどは札幌経由ではなく南千歳〜岩見沢間は室蘭本線と石勝線を経由するというもの。
この区間は電化されていないので、ディーゼル車による運行になるでしょう。
記事によると特急列車とした場合は1時間30分程度の所要時間になるようです。
ちょっとは鉄道に詳しい人ならば「本当かいな?」と思うような記事でありました。
しかし、筆者はヒマ こういう夢のある話は好きなので、実際走らせてみたらどのようになるのか考えてみることにしました。
実はこの記事を見たとき、かつて走っていた『フラノエクスプレス』を思い出したのは筆者だけでしょうか。
札幌〜富良野間を結んでいたリゾート列車。
スキーシーズンだけでなく夏の観光シーズンにも運転されていた特急で、最盛期は1日3往復運転、そのうちの2往復は千歳空港(現在の南千歳)まで直通していました。

↑ 1998年まで走っていたフラノエクスプレス車両。
(Wikipediaの画像より引用)
余談ですが、フラノエクスプレス車両は80系気動車からの改造で、登場は1986(昭和61)年12月というから地味に国鉄車両だったんですね。
それはともかく、なんで突然フラノエクスプレスかというと、千歳空港直通の2往復は札幌経由で運転されていましたが、1991年12月の運転から、下りの1本だけ札幌から千歳空港・追分経由の富良野行きとなっていたからです。
これは千歳空港〜富良野間の時間短縮をねらってのことでしょう。
実際同区間の所要時間は、札幌経由の最速2時間47分から2時間23分と24分短縮されています。
1992年7月、新千歳空港駅が開業し快速エアポートが運転開始すると、それまでの千歳空港駅は南千歳駅と改称され、空港から苫小牧・函館方面と石勝線方面へ行くには南千歳で乗り換えが発生するようになりました。
フラノエクスプレスも新千歳空港始発で札幌経由に戻すか、石勝・室蘭線経由ならば他の特急と同じく南千歳で乗り換えになるところです。
ところが、札幌発石勝・室蘭線経由は変わらず、なんと新千歳空港に乗り入れたのです。新千歳空港、南千歳と2回の方向変換をして。
所要時間は新千歳空港〜富良野間で2時間37分と14分延びましたが、空港から富良野に向かう便利な列車に変わりありませんでした。
手元に1994年10月の時刻表があったので、その時刻表を見てみます。
7042D | 7043D | |
札幌 | 12:06 | |
新千歳空港 | 12:43 | |
新千歳空港 | → | 12:50 |
南千歳 | 13:00 | |
岩見沢 | 14:02 | |
滝川 | 14:32 | |
芦別 | 14:58 | |
富良野 | 15:27 |
↑ 1994年10月の『フラノエクスプレス3号』の時刻。
(弘済出版社道内時刻表94/10より筆者作成)
札幌〜新千歳空港間の時刻(弘済出版社道内時刻表94/10より引用)
これはスキーシーズンではなく夏の臨時列車として運転されていたもの。
富良野はスキーだけでなく夏も人気の観光地、空港へ着いた観光客やツアー客が直接富良野へ行ける便利な列車を利用していたのでしょう。
15分間隔のエアポートのほかに特急と普通列車があって千歳線は過密ダイヤ。快速エアポート120号の2〜3分後を追うようにして新千歳空港へ向かっています。
一応札幌発富良野行きということになっていますが、全区間通して乗る人は少なかったでしょうね。
新千歳空港〜南千歳の時刻(弘済出版社道内時刻表94/10より引用)
新千歳空港では7分の停車。観光客を乗せたフラノエクスプレスは列車番号を7043Dと変えて南千歳へ向かいます。
南千歳では6分停車。ここでまた進行方向を変えて石勝線へと乗り入れます。
追分〜岩見沢間の時刻(弘済出版社道内時刻表94/10より引用)
追分で石勝線から室蘭本線へと乗り入れます。
追分は通過しますが、臨時列車なのと室蘭本線の一部と石勝線が単線なので運転停車もいくつかあったでしょう。
南千歳から岩見沢までの所要時間は1時間1分となっています。
岩見沢〜滝川間の時刻(弘済出版社道内時刻表94/10より引用)
岩見沢〜滝川間は直線区間が多く支障する列車も無いので、全力で走ったことと思われます。
それとてキハ80系の改造車という悲しさ、最高100km/hでは『スーパーホワイトアロー』が23分で駆け抜ける区間を30分もかかっています。
滝川〜富良野間の時刻(弘済出版社道内時刻表94/10より引用)
滝川からは根室本線に入ります。
芦別にも停まるのは、このころは芦別も観光地として売り出していたからでしょう。
札幌から『北の京&カナディアンワールド号』なんて観光臨時列車も走っていましたっけ。
そのリゾートは今はありませんがね・・・
富良野着は15時27分。
午前中の飛行機で各地から新千歳空港に着いたらフラノエクスプレスのお迎え。
列車に揺られること2時間37分、夕刻には富良野市内のホテルへ。申し分ないスケジュールですね。
フラノエクスプレス車両による運転は1998年11月が最後で、12月からはクリスタルエクスプレスの車両が使用され、列車名も『フラノスキーエクスプレス』と改められました。

フラノエクスプレスと新特急のルート図(筆者作成)
新千歳空港から石勝線・室蘭本線経由で岩見沢へ直行するルートは下り1本とはいえ、フラノエクスプレスで実績のあるルートだったので不可能というわけではなさそうです。
さてこれを踏まえて、冒頭にある通りの直行列車の新設が可能なのか考えてみたいと思います。
1,所要時間の問題
新千歳空港〜旭川間は記事にある通り1時間30分で結ぶことは可能なのか。
道新記事には“1時間30分程度”とありますが、これを1時間30分台と拡大解釈して、1時間39分としてみましょう。
仮にディーゼル車とすれば、キハ261系『はまなす編成』か同等の車両による運行とします。
岩見沢〜旭川間の所要時間は、現在特急『宗谷』が最高速度は120km/h、途中滝川・深川の2駅停車で60分要しています。
これを2014年以前同様の130km/h運転に戻すと、所要時間は54分となります。
となると、残り時間は45分。新千歳空港〜岩見沢間を45分で結ぶ必要があります。
南千歳〜追分〜岩見沢間の営業キロは石勝線、室蘭本線経由で57.8km。
この区間は線形も良く、仮に最高速度130km/hとすれば37分程度(表定速度94km/h)となりそうです。
残り8分で南千歳駅で折り返して新千歳空港へ。
これで1時間39分。1時間30分台は何とかクリアできました。
もちろんこれは机上の話で、南千歳〜追分間、岩見沢〜旭川間は設計上は130km/h運転は可能ですが、現在は120km/hに抑えられています。
また、室蘭本線の追分〜岩見沢間は従来からの95km/hのままとなっているので、この区間は高速化工事を行なう必要が出てきます。
その費用はというと十数億円は下らないでしょう。まず無理です。
現行の設備のまま直通列車を走らせるとなると、旭川〜岩見沢間60分、岩見沢〜追分間で32分(表定速度75km/h)、南千歳〜追分間は12分、合わせて44分。それに南千歳折り返しと新千歳空港までを最短の6分程度で見積もれば1時間50分となります。
これは運転停車を考慮していない最速時間なので、実際には単線区間のすれ違いのため、数分の運転停車が発生することになるでしょう。
そういうことも加味すれば、2時間を切れば御(おん)の字といったところではないでしょうか。
かつて直通していた当時の快速『エアポート』と特急『スーパーカムイ』での直通運転で、新千歳空港〜旭川間の所要時間が2時間7分だったことを考えれば、わざわざ面倒な特急を新設する意味がわからなくなってきますね。
必要ならば、現行の特急『カムイ』や『ライラック』を新千歳空港に延長運転すればいいんじゃないかという気がします。
2,新千歳空港支線単線ダイヤの問題
南千歳〜新千歳空港間は単線となっており、途中ですれ違うことはできません。
新千歳空港駅は1面2線となっていて、常にどちらかのホームに快速エアポートが停車しているし、札幌方面からのエアポートが到着してから数分間は両側のホームが埋まっている状態となっています。
新千歳空港駅は常にどちらかのホームに列車が入線している。
これは新千歳空港駅開業時から基本的には変わらず、これは15分間隔から12分間隔になった現在でも同様のダイヤになっています。
こういう状態でエアポート以外の列車を入れるにはどうすればいいのでしょうか。
かつて新千歳空港駅にリゾート特急が乗り入れていたときはどうしていたのでしょう。
それを実際にダイヤを描いて見てみましょう。
1994年10月の南千歳〜新千歳間の通常ダイヤ。
(弘済出版社道内時刻表94/10を基に筆者作成)
上は通常時のダイヤ。781系『ライラック』がエアポートとして乗り入れていた当時のダイヤです。
基本的には札幌方面からのエアポートが到着してから向かいのホームに先に停車していたエアポートが発車するというパターンですが、この当時は旭川直通の781系編成が入る時だけは変則的で、7分で折り返していました。
ここに臨時のリゾート特急が入るとするとどうなるのでしょうか。
時刻表と筆者所有の『鉄道ダイヤ情報116』(1993/12)を参考にダイヤを作成してみます。
1994年10月の南千歳〜新千歳間の臨時列車乗り入れダイヤ。
(弘済出版社道内時刻表94/10を基に筆者作成)
上が『フラノエクスプレス』が入線したときのダイヤになります。
使用番線は実際のものではなく、1面2線のホームをどう使い分けているかという風に見てください。
まずホームを1線空ける必要がありますから、115号として発車するはずだった1番線のエアポートを南千歳駅に一旦引上げます。
代わりに106号が7分間の折り返しで115号として発車します。
南千歳駅の札幌方には、引上げた車両を留置するための引上線がありました。
昼間よくここに停車しているエアポート編成を見たものですが、臨時列車入線のため、ここに逃げていたんですね。
115号が発車すると一旦両方のホームから列車がいなくなります。そこへ旭川からの110号が到着。
その続行で3分後に『フラノエクスプレス』が到着。
その4分後に旭川行117号が発車。
さらにその続行で『フラノエクスプレス』が発車。
次いで南千歳駅に引上げていたエアポート編成が戻ってきて121号としてスタンバイ。
その次に8分繰り下げの時刻変更した112号が到着。ここからは通常のダイヤに戻ることになります。
こうしてダイヤにして見ると、1本の臨時列車を入線させるために随分と綱渡りのような運用をやっていたんだとわかります。
京急もびっくりのアクロバットダイヤですね。
新千歳空港駅といえば北海道の玄関口とも言えます。
まだ元気だった当時のJR北海道としては、そうまでしてでも自慢のリゾート列車を乗り入れたいという情熱もあったのでしょう。
この頃はフラノエクスプレスに限らず、リゾート列車を積極的に乗り入れていたのが当時の時刻表からわかります。
その後のリゾート列車は、スキー人口の減少や定期列車の高速化、車両の老朽化などを理由に本数を減らしてゆき、2000年代前半を最後にエアポート以外の列車が乗り入れることは無くなったようです。
2020年3月ダイヤ改正からエアポートも1時間当たり5本と増便され、新千歳空港支線も臨時列車が入線するのはかなり難しそうです。
下が現在の5本/毎時のダイヤ。
現在の新千歳空港支線のダイヤ(筆者作成)
エアポートが5分で折り返すか、南千歳に引上げるかすれば何とかなりそうな気もしますが、今のJR北海道ならば90年代当時のようなアクロバットなダイヤは嫌がるでしょうね。
南千歳駅の引上げ線もいつの間にか撤去されたので、それも復活する必要がありそうです。
3,ディーゼル車の排煙の問題
新千歳空港駅は気動車の乗り入れを想定して各所に排煙口が設けられていますが、リゾート列車が乗り入れていた当時は発車時に残した排煙がホームにこもるということもあったようです。
当時は多くて1日数回ということと、札幌駅でも地下駅ほどではないにしろ同様のことがあったのでさほど問題視されてなかったのでしょうが、ディーゼル車の乗り入れは久しく行われていないので、地下駅に煙がこもるようでは問題視されるでしょう。
ディーゼル車の排煙対策工事も必要になるでしょうね。
結論
1,室蘭本線の追分〜岩見沢間の高速化工事と130km/h運転の再開をすれば最速1時間39分(1時間30分台)で可能。
2,現行のまま『はまなす編成』と同等の車両を走らせれば最速1時間50分程度で可能。
3,過去の『フラノエクスプレス』同様の運行とすれば最速2時間10分程度で可能。
新特急が運行されたとしても1日2〜3往復といったところでしょうか。
そのための高速化工事など現実的ではないし費用的にも不可能。
かといって現行の地上設備のまま、所要2時間前後では意味がないような気がします。
新千歳空港から旭川へは札幌乗り換えがあるものの2時間07分。しかも毎時出ていますしね。
かつてのリゾート列車ならば、スキーや団体観光ツアーといった明確なターゲットがあったわけですが、今回の新列車構想はどういった層をターゲットとするのでしょうか。
“関係者によると、新ルートは、HAPによる旭川空港の施設改修などが本格化する2025年以降に合わせて開設。JRとHAPの一部幹部が水面下で新ルート実現の可否を含めた検討に着手しているもようだ。”
(1/4どうしん電子版同記事より引用)
“検討に着手しているもよう”とあるあたり、随分と盛った記事でしたね道新さん。
それはともかく、こんな大々的な検討となるのだから、臨時列車ではなく定期列車として検討するつもりなのでしょうか。
いずれにしても話を進めたところで、
JR北:「諸々の設備新設工事で〇億円出してね、HAPさんよろしく〜」
HAP:「無理ィィィィ〜〜〜」
というオチになるような気がします。
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