久々に倶知安駅に立ち寄ってみたら、駅の裏側で何やら線路の敷設らしき工事が行われておりました。
もしかして、もう新幹線の軌道敷設工事が始まったのかと思ったものの、工事看板を見ると『北海道新幹線倶知安駅支障移転』とあったので、どうも違うようだった。
駅前通りから見た倶知安駅の駅舎。
駅の裏側では道床の新設らしき工事が。
駅南側の跨線橋から道床工事を見る。
2030年度開業を目指して目下工事中の北海道新幹線。その倶知安駅は現倶知安駅に併設されることになっている。
この工事は新幹線の倶知安駅ではなく、新幹線駅設置工事のために、現在線とホームを西側に移設させるための工事なのだった。
新幹線の線路と駅は、現在の線路とホームがある場所に建設される。
当初は地平駅で建設される計画だったが、高架線に変更されている。
ここに新幹線の高架橋が建設される(駅北側の踏切から)
北海道建設新聞によると、倶知安駅を中心とした約1.5kmが移転となる。
現駅舎は残して、新設するホームとは屋根付き廊下で結ばれるようだ。
2019年08月26日 12時00分 北海道建設新聞
線路切り替えは2021年秋ごろで、現在のホームと線路は2022年に撤去し、そのあとに新幹線の高架橋の建設工事が始まることになる。
最終的には現在の2階建て駅舎も解体され、新駅の駅前広場の一部となるようだ。

駅周辺施設整備イメージ(北海道新幹線倶知安駅新駅周辺整備構想倶知安町より引用)
新幹線が開業すれば並行在来線はJRからは切り離されるが、廃止の話はまだ出ていないので、一応ホームと線路は仮設ではなく恒久的なものということになる。
新幹線札幌延伸の並行在来線は、函館〜長万部間は貨物列車の走行のために第三セクター鉄道が経営を引き継ぐことは確実だ。
しかし、山線と呼ばれる長万部〜小樽間はかなり厳しい。それでも余市〜小樽間は利用客もそれなりにあり、朝夕の列車はまとまった乗客もあるので三セクでの存続もありうるが、特に列車本数も利用者数も激減する長万部〜倶知安間はかなり厳しいものとなる。
鉄道の廃止となると沿線町村はまず絶対反対の立場を取るが、倶知安町だけは立場が別のようで、倶知安町のホームページにある『北海道新幹線倶知安駅新駅周辺整備構想』には、倶知安駅周辺の新幹線開業時以降(将来像)をイメージした図面が掲載されているが、在来線廃止の場合と存続の場合の2パターンが用意されているのは興味深い。
高架での新幹線建設が決定したのに、在来線は地平のままとされているので、せっかく新幹線ができても在来線で町が分断されるのを疎ましく思っているフシも見え隠れするのだが・・・
それはともかく、倶知安駅の裏で始まった工事を見ていると、ようやく新幹線が本当に来るんだなと思いが湧いてきた。

北海道新幹線概要図(鉄道・運輸機構のパンフレットより引用)
新幹線札幌延伸開業まで予定通りならばあと10年後ということになる。まだまだ先の気の長い話だが、これからぼちぼちと新幹線の形が見え始めるのだろう。
北海道新幹線の新函館北斗開業の結果は散々たるものだが、あれは余りに中途半端な恰好での開業を余儀なくされたからで、やはり札幌まで開通してからが本領発揮であろう。
新函館北斗駅がなぜあんな場所(失礼ながら)に出来たのかというと、北海道新幹線がとにかく札幌を目指したからということに他ならない。
とはいえ、札幌延伸開業が実現したら、東京〜札幌間の所要時間は5時間14分、本数は1日片道17本という計画になっている。
延伸区間の最高速度を260km/hから320km/hに引き上げられることが決定しているが、それによる時間短縮は5分とのこと。
青函トンネルの貨物列車共用走行区間での140km/h走行が260km/hに引き上げられれば4時間台ということも可能になるのだが、物流の要である貨物列車をなくすわけにはいかないし、第2の青函トンネルというのも難しいだろう。
北海道新幹線の所要時間。
(国土交通省鉄道局『収支採算性及び投資効果に関する詳細資料』より引用)
東京〜札幌間の最速所要時間は5時間14分。これは少し古い平成24年のデータなので、現在(2020年)の試算では同区間の所要時間は5時間1分とされている。
所要時間5時間超えでは航空機との競争では全く話にならない。
北海道新幹線が悲観的な見方が多いのは、東京〜札幌間の所要時間ばかりに気を取られているからだろう。
これは東京から見るからそうなるのであって、逆に札幌から見てみよう。
上の表から札幌から各地への所要時間を作成すると以下のようになる。
区間 | 所要時間 |
札幌〜新小樽 | 0:11 |
札幌〜倶知安 | 0:25 |
札幌〜長万部 | 0:38 |
札幌〜新八雲 | 0:54 |
札幌〜新函館北斗 | 1:04 |
札幌〜新青森 | 2:04 |
札幌〜盛岡 | 2:52 |
札幌〜仙台 | 3:32 |
札幌〜東京 | 5:03 |
(筆者作成)
札幌〜新函館北斗間は上記の表から算定、新函館北斗〜東京間は現在(2020年8月)での最速列車に札幌〜新函館間の所要時間をプラスしたもの。
札幌〜東京間ということで見れば不満だが、札幌発着で道南や東北へということで見れば満足のいく所要時間ではなかろうか。
特に札幌〜函館間では、これに快速『はこだてライナー』の所要時間と乗り継ぎ時間を合わせても1時間40分程度となる。
所要時間だけ見れば、札幌からの距離感は旭川や室蘭と同等ということになり、函館から札幌への通勤も可能となる。
現在は札幌〜函館間の航空路線は、千歳・丘珠便合わせて1日片道7〜8便があるが、新幹線開業後は同区間からの撤退は間違いないところだろう。
札幌〜青森・三沢・花巻あたりの航空路線も、休止や撤退とまではいかなくても大幅な減便が考えられる。
その航空機の乗客は間違いなく新幹線へ移行する。本州や九州の新幹線と違って、本州〜北海道間はほかに選択できる陸上交通機関が存在しないのだから。
仙台は微妙なところだが、スピードアップによって3時間台前半くらいになれば完全にシェア逆転にできるだろう。
ただ、上の表は最速列車での想定なので、実際は列車によって10〜20分程度の開きがある。
札幌〜新函館北斗間では320km/h引き上げ化により5分程度短縮されることになる。東北新幹線区間も宇都宮以北で360km/h化することが決定していて、また青函共用区間でも、貨物列車と競合しない列車限定で260km/h運転とすることも検討され、2030年の札幌開業時には東京〜札幌間で最速4時間半台というのも実現しているのかもしれない。
とにかく筆者が言いたいことは、東京からの視点で見れば役に立たない新幹線と判断されかねないが、逆に札幌からの視点で見ると正反対の形で見えてくるということだ。
とかく東京〜札幌間の所要時間だけに振り回されがちな北海道新幹線だが、東北〜北海道間とか道南(特に函館)〜札幌間の時間短縮効果も素晴らしいものがある。
途中駅の新幹線ホームのイメージ(新函館北斗駅で2016年撮影)
話を倶知安駅に戻します。
新幹線の倶知安駅は札幌から営業キロで70km、新幹線の所要時間25分は、日帰りの観光地としては最適ではないだろうか。
道の駅的な集客施設も併設すれば、車の観光客も必ず立ち寄る手軽な観光拠点となることは間違いない。
新幹線通勤も可能なので、札幌の新しいベッドタウンとなる期待もできる。
新幹線で倶知安入りが想定される観光客の筆頭はインバウンドだろう。ニセコのブランド名で一番発展している倶知安町山田地区は駅から結構離れているという欠点はあるが、新千歳空港からでも東京からでも便利にはなる。
しかし今回のコロナ禍で、インバウンド・バブルで栄えたところは、これからどうなるかわからなくなってしまったわけで、インバウンドビジネスは、ハイリスクも伴うということがわかってしまったし、あんなバブル的なものは当てにしてはいけない。
今回のコロナが収束しても、また新たな感染病の世界的流行や、あるいは外交問題や戦争といったこともリスクとして想定しなければならない時代になりつつある。
そんな物騒な話は想定しなくても、倶知安町周辺の羊蹄山麓は景色も素晴らしいし素敵な観光地も地味にたくさんある。
ニセコ周辺は温泉が多いし、天気が良い日は羊蹄山を見ながらドライブしていたら気持ちが良いしね。
ニセコや羊蹄山といえばイメージは良いけど、改めてスキー場以外で有名な観光地は何かあったかと考えたが思い浮かばなかった。しかし、新幹線が来ればイメージの良さで観光客が増えそうな気がする。
イメージって大事ですよ。
富良野は、平凡な農業町だったのがTVドラマのイメージで、年間100万人以上もの観光客が訪れる道内屈指の観光地にまで成長した例だ。
美瑛は、ただの畑だったところが美瑛の丘というイメージで全国区で有名になった例もある。
イメージだけではなく、関係者の努力でそうなったことは言うまでもないが。
で、倶知安駅である。ニセコや羊蹄山麓周辺だけでなく、少し足を延ばせば南に洞爺湖、北に積丹といった観光地にも事欠かない。
富良野や美瑛と同じように農産物も豊富だし、羊蹄山を源とする名水の産地でもある。
東京からは微妙だが仙台以北から倶知安へは十分日帰り圏となるわけで、倶知安駅まで新幹線で来てレンタカーで観光なんてスタイルも定着するかも。
今まではスキーばかりが有名だったが、冬以外も全国的な観光地となる可能性は秘めていると思う。
もう1つ、観光だけではなく倶知安駅付近は新幹線からの車窓が楽しめる数少ない区間となる。
建設中の北海道新幹線は、新函館北斗〜札幌間212kmのうち、8割がトンネル区間というモグラ路線。
そのうち、倶知安駅の前後約9kmほどが数少ないまとまった明かり区間となる。
9kmの距離は320km/hで通過すると僅か1分41秒で通り過ぎてしまうが、天気が良ければ高架橋から羊蹄山が良く見えそうだ。
羊蹄山をバックに走る新幹線てのは、北海道新幹線のシンボルにもなりそうなほど良いアングルだろう。
とにかく、北海道新幹線倶知安駅開業による経済効果は計り知れないものがあると筆者は見ている。
倶知安駅から見える羊蹄山(2007年5月撮影)
さて、この倶知安駅まで札幌から新幹線で行くとするといくらになるんだろうか。
これを現在の運賃体系に当てはめてみると、特急料金は距離が近い奥津軽いまべつ〜木古内間と同様とすると2,030円(立席)、運賃は1,490円で合計3520円(2020年現在)とチト高め。
トクだ値の40%割引ならば2,430円。これはもう少し割引してほしいところ。
もう1つ気にかかるのは、倶知安駅の駅名。
最近の新幹線の駅名はやたらと2つ以上のものを合体させたがる傾向にある。
新函館北斗とか七戸十和田などがその例。中には有名観光地をくっつけたり町の特産品をくっつけて駅名としたところもある。
駅名はシンボルとなるものなので、駅名にいろいろ盛り込みたいのはわかるが、長くなるし逆に覚えづらくなって逆効果なのだが。
この駅名もすったもんだの果てに決まった(2016年新函館北斗駅で撮影)
いまや世界中から倶知安へ観光客が来るようになったが(コロナ前の話)、彼らが目指して来るのは倶知安ではなくニセコ。
いまやニセコは世界のブランド名となった。
こうなると駅名に『ニセコ』を入れてほしいという勢力が出てくるだろう。
インバウンド目当てであれば新ニセコ(New Niseko)駅というのはあり得るが、これは最悪。
倶知安ニセコ駅なんてありえそうだが、個人的には観光バブルに迎合した感があって嫌だなあ。
周辺町村からは羊蹄も入れろと言ってきたりして、倶知安ニセコ羊蹄駅って、観光ガイドの題名ならばともかく、だめだこんな名前覚えられない。
往年のイメージが残る鉄道ファンの筆者としては、函館本線の鉄道の要衝でもあり機関区もあった倶知安の駅名は守ってほしいところだ。
しかし懸念がひとつあって、並行在来線廃止の引き換え条件としてニセコ町あたりが駅名にニセコを入れることを提示してくることは考えられる。
その場合の折衷案としてひとつ筆者の妙案があって、駅名は倶知安として、ニセコの名前は列車名にしたらいい。
札幌〜新函館北斗間に区間運転の列車が設定されるだろうから、
その列車名を『ニセコ』とすればイメージもピッタリな気がするのだがいかがだろう。
北海道新幹線ルートを先取りするためか、臨時特急『ニセコ』号も運転されるようになったし。
あのヘッドマークは廃止になった急行『ニセコ』からの流用だが、デザインは倶知安付近から見える羊蹄山をあしらったものだ。

『ニセコ』のヘッドマーク(JR北海道のHPより引用)
新幹線初のカタカナ名列車ということになるが、ニセコ駅だって改称した当時は国鉄初のカタカナ駅だったので別にいいんじゃないかね。
以上、倶知安駅で見た新幹線関連工事のついでに、北海道新幹線について思うことを綴ってみました。
最後までお読みくださいましてありがとうございました。
PS、キーボードに『新函館北斗』と打つのが結構めんどい・・・
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