普通は路面電車停留場といえば交差点を挟んで千鳥に設置され、片方が横断歩道に接するようになっていることが多い。
ところが、札幌市電はそうでない停留場がいくつか存在していて、静修学園前停留場もその1つ。
一方の停留場は交差点の横断歩道に接するように設けられているが、もう一方の停留場は渡り線を挟むように千鳥で設けられている。
このような構造は札幌市電特有なのだろうか。他所の路面電車ではこういう停留場の配置は見かけない。
渡り線を挟む構造の静修学園前停留場。
なぜこうなったかというと、これは電車の折り返し運転を便利にするため。
交差点の手前に渡り線を設けることで、ここが終点の電車は乗客を降ろすとすぐに転線し、反対側の停留場の乗客をのせて折り返し出発することができるというもの。
反面、一方の停留場は横断歩道に接することができないわけで、乗り降りに危険が伴うデメリットもある。
内回り停留場は横断歩道がないので柵に注意喚起がある。
これが、西線16条のように交差点の向こう側に折り返し線があると、乗客を降ろしてから一旦交差点の向こう側まで行って転線し、反対側の停留場で乗客を乗せる。この間に1〜2回の赤信号待ちを余儀なくされるわけで、ダイヤ上は朝ラッシュ時に運行される西線16条折り返し便は、折り返し時間に7〜8分を要している。
これは遅れ時間の吸収など余裕時間を含んでいるからで、それがなくても折り返しに最短でも3〜4分はかかるものと思われる。
それがこの静修学園前タイプの停留場ならば赤信号にも左右されず、ものの1〜2分で折り返しができる。
地下鉄開業前、大量輸送時代のラッシュ時の運行には威力を発揮したものだろう。
特に2系統の北24条〜教育大学前は最混雑路線で、ラッシュ時は2系統の臨時として北24条〜静修学園前間に連結車が多数運行されていた。
試しに、当時山鼻線の朝ラッシュ時はどれくらいの本数が運行されていたのかを以下の過去記事から拾ってみよう。
昔の市電は今のように停留場に運行時刻表が掲示されていたわけではないので、どのようなダイヤだったのかはわからない。
『昭和45年度夏季ダイヤ電車系統別配車表』というものに運転間隔が記載されているので、そこから推定してみる。
地下鉄南北線開業が翌46年の12月なので、まさしく札幌市電最盛期のものと言える。
山鼻線のすすきの〜教育大学前(現:中央図書館前)間に乗り入れていた系統は2系統と8系統。
2系統は北24条〜教育大学間の運行、8系統は昭和40年に運行を開始した苗穂駅〜すすきの〜教育大学〜西線〜丸井前という環状線だった。それまで別系統に分断されていた山鼻線と西線を直通するという、地下鉄開業後の短縮路線の前身でもある。
まず8系統は11分54秒間隔。意外と間延びしている。
これは、運行区間が長すぎてダイヤの維持が困難なことから、運行開始の翌年には8系統のうち半分は従来通り残して、もう半分は苗穂駅〜すすきの、丸井前〜教育大学という途中折り返し便に分けたことからである。
それでも具合が悪かったようで、昭和45年8月からは苗穂系統を苗穂〜静修間の4系統として独立させ、運行区間は三越前〜教育大〜丸井前に短縮することになった
そんなわけで、山鼻線の主力は2系統だった。
朝ラッシュ時の運行間隔は北24条〜教育大学の便が5分32秒間隔(1h当たり11本)。臨時2系統の北24条〜静修学園の便が3分24秒間隔(1h当たり17本)。
8系統と合わせると1時間当たり33本もの電車が山鼻線に乗り入れ、そのうち17本は静修学園前で折り返していたことになる。しかも臨時2系統の車両のうち半分は連結車が投入されていた。
到着したらすぐに折り返して発車ができる静修学園前停留場の構造は、遺憾なく発揮されたことだろう。
路線縮小直前の1970(昭和45)年8月からの札幌市電路線図。(交通資料館にあったもの)
現在のダイヤでは静修学園前で折り返す電車は1本も無い。少なくとも、西4丁目〜すすきの間の路線になってからは、通常ダイヤでここで折り返す電車は無くなり、この渡り線が使用されることもほとんど無いようである。
90年代に今の屋根付きの停留場に改修されたが、移設されることはなかった。この構造は輸送障害時に両方向への折り返し運転が可能ということで残されたのだと思われる。
例えば現在西4丁目停留場にある渡り線は、すすきの方向からの折り返しには対応できるが、逆側からの折り返しには対応できない。毎朝見られる西4丁目折り返しの電車は乗客を降ろしても乗せることができず、やむなく次の西8丁目始発としている。
ところで、一時期ちょっと静修学園前折り返し電車を期待したことがあった。
筆者の利用する山鼻線は、ループ化された当初は冬ということもあってか朝ラッシュ時などかなり混雑するようになり、しばしば積み残しも発生するようになった。
そんなわけで、朝は静修学園折り返しの便でもできないかなと思っていたのだが、そこまで混むのは最初のうちだけで、次第に1台で賄えるほどになってしまい、増便の希望も消えてしまった。
信号も横断歩道も無く、乗降客からも車からも冷や冷やする箇所。
一応電車が停車中は標識に乗降中のサインが出る。
ラッシュ時の折り返し運転には威力を発揮したこのような構造も、すっかり無用の長物となって久しい。
信号もなく横断歩道にも接していない内回り停留場は危険なだけだ。
利用者も危ない思いをするし、逆に車でここを通っても運転していて冷や冷やする場所だ。
何年か前から札幌市電の停留場の改修工事が行われている。
去年(2019年)は中央図書館前の停留場が対象となって、やはり横断歩道のない外回り停留場が交差点側に移設された。
ここ静修学園前停留場も改修工事の番が回ってきたようで、南16条の交差点南側では、新たな停留場(安全地帯)の設置工事が始まっていた。
停留場の新設工事が始まった南16条静修学園前の交差点。
これが完成すれば、ここも札幌市電標準の交差点の手前に停留場がある構造になる。
以前に、交差点を通り過ぎた先に停留場を設ければ無駄な信号待ちが無くなって良いんじゃない、と書いたことがあるが、札幌の場合大体400mくらいごとに停留場があるので、前の停留場を青信号でスタートしても次の停留場につく頃にはまたちょうど赤信号という具合になるので、やっぱり今のままがいいのかなという気がする。
この工事と合わせて外回り停留場も改修工事を行うようで、『8月19日より停留場はあちらに移動します』との看板があった。
あちらとは交差点の向こう側。
他の停留場の改修工事と同じように、交差点の向こう側に仮設の停留場を設けて、その間に既設の停留場を新しくするというもの。
工事看板の工期を見ると『令和2年11月24日まで』とあったので完成はその頃らしい。
変わった構造は大量輸送時代の遺産なのだった。
ここで連結車が次々に折り返して行ったんだなというのは想像するしかない。
途中折り返しは今でも西線16条や西線11条で見ることができるが、あんなのんびりしているものではない。
1時間当たり33本、2分以下の間隔で電車がやってくる中での折り返しは時間との戦いだっただろう。
だれも気付く人はいないが、路面電車の大量輸送時代の遺物というか遺産がまた1つ無くなるのだった。
幌南小学校前停留場も静修学園前と同様の構造。(2017年撮影)
そんな札幌独自の停留場。残るはあと1つ。幌南小学校前停留場。
ここもそう遠くないうちに改修されるものと思われる。
ここはそもそも交差点に面していない場所にあって、改修に当たって南21条交差点側に移設するのか、それとも場所は今のままで新たに信号機と横断歩道が設けられるのか。
南21条側に移動したほうが便利にはなると思う。ショッピングセンターも近くに出来たしね。
〜最後までお読みいただきましてありがとうございました。
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