◆ 7月3日(金)
5時過ぎ、明るくなった窓から空を見ると隣の建物の隙間から青空が見えた。
外に出てみると雲ひとつない快晴。港の海面はさざ波ひとつない鏡面のようになって漁船や周りの建物を映していた。利尻富士もくっきりと見えている。
出発前は2日くらいは雨を覚悟していたが、来てみれば雨に当たることもなく、火曜日以外は午前か午後のどちらかは青空に恵まれた。野球ならば完全試合といったところ。
鏡面のような海面の香深港。
スマホで今日の天気予報を見ると完璧に晴れ、降水確率も終日0%になっていた。
このまま帰るのは勿体ないな。
朝の船で出れば夕方には札幌に着くが、昼の船で出ても夜遅くなるが今日中に札幌に着くことができる。
歩いていると、レンタカー屋の立て看板に、『キャンペーン特別料金/3時間6600円』というのが見えた。
車を運転するつもりはなかったが、今日はこれで島をもう1回りして来たくなった。
フェリーターミナル向かいのレンタカー屋。
レンタカー屋が開く8時に宿をチェックアウトする。チェックアウトと言っても1Fの店には誰もいないのでカウンターにキーを置くだけ。せめてキーボックスでも置いたらどうかと思うが、それはさておき。
◆ 礼文島をレンタカーで回る
まずはレンタカー屋へ。
表の看板の車を借りたいのだがというとすぐに対応してくれた。
3時間6600円は本土と比べるとずいぶんと高いが、礼文島は離島料金が適用されるので、事前予約して普通に借りれば3時間7920円。これは軽自動車の場合で普通車なら9000円以上になる。
観光シーズンの今時期ならば予約なしで行っても予約一杯と断られるだろうが、今年ならばようこそいらっしゃいましたといった状況だろう。
レンタカー屋でくれた礼文島の地図。
店の親父がレンタカー客用の地図を持ってきて、島の見どころをあれこれ説明してくれる。
月曜にこっちに着いて、歩いて行ってきたところばかりなので知っているが一応聞いておく。
これ全部3時間で回ってこれるのかというほど盛沢山だったが。
表に停まっている軽自動車へ案内される。時刻は8時を少し過ぎたところだが、8時10分から3時間ということにしてくれた。
料金はガソリン代込みとのことで、そのまま返せばOKとのこと。
さっそく出発する。
3時間レンタルしたダイハツ・ムーヴ。
まず最初に向かったのは澄海(スカイ)岬。
さすがに車だと早い。香深のレンタカー屋前からここまで距離にして20km以上あるが、30分とかからずに着いた。
船泊の礼文荘に泊まって、歩いてここまで来たのは火曜日のこと。3日ぶりの再訪となる。
あの時は曇っていて山にはガスもかかっていたが、今日は快晴で文句なしの青空。どんな風景が待ち受けているのだろう。
晴れの澄海(スカイ)岬。
おおスカイ岬。おおブルースカイ。この海の明るさよ〜。
誰が呼んだか知らないが粋な名前を付けたものだ。
晴れた空の下に見る海は透き通って青く光るようだ。
澄海岬の入り江。
澄海岬というのは展望スペースから見下ろす入り江の通称名で、国土地理院の地形図で見ると入り江の反対側の岩が『岡田ノ崎』と載っている。
この入り江は中島みゆき『銀の龍の背に乗って』のプロモーションビデオの撮影地になった場所。
昔からTVオンチなので詳しくは知らないが、この歌はドラマの『Dr.コトー診療所』の主題歌に使われたらしい。
今日は入り江よりも岡田ノ崎側の方が海の色がきれいなブルーだった。
澄んだブルーの海。礼文ブルー。岡田ノ崎。
あれこれ写真を撮ったりしていると小1時間は過ぎたような気がしたが、車に戻ったらまだ15分しか経っていなかった。
ベタ凪の西上泊漁港。
次に向かうのはスコトン岬。
真直ぐ岬へは向かわず、レンタカー屋の親父に言われた通り、そこへ向かう途中で山へ登る小道へ入り、トド島展望台に寄る。
これも火曜日はスコトンから歩いて登ってきた場所。
展望台からはその時は見えなかった利尻富士のシルエットが見えた。
これだけ晴れていれば樺太(サハリン)も見えるかもと目を凝らしたが、水平線の上にそれらしい島影を見つけることはできなかった。
トド島展望台から利尻富士が見えた。
こんどは坂道をスコトン岬へ下る。
途中に黄色い点々をちりばめたような見事なエゾカンゾウの群生が・・・・
あああ〜!、通り過ぎちゃった。
車だとせわしない。
スコトン岬と海驢(トド)島。
スコトン岬へ。ここも誰もいなかった。
レンタカー屋でくれた地図に、
『スコトン岬は風が強いので、車を停めるときは風に向かって停めてね!』
との注意書きがあるほど風が強い所らしい。
そういえば礼文島は風が強い所だが、今回の旅行で強風に当たることもなかった。
なんと穏やかな週だったんだろう。
スコトン岬は最北限の地。
スコトン岬は最北限を名乗る。北端では宗谷岬に負けているので、最北端は名乗れないらしい。
岬の先には海驢(トド)島があって白黒ツートンの灯台が見える。昔は人が住んでいて、観光船も出ていたらしいが、今は無人島になっている。
それでも漁船をチャーターすれば行こうと思えば行けるので、ここが北限と言うわけではない。
1つ気づいたことがあって、礼文北部に行くときは、最初にスコトン岬に行ってから次に澄海岬へ行くべきだろう。
さきに澄海岬の青い海を見てしまうと、最北限の地もただのつまらない磯浜に見えてしまうのだった。
海驢(トド)島と灯台。
島の北部を後にして、また道道礼文島線を香深へ戻る。
今度は、歩いては行かなかった島の西海岸へ行くことにする。レンタカーを借りたのはそっちへ行きたかったのがメイン。
香深の町へ戻り、長い新桃岩トンネルを抜けると元地の漁村に出る。
かつての旧道は桃岩やユースホステル桃岩荘の方に出たが、今の新道は元地の町とダイレクトに結ぶようになった。
メノウ浜の看板が立つところに駐車場があったので、車はそこに置いて歩いて地蔵岩まで行く。
地蔵岩が立つ元地海岸。
お地蔵さまが手を合わせて拝んでいるように見えるからその名がついた地蔵岩。
いかにも昔の日本人が好きそうなネーミング。
そのためか礼文島のシンボルでもあったこの地蔵岩も、トレッキングコースからは外れているのと、今は澄海岬や桃岩といった景勝地に押されて影が薄くなってしまったようだ。
昔宗谷本線に走っていた急行『礼文』のヘッドマークもこの地蔵岩をデザインしたものだった。
道路は地蔵岩の200m手前で終わり、そこには立入禁止の旨を掲示した看板が立つ。
柵で囲まれているわけではないので行こうと思えば行けるが、危険を冒して近づいたところで何かあるわけではない。
昔はここから地蔵岩〜礼文滝〜ウエンナイと海岸を辿るのが8時間コースとなっていたが、事故があってから礼文林道を迂回するコースに変更されている。
この海岸は映画『北のカナリアたち』のシーンにも出てきた見覚えのある場所。
映画では、この地蔵岩の下で起こったある事故がきっかけで、吉永小百合演じる教師が島を追われることになるのだった。
20年後に、バラバラになっていた教え子たちは全員この事故にかかわっていたということを告白する。
あんまり言うとネタバレになるのでもうやめます。
この映画には札幌市電も出てきて、見覚えのある沿線風景に親しみを感じたものだったが。
いや、もうやめます (^^;
お地蔵様が拝んでいるように見える地蔵岩。
駐車場の向かいはメノウ浜。
メノウが拾えるのでこの名がついたらしい。
もしかして拾えるかと思って浜を歩いてみたが、それらしい石は見つからなかった。
地蔵岩近くのメノウ浜。
こんどは西海岸を南に行く。
西海岸は道が狭いので軽自動車が走りやすい。
そういえば、レンタカー屋の親父が、
「今日は観光バスが走るみたいなので注意してくださいね」と言っていたな。
幸いまだ観光バスは見ていない。
今日だったら原付でも良いのだろうが、あいにく私はバイクに乗ったことがないので・・・
桃台猫台展望台から見た桃岩。
西海岸の道路の南端は桃台猫台展望台の駐車場。その先は『桃岩荘利用者以外立入禁止』の看板が立っている。
ある意味礼文島のシンボルともいえる有名なユースホステルだが、車に入り込まれて見世物にされてはさすがに迷惑なのだろう。
今年の営業は断念せざるを得なかったようだ。
駐車場から階段を登った高台が展望台になっている。
香深側から登る桃岩展望台は見下ろす格好だが、こちらのは反対側から見上げる格好。
頭が尖がった、桃太郎に出てくるような桃の形に見える。
その反対側の南側に見える小さな岩が猫岩。
猫が反対を向いているような恰好。
桃岩荘の赤い屋根と猫岩。
猫岩の望遠。猫背の猫岩。
ここもほかには誰もいなかった。
10時10分を過ぎたところ。車を返すまであと1時間近く。あとはどこに行くか。
新桃岩トンネルを出ると、町とは反対方向に車を走らせた。
また桃岩展望台に行こうと思ったわけだ。
最初に来たときは香深の町から歩いて登り、次は礼文林道から大型バス駐車場のある桃岩登山口から登り、今日は桃岩展望台駐車場まで車で行ってそこから登ることになる。
車で行くと途中から片側1車線の狭い道を通ることになるが、対向車が来たらどうしようかと冷や冷やした。
駐車場まで来たら、小学生の遠足なのか知らないが、大賑わい。
それとは別のトレッキングの人も一昨日来たときよりも増えていた。
桃岩展望台駐車場を見下ろす。
駐車場から桃岩展望台までは200mほど歩いて登る。一昨日は香深から40分かけて歩いて登ってきたのにあっけない。
桃岩展望台まで往復するだけならば車でも来られるが、そこから知床までトレッキングするのなら車は不要、ていうかむしろ邪魔。
なぜなら、向こうへ通り抜けてもまたこの駐車場まで車を取りにいかなくてはならないから。
今日は桃岩展望台へ行って写真を撮るだけで引き返す。
展望台に登る途中、今日もイブキトラノオのピンクの穂が一斉に風にそよいでいた。
桃岩展望台から利尻島の俯瞰。
桃岩展望台からの桃岩。
さっきの桃台猫台展望台を見下ろす。
小学生やトレッキングの人たちが知床の方へ去ってしまうと、展望台は人がいなくなった。
今日観光バスが走ると聞いていたので、観光バスの人たちだったんだろうか。
イブキトラノオの花に見送られて、また駐車場へ戻る。
もうそろそろ車を返す時間が近づいてきた。
レンタカー屋の前に着いたのが10時56分。なかなか上出来な回り方だった。
島の観光地をいくつか回ってくるだけだったら3時間で十分だった。
火曜から木曜まで3日かけて歩いてきたところも車ならば3時間なのだからあっけない。
しかし、礼文島の本当の良さは車じゃ絶対わからないと思う。
◆ 礼文島の終わりはうに丼で
昼には少し早いが、つぎはうに丼が食べたい。
昨日ちゃんちゃん焼きを食べるのに入った店で、『うに丼4500円』という張り紙を目にして、たかが丼もの1杯にこんなお金を出すのは勇気がいるなと思っていたのだった。
しかし、礼文島まで行ってうに丼を食べなかったのかと後悔するのも嫌だしねえ。
幸い初日に買った礼文島プレミアム商品券がまだ3千円分残っている。これは土産物を買って使い切ろうと思っていたが、うに丼に使うことにした。こういうのを最初に買っておけば心理的な負担を減らすことができる。
向かった店が『海鮮処かふか』。
ここはマリンストアーの2階にあって、漁協による直営の店。ここなら間違いないだろうと思ったからだ。ところが店は閉まっていた。定休日ではなく、『当分の間は夜営業のみとさせていただきます』の張り紙が・・・。
仕方ない、昨日と同じ『炉ばた ちどり』に入る。焼き物ではないと言うとカウンター席に通された。
ちゃんちゃん焼きが名物の店だが、うに丼もまた名物となっていて、観光客は両方注文する客も多いらしい。
観光シーズンの今時期ならば行列のできる店なのだろうが、今日も余裕がある。
席に着くなり迷うことなく「うに丼」と言った。
それでも席に着いてから次第に客が増え始めた。
ほかの客がうに丼を注文すると、うに丼は1組1品だけということだった。
昨日が時化で、ウニの入荷が少なかったという。そういえば昨日は波が高かったもんな。
また入った炉ばた ちどり。
さて出てきました。うに丼4500円。
「まずは醤油をかけないで召し上がってください」
同じことを礼文荘でも言われた。
礼文島に限らず、うに丼にまず醤油をかけるなど愚の骨頂ですぞ。
時価4500円也のうに丼。
あ〜ウニがとろける・・・甘〜い・・・
しかもここのうに丼は、ご飯の間にもウニが挟まっているんですね。ウニの2段重ね。
最初はウニだけを味わい、2段目が出てきたら醤油とわさびでいただくという2度おいしさが味わえる。
エゾバフンウニのとろけるような甘さ。
商品券3千円分と現金1500円。
プレミア分を引けば実質3千円でうに丼を食べられたことになるな。
旅行中でもこういうセコイ性格が抜けないのは困ったことだ。
歩道に寝そべっていた猫。
またマリンストアーに寄って、土産物のムラサキウニの蒸しウニ缶と礼文島香深産昆布の昆布しょうゆを買った。
こういうものは土産物屋で買うよりスーパーの方が安い。これは実家へのお土産としよう。
まだ船の時間があるので、フェリーターミナル向かいの土産物屋を物色する。
いくつか欲しいものがあったので買うことにした。全部調味料ばかり。
さっきマリンストアーで買ったのと同じ昆布しょうゆが置いてあって見ると、ゲッ、マリンストアーより安い。
またしてもやられた。ロシア人もびっくりのマリンストアーだった。
フェーリーターミナル向かいにある礼文おみやげセンター。
土産物屋のレジで申し訳なさそうに「袋は有料なんですがどうなさいます」と聞かれる。
そうだった、7月から全国一斉にレジ袋有料化がスタートしたのだった。
全部自宅用だし、裸で受け取ってバックパックに押し込んだ。
香深港に入港する稚内からのフェリー。
これで礼文島はおしまい。
あとはフェリーの乗船開始を待つだけになった。
【道北の旅行記の記事一覧】
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- 2022年留萌本線乗車記1
- 2007年留萌本線乗車記
- 2022年道北の無人駅とサロベツ原野
- 春の深名線と宗谷本線の旅行記3
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- 春の深名線と宗谷本線の旅行記1
- 2022年 HOKKAIDO LOVE!旅行記 留萌編
- 2021年 利尻富士の夕日を見に稚内へ
- はまなす編成の特急宗谷で稚内へ2
- はまなす編成の特急宗谷で稚内へ1
- 2020年礼文島旅行記7 礼文島から札幌まで
- 2020年礼文島旅行記5 礼文林道・礼文滝コース
- 2020年礼文島旅行記4 桃岩展望台コース
- 2020年礼文島旅行記3 岬めぐりコース
- 2020年礼文島旅行記2 ホテル礼文荘
- 2020年礼文島旅行記1 礼文島まで
- 2020年礼文島旅行記 はじめに
- 2020年 日帰り旭川・男山酒蔵開放旅行記
- 2019年稚内とサロベツ原野の旅