◆ フィンランドの古都トゥルク
トゥルクは暗い街だった。灰色の曇り空に肌寒い風。短い日照時間。
北欧のどこにでもあるような地方都市のはずだが、この暗さは何だろうか。
この古い街並みは、多くはスウェーデン支配時代のもので、建築物が並んで栄えたのはフィンランド支配の足掛かりとしてであった。
フィンランドの歴史は、約650年間スウェーデンに、その後も約100年間ロシアに支配されていた歴史である。
1917年のロシア革命を機にフィンランドは独立を果たすものの、その後もソ連、ドイツ、スウェーデンといった国に翻弄されつづけることとなった。第二次世界大戦では、ナチスドイツに接近したために敗戦国ということにされてしまった。
そんな歴史が重くのしかかって、暗い影に見えるのだろうか。
暗い空の下、カラフルに塗り分けられた古い建物が妙にやさしく見える。
街の中心を流れるアウラ川。
アウラ川沿いに古い建物が並ぶ。
アウラ通りとアウラ橋。坂からの遠景。
アウラ通りの賑わい。
オールドチックな街並みのシティーセンター。
信号待ちの風景。
どこか懐かしさも感じる。
フィンランドで一番古いが、首都ヘルシンキやムーミンのタンペレに比べて地味なトゥルク。
でも、今回のフィンランド旅行で一番気に入った都市はここトゥルクだった。
博物館へも美術館へも入らず、ずっと人々に混じって歩いていた。
あれほどヘルシンキで見かけた観光客も、ここでは見なかった。
露店が並ぶマーケット広場。
マーケット広場の賑わい。
野菜や魚などを並べて売っている。
歩行者天国のユリオピストン(大学)通り。
街を歩けばどこか懐かしいような落ち着いた気分になる不思議な街。
もしヘルシンキあたりの観光客の多さにうんざりしたならば、ここトゥルクを訪れてみるがよい。
ここトゥルクは、フィンランドに来てから初めて落ち着いた気分で過ごせた街だった。
それにしても彼らがいないとこんなにも心穏やかなのはなぜだろう。
幸せの馬像(Onnenhevonen)。
子供たちの像(Lapset)。正座で叱られてるみたい?
街をずっと歩いていたらすっかり冷えてしまった。
どこか博物館に入ったり、カフェで食事する余裕はあったのだが、歩いているうちにトゥルク駅に着いてしまった。
まだ2時半。帰りの列車は15:25発なので、それまで駅で過ごさなければならない。
駅は中心部から離れた場所にあり、どこへ行くにもまた出直す格好になる。
ホームにはすでに後ろに電気機関車をつけた5両編成の客車が停車している。ホームの表示機を見るとこれが帰りの列車になるようだ。
しばらく駅の内外を見て回って、また待合室に戻った。
キオスクでシナモンロールを1個買って食べた。
1940年完成のトゥルク駅舎。
ガラス張りのトゥルク駅正面。
トゥルク駅の駅舎は1940年建築のものだ。
近くで見ると気づかないが、離れた場所から俯瞰すると、何となく小樽駅や上野駅の駅舎にも似ている。
直線を強調した箱型で左右対称、縦長の窓が並ぶという、いかにも昭和初期の建設といったデザイン。
日本とつながりがあるのかと思って調べたが、そういうことは見つけられなかった。
ホームは3面6線だが、実際に使われているのは3線だけ。
発着する列車も多くはない。ヘルシンキまでの都市間列車が1時間に1本、タンペレとを結ぶ都市間列車が8往復(平日)、それにロヴァニエミへの夜行列車が週2往復となっている。近郊列車は無し。
中心部から少し離れた所にあるせいもあってか、都市の規模の割にひっそりとした感じがある。
キオスクやカフェが入居する駅コンコース。
駅横の跨線橋から見たトゥルク駅構内。
電気機関車牽+2階建て客車のインターシティ。
◆ トゥルク 15:25【IC962】17:23 ヘルシンキ
3時近くなるとホームにいた人たちが列車に乗り始めた。
もう乗ってもいいようなので、待合室を出て車内に入る。
今回の乗車は1階席。今まで2階席ばかりだったので、どんなものだろうと1階席にしてみたのだった。
固定リクライニングシートが集団お見合い式に並ぶ。
1階席でも、ホームが低いので日本のように半地下のような感じはない。
地面に近いせいか飛沫(しぶき)がつくせいか窓は汚れている。
もうすぐ暗くなるし、見たいような車窓もないから別にいいけど。
車内の乗客は、発車時刻が近づくにつれ段々と増えてきて、2人掛けのボックスが2/3ほど埋まるくらいの乗車率となった。
発車してしばらくしてから食堂車にいってみる。
トゥルクからヘルシンキまで2時間足らずの所要時間だが、食堂車が付いているのだった。
食堂車の造りは昨日乗ったロヴァニエミ発のインターシティと同じ。
半分くらいのテーブルが空いている。
レジの前にいた女性客は、料理とワインを注文していた。男女問わず、昼間から飲む習慣があるのだろう。酒好きにとってはうれしいところだ。
自分の番が来て、カルフと伝えると、発音が悪かったのかカップのサイズを聞かれる。「What」というと、コーヒーカップを取り出してどっちにするかと聞かれる。
「ノー、カルフビア」といってビールサーバーを指さすと「ソーリー」と言ってグラスにビールを注いでくれた。
食堂車もちゃんと営業。
短時間の都市間列車でも食堂車が付いているのは立派だ。
採算が取れているとは思えないが、車内サービスとして営業しているのだろう。
JR北海道では、L特急や一部の特急を除いて、全特急列車で自社による車内販売を行っていたが、非採算ということと人材確保が難しいという理由から廃止されている。
日本のように駅弁がないので、供食サービスは食堂車ということになるのだろうか。
カルフビールの生ビール。
すっかり外は暗闇になった。ビールをチビチビ飲んでいると、トゥルク市内を出て次の駅サロ(Salo)に着く。
ここで車内の乗客の半分が降りてしまった。
食堂車からもここで降りる人がいた。
ここまで僅か30分だが、カフェ代わりに利用していたというわけか。
空いたグラスを下げて座席へ戻る。
車内はがら空きになっていた。
ヘルシンキが近くなると郊外電車と並走した。
ヘルシンキ中央駅到着。
ヘルシンキには定時着。
もうこれでフィンランド旅行も終わりに近い。北極圏のラップランドにいたことなど、もう遠い出来事のように感じる。
◆ ヘルシンキ最後の晩餐
中央駅の地下鉄駅コンコースにあるK-マーケットに寄って買い物。
ここで今夜の夕食を仕入れる。
オーロラも見れたし、天気にもまあまあ恵まれたし、お祝いしようとばかりにカルフビールの6缶パックをカゴに入れた。
地下鉄駅に併設のK-マーケット。
ヘルシンキ駅前広場のスケートリンク。
中央駅の東口から歩いてホテルに戻る。
レセプションというか、事務所では別の客のチェックインの最中だった。そこを横切って自室に入る。
スーパーで買ってきたビールと食料。
今夜の夕食というか酒の肴は、レトルトのミートボール&マッシュポテト。
電子レンジでチンするだけというもの。
幸いこのホテルには電子レンジがあるので、こういう品も買うことができるというわけだ。
キッチンへ行くと、中国人の女性グループが占拠中。
いや、まあ共用スペースなので文句を言う筋合いはない。
ちょっと電子レンジだけ使わせてもらう。
“名のみ知りて縁もゆかりもなき土地の宿屋安けし我が家のごと”
石川啄木が小樽から赴任地の釧路まで向かう途中、旭川の宿で詠んだ歌である。
安宿の悲しさ。
クチャラーとお喋り声の中、電子レンジの「チン」までの時間が長く感じた。
“伴なりしかの代議士の口あける青き寐顔をかなしと思ひき”
今日のトゥルク往復以外のすべての行程でずっと共にしてきた彼ら。
青き寐顔(ねがお)は109年前の啄木の見た光景だったのだろうか。
フィンランドに限らず、欧米の諸国からすれば東アジア人の観光客など皆同じことだろう。
逆に日本で見かける観光客で、人種の区別こそすれ、それ以上の詮索などしない。そんなものだろう。
今夜のメインはレトルトのミートボール&マッシュポテト。
温かいミートボール、固いパンに昨日の残りのミニトマト。チーズもある。
フィンランド旅行も無事終了しそうだ。
ビールをグラスに注いで1人乾杯する。
「おつかれさまでしたー!」
7月末に飛行機のチケットを買い、10月末ごろから準備を進めていた個人旅行。
一番の目当てであるオーロラも見られたことだし、今回の旅行も大成功といえる。
残念なのはこれを喜ぶ同行者がいないこと。
まあそれは仕方のないことだし、いればいたで気を遣うこととなっていただろうし、トゥルクで孤独な旅を演じられたのも1人旅ならではだろう。
イナリで買った絵ハガキを思い出し、両親宛てに文面を書いた。
これは明日郵便局に出してくることにしよう。
書き上げた文面。
飛行機のヘルシンキ発は17:25なので、2時過ぎくらいまではヘルシンキ滞在となる。
それまではヘルシンキ市内の観光に充てる予定である。
早起きする必要もなく、深酒してもいいのだが、ビールを4缶飲んだらまた眠くなってきた。
あんまり早起きでも困るのだが、もう寝ることにする。
費用 | 場所 | ユーロ | 円換算 |
シナモンロール | トゥルク駅 | 1.8 | 225 |
ビール | IC962車内 | 7.2 | 901 |
K-マーケット(ビールと食料) | ヘルシンキ | 23.07 | 2,890 |
12/30合計 | 32.07 | 4,016 |
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