◆ ヘルシンキの朝
12月30日、月曜日。
目が覚めて時計を見ると5時前。まだ真っ暗だが、旅先ではどうも早く目が覚める。
早寝早起きは健康的だが、今の時期だけは早く起きてもねえ・・・
キッチンでいれてきたインスタントコーヒーを飲みながら、昨日の出来事を綴って過ごす。これが日課になってしまった。
今日の朝食はサーモンのスープ。昨日スーパーでレトルトのを買っておいた。容器ごとチンすればOKというもの。
普通のホテルならば、自室で済ますのならパンと冷たくなった惣菜がせいぜいだが、キッチンのあるホテルはありがたい。
部屋自体は長居したい場所ではないが。
サーモンだと思っていたが、パッケージに書いてある『Kirjoloh-keitto』はニジマスのスープという意味だった。
とにかく、レトルトながらもフィンランド料理が食べられるわけだ。
レトルトのニジマススープ(kirjolohi keitto)とキャロット入りのパン。
ハーブとスパイスが香るニジマスとジャガイモのスープ。
今日は日帰りでトゥルクまで往復することにしている。
最初に予定を組んでいるとき、タンペレへ行くつもりでいた。
しかしタンペレだと、また同じ方向の路線を往復するだけなので面白みに欠ける。じゃあタンペレに泊まってとはしなかったのは前章の通り。
タンペレといえばムーミン美術館である。日本人ならばお馴染みのムーミン。
しかし調べたら年末年始は休館となっていた。
ほかに日帰りで行けるところはないかと地図を見ていたらトゥルクという所が見つかったわけである。
トゥルクはヘルシンキからは鉄道で2時間近く。十分日帰り可能だ。
VRの予約サイトで料金を調べたら、何と片道8.9ユーロ(1096円)。
ヘルシンキからトゥルクまでの距離は194km。JR東日本の普通運賃ならば3,350円の区間と考えれば、ほとんどタダみたいな値段ではないか。
これで行先が決まった。べつにトゥルクに行きたかったわけではなかった。

トゥルク往復の予約画面。
乗るのは9時37分発の列車だが、8時40分にはホテルを出る。
部屋にいてもつまらないし、退屈しているくらいならば駅の中を見物したり列車を見たりしていた方が楽しい。
まだ夜明け前だが、さすがにヘルシンキは都会で、普通に1日の活動が始まっていた。
夜明け前のヘルシンキ中央駅。
コンコースの列車発着表示板。
駅の中をブラブラして過ごす。
サンタクロースエクスプレスに乗ったときはあまり大きくない駅だと思っていたが、ステーションデパートのような商店街があったり、ホームの北側を結ぶ地下道があったり、意外と奥行きのある駅舎だった。
インフォメーションコーナーに、昔の切符や駅の写真などを展示しているガラスケースを見つける。
昔はコンコースにきっぷ売り場が並んでいたようだ。今は数台の券売機を残して、そういった窓口はなくなっている。
インターネットでの発売が普及したから、有人の窓口は不要になったのだろう。
インフォメーションコーナーに展示してあった切符など。
ヘルシンキ中央駅の昔の写真。
わが日本のJRの場合はというと、インターネットでの予約と決済は一応できるのだが、乗車前に必ずみどりの窓口か指定券の券売機でJRの地紋が入った磁気券を発券するという訳の分からないことをしなければならない。
チケットレス?何それおいしいの?と言わんばかりの旧態依然。
新幹線と通勤電車を除けば客離れするのも当然であろう。
◆ ヘルシンキ 9:37【S987】10:31 トゥルク
ヘルシンキ〜トゥルク 194kmのルート。
トゥルク行の発車するホームは13番線。駅の本屋から離れた屋根もないホームである。
何だかローカル線のような扱いだ。
向かいのホームには10時発サンクトペテルブルグ行きのアレグロ号が停車していた。
フィンランドとロシアの鉄道は軌間が同じ広軌(1524mm)を採用しているので、ロシアへ直通する国際列車が発着しているのである。
反面、ヨーロッパでは採用の多い標準軌(1435mm)の線路へは直接乗り入れできないので、そっち方面へ直通する旅客列車は無い。
アレグロ号に乗ればサンクトペテルブルグまで約4時間半。一応日帰りは可能である。しかしロシア入国は事前にビザを取得もいるし、簡単ではない。
9番ホームに停車中はサンクトペテルブルグ行きアレグロ号。
トゥルク行S987列車は13番線。
これからトゥルクまで乗るのはペンドリーノという名前の列車で、列車番号に『S』が付く列車がそれに当たる。
インターシティ(IC)の多くが2階建ての客車列車なのに対し、Sのこちらは平屋の電車なのが特徴。
最高速度220km/hと、フィンランド鉄道自慢の高速列車ということになっているが、時刻表を見る限りIC列車と変わらないのはどうしたことだろう。
ヘルシンキ〜トゥルク間もSとICが混じって走っているが、所要時間はどちらも同じだし、Sでも曜日によってICに置き換わる列車もある。
ペンドリーノ号は6両編成の電車。
トゥルクまでの194kmを1時間57分で結び、1時間ごとに運行されているこの列車は、北海道でいえば札幌〜旭川間を結ぶ特急カムイやライラックあたりと性格が似ていると思った。
2時間にも満たない所要時間なのに、食堂車があるのは立派だ。
ていうか、こんな短い運転時間でお客さんが来るのだろうか。
座席は回転不可で基本集団お見合い式。
食堂車も連結。
車内の客は1両あたり数人、この2号車は自分入れても3人だけという悲惨な乗車率のままヘルシンキ中央駅を発車した。
次のパシラで乗ってくる人も多かったが、1両に数人だけというのは変わらない。
パシラを発車すると車掌が「ヘイヘイ♪」と言って現れる。車掌の決まり文句である。
印刷してきたチケットを出すと、これもQRコードをスキャンして終了。紙でなくても、QRコードさえ表示できればスマホでも構わない。
もう世界中どこもかしこもチケットレスなのだった。
ヘルシンキの市街地が途切れると、車窓は茶色の畑や牧草地帯に林が混じる景色が延々と続く単調なもの。
景勝地に恵まれたノルウェーとは対照的に、フィンランドの鉄道の旅は車窓に関して言えば退屈である。
ノルウェーといちいち比べられたらフィンランドとしても面白くないだろうが、これが率直な感想。
夏に来ればまた違った印象かもしれない。
天井には案内用のモニターがあって、次の駅と到着時刻、走行速度などを表示している。
線形は良いらしく、最高速度160km/hを表示した。
車窓は単調だが線形は良いらしく160km/hで快走。
道路に面したサロ駅のホーム。
クピッタ駅はパシラ以来の立派な駅だった。
終点トゥルクの1つ手前の駅。もうここはトゥルクの市内である。
ところがなかなか発車しない。
どうしたのかと思ったら、しばらくしてヘルシンキ行の2階建て列車が入ってきた。交換待ちというわけだった。
あちらの方は席は結構埋まっているようだった。
トゥルク方面の人がヘルシンキに行くのに利用する路線なのだろう。その逆方向は回送列車同然なのであった。
クピッタ駅でヘルシンキ行と交換。
1駅で終点トゥルク到着となる。
各車両から数人がパラパラと出てくるだけで、寂しい終着駅だった。
改札口があるわけではないので、降りた人は駅舎を通らず直接駅前広場へ去って行った。
古びたトゥルク駅に到着。
◆ 暗い北欧の街トゥルク
さてトゥルクに着いた。
特に行きたいところや見たいものがあるわけではない。
主な博物館などは事前に調べてきたが、これといったところもなかった。
観光地なんかに行かなくても、見知らぬ町を歩いているだけでも悪くはない。
さっき列車の窓から赤レンガっぽい教会の尖塔が見えたので、まずそこへ行ってみようと歩き出す。
駅前にあった趣ある住宅らしき建物。
古い建物と新しいビルが同居するのが北欧という感じ。
たしかこっちの方角だったよなと西の方へ歩いて行くと赤レンガの教会があった。
名前を聖ミカエル教会(Mikaelinkirkko)という。
近づくと相当に大きな建造物だ。
由緒ありそうな古いレンガ造りは1905年完成の建物。
観光向けにはなっていないようだし、周りには誰もいない。中にも入れないようだった。
撮影だけして後にする。
高台に建つ聖ミカエル教会。
1枚の画像に納めるのに苦労する。
ここでトゥルクの説明を少し。
トゥルクはフィンランド西部にあるバルト海に面した港町。都市圏の人口は約31万人。これは都市圏の人口としてはヘルシンキ、タンペレに次いでフィンランドでは3番目の規模となる。
歴史的にはヘルシンキよりも古く、1229年にローマ教皇がこの地に司教座をおいたことで町が築かれ、フィンランド最古の町とされている。
14世紀から18世紀までフィンランドがスウェーデン王国の一部だった時代は、トゥルクがフィンランドの中心都市であった。
フィンランドがスウェーデンからロシア帝国に割譲されてフィンランド大公国が成立すると、首都はヘルシンキに置かれることとなる。
それでも1840年代までは、ヘルシンキよりも人口が多かった。
歴史的にスウェーデンとのつながりが強く、オーボ(Åbo)というスウェーデン語の市名も持っており、スウェーデン語を母語とする住民もいるという。
それを知ると、何となくスウェーデンぽい街並みだなと思えてくる。
どこかどう違うのか聞かれても困るが、3年前に行ったスウェーデンのヨーテボリという町に行ったが、街並みが何となく似ているような気がする。あちらも同じようにスウェーデンの港町だった。
こんどはトゥルク大聖堂や市の中心であるマーケット広場へ向かうことにする。
東の方へと歩いていると、歩行者天国の通りに出た。地図を見るとユリオピストン通り(Yliopistonkatu)とある。日本語に訳すと大学通りとなる。
このあたりが一番繁華街で、市民らしい人たちでにぎわっている。
デパートやスーパーが並ぶほか、普通の商店街のような通りだった。
観光客や観光向けの店がないのが救いである。
歩行者天国のユリオピストン通り。
どこかスウェーデンのヨーテボリを思い出す。
古い街並みに原色のバスが妙にマッチする。
アウラ川とトゥルク大聖堂。
1300年建築のトゥルク大聖堂。
高さ101.9mの時計塔。
クリスマス市も終わってしまったオールドグレイトスクエア。
雨上がりで湿っぽい曇り空のせいなのか、影の多い庇や装飾のある建物が多いせいなのか、トゥルクは暗い印象だった。
クリスマスも終わり、あとは日が短くて薄暗い毎日を送るだけの寒くて長い冬。これが本来の冬の北欧の姿なのかもしれない。
しかし1人旅をしていると、こういう街を歩いているときのほうがなぜか落ち着く。
同行者もなく、ずっと話し相手もなく孤独なはずなのに、なぜか街の人々に溶け込んだような気になってくる。
首都の座をヘルシンキに渡してしまったが、各所に昔の繁栄を偲ばせる古い街。
北海道でいえば観光地化する前の小樽の町を歩いているような懐かしさを覚えた。
ずっと街の人と同じようにうつむきで歩き回っていると、遠い異国の地にいることを忘れ、故郷に帰ってきたような気分だった。
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