桑園駅付近は1990年代になって急速に開けたところである。
まだ高架になる前の桑園駅前といえば、倉庫と予備校のイメージであった。
夜にこの駅で下車すると、駅前は真っ暗でタクシーすらいないという、そんな所だった。
1988(昭和63)年に桑園駅が高架化され、1995(平成7)年には札幌市立病院が北1条西8丁目から現在地に移転、同年にJR北海道本社が札幌駅旧駅舎から現在地に移転する。
その頃から桑園駅周辺はマンション建設ラッシュが始まった。
2002(平成14)年には現在のイオン桑園ショッピングセンターがオープンする。
桑園は新築マンションのブランド名として揺るぎないものとなった。
札幌市電に延伸の構想が本格的に出てきたのは90年代半ばだった。
当初は西4丁目〜すすきの間を結んでループ化するというもの。のちに既存の路線から桑園や苗穂方面への延伸構想が道新など道内のマスコミで報道された。
あれから20年経って、市電ループ化は現実のものとなる。
次はさらなる延伸へということで桑園地域への延伸を想像してみたい。
既存の市電路線から桑園駅へまでのルートは、考えられるのは以下の3通りといったところ。

市電1条線から桑園駅へのルート3案。(地理院地図より筆者作成)
本命は、西15丁目停留場から西15丁目通(福住桑園通)を北上し、桑園駅へ至る西15丁目ルートであろう。
それ以外に考えられるのは、西13丁目を北上し、イオンとJRの高架の間の歩行者道路を通って桑園駅に向かうというもの。
もう1つは、南1条を2丁西へ進んで西17丁目通を北上、北10条を右折し桑園駅というもの。
西13丁目ルートは、市立病院と都心を結ぶバス路線と重複するのと、イオンとJR高架との間の歩行者道路をつぶすことになる。
西17丁目ルートは、医大病院を経由するのでそちらの方面は便利になるが、桑園駅手前で右左折が避けられないのと、都心へは遠回りになる。
一番単純な西15丁目ルートが最適なようだ。
西15丁目停留場から桑園駅まで地図上で結ぶと、距離にして約1.5km。
なんのことはないと思われるだろうが、これが問題がある。
最大の問題とは、西15丁目通の幅員である。
この道路の幅員は20m。内訳は車道13m、歩道3.5m×2(両側)となっている。

現在の西15丁目通と同様の道路断面図(札幌市幹線道路整備の取組みについて(個票)より引用)
車道13mに路面電車の軌道敷6m※を新設すると、残りの車道は7mしかない。
片側1車線3.5mしか車道として使えなくなる。
さらにそこへ停留場ホームも設けなければならない。
※軌道敷幅員は単線3m以上、複線6m以上(道路構造令第9条の2)
まずは道路上のどこに軌道を敷設するかだが、ここは普通に道路の中央とする。
駅前通りの都心線で採用されたサイドリザベーション方式は、歩道から直接乗り降りできる利点があるが、歩道側に軌道があると車の停車ができないこと、ササラ電車での除雪ができないことから簡単に採用はできないだろう。
それと札幌市電では安全のためサイドリザベーション区間の最高速度が20km/hに抑えられているので、こんなノロノロ運転しかできないのでは交通機関としては失格だ。

車道13mの中央に軌道敷6mを想定した図。車道は片側3.5mとなる。
西15丁目電車通りと南1条電車通りは25mに拡幅する都市計画があって、用地取得が進んでいる。
が、南1条から桑園駅までの西15丁目通り(福住桑園通)は都市計画でも20mとなっており、拡幅の計画はない。
歩道を両側1mずつ狭くすると、現在標準の電車通りの片側4.25mの車道が確保できるが、大工事になって建設費が増大するのもあるが、車道を削ってでも歩行空間を確保する今の風潮に合うとは思えない。
それに歩道幅2.5mでは、冬季の歩道除雪もままならない。
やはり、車道幅員13m内で何とかするしかなさそうだ。
一番最初のルート案を複数組み合わせて単線で敷設し、ループ線とする手もある。
これならば単線軌道3mとなり、車道は片側5.5mで停留場ホームも設ける余裕ができる。
しかしそれぞれの線が2丁(約260m)も離れているのでは不便極まりない。
西15丁目と、1本東側の西14丁目にそれぞれ単線で敷設というのも考えられるが、西14丁目通の北側はイオンで突き当りになるので、桑園駅へは交差点を右左折させる必要がある。
あるいはループ線とすると北8条が終点になり、桑園駅への乗り入れができない。
やはりJR桑園駅と直結してこそである。
ここはやはり西15丁目通りを単純に複線という以外にないようだ。
西15丁目通(福住桑園通)は、南は澄川や福住から西線の電車通りを経由して、北は石山通へ抜ける主要道路となっている。
市電延伸の候補とする南1条から桑園駅までは片側2車線道路で、普段は渋滞こそ発生しないが、それなりに交通量はある。
北大通から北1条まで伸びた信号待ちの車列。西15丁目通り。
ここを3.5mの片側1車線としてしまうと、やはり渋滞や混乱は避けられないようだ。
ではどうするか。
それは、車の通行量を減らすしかない。
幸い、札幌の旧市街地の道路は碁盤の目となっていて、同じ幅員の道路が両側に並行している。
車はそちらのほうへ分散させればよい。
ではどうやって分散させるか。
1つは、現在高架下を通って石山通まで貫通している西15丁目通りだが、高架下に市電の線路を引き込んでそこに桑園駅停留場を設置し、車は通行止めとして市電と歩行者だけのトランジットモール化すること。
ここを市電とバス、歩行者のトランジットモールとする。現在は片側2車線道路。
高架下に市電とバスの停留場を設ける。右は桑園駅東口。
その代わりに、現在は緑道になっている西16丁目の高架下に車道を新設して、石山通方面からの車を西16丁目通りと西13丁目通りに分散させれば、西15丁目通りの交通量はだいぶ減るだろう。
道路を新設する西16丁目。片側2車線ずつの余裕はある。現在は自転車置場。
現在は片側2車線がもったいないような西16丁目通。
現在鉄工団地通上にある市立病院前バス停も、高架下のトランジットモールに移動すれば、市立病院前の交差点の通行もスムーズになるだろう。
また、桑園駅東口直結となるので、ここが新たな交通結点とすることができる。
イオンや市立病院へのアクセスも改善される。

西15丁目通を閉鎖し、西16丁目通を迂回させる図。(地理院地図より筆者作成)
もう1つは、現在北4条ミニ大通で行き止まりとなっている西14丁目通りと西16丁目通りをそれぞれ通り抜けできるようにし、逆に西15丁目通りの北4条を行き止まりにし、電車と歩行者のみ通行可とすることである。
現在の北4条西15丁目交差点。
現在は行き止まりの北4条西14丁目交差点。

北4条交差点を閉鎖し、西14・16丁目に迂回させる図。(地理院地図より筆者作成)
桑園駅と北4条の通り抜けができなくなると、西15丁目を通行する車は沿道が目的地の車くらいになり、交通量も激減すると考えられる。
これが歩いて迂回するならば大変なことだが、車ならばこれくらいの迂回は造作もないこと。
都会では、何でも自動車優先の時代はすでに終わっているのである。

2箇所を閉鎖することによって、通過車両を分散させる。(地理院地図より筆者作成)
これでは西13丁目通(鉄工団地通)が渋滞するのではという意見もありそうだが、そこは路駐の取り締まりを強化したり、冬季の除排雪をこまめに行うなどで対処するしかない。
西13丁目通りの主要交差点に右折専用レーンを設けるのも、混雑緩和の手だ。
てゆうか、西15丁目の車が流入したくらいで西13丁目通りが渋滞するのだろうか?
というのが、筆者が平日に西13丁目通りを運転していて感じるところではある。

西15丁目通りに市電の軌道を敷設した道路断面図(筆者作成)
車の交通量を減らしたとはいえ、片側3.5m1車線というのはやはり狭い。
これは現在の南1条電車通りの南側車線の車道が同じ幅員となっている。
冬季に雪山ができると、車は軌道敷内を走行するしかない。
南1条電車通りで何とかなっているので、そこは譲り合って通行するしかないだろう。
車道幅3.5mの南1条通り南側車線。
冬の南1条通り南側車線。雪山で軌道外側は車1台分の余裕もない。
続いては、停留場の問題。
この狭い車道に、さらに停留場ホームを設置しなければならない。
南1条電車通りは、歩道の幅員を削ることでホームと車道の幅を確保している。
ホーム幅は0.8m、そこへ上屋の柱と柵を設置したら立つのがやっとというぎりぎりの幅しかない。
ホーム入口は一応スロープ形状にはなっているが、車椅子での乗降は困難だ。
歩道を削ってホームと車道を確保した停留場(中央区役所前 内回り)。
軌道を歩道側に寄せて停留場部分だけサイドリザベーション化するという手もあるが、車と電車の動線が交錯するのと、停留場内で車が信号待ちしている間は、電車は手前で待機することになり、下手するともう1回信号待ちということになりかねないので却下。
もっともこれを採用すると、バス路線も西15丁目通りに集約し、バス停留場と共用するという手もある。
この停留場ホームもただ設置すればい良いというわけではない。
その規格は法令で定められている。
以下は 札幌市移動等円滑化のために必要な道路の構造の基準に関する条例(バリアフリー法)の引用になる。
第19条 路面電車停留場の乗降場は、次に定める構造のものとする。
(1) 有効幅員は、乗降場の両側を使用するものにあっては2メートル以上とし、片側を使用するものにあっては1.5メートル以上とすること。
要は停留場ホームの柱や柵部分を除いた幅員は1.5m以上必要だということ。
それに上屋の柱や車道との仕切り柵を設けると1.7mは必要になってくる。
既存の路線での停留場ホームは、ほとんどが幅1mとなっているが、これは既存のホームの改築ということで許されているのだろう。
こちらは完全な新設となるので、この要件を満たす必要がある。
ただでさえ狭い道路に、幅1.7mのホームを設置できるのだろうか。
やはり歩道を削るしかないようだ。
歩道の両側を0.85m狭くして、電車の軌道をホームと反対側に0.85mずらすと幅1.7mのホームと必要幅員が確保できた。
各寸法は下図のようになる。

停留場を設置した道路断面図(筆者作成)
また、ホーム入口はスロープを設けることになるが、線路側に柵を設置しても有効幅員は1.2mが確保でき、建築物移動等円滑化誘導基準の要件を満たすことができる。
バリアフリー法の要件を満たした停留場ホームの例(ロープウェイ入口 外回り)。
3つ目の問題。
新設の路線は、南1条西15丁目交差点で既存の路線から分岐することになるが、この交差点を曲がることができるかということである。
この角の隅切り(すみきり:交差点角の斜めになった部分)は5mとなっていて、バスならば難なく曲がれるところだが、電車では曲がれるのだろうか。

南1条西15丁目のコーナリング。
既存の路線で一番の急曲線は、電車事業所前にある内回りの曲線で、半径約19.5mとなっている。
こちらの角の隅切りは10mとなっていて、仮に電車事業所前と同じ寸法で敷設しても、ちょっと苦しそうだ。
現在の南1条西15丁目交差点に、電車事業所前と同様の曲線を置いてみたのが下の図。
西15丁目停留場交差点の曲線と寸法。(JWCADで筆者作成)
曲線半径のソースは『低床車両デザイン検討業務プロポーザル実施要領』より。
(2011年に市HPの入札情報で拾ったものだが、現在はWeb上から削除されている模様)
図面を見る限りでは特に問題はなさそう。
曲線の内側と歩道の間がかなり狭くなるが、ここを電車と車が同時に通ることはないので大丈夫だろう。
ただし、西15丁目側の停止線はかなり手前に設ける必要がある。
もう1つは、西15丁目の停留場をどこに設けるか。
現在は西15丁目通(山鼻西線)側に対向して設置されているが、桑園方面の新線にも設置する必要がある。
しかし前述の通り狭いのと、交差点でしかも電車の右左折があるところなので、西15丁目側にホームを設置するのはさすがに無理がある。
また、西線や桑園方面のホームはそれぞれ方向別で良いが、西4丁目方面は同じ方向に向かうのにそれぞれ別のホームというのも不便だ。
ここは南1条側に停留場を新設することにしよう。
現在の南1条電車通りにそのまま停留場ホームを設置するのはさすがに厳しいが、この通りは幅員25mの都市計画道路になっていて、これが完成すると西15丁目電車通りと同様の幅員となる。
ここの1丁だけ、拡幅工事を先に完成させてしまおう。
せっかく新しくなった西15丁目停留場ホームだが、上屋や柵などの構造物はそのまま移設すれば良い。
ホーム移設で車道が広くなった分、ここに右折専用レーンを設ければ、交差点の通行もスムーズになる。
・・・いや、左折専用レーンかな。
路面電車の進行現示の間は左折可の矢印とすれば、桑園方面への直進車を減らすことができる。
新しくなった西15丁目停留場だが、南1条側に移設する。
移設先の南1条通。25mへの拡幅が決定しているので幅員的には問題ない。
これで問題点は大体解決した。
次は停留場の設置である。
西15丁目停留場から3丁(約400m)の間隔で設置すれば終点桑園駅までほぼ等間隔となる。
路線名は『桑園線』とし、停留場名は〇条の前に路線名をつけた。
これは西線〇条や山鼻〇条と同様である。
桑園線の詳細図(地理院地図より作成)
北5条に停留場を設けなかったのは、北4条が車両通行止めとしたのでその代わりというのと、右左折が多そうなので混雑を避けるため。
折り返し用の亘り線は、西15丁目停留場北側に設けた。
ササラ電車や非常用の折り返し施設で、通常時は使用することは無いと思われる。
停留場は従来同様、交差点手前に設けた。
これは、3丁(約400m)という距離は、電車が発車してここまでくると、大抵ここで赤信号に引っかかることが多い(一条線、山鼻線を見ていると)から。
交差点後方に停留場を設けても、さほどの時間短縮にはならないだろうとの判断である。

市電桑園線の路線図(地理院地図より筆者作成)
これで桑園線は出来上がった。
営業キロは約1.6km。所要時間は1停留場間が2分とすれば、西15丁目〜桑園駅間は8分ということになる。
1条線の西4丁目〜西15丁目間の所要時間8分と合わせて、西4丁目〜桑園駅間は16分、表定速度は11.25km/hとなる。
朝夕のラッシュ時は、桑園駅〜中央区役所前の通勤客の需要がかなりありそうだ。
地下鉄西11丁目駅付近は、官庁街とオフィス街である反面JR札幌駅からのアクセスが悪い場所で、JR桑園駅から直通の市電が開通すれば地下鉄や徒歩からの移行が相当数あると思われる。
問題は、西15丁目通りでは2か所で車がシャットアウトされること、迂回路となる道路は通行量が増えるので、それによる住環境の悪化が懸念される。
何度も説明会を開催するなど、沿道だけでなく広域での住民からの理解を得る必要がある。
それさえクリアすれば開業までは早い。
札幌市電のループ化事業が正式にスタートしたのは2012(平成24)年4月だった。
工事施工が認可され工事着工となったのは2年後の2014年5月である。
その翌年の2015年12月19日に開業式典、12月20日に営業運転開始と事業化から3年半で開業となっている。
しかしこれは入札不調などの理由で工事が遅れたことがあり、当初の開業予定は2015年春となっていたもので、予定通り進めば事業開始から3年、工事着工から1年ほどで完成したことになる。
事業開始から開業までの期間が短いのは、通常の鉄道と違って全線道路上に敷設されるため、道路管理者など関係機関同士の調整さえ済めば、すぐに工事着工できるからだろう。
事業開始から開業までの期間が短いのも 路面電車の長所 である。
これが鉄道でも道路でも、用地買収を伴うと5年10年の事業になってしまう。
新幹線や再開発との絡みがある札幌駅や苗穂駅方面と違って、桑園方面は大規模な再開発計画は無く、全線で札幌市が管理する道路(市道、道道)なので事業開始から開業までそれほど期間はかからない可能性が高い。
それを考えると市電の延伸は、桑園地域を第一候補とすべきではないだろうか。
【おことわり】 この記事の内容は100%筆者の私案であり、沿線の生活環境ほか、あらゆる利害、権利などは考慮していません。 筆者は、市電延伸の関係者や関係団体とは一切関係ありません。 |
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