札幌駅のキロポストについて考える2

前回の続き。

札幌駅にある287kmのキロポストは実は函館駅起点のものではない。
正確には函館桟橋起点ということになる。

この函館桟橋とは何かというと、1924年(大正13)に青函連絡船の若松埠頭岸壁が完成したときに設けられた駅で、この桟橋駅が函館本線の起点とされることになった。

ただし、函館桟橋駅は運賃計算上の哩程(当時はマイル)は設定されず、当初から運賃計算上の起点は函館駅とされた。

1930年(昭和5)には桟橋駅のホームを延長し、函館駅構内に取り込まれる形で消滅している。

DSCN5829.JPG
 函館桟橋0K000M00の表記がある昭和58年4月函館駅構内配線図。
(函館驛写真で綴る100年の歩みより引用)

しかし、施設上の起点は旧函館桟橋駅のままとされ、函館駅の営業キロは0.0kmだが、施設キロ※では0.29kmとなり、函館駅の時点ですでに差となって生じている。

 ※ 前述ですが、キロポストのキロ程はここでは便宜的に施設キロとしています。

函館桟橋に当たる施設キロの起点があった場所は、現在では函館駅から青函連絡船記念館摩周丸に向かう途中にある大雪丸大錨のモニュメントが立つあたりのはずである。
旧駅時代はここまで駅構内だったが、現在の駅に移ってからはすべて鉄道施設は撤去されている。

えっ?
じゃあ函館駅の構内に0キロポストがあるけどあれは何なのって?

そう思ったあなたはスルドイですね。
そう、あれは紛れもなく函館本線起点の0キロポストです

しかし、これにはからくりがあって、0キロだが0k000m地点ではないという不思議なキロポストとなっている。

DSCN0729.JPG
 函館駅の線路終端にある0キロポスト。

DSCN0734.JPG
 0キロポストの説明。総延長458.4kmは藤城線や砂原線を含めた距離のようだ。

そのからくりとは下の画像にある標識。0キロポストの裏側になる。

DSCN0735.JPG
 0キロポストの裏面にある距離更正標。ここから0k219m000としてスタートする。

前回の記事で、起点からの距離が変わった場合は距離更正点という地点を設けて新旧の差を打ち消すという説明をしたが、キロポストの裏に表示された標識がまさにこれ。
0kmだが、同時に0.219kmの施設キロでもある地点ということだ。

別に大雪丸大錨付近からの測量中心線が残っているわけではなく、施設キロのスタート地点はあくまでこの地点だということ。
旧函館桟橋地点は、あくまで施設キロ程を現す際の概念上の存在ということになる。

ところで、なぜかコンコース側にあるモニュメントの0キロポストにも、ご丁寧に同じものが表示されている。
なにか訴えたいものがあったからなのか・・・。

これと逆パターンでは、起点から延長した場合はマイナスのキロ数が付けられることもある。

DSCN5961.JPG
 函館駅5番ホーム下にある『停車場中心標』。ここが旧函館桟橋起点0k290m00地点。函館本線の営業キロはここを0.0kmとしている。


〜 話が函館駅に行ってしまったのでまた札幌駅に戻ります。

で、この0.29kmを差し引くと函館〜札幌間の施設キロは286k710mとなる。
すこし差が縮まったが、まだ0.41kmの差がある。

DSCN5824.JPG
 距離をマイルで表記した時刻表(大正十四年汽車時間表復刻版より引用)

1924年に函館桟橋を起点とすると前述したが、この当時の距離数はマイルで表していた。
大正14年の時刻表では、函館駅起点で札幌駅までは179.1哩(マイル)となっている。

1930年(昭和5)にはメートル法が実施され、それまでマイルを使用していた鉄道の距離関係はすべてメートル表記に改められる。
1マイル=1.609344 kmとして置き換え、同時に全国にあったそれまでのマイルポストから、現在のキロポストに切り替わった。

あれ?
179.1 × 1.609 = 288.1719

これだと計算が合わないのはなんでだろ。

179.1 × 1.600 = 286.56

1マイルの数値を1.6にすると今の営業キロや施設キロに近くなる。
もしかして当時の担当者が計算が面倒だからと数値を丸めちゃった?

それはともかく、このときに函館〜札幌間の営業キロ数は179.1マイルから286.3kmとされ、これは現在まで変わっていない。

DSCN5825.JPG
 キロメートル表記に改まった時刻表(鉄道省編纂汽車時間表昭和5年10月号より引用)

戦後は森〜八雲間や、昆布〜倶知安間などでちょくちょく線形改良工事が行われており、実際には若干距離が縮まっていると思われるが、営業キロの改定は行われていない。
これも施設キロと同様に、工事の度にいちいちキロ数を改定していては大変という理由からである。

もう一つ、札幌駅の施設キロ数は287.000kmとなっているが、これは1988年の高架化開業時に改キロしたようで、地平駅時代の施設キロは286.970kmとなっていた。

DSCN5827.JPG
 286K970M00の表記がある札幌駅構内平面図(札幌駅116年の軌跡より引用)

施設キロは普通はそうそう変わるものではないので、筆者はずっとこのキロ数だと思っていた。
ところが、札幌駅ホームに設置されたキロポストと駅中心の表記を見て知ったのである。

JR北海道の お知らせ にあった資料にも札幌停車場287k000m00の表記があったので、間違いはない。

隣の桑園駅は高架後も285.330kmで変わっていないし、函館本線の終点である旭川駅の施設キロも423.754kmから変わってないので、札幌駅の中心キロ程は高架時に旭川方に30m移動したことになる


ということで、札幌駅の営業キロとの差は、こうなる。

(施設キロ)−(営業キロ)−(桟橋と函館駅の差)−(高架時の移動分)
  287.0 − 286.3 − 0.29 − 0.03 = 0.38

ということで0.38km差まで縮まった

ここまで来たら何が何でもこの差を見つけてやると意地になってきたぞ。

こうなればしらみつぶしに探してやろうと、営業キロと施設キロをエクセルの表に打ち込んでみた。

kmsabun.png
 Excelに打ち込んだ両者のキロ数の対照表。(施設キロは小学館『日本鉄道名所1』より)

駅間の営業キロと施設キロを比較したのが上の表。
0.1以下は四捨五入の端数として無視。
で、差分が見つかったのが昆布〜ニセコ間と、塩谷〜小樽間

線形改良工事が行われたのは戦後の、しかも昭和30年代以降に行われたものがほとんどなので、終戦数年後に米軍が撮影した空中写真を見ればすぐにわかると思われた。

それで見つけたのが以下の2か所。

mapniseko.jpg
 昆布〜ニセコ(狩太)間の線形改良箇所(地理院地図より作成)

1948niseko.jpg
 線形改良箇所の空中写真。1948年米軍撮影(地図・空中写真閲覧サービスより作成)

昆布〜ニセコ(当時は狩太)の線形改良箇所。空中写真を見るとアーチ状のカーブの上にさらに上に迂回する旧線跡が見える。
トンネルを含む新線に切り替わったのは大正末年ということだ。
現在の地形図では尻別川を2回も渡ってさらに直線化されているが、これは1975年(昭和50)に行われている。

もう一つが、塩谷〜小樽間の線形改良箇所
開業当初はオタモイ峠はトンネルではなく、南側を迂回する形でトンネル無しで峠越えをしていたようだ。

mapshioya.jpg
 塩谷〜小樽間の線形改良箇所(地理院地図より作成)

1948shioya.jpg
 線形改良箇所の空中写真。1948年米軍撮影(地図・空中写真閲覧サービスより作成)

空中写真で見ると、国道5号線の不自然に奇麗なカーブが線路跡とわかる。
こちらの切り替え時期はわからないが、大正5年測図の地形図には旧線で描かれ、昭和10年のものは新線になっている。

新旧の距離を地形図上でざっくりと測ってみると、旧線が930mに対して新線が750m約180mの差となった。
上記の対照表では0.17kmだったので、新線と旧線の差が営業キロと施設キロの差になったと見て間違いない。

というわけで、これで残り0.38kmの差はこの線形改良箇所での新旧差とわかった。

函館桟橋起点で設定されたマイル数は、大正末期か昭和初期頃に行われた新線切り替えで距離が短縮されたのだが、そのまま据え置かれて旧線のままになっていたが、昭和5年にメートル法が施行され一斉にキロメートルに改められたときに、営業キロは新線を含めた実際のキロ数を採用し、施設キロは旧線経由のマイルをそのままキロメートルに換算して使用したということだ。

というわけで、それぞれの起点からの札幌駅のキロ程はこのように設定されたようである。

営業キロ:函館起点 286.3km = 昭和5年当時の函館本線の実キロ
施設キロ:函館桟橋起点 286.970km ※ = 大正13年に設定された函館本線の実キロ

 ※1988年の高架化で287.000kmに改められる。

その後、線形改良工事等で実際の距離が変わっても、どちらのキロ程は変更されないまま現在に至るということになる。


で、冒頭の札幌駅は函館から何kmのところにあるかの答え。それは、

正確には誰にもわかりません (^^;

DSCN0686.JPG

駅や車内から何気なく目にするキロポスト。
その鉄道のキロポストの数字には、深い歴史と経緯が刻まれているのである。

あまりに暇だったお盆休みで、いろいろ調べてみました。
まあ、大人の自由研究といったところ。

最後までお読み下さいましてありがとうございました。

   【参考文献】
小学館日本鉄道名所1 函館線 根室線 宗谷線
札幌駅116年の軌跡
函館驛 写真で綴る100年の歩み
JTB 時刻表復刻版戦前・戦中編
Wikipedia
JR北海道HP
国土地理院 地図・空中写真閲覧サービス

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posted by pupupukaya at 18/08/19 | Comment(0) | 北海道の駅鉄
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