2006年ロシア極東旅行記8 351列車ハバロフスクまで

 ◆ シベリアの車窓

寝台車にもどってくると、部屋は家族全員お休みのようなので、通路の折りたたみ椅子に腰かける。

列車はラズイェースト21という駅に停まっている。なかなか動き出さない。どうやら列車交換のためしばらく停車するようだ。

青色の駅舎と駅前には数軒のダーチャ(別荘)があるだけ。
駅名は訳すと「21番目の待避線」となり、日本で言う信号場のような所である。風が入らないので暑い。

車内の温度計を見ると30℃を差していた。

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 ラズイェースト21駅に停車中。暑い!

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 のんびりとした駅。

外からは虫の声が聞こえてくるほかは静か。30分位して通路と反対側の線路に貨物列車が入ってきてこちらも発車する。やっと風が入ってくる。

このあたりから、駅間距離も長くなってきた。すでに平行する道路は無い。ずっと林が続き、林が途切れば果てしなく続く大草原という大陸の風景。

草原といっても、木もまともに育たないような不毛なツンドラ地。
沼地に差しかかると、これも地平線の先まで見渡す広大な沼地が続く。線路に平行する電柱以外は人工物は何一つ見えない。シベリアの大地に線路のみが孤独に存在している。

たまに思い出したように駅に停車する。駅といっても無人の信号場で、まわりにはダーチャが数軒ある。夏休みをダーチャで過ごすらしい人が2〜3人降りて行く。

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 カーブでは機関車や客車編成が姿を現す。

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 広大な沼地が続く。

通路に立っていると時々車内販売がやってくる。カップ麺やパン・菓子・ビールなどを積んだワゴンを押して「ラプシャー(ラーメン)、ピーヴァ(ビール)・・・」などと繰り返しながら、車内販売係のおばさんが車内を往復している。

途中駅から乗ってきたらしい、モグリの車内販売もあって、こちらは、ばあさんが沿線で採った山菜なんかを売っていて、よく売れているみたいだ。

行けども行けども地平線の果てまでツンドラ地が続くシベリアの風景。ずっと通路に立って飽きずに外を眺めていた。

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 ずっと続く湿原地帯。

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 湿原が終わると草原地帯になる。

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 地平線の向こうまで広がる草原。

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 駅に停車中。

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 山越えもある。

立ちっぱなしで疲れてきたので、上の寝台で少し横にならせてもらう。
お母さんはノースリーブにハーフパンツ姿で寝ていた。お父さんは2人の子供相手でいっぱいという感じ。

それにしても部屋の中は暑い。汗が噴き出してくる。ロシア人の乗客はみんな汗もかかず涼しい顔をしている。

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 雨が降って暗い車窓。


 ◆ 小駅のお祭りさわぎ

16時過ぎ外を見ると、どんよりと暗い雲が空をおおっている。しだいに雨が降ってきて、外も車内も薄暗くなる。

18時半ごろ再び起きる。窓の外を見ると、相変わらずの湿地帯だが、遠くの方に送電線の鉄塔が見え、ようやく人里に近づいてきた。
雨もいつしか晴れている。

19時ごろ、アムール川の支流、ツングスカ川の鉄橋を徐行して渡る。石狩川くらいの川幅で、茶色く濁った水が満々と流れている。
鉄橋を渡り終わったところに監視小屋が見え、兵士が立っていた。そのあとも氾濫原の湿地帯が延々と続く。

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 また湿地帯。

19:14、ヴォロチャーエフカ・フタラーヤ(ヴォロチャーエフカ2)駅に到着するのだが、ホームには列車に向かって露店がぎっしりと並んでいた。
ピロシキなど手作りの惣菜を並べて、列車を待ちうけているのだ。この列車のために村中の人が商売しに来たのではないかと思うほどだ。

停車時間は30分もあり、ちょうど夕食時でもあるので、ホームは買物に降りた人でごった返す。惣菜のほか、手作りのピクルス、山菜、ハーブ、野いちご、ビールも氷水で冷やして売っている。


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 ヴォロチャーエフカ駅では30分停車。ホームは大賑わい。

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 ホームに惣菜を並べて列車の客を待っている。

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 大勢の乗客がホームにあふれて、お祭り騒ぎのようだ。

露店の1つでピロシキ2個を買う。
1個7Рだが、こまかい札がなかったので、おばさんに50Р札を出すと「オツリ無い」と30Рしか釣銭をくれなかった。別の店で、空きペットボトルに詰めてクワスを売っているのでそれも買う。1本10Р。

列車にもどって食べる。まだ温かいピロシキの中身はつぶしたジャガイモで、塩味がちょうどよく、おいしい。
クワスは、氷が入れてあるので冷たい。炭酸が入った甘酸っぱい味。
このクワスがこの旅行中に飲んだクワスのなかで一番おいしかったと記憶している。

惣菜にしても、クワスにしても、この列車のためにダーチャで作ってきたのだろう。レストランなんかよりこうした家庭料理こそが本当のロシア料理だと思う。

お祭り騒ぎのような光景がこんな小さな駅で毎日繰り返されているんだね。何だか可笑しくなってきた。

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 ホームの露店で買ってきたピロシキとクワス。

30分の停車時間もあっという間に過ぎ、発車時刻が近づくとホームを歩いていた乗客も次々と列車に乗りこむ。

客がいなくなると、どの店商品を片付けて、車や自転車で駅を去って行く。折畳みテーブルを手押しワゴンに手早く片付けてゆく様は見ていて面白い。
売れ残ったものはどうするのだろうか。


 ◆ ハバロフスク着

ヴォロチャーエフカ2駅を出てしばらくすると、右手に複線電化のシベリア鉄道が現れ、操車場のような所まで貨物列車としばし並走する。

シベリア鉄道に入るとスピードがぐんぐん上がる。小さい駅は通過し、ハバロフスクまでのラストスパートという感じで流れるように走る。乗り心地も良くなった。

シベリア鉄道はウラジオストクからモスクワまでを結ぶロシア鉄道の大幹線で、全線乗り通すと7日間かかる。いずれ乗って見たいと思う。

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 シベリア鉄道の線路と合流。

ハバロフスク近くになると、近郊の通勤駅のような駅を通過する。どの駅も高床式のホームがあり、ホームには上屋もあって駅舎と跨線橋で結ばれている。まるでJRの都市近郊駅と変わらない立派な作りになってる。

20:20、いよいよアムール川の鉄橋を渡る。鉄橋の長さは約2600mで上が道路橋、下が鉄道橋になっている。

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 アムール川を渡る。

橋を渡り終えるとすぐにハバロフスクの市内に入る。突然ピカッと光ったので何事かと思うと、何度も稲光が走るのが車内から見える。同時に夕暮れのように暗くなり、猛烈な夕立になった。

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 ハバロフスクの近郊駅を通過する。

主人と子供たちは通路で外を見ている。奥さんと2人で部屋に座り、ハバロフスクに着くのを待っていると、彼女が話しかけてきた。何しにハバロフスクに行くのかと尋ねたようだが、それに答えようとするが言葉が出てこない。知っているはずの簡単な単語さえ出てこなかった。それでも、ワニノから乗ってきた、ビジネスではない、日本に帰る、ということは分かってもらえたようだ。

20:36、列車は定時刻にハバロフスク駅のホームにゆっくりと進入した。同室でもほとんど言葉を交わすことはなかった家族と「ダスビダーニャ(さようなら)」と言って別れる。

ホームに降り立つと、まるで滝のような猛烈な雨が降っている。そんな吹きさらしのホームは列車から降りた人、乗る人、出迎えの人などでごった返している。どっちに進めばいいのかも分からない。

ホームの向こうに屋根が見えたのでそっちの方に大急ぎで歩く。屋根のところには階段があって、列車を降りた人が殺到している。狭い地下道の通路で出口に向かって押し合ってると、いつの間にか駅舎の外に押し出されていた。

滝のような激しい雨。出口のところには客待ちのタクシーがたくさん並んでいる。

適当なタクシーのドアを開け「ガスチーニツッア イントゥーリスト」と言うと、運ちゃんはコクっとうなずいた。値段を聞くと「トゥリースタ(300Р)」だという、随分と高い。
ロシアのタクシーはメーターがなく交渉制で、旅行者と見ると高くふっかけられるとガイドブックには書いてあった。ユジノサハリンスクでタクシーを呼ぶと120Рだと聞いたので随分と高い。ためしに「ドゥベースチ(200)」と値切ってみたが、運ちゃんは「300!」と怒鳴る。
雨は止む気配もないし、早くホテルに着きたい。

いい、もうなんでもいいから早くやってくれ!「300ハラショー!」と言うと車は走り出した。市内の道路は川のように雨水が流れている。市電の線路に沿ってしばらく走ったところで運ちゃんが言った。

「ダローガ、ズナーイェシ(道を知ってるか)」

オイオイ、タクシーのくせにインツーリストまでの道も知らないのか。幸いワニノで買ったハバロフスク市内の詳細な地図があったのでここだと指差すと、分かったのか知らないが、うなずいた。

しばらく走ってキオスクの前で車を停める。店の前に群がっていた一人に道を聞きに行き、また車を出す。あちこち走り回って、また通行人に何度も道を聞いたりしてしばらく行くと、ようやくインツーリストの建物が見えてきた。しかし、この運ちゃんはよっぽどの方向オンチなのか、ホテルの裏に出たり、また変な方向に走り出したりとウロウロする。

ようやくまっすぐ行くとホテルに着くという道を走っていたところで、突然行き止まりの道に入って停まる。運ちゃんも面倒になったのか、
「イントゥーリスト、ズジェーシ(ここがインツーリストだ)」と言い出した。
そんなハズあるかい!
「ニェーット!イントゥーリスト、トゥダー!(違う、インツーリストはあっちだ)」と指を差して怒鳴る。

渋々とまた車を走らせてしばらく行くとインツーリストホテルの正面に出た。300P払ってホテルへと向かう。やさしく話しかけられたときは言葉が詰まって、簡単な単語すら忘れてしまって、さっぱり会話にならなかったが。こういうときは火事場の馬鹿力というか、ロシア語能力全開となる。

ホテルに一歩入ると、きらびやかな、何か別の世界に来たような感じになった。フロントはどこだろう。フロントらしいところで「フロント?」と聞くと、制服を来た女性の係はいきなり日本語で「○○さんですねおまちしてました」と言った。なんか涙が出そうになった。

パスポートとバウチャーを出し、805号室の部屋カードと3日分の朝食券をもらう。エレベーターで8階へ上がり、部屋カードと引き換えにルームキーを受け取る。自分の格好が場違いに思えるほど重厚なつくりの廊下を歩いて、部屋に入る。

21時過ぎ、ようやくホテルの自室に入ってホッとした。
窓のカーテンを開けるとまだ外は明るい。いつの間にか雨も上がって青空も出ていた。

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 9:15、ホテルの窓から。まだ明るい。

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 バスは清潔でお湯もちゃんと出た。

バスタブにお湯を張ってつかると、今までの緊張感も解けて、日本に帰ってきたような気分であった。明日あさってはハバロフスクで2日間フリーだが、とりあえず明日はハバロフスク市内を見物する予定でいる。



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